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となえざんまい #01

JUGEMテーマ:自作小説    陰性の雨が、しゃならしゃならと舞っていた。  当然夜は暗雲に覆い被され、星々も月も見えない。まあ新月の夜だったから、月はもとから見えはしないのだけれど。そういう天然の光りの代わりに、斜め上方の家々の窓から漏れ出る明かりが瞬ぎ、川端の遊歩道を控えめに照らしていた。ただそれは本当に控えめすぎて、加えて遊歩道の面が石畳だったから、私の足取りはそろりそろりと畏まらざるを得なかった。こんなことなら、表玄関に通じる側の道を選べばよかった。つい懐かしさにかられて川...

pale asymmetry | 2021.05.22 Sat 22:04

Corundum Spirit Demon #07

JUGEMテーマ:自作小説    世界は、発情したカレイドスコープだった。  私は蒼玉に強く抱かれていた。そして、蒼玉を強く抱きしめていた。私は激しく燃え上がったままだ。橙の炎を噴火のように天に向けて放っている。それは激しく渦巻き、世界の何もかもを巻き込んで奪い取ろうとしているかのようだった。私を抱く蒼玉もまた燃え上がっていた。冷たい碧瑠璃の炎。それが戯れるように、あるいは諭すように、私の炎に巻き付いている。私の炎が螺旋を描き、蒼玉の炎も螺旋を描いた。ああ、これは二重螺旋だ。私たちは...

pale asymmetry | 2021.05.01 Sat 21:53

「恥を知り端を折れば多知を識る」

きちんと編み込まれた長い金髪はいつも肩から前方に垂れ下がり 胸を越えたところまでたどり着く。 真っ直ぐきれいな姿勢はお手本のよう。 身にまとう服は全てどこから見ても豪華すぎず華美すぎず しかし確かに値が張るものであることがわかる。 彼はいつも穏やかに微笑みを絶やさず、 立場がどれほど違っていようとも、 その話を親身になって聞くし、見下ろすこともない。 非常に優秀な成績でありながらも、勤勉で、 手を抜くタイプではない。 とはいえ、全力投球といった熱血ではなく、 時にはわざと手を抜いて見せて...

SolemnAir//3LOVERS | 2021.04.25 Sun 22:29

Corundum Spirit Demon #0b

JUGEMテーマ:自作小説    絡繰り人形のような屋敷だった。見えない発条や歯車で、屋敷は目まぐるしく変化しているのだ。しかしその変化もまた透明だった。透明だったから臨界がなかった。どこまでもどこまでも変化し、それは世界を基底部から組み直していく。異なる形へと過剰に加速する世界のただ中にいると感じることが、捉えどころのない恐怖を湧き上がらせる。それはすなわち異境だった。この場合の異境とは、起伏と斑を切り取った記号ではなく、起伏と斑に色づけられた心のことを指す。そういう場所に少女はいた。...

pale asymmetry | 2021.04.15 Thu 21:39

Corundum Spirit Demon #0a

JUGEMテーマ:自作小説    宵の裾を引き摺る空気は、ザラメの感触だった。あるいはそれは零れ落ちる無数の金平糖の感触だったかも知れない。少年はその感触に促されて覚醒した。もっとも少年がその感触をザラメや金平糖だと認識したわけではない。少年はザラメも金平糖も知らない。彼はそれらのない時代を生きている。だからこれはアナクロニズムではない。ザラメや金平糖のようだと感じたのは少年ではなく私だ。私はだから当然、ザラメや金平糖を知りうる時代に生きている。生きているはずだ。あるいはそれは生きてい...

pale asymmetry | 2021.04.04 Sun 21:55

Corundum Spirit Demon #06

JUGEMテーマ:自作小説    私は墜ちた。悠久の時を墜ちた。悠久の時を一瞬で墜ちた。本当に墜ちているだろうか。その速度が鋭すぎて、静止しているようにも舞い上がっているようにも感じられる。あるいは私は駆けているのかも。駆け墜ちているのかも。つまり私は、私の意志で墜ちているのだ。それは確かなこと。墜ちることは私の躍動が生み出した、紋様だった。けれど視界が闇に満ちていたので、生まれた紋様は直ちにその闇に取り込まれて見えない。と思ったら、私は固く目を閉じていることに気づく。私はギクシャクす...

pale asymmetry | 2021.03.06 Sat 22:14

愚王と魔法使い (仮)11

とりあえず、シレークスはクラヴィスが恋しかった。 理由としては簡単だ。 やはり年頃の女と、外見だけは青年にみえる二人連れは どうにも誤解を招く。 シレークスは目の前に一つしかない寝台を前に 仁王立ちしていた。 クラヴィスと剣が消えてから三日になる。 あの小さな村の村長の納屋と家の片隅に別々に泊めてもらった後、 二人で歩いた。 翌日についたこの街はさほど大きくはないが、 不便もなくといったところだ。 結局何が起きたのか、シレークスには解らなかった。 それというのも魔法使いが一切の説明を省...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:21

愚王と魔法使い (仮)10

魔物に遭遇した街を出て五日になる。 また一行は森の中の道をゆく。 銅褐色の髪を三つ編みにしてたらした少年は斜め掛けの鞄を一つ。 腰をゆうに超える長い黒髪をだらっと肩で無造作に束ねて、 魔法使いはほどよい大きさの背負い鞄を一つ。 肩で切りそろえた見事な金髪に王家の剣を持つお姫様は腰巻ポーチを一つ。 魔法使いの紺色の鞄は見た目さほど大きくはない。 けれどなんでもでてくるから不思議だ。 「そろそろ村が見えるはず…」 シレークスがそう呟いたところで、本当に村が見えた。 「シレークスは詳しいね」 ク...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:16

愚王と魔法使い (仮)9

熊のようなのにその頭には太い角が二本。 その背中には蝙蝠のような翼。 その前足、なのか手を振り下ろすたびに家が電撃で崩れ落ちる。 逃げ惑う住人で辺りは騒乱だった。 「特徴からするにヌービルムじゃん…伝説級の魔物じゃない? あんな超魔物、みたことないわよあたし」 宿の窓枠に頬杖をついてお姫様は冷静だ。 その腰には一振りの剣。 しかしそれがどれぐらいの威力を発揮するのかは 持ち主からしてはなはだ疑問である。 宿の中には既に店主すらいない。 いるのは三人だけだ。 「僕たちも逃げたほうがよくない?...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:15

愚王と魔法使い (仮)8.4

高い高い城の最上階から眺める風景は まるで世界が総て自分のもののようで その手を広げ鷲掴みにしようと握りしめる。 その様子を見ていた別の女が誰もいない部屋でその真似をする。 けれど空っぽの手のひらに重さはなく。 何一つ、自分のものではないことを実感する。 欲しい。 力が欲しい。 世界をねじ伏せる力が。 あの女は手に入れたつもりでいる。 それが女には許せなかった。 いつか思いしればいい。 その手にはなにもないのだと。 その二人の世界はずれていた。 白い絹のような髪がするりと垂れ...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:13

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