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「兄貴…」 唐突に、胸の中から突き上げるようにして「この人が好きだ」という気持ちがあふれ出てきた。 今迄見なかったようにしてきたこと。駈の名前の陰に隠し続けてきたこと。 でももう目を逸らすことはできない。自分はこの人が好きなのだ……! 「兄貴!」 そう呼ぶと、桐生の動きが一瞬ビクリと止まった。強い目で睨みつけられる。その視線の強さにゾクゾクした。 今迄の桐生は、ヒロを大切に、優しく扱ってくれてきた。だって、それは駈の代わりに与えてくれる物だったから。 ...
真昼の月 | 2018.11.14 Wed 08:02
「……何言ってるんだ、お前……」 桐生の声がいつもより低く掠れている事に、ヒロは気づかなかった。 「いや、とりあえずの緊急措置ですから。別に俺、誰かと結婚するつもりは一生無いんで、ちょうど戸籍空いてますから」 「そういうもんじゃねぇだろうがよ!!」 ガンと机を叩かれて、ヒロは初めて桐生が怒っていることに気づいた。 だが、ヒロは何故桐生が怒っているのか分からなかった。自分が言っていることはそんなにおかしな事だろうか。確かに一般的な方法では無いかも知れないが...
真昼の月 | 2018.11.13 Tue 08:04
「兄貴、忙しいのかな……」 桐生の部屋は、いつもきちんと片付いていたから、ほんの少しの乱雑さが目についてしまうのだろうか。でも、何となく、どこかが少し違うような気がする。 とりあえず窓を開けて、いつもより丁寧に掃除をすることにした。掃除機をかけ、フローリングを固く絞った雑巾で拭いて、網戸にもブラシをかけてから雑巾をかける。実家で家事代行業者がやっていた通りに、網戸の裏面に新聞を貼り付け、表から重曹水を吹き付けてから雑巾でぬぐうのだ。実家にいた頃は全て人任せだったが、やって...
真昼の月 | 2018.11.12 Mon 08:01
その考えは、無かった。 奥園の家は、そこまでするだろうか。いや、するのかもしれない。だって、自分はヤクザだ。娘がヤクザを追ってキャバ嬢にまでなったと……そう考えれば、なんとしても娘を取り戻し、更生させなければと、親ならば考えるのではないか。そこに社長や周りの奴らに入れ知恵されれば、そのくらいのことはするのかもしれない。 「……分かりました。その可能性を、風子に話してみます」 ヒロがそう言うと、佐世保は「早くしろよ」と鼻を鳴らした。 「お前だって、こんな事で...
真昼の月 | 2018.11.11 Sun 08:01
◇◇◇ ◇◇◇ タカシから名前を挙げられたスクーターの持ち主と、その友人達の裏を取るのに、2人がかりで3日かかった。こういうとき、イニシアティブを取るのはタカシで、ヒロはなるほど、こうやって調べるものなのかと教えられる立場だ。 こちらの仕事を優先するように言われていたので、桐生の部屋に行くのは控えていた。それでも、『三春』には、時間を見つけて風子の様子を見に行くようにはしていた。『三春』のママは風子をひどく可愛がってくれていて安心した。 風子はママに店を手伝わせて欲しいと言っている...
真昼の月 | 2018.11.10 Sat 08:02
「え?うちの兄貴の車にぶつけてくれやがったスクーター、テメェのだろって正直に言いました。そしたらヤクザが来たってびびって泣き出しちまって、いやぁ、ガキ相手に泣くとか、ビックリしました!」 けろりとそんなことを言うタカシに、一緒に話を聞いていた栄次も吉居も呆れたような顔をした。 「そんな事、バカ正直に言ったのか?」 「はい!あ、そしたら、面白い事が分かりました」 「何だ?」 面白い話、という言い方に、その場の空気がぴしりと変わる。 タカシは脳天気な顔はしているが、こんな時にされる「...
真昼の月 | 2018.11.09 Fri 08:01
「兄貴?あの……」 「……分かった。『三春』のママからは、俺の方にも連絡があった。あの人はああ見えて結構なタマだから、あの人に預けたのは正解だ。しばらくは姐(ねえ)さんに任せとけ」 「はい」 ぺこりと頭を下げると、佐世保に「おい、そろそろ時間だろ」とつつかれた。衛の下校まで後1時間ある。いつもより少し早いが、つつかれてしまったこともあり、ヒロは素直に従うことにした。 「じゃあ、行ってきます」 「おう、しっかりな」 佐世保の声に送られて部屋を出る。まさか自分が...
真昼の月 | 2018.11.08 Thu 08:03
駈が死んでもうじき3年が経つ。風子と会ったのも3年ぶりだ。風子はあの頃のまま、何一つ変わっていない。 「風子。俺とお前は運命共同体だ。お前を家の都合で勝手に嫁になんか行かせないから安心しろ。……だけど」 「だけど?」 ヒロの言葉の先を待つ風子に、慌ててヒロは首を振った。 「いや、何でもない。風子、お前も色々大変だったと思う。しばらくは何も考えずにしっかり休め。良いな?」 「うん、ありがとう。……ごめんなさい、ヒロちゃん」 風子が泣きながら、頷くように頭...
真昼の月 | 2018.11.07 Wed 08:01
「だから、逃げてきたの。ヒロちゃんがここでホストしてるってネットで見た時には驚いたけど、その手があったのかって思っちゃった。ここにくれば、私も逃げ切れるんじゃないかって思ったの。もちろん、ヒロちゃんにも会えるだろうと思って」 「風子、お前、でもさ」 「無理だよ。私は絶対に他の男と結婚なんてしないわ」 思い詰めた風子の顔は、ヒロが子供の頃から知っていた妹の顔ではなかった。 「風子……」 その顔を見たら、ヒロはそれ以上、何も言えなくなった。 ◇◇◇ ◇◇◇ とりあえず...
真昼の月 | 2018.11.06 Tue 08:16
「社長には、海外で暮らしている弟さんがいるんだけどね、弟さんは元々ミュージシャンを目指してアメリカに行って……まぁ、よくある話なんだけど、全く芽が出なくて、今は西海岸でゲストハウスを経営してるんだけど……駈ちゃんが死んだら、この弟さんが、うちにも息子はいるんだとか言い出して……。元々仲の良くない兄弟だったんだけど、まぁ、弟さんにしてみたら、なんで血の繋がった自分を差し置いて、赤の他人に会社を譲るんだって納得できなかったんだろうね。でも社長にしてみたら、今迄...
真昼の月 | 2018.11.05 Mon 08:07
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