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3「男と女がわかたれる話」

「これでさようならね」 その女は、その男のことが好きだった。 その男もまた、その女のことが好きだった。 立場も身分も相応で、ちょうどいい釣り合い。 ただひとつ、 その家同士の仲が非常によくないことを除けば。 人間も魔獣も竜も、平均寿命を三百年とするこの世界で そのうち青年期は実に二百五十年にわたる。 そのためか結婚というものは青年期を過ぎてから 相続のためだけにするものであって、 共に歩みたい者とは長い時間を婚約という形で契約する。 婚約もあくまでも正式な契約形態であるからには 破棄を...

SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 19:20

2「ばけものおうじ」

化物皇子。 ばけものおうじ。 その異名が本名ではないかと思えるほど 広く知れ渡ったそのものの本当の名前はエイザ=ハーン。 柔和な顔立ち、くすんだ黄金色の髪に深い青の目。 その声は高すぎず落ち着きのあるしっとりとしたもので 知能が非常に高く、その記憶力と博識っぷりは世界に轟く。 ハーン大帝国の正妻の第一子であり、 側妻の子である兄二人とは異なり 正統な帝位継承権を持つ将来有望な第三皇子。 完全無欠の皇子さま。 しかし、誰も彼のように成りたいとは微塵にも思わない。 それどころか ”化物皇子...

SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 19:19

1「しあわせトレード」

◆◆◆ 幼い弟はいつも泣き叫んでいた。 いたい、いたい、と。 彼に平穏はなかった。 いつもあらん限りの声でそれを伝えていた。 ◆ 哀れだ、と思った。 可哀想に、と。 小さな弱者がそこに這いつくばることは 妙に高揚感を呼び その昂りが次は罪悪感を呼んだ。 哀れな小さな生き物をもっと哀れにしたい衝動と その必死な小さな生き物を優しく包み込みたい感情が 僕をかき混ぜてぐちゃぐちゃにしていた。 ◆ 弟はその絶叫の中に世界をみていた。 それは広く、僕より遥かに拡がり、 弟がみる世界は途方もなく大き...

SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 19:17

「その理由。」

この国で一番偉い我が侭な王様が 自分の双子の姉を差し出せと言った時、 カンは実際のところ内心穏やかではなかった。 姉は自分の持たないものを手にしている。 ただ次女が継ぐ習わしというだけで。 順序が違えば自分のものだったはずだ。 次期族長という場所も、 幼馴染と将来が確約されていることも。 城に献上されるということは あの大きなお城で、極上の物を与えられて 美味しいものをおなかいっぱいに食べるのだ。 併せて呼ばれている幼馴染と一緒に。 穏やかではないどころではない。 そこにある布団も衣...

SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 19:10

「黒の王の緑の剣」

「やあ」 皇室専用の部屋の入り口で穏やかな低い声で男は笑った。 淡い緑の美しい柔らかい髪は腰まで編み込まれ、柔和な懐っこい笑顔。 髪と同じ色の緑が宝石のようにきれいだった。 片足は歩けないわけではないが引きずっているのがわかる。 そしてその同じ側の片腕もどこか不自然だった。 どこか話しかけられた側によく似た顔立ちで、ただまとう色彩が違った。 「いらっしゃいませ」 黒い長い髪を腰まで真っ直ぐ伸ばした相手は律義に返した。 顔だけではなくその声もよく似ている。 黒い目が宝石を見る。 ラスカー家...

SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 16:53

「なんでも願いがかなう笛」

ラスカーの笛を知っているか。 その笛の音はあらゆる願いを叶えてくれる。 しかし、それは正当な継承者にしか音が出せない。 そしてその音を悪用してはならない。 ◆◆◆ 「おじいさま!おじいさま!!」 それは男孫の悲痛な叫びだった。 緑の編み込まれた長い髪が空を舞う。 ラスカー=ライアはその場に崩れ落ちた。 青年期というには少し早い。 幼さをもう少しで脱却するかというところの孫は 駆けつけて祖父の身体を起こそうとした。 だがもうそれは祖父を終わっていた。 「父上。そんなにまでこれが大切ですか」...

SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 14:42

「ラズの独白」

その牢獄に入るべきは自分だったのだ 拒絶された己の代わりに 彼女が入らざるを得なかったのだ 父親がいうことも理解はできる 彼女がいうことも理解はできる だが 到底納得はできず なぜ自分の問題が自分ひとりで解決をみないのだろう なぜ傷をひろめあうやり方でしか 解決の糸口が見えないのだろう 自分が生まれてこなければとは思わない それは優しい母親の気持ちに水をさす 自分が苦しめばいいと思ったところで それは彼女が強く否定する ならば父親が悪だろうか それもおそらくは答えにならない この...

SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 14:19

「過ぎたりてなお、きみが見える」

リリッシュは何もないところを見ては笑う子供だった。 誰もいない場所に話しかけては手を伸ばした。 魔法遺伝子の影響かと検査を受けてみても 魔法要塞の弊害かと外に出してみても 何一つわからなかったが、 とにかく彼は彼だけの世界を映していた。 当然、大勢いる兄弟たちは気味悪がったし怖がった。 突然大声をあげたり、泣き出したりするのだから 本人も大変だろうが、周りにも大変なことだった。 声は出せるが言葉は習得しない。 音は聴こえているようだがどうもあらぬ方向ばかりを見る。 目は見えているが、 ...

SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 13:59

Ⅻ.魔法の杖?

JUGEMテーマ:自作小説     「…マスター」   ベルガモットが不満げに主人(マスター)であるジャーマンを見る。 先ほどからぶつけられる抗議の視線に頭が痛くなる。         ベルガモットはジャーマン以上に貴族が嫌いだ。 ジャーマンに身を寄せる以前彼女はとある貴族に仕えていた。 そこでかなりひどい扱いを受けていたからだ。   その貴族が仕事の依頼で直々にジャーマンを呼び寄せたのが二人の出会いだ。 この時ジャーマンが「...

魚と紅茶(旧・とかげの日常) | 2020.12.26 Sat 06:50

指南の魚 結

JUGEMテーマ:自作小説    気がついたとき、少年は翡翠色の巨大樹に向かい合って立っていた。自分がなぜその場所にいるのか、少年は解らなかった。自分の名前も思い出すことが出来なかった。自分という概念さえ、曖昧になっていた。翡翠の巨大樹の一番高い枝に、一匹の魚が実っていた。瑠璃色の魚だった。八枚の大きな鰭が煌めきを零しながら棚引いている。顎の辺りが枝に繋がっていたけれど、気持ち良く泳ぐように身体をくねらせていた。その目が、少年を捉えた。 「ヤア」  瑠璃色の魚が声を発した。少年への...

pale asymmetry | 2020.12.13 Sun 22:10

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