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Corundum Spirit Demon #0b

JUGEMテーマ:自作小説    絡繰り人形のような屋敷だった。見えない発条や歯車で、屋敷は目まぐるしく変化しているのだ。しかしその変化もまた透明だった。透明だったから臨界がなかった。どこまでもどこまでも変化し、それは世界を基底部から組み直していく。異なる形へと過剰に加速する世界のただ中にいると感じることが、捉えどころのない恐怖を湧き上がらせる。それはすなわち異境だった。この場合の異境とは、起伏と斑を切り取った記号ではなく、起伏と斑に色づけられた心のことを指す。そういう場所に少女はいた。...

pale asymmetry | 2021.04.15 Thu 21:39

Corundum Spirit Demon #0a

JUGEMテーマ:自作小説    宵の裾を引き摺る空気は、ザラメの感触だった。あるいはそれは零れ落ちる無数の金平糖の感触だったかも知れない。少年はその感触に促されて覚醒した。もっとも少年がその感触をザラメや金平糖だと認識したわけではない。少年はザラメも金平糖も知らない。彼はそれらのない時代を生きている。だからこれはアナクロニズムではない。ザラメや金平糖のようだと感じたのは少年ではなく私だ。私はだから当然、ザラメや金平糖を知りうる時代に生きている。生きているはずだ。あるいはそれは生きてい...

pale asymmetry | 2021.04.04 Sun 21:55

Corundum Spirit Demon #06

JUGEMテーマ:自作小説    私は墜ちた。悠久の時を墜ちた。悠久の時を一瞬で墜ちた。本当に墜ちているだろうか。その速度が鋭すぎて、静止しているようにも舞い上がっているようにも感じられる。あるいは私は駆けているのかも。駆け墜ちているのかも。つまり私は、私の意志で墜ちているのだ。それは確かなこと。墜ちることは私の躍動が生み出した、紋様だった。けれど視界が闇に満ちていたので、生まれた紋様は直ちにその闇に取り込まれて見えない。と思ったら、私は固く目を閉じていることに気づく。私はギクシャクす...

pale asymmetry | 2021.03.06 Sat 22:14

愚王と魔法使い (仮)11

とりあえず、シレークスはクラヴィスが恋しかった。 理由としては簡単だ。 やはり年頃の女と、外見だけは青年にみえる二人連れは どうにも誤解を招く。 シレークスは目の前に一つしかない寝台を前に 仁王立ちしていた。 クラヴィスと剣が消えてから三日になる。 あの小さな村の村長の納屋と家の片隅に別々に泊めてもらった後、 二人で歩いた。 翌日についたこの街はさほど大きくはないが、 不便もなくといったところだ。 結局何が起きたのか、シレークスには解らなかった。 それというのも魔法使いが一切の説明を省...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:21

愚王と魔法使い (仮)10

魔物に遭遇した街を出て五日になる。 また一行は森の中の道をゆく。 銅褐色の髪を三つ編みにしてたらした少年は斜め掛けの鞄を一つ。 腰をゆうに超える長い黒髪をだらっと肩で無造作に束ねて、 魔法使いはほどよい大きさの背負い鞄を一つ。 肩で切りそろえた見事な金髪に王家の剣を持つお姫様は腰巻ポーチを一つ。 魔法使いの紺色の鞄は見た目さほど大きくはない。 けれどなんでもでてくるから不思議だ。 「そろそろ村が見えるはず…」 シレークスがそう呟いたところで、本当に村が見えた。 「シレークスは詳しいね」 ク...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:16

愚王と魔法使い (仮)9

熊のようなのにその頭には太い角が二本。 その背中には蝙蝠のような翼。 その前足、なのか手を振り下ろすたびに家が電撃で崩れ落ちる。 逃げ惑う住人で辺りは騒乱だった。 「特徴からするにヌービルムじゃん…伝説級の魔物じゃない? あんな超魔物、みたことないわよあたし」 宿の窓枠に頬杖をついてお姫様は冷静だ。 その腰には一振りの剣。 しかしそれがどれぐらいの威力を発揮するのかは 持ち主からしてはなはだ疑問である。 宿の中には既に店主すらいない。 いるのは三人だけだ。 「僕たちも逃げたほうがよくない?...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:15

愚王と魔法使い (仮)8.4

高い高い城の最上階から眺める風景は まるで世界が総て自分のもののようで その手を広げ鷲掴みにしようと握りしめる。 その様子を見ていた別の女が誰もいない部屋でその真似をする。 けれど空っぽの手のひらに重さはなく。 何一つ、自分のものではないことを実感する。 欲しい。 力が欲しい。 世界をねじ伏せる力が。 あの女は手に入れたつもりでいる。 それが女には許せなかった。 いつか思いしればいい。 その手にはなにもないのだと。 その二人の世界はずれていた。 白い絹のような髪がするりと垂れ...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:13

Corundum Spirit Demon #05

JUGEMテーマ:自作小説    それは旅だったはずだ。無数の収束と無数の膨張を擦り抜ける旅だったはずだ。那由他の静寂と那由他の炸裂を突き抜ける旅だったはずだ。貴い方は、いくつもの世界を旅したはずだ。世界を開き世界を閉じたこともあったかもしれない。世界から翻ったことも、世界へと還ったこともあっただろう。貴い方は何も纏わず、旅の中でひたすらに磨かれていったのだろう。無限の時間が時間の意味を失うくらいに、貴い方を回転させただろう。その回転だけが、貴い方に自身の秩序が展開していることを自覚さ...

pale asymmetry | 2021.02.14 Sun 22:15

4.「親友はその出自を誰にも言わなかった。」

「もうやめてください母上」 彼女の息子であるリリシャ=ハーンがそう言って、弟の前に膝をつく。 「僕が皇帝になることがなんだというんですか。  誰だってわかってる。  もし最も優秀なものがなるべきであるなら、なるべきは弟であって僕ではない」 それは静かな声音、ひどく穏やかで、にわか雨のような柔らかさ。 全ての者が、その手を止めていた。 正確には誰一人動けなかった。 「もうやめましょう。外でこれだけ禍が起きているというのに  ただ誰が後を継ぐかというだけでこんな争いをするのは無意味です」 ...

SolemnAir//3LOVERS | 2021.02.13 Sat 22:13

Corundum Spirit Demon #04

JUGEMテーマ:自作小説    私は蹂躙されている。私は森に犯されている。あるいは侵されているのかもしれない。森は私の隅々にまで浸透し、私の全ての細胞の、その全ての螺旋に介入している。森は私を支配しようとしているのか。それとも制御しようとしているのか。あるいは私のほうが森を制御するために、そのフォーマットが書き換えられようとしているようにも感じる。痛みだ。開かれ、掻き回される痛み。その回転が、私を別の次元へと沈めていく。私はすでにすっかりずれているはずなのに、さらにずれていく。痛みか...

pale asymmetry | 2021.02.07 Sun 21:50

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