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「遊びなら、お前に手を出すな、だとよ」 「遊び……?」 ヒロの顔色が一瞬赤くなり、それからさぁっと青くなる。 「あのバカ……!すいません、兄貴!」 慌てて謝るヒロに、桐生はもう1つ追加する。 「それから、こうも言われた。お前はあの子の呪いで駈を好きだと思い込んでいるんだそうだ」 「え……」 その言葉に、ヒロは何か思い当たったのだろう。一瞬視線を彷徨わせてから俯こうとした。 だが、後頭部を掴む桐生の手が、それを許さない。 「……...
真昼の月 | 2018.12.21 Fri 08:02
「ふふ…、兄貴さん、面白い方なんですね」 「あんた程じゃねぇよ」 呪いだの何だの、何の冗談だっつーのと笑い飛ばしてやると、風子は微笑みながら、喉を詰まらせるようにして頬を震わせた。 「う…ううっ」 バックミラーには風子のつむじが映っている。 顔を伏せ、口元を覆い、風子は泣き続けた。 細く華奢な肩。あの小さな体で、この子はどれだけの物を抱えてきたのだろうか。 実の兄を愛してしまったばかりに、自分の心に夜叉を住まわせてしまった女。 夜叉か。そ...
真昼の月 | 2018.12.20 Thu 08:01
◇◇◇ ◇◇◇ 「あの時、私は正気を無くして……、自分で自分のことを刺そうとしたみたいなんです。もちろん、ヒロちゃんが止めてくれたんですけど……。ヒロちゃんはそんな私を見て、分かったって。分かった、俺達は運命共同体だって。お前の運命を俺が引き受けるから。俺も駈が好きだから、駈を必ず繋ぎ止めるからって」 風子の目にはみるみる涙が浮かんできた。 駈とヒロは、本当に仲の良い親友だった。子供の頃、いつも風子はそんな二人を夫婦のようだとからかった。駈とヒロがお父さんとお...
真昼の月 | 2018.12.19 Wed 08:02
「やめろ、風子。大丈夫だ!大丈夫だから……!」 「ダメだよ!だって、このままだと駈ちゃんをあの女に取られちゃうんだよ!どうして!?どうして私じゃダメなの!?私の方が駈ちゃんを好きだわ!!私の方が駈ちゃんを愛してるのに!それなのに、どうして!?兄妹だから?だったらこんな血、いらないのに……!!」 ナイフを握る風子の腕を、ヒロは握って離さなかった。 「落ち着け!落ち着いてくれ、風子!」 「あんな女……!あんな女なんか……!そうよ、あんな、あ...
真昼の月 | 2018.12.18 Tue 08:03
兄は、本当に愛する人の替わりにあの女を抱く。 誰でも良いのだ。ただ、女であるなら。 ヒロの目につく場所で、ヒロに分かりやすいように、ヒロへの気持ちを吐き出させてくれる、都合の良い女。それでも、決してそれに気づかない、バカな女。 何故、その女なのだ。何故、私ではないのだ。私が妹だからか。私があなたと同じ血を持って生まれてきたからか。 あなたは自分の気持ちを隠すことに必死で、決して私の気持ちには気づかない。 どうして? どうして? あなたが生まれた時から、あなたは私の...
真昼の月 | 2018.12.17 Mon 08:01
◇◇◇ ◇◇◇ 子供の頃から、風子の世界は兄で占められていた。 旧態依然とした両親や親戚。会社の社長やその周囲の大人達。 時が止まったような世界の中で、兄だけが明るい光だった。 兄と、サーキットで会う兄の親友。この二人と一緒にいる時だけが、幸せだと感じられる時間だった。 家に戻れば、母や祖母は風子に旧家の女としての役割を押しつけてくる。学校に行っても、小さな田舎のことだ、周りにいる連中は父の勤める会社関係の子弟が多く、小さな社会の人間関係に、風子は押し潰されそうだった。 そ...
真昼の月 | 2018.12.16 Sun 08:02
ヒロは未だにお前の兄貴を想い続け、そのせいで妹のお前と結婚までしようとしてるんだぞ。 そう喉元から出かかった台詞は、寸での所で飲み込んだ。まさか本人に向かって、そんな当てつけを言うわけにはいかない。 桐生が歯を食いしばるように口を閉じ、ギリギリと眉をしかめると、風子はその様子に息を飲み、それから「あっ」と目を見開いた。 「ひょっとして、あなたは駈ちゃんとヒロちゃんのことを知ってるんですか?」 「……ああ」 「ヒロちゃんが、駈ちゃんを好きだったことも……?」 ...
真昼の月 | 2018.12.15 Sat 08:02
「はい。もう、癖で」 「癖?」 癖でこんな物を持ち歩いている?なんだ、この女……。どんな女だ……? 奇妙な顔をする桐生に気づいて、風子は「あ」と声を上げると、慌てたように説明した。 「ヒロちゃんや駈ちゃん、ジュニアカート時代には結構怪我が多かったんです。私は二人と一緒にいたくて……、二人と一緒にいる為に、私にできることはないかって考えて、色んな救命講習に通って勉強しました」 本当は医者や看護師になりたかったんだけど、それは親が許してくれなかった...
真昼の月 | 2018.12.14 Fri 08:02
そうだ。兄貴は違う。 兄貴が俺を抱くのは、誰かの替わりだろう?俺が最初、駈の替わりにしたように、きっと兄貴だって、誰かの替わりに俺を抱いていただけだろう? だって、兄貴は俺を抱く時に、決して俺の名前を呼ばない。決して俺に自分の名前を呼ばせない。それが答えだ。 期待しちゃいけない。俺は男で、兄貴の弟なんだから。 ふと、目の下に桐生の指を感じた。その指がそっと目の縁を辿っていく。桐生はヒロの目から離した親指を自分の唇に持っていって、掬い取った何かをペロリと舐めた。 優しい顔。 ...
真昼の月 | 2018.12.13 Thu 08:10
「最初にそう言ったな。死に場所を与えてくれるんだろう、って。俺は……俺はな、本当は、あのときお前をちょっと脅かしたら、さっさとシッポを巻いて逃げ出すだろうと思ってたんだよ。ヤクザなんてまっぴらごめんだって、逃げ出すだろうってな。……だが、お前は死に場所を欲しがっていた。だから俺はお前を手元に置いたんだ。本当は、お前はこんな世界に来るような奴じゃなかったんだろうが、俺はお前をこのまま死なせちゃいけねぇと思ったんだよ」 「兄貴……」 そうだ。俺は、死に場...
真昼の月 | 2018.12.12 Wed 08:05
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