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Corundum Spirit Demon #05

JUGEMテーマ:自作小説    それは旅だったはずだ。無数の収束と無数の膨張を擦り抜ける旅だったはずだ。那由他の静寂と那由他の炸裂を突き抜ける旅だったはずだ。貴い方は、いくつもの世界を旅したはずだ。世界を開き世界を閉じたこともあったかもしれない。世界から翻ったことも、世界へと還ったこともあっただろう。貴い方は何も纏わず、旅の中でひたすらに磨かれていったのだろう。無限の時間が時間の意味を失うくらいに、貴い方を回転させただろう。その回転だけが、貴い方に自身の秩序が展開していることを自覚さ...

pale asymmetry | 2021.02.14 Sun 22:15

4.「親友はその出自を誰にも言わなかった。」

「もうやめてください母上」 彼女の息子であるリリシャ=ハーンがそう言って、弟の前に膝をつく。 「僕が皇帝になることがなんだというんですか。  誰だってわかってる。  もし最も優秀なものがなるべきであるなら、なるべきは弟であって僕ではない」 それは静かな声音、ひどく穏やかで、にわか雨のような柔らかさ。 全ての者が、その手を止めていた。 正確には誰一人動けなかった。 「もうやめましょう。外でこれだけ禍が起きているというのに  ただ誰が後を継ぐかというだけでこんな争いをするのは無意味です」 ...

SolemnAir//3LOVERS | 2021.02.13 Sat 22:13

Corundum Spirit Demon #04

JUGEMテーマ:自作小説    私は蹂躙されている。私は森に犯されている。あるいは侵されているのかもしれない。森は私の隅々にまで浸透し、私の全ての細胞の、その全ての螺旋に介入している。森は私を支配しようとしているのか。それとも制御しようとしているのか。あるいは私のほうが森を制御するために、そのフォーマットが書き換えられようとしているようにも感じる。痛みだ。開かれ、掻き回される痛み。その回転が、私を別の次元へと沈めていく。私はすでにすっかりずれているはずなのに、さらにずれていく。痛みか...

pale asymmetry | 2021.02.07 Sun 21:50

Corundum Spirit Demon #03

JUGEMテーマ:自作小説    それが何かと問われれば、勾玉でしょうと私は答えただろう。誰も私に尋ねてはくれなかったのでその言葉を口にすることはなかったけれど、私にはそれは勾玉にしか見えなかった。真円と、そこから伸びる尾のような曲線が先端をやわらかく尖らせている。青と緑が、いや蒼と翠が慈しみ合うように重なった色彩を纏ったそれは、空中を踊るように漂っていた。それは那由他よりは遙かに少なかったけれど、数えきることは出来ないような数。そんな数の勾玉が、私の周りを漂い、私の鼻先で群舞している...

pale asymmetry | 2021.01.29 Fri 22:36

Corundum Spirit Demon #02

JUGEMテーマ:自作小説    私は迷っていた。すっかりと、はっきりと、そしてくっきりと。あの人が言っていた迷う人の意味は結局教えてもらえなかったから、この状況に閉じ込められていることが私が迷う人だからなのかどうかは解らない。けれど今この瞬間迷っていることは認めざるを得ないし、それにそう、私は閉じ込められているのだ。私は迷い閉じ込められている。そういう想いに囚われている。いくつもの枠が私を幾重にも取り囲み、入れ子構造の内に私を取り込んでいる。そんな気がしてならない。この枠は私の内側に...

pale asymmetry | 2021.01.23 Sat 22:18

Corundum Spirit Demon #01

JUGEMテーマ:自作小説    窓辺から斜めに見つめた空は、狡賢いネズミのような灰色だった。ドンヨリと曇っているくせに、どことなく煌めいていたりする。まるで世界の本性をよく知っていて、知った上で知らないふりをしているかのようだ。でも本当は知らないのだ。その演技をしているだけだ。そうやって、ネズミはサヴァイブしているのだろう。そういう狡賢さがなければ、空は蹂躙されてしまうのだろう。人間のような、泥人形と大差ない愚かしい知性体に。眼差しを斜めに下げる。誰もいない中庭の噴水は、止まっている。...

pale asymmetry | 2021.01.21 Thu 22:43

傍若なる水戦は彩色を施し悦に浸る

JUGEMテーマ:自作小説    嫋やかな響きだった。それは中天から降ってきた。ガラスのベルのような音色だとクシナダは感じた。ガラスのベルが綺麗な音色を放ちながら破壊され、永遠に破壊され続けるような響きだと感じた。何度聞いてもそんな風に感じ、砕け散るガラスのイメージが、砕け散る姿のまま停止した時間に閉じ込められるイメージが、彼女に染みこんだ。初めての響き、初めてのイメージ。そうも感じた。それは仕方のないこと。彼女には彼女ではない者が重なっていたのだから。そういう感覚にはもう慣れていた。...

pale asymmetry | 2021.01.16 Sat 22:18

エンジンが勢いを無くして停止

こりゃたまげた、いきなりエンストするとはね。古いわけでもないし、やっぱり暑さにやられたのかな。諦めてロードサービスを呼ぶ。 JUGEMテーマ:自作小説

慎重にすべき発言 | 2021.01.16 Sat 12:50

牢獄の皇女と本来そこに居るはずの将軍 18

その部屋にはその子供以外誰もいなかった。 けたたましい声で泣き喚いている小さな子供の傍に誰もいなかったのだ。 いつもはこんなことはない。 誰かしらが四六時中、入れ代わり立ち代わり見守っている。 その日、偶然、誰もいなかったのだ。 父親は足をとめるつもりも、ましてや部屋に入るつもりも無かった。 ただ、子供は泣いていた。 くすんだ金色、碧い目。 その顔立ちは、自分の妹によく似ている。 自分と同じ顔の妹に。 どうしても自分に似ているとは思いたくない。 息も絶え絶えな赤い髪の子は可愛い。 自分...

SolemnAir | 2021.01.10 Sun 22:43

牢獄の皇女と本来そこに居るはずの将軍 17

「これは、また……つくづくエリザとシャロの娘だねえ」 壁にたたきつけられてけろりとしながらエイザは立ち上がる。 ゆらりとシャザはラズの前に立っていた。 傷が開いて血が滴って。 それでも彼女は床に座り込んだ彼の前に立っていた。 そしてその、先ほどまで男の父親がつかんでいた腕をつかむ。 今度は柔らかい指が、優しく。 「シャザ?傷が――」 一度その床を見てラズがその顔を見上げた時だった。 きいいいいいいいいいいいいいいいい 耳をつんざくような高音が鳴り響く。 誰が彼女の名を呼んだか。 魔法...

SolemnAir | 2021.01.10 Sun 18:59

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