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うるたま(6)

 寝る前には、よほどのことがない限りは本を読む。けれど、たまに、文章がうまく流れていかない時というのがあって、今日はちょうどその時であるらしかった。酔いのせいなのか、疲れのせいなのか、いつも原因はよくわからなかった。私は昨日とまったく同じページにスピンを挟んで、本を閉じた。『遠野物語』は読まれないまま床に投げられて、市立図書館のバーコードのラベルが、部屋のオレンジ色の常夜灯を反射して、目を閉じても、私のまぶた裏に、何個かの光の痕跡を残した。  寝ているみい子がまぶしくないように、部屋の...

nothing but a headache | 2021.09.14 Tue 02:27

うるたま(5)

 週間天気予報の色は変わらなくても、八月も終わりに近付くと、最高気温が三十度に満たない日が、だんだんと増えはじめる。あんなに強かった日差しが、お盆を過ぎると少しだけ丸くなり、ひとつの大きな雨が一度地面を冷やしてしまうと、夜の温度が、急に変わる。夏が少しずつ、その名残を消して、ベランダの風が、ひとつの季節が終わろうとしていることを、今年も、私に知らせる。  私は煙草に火をつけて、煙を吐き出して、星のほとんどない、けれどもぼんやりと明るい空を見上げた。  何回、私はここで煙草を吸っただろう。...

nothing but a headache | 2021.09.08 Wed 02:11

ウィルス

 ちら、ちらちら、ちらちら、などと雪が降ったりなんかして、いやあ、寒いなあ、地球が終わるような寒さだなあ、などと白々しい会話をしていたころがはるか遠く、紀元前の出来事だったようにすら思えてくるほどに月日は経ってしまったのですが、みなさまお元気でしょうか。   ブログの更新も約半年ぶりになりますが、ソチオリンピックも終わり、ひさしを見てみてもつららの一つなく、それどころか、陽射しは夏のそれにぐぐっと近づき、陽炎で世界が揺れて見える有様で、まったく、何というか、すっかり住む世界が変...

nothing but a headache | 2021.09.05 Sun 23:36

片恋のシャーラ(プロトタイプ版)9

JUGEMテーマ:自作小説      ・片恋のシャーラ(プロトタイプ版)の第9弾です(詳しい説明は第1弾に書いてあります)。  他のページはコチラ→「片恋のシャーラ(プロトタイプ版)1/2/3/4/5/6/7/8/10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/20/21/22/23/24/25/26/27/28/29/30/31/32(終)」   (下部にある「カテゴリー別・小説一覧」からも他ページに跳べます。※他の小説も混じった「もくじ」になっています。)      王妃の寝室は、落ち着いたオールドロ...

言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜 | 2021.08.30 Mon 21:09

勇気のボタン〜永久のサクラ〜 最終話 永久のサクラ(3)

JUGEMテーマ:自作小説 川の龍と霧の龍は空へ旅立った。恐ろしい禍神はもういない。 おかげで黒い大木も消えて一安心だけど、代わりに今は氷の木が立っている。かつて楽園だったこの場所にポツンと。 四方八方に枝を伸ばし、美しい花を見せつけている。 だけどかつてここに立っていた桜に比べたらまだまだ小さい。 サクラ君は地返しの玉を握り締め、氷の木の前で立ち尽くしていた。 きっとまだ受け入れられないんだろう。 桜の龍が去ってしまったこと、自分だけ残されたこと、そして自分だけでここを楽園に変えて、守って...

SANNI YAKAOO | 2021.07.31 Sat 11:06

勇気のボタン〜永久のサクラ〜 第二十二話 永久のサクラ(2)

JUGEMテーマ:自作小説 「コマチ!コマチ!」 誰かが私を呼んでる。ペチペチ頬を叩いてる。 「しっかりしろ!目を開けろ!」 暗闇の中に光が差し込む。眩しさに目を細めていると、ぼんやりと誰かの顔が見えてきた。 「サクラ君・・・・?」 「気づいたか!」 「ここは・・・・?」 「さっきと同じ場所だ。氷の木が立っていた氷の世界。地返しの玉の中だ。」 いったい何が起きたのか分からない。 ハッキリしていることといえば、私はサクラ君の腕に抱えられているってことだ。 なぜか髪も服もびしょ濡れだし、急にむせ...

SANNI YAKAOO | 2021.07.30 Fri 11:25

勇気のボタン〜永久のサクラ〜 第二十一話 永久のサクラ(1)

JUGEMテーマ:自作小説 見渡す限り氷の景色を歩く。 流氷と吹雪と寒空に覆われて、全てがホワイトグレーに染まっている。 私は白い息で手を暖めた。 「寒い・・・・。」 尻尾だけタヌキに化けてモフモフに膨らませる。 それをグルっと身体に巻きつけると楽になった。 毛先はすぐに白く染まっていくけど、中まで凍るわけじゃない。 これで寒さは防げる。だけど見渡す限り氷の景色が変わるわけじゃない。 私は一人立ち尽くし、じっと辺りを見渡した。 「いない。でも必ずどこかに・・・・。」 しばらく歩く。 流氷を避...

SANNI YAKAOO | 2021.07.29 Thu 11:26

勇気のボタン〜永久のサクラ〜 第二十話 三匹の龍(2)

JUGEMテーマ:自作小説 私は空に浮かんでいた。 桜の花びらで出来たベッドに寝転んで、美しい景色の上で寛いでいる。 隣には雲が流れていて、空は真っ白に輝いていた。 それに暖かい春の風がとっても気持ちよくて、このまま目を閉じてずっと寝ていたい。 《ここは楽園だ・・・・どんな不安も心配も消えて・・・・すべてが楽になっていく・・・・。》 もうなんでもいい・・・なにがどうなっても私には関係ない・・・・。 だってここは何一つ心配事のない世界で、こうしてずっとずっと永遠に気持ちよく昼寝をしていられ・・...

SANNI YAKAOO | 2021.07.28 Wed 10:50

勇気のボタン〜永久のサクラ〜 第十九話 三匹の龍(1)

JUGEMテーマ:自作小説 どんなに急いでも間に合わないことだってある。 「なにあれ・・・気味が悪い・・・・。」 かつて桜が立っていた場所に、真っ黒に染まった大木がそびえていた。 空に届くほど巨大で、山よりずっと高い。 それに太い根っこをあちこち伸ばして、川の水を吸い上げていた。 そのせいで川はほとんど干上がってしまって、大地は砂漠みたいに草一本生えていなかった。 空は分厚い雲に覆われて、バリバリと雷が響いている。 「遅かった・・・せっかくパワーアップして飛んで来たのに・・・・。」 この大木...

SANNI YAKAOO | 2021.07.27 Tue 11:15

勇気のボタン〜永久のサクラ〜 第十八話 山の神(2)

JUGEMテーマ:自作小説 山の神様は気難しい。 「お願いがあるんです!山の神様の霊力を分けて下さい!」ってお願いしたら、最初はなんの返事もなかった。 でも諦めずにお願いし続けていると、『騒がしいタヌキめ』と声がした。 『儂は神だぞ。いちいち霊獣の頼みを聞いていたらどうなる?次から次へと頼みごとをされて、おちおち寝てもいられない。』 「だ、だけど霊獣界が危ないんです!そうなったら神様だって困るでしょ?」 『舐めてもらっては困るな。たかだか霊獣の禍神が暴れても、儂にはどうってことはない。 それ...

SANNI YAKAOO | 2021.07.25 Sun 11:09

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