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「そう、伊嶋のおじい様はそんなにフレンドリーな方なのね」 「ええ、彼は私のことまで、まるで孫のように可愛がって下さいました」 ウィリアムが嬉しそうにそう言うと、真理恵は驚いたように目を見開いてから、嬉しそうに笑った。 「人間国宝だって聞いてたから、気難しい方なのかしらって勝手に思っていたの。いきなりウィリアムが訪ねていったりして、追い返されたりしないのかしらって。でも杞憂だったようね」 そう言ってホッとした顔をする真理恵に、久義は確かに日本の職人はそう言うイメージをもた...
真昼の月 | 2024.07.21 Sun 02:01
◇◇◇ ◇◇◇ 空は重い雲に覆われていた。車の窓の外には、チラチラと風花が舞っている。 イングランド北部、フィッツガード。 夏に見れば真っ青な空にすっくと立って見えるフィッツガード城も、今は灰色の空気の中で押しつぶされそうに見える。 いや、そう見えるのは、この気持ち故か。 ロンドンから電車で移動し、最寄り駅からはレンタカーを借りた。人の動かないこの時期は、こんな田舎ではバスの本数も減らされているし、タクシーを掴まえることも出来ないのだ。今までは、いつも久義がウィリアムの運...
真昼の月 | 2024.07.13 Sat 23:35
「ということで、俺、本当ならもっと早くにバーマストンに帰らなきゃいけなかったんだ」 光留の和菓子の出来を確認しないといけないし、急に放り出されたのだ、光留だってこれからは全てのレシピ作成を自分でしなければならなくなった。自分の修行の成果を存分に発揮するのだと奮い立ってもいるだろうが、もちろん不安や戸惑いもあるだろう。せめて向こう1年分くらいのデザインやレシピの相談には乗っておきたいし、何なら過去のレシピも渡しておいた方が良いだろう。ああそうだ。普段あまり使わない材料の仕入れ先...
真昼の月 | 2024.07.07 Sun 04:01
「は?いくら久義さんが子供の頃からここで育ってきたからって、あんな横暴なことを言われながら働く必要ないですよね?何スか?子供の頃からここで育ってきたら、副社長様の人権無視な時代錯誤のパワハラに耐えるのが当然だって言うんスか?久義さんが定時も休日もなくこき使われてたの、支配人も知ってますよね?それであんなあり得ない命令されて?は?お貴族様ってのはそんなに偉いんスか?今何時代です?名誉革命どこ行ったんスか?それなのに、律儀にレシピまで送ってきてくれた久義さんに何か言うことないんスか?」 熱...
真昼の月 | 2024.06.29 Sat 20:58
すいません、更新遅くなりました💦💦 ご心配とご迷惑をおかけしてすいませんでした💦💦💦 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「そう、テオドアもそうだけど……バーマストン伯爵とも話をする必要が出てくるかもしれないだろう?」 「でもウィルは伯爵やテオドア様の許可なんて必要ないよな?必要があるのは俺だろう?」 「だから、ヒースが話をする前に、私が」 「だからそれが、過保護だってば」 久義はもう一度小さく微笑んだ。 「確かにテオドア様は少し面倒くさい...
真昼の月 | 2024.06.22 Sat 20:12
ウィリアムは一瞬固まった。どう反応したら良いのか分からなかったのだ。 久義がそう言ってくれたことは嬉しい。だが、彼と一緒に帰ったらどうなる? 信吉の言うように、きっとウィリアムの周りにいる者は皆、久義を悪者に仕立て上げ、彼に自重を求めるだろう。例え自分が久義を愛しているのだからと言っても、そんな事は関係ない。彼らは彼らの見たい物を見て、信じたいように信じるだろう。 大きな領地を曲がりなりにも維持し続けている伯爵家の嫡男を誘惑する、外国人の男。そんな分かりやすい記号的な物でしか見られ...
真昼の月 | 2024.06.16 Sun 04:34
◇◇◇ ◇◇◇ 久義の熱は夕方には下がり、夕飯は皆と一緒にこたつで食べられるようになった。 『ちゃーちゃん、大丈夫?無理しないで、だるかったらすぐ上に戻るのよ?』 おばあちゃんはそう言って、久義に厚めの袢纏(はんてん)を着させ、ご飯の代わりに卵粥をよそってくれた。その心遣いがありがたいが……まぁ、熱の原因が原因なので、申し訳なさの方が買ってしまうのだが。とにかく気詰まりで、そそくさと夕飯を食べようとして、またおばあちゃんに注意されてしまう。 『ほらちゃーちゃん。病...
真昼の月 | 2024.06.09 Sun 05:09
謳子はこの村を出てから、1度もここに来たことはないと聞いた。それでも、久義は幼い頃から冬になると1人でこの村に来ていたのだと。 信吉がいなければ、久義の父親は妻と子供と一緒に、もっと早くに村を出ていたのかもしれない。そうすれば、彼が死ぬこともなかったのかもしれない。そう思っても仕方がないだろうに、それでも謳子は久義をこの村に毎年送り出していた。自分を決して認めようとはしなかった、信吉の所に。 信吉と謳子と久義の間には、自分ではとても立ち入れないような想いがあるのだ...
真昼の月 | 2024.06.02 Sun 00:20
不思議そうな顔をするウィリアムに、信吉は苦笑した。 「まぁ、とにかく、1度国に帰って、お父上やお母上とちゃんと話し合ってきな。やるだけのことをやって、久義にあんたを負い目に思わないようにしてやってくれ。それができて初めて、村の連中はあんたを本当の意味で迎え入れるだろうさ」 その言葉に、ウィリアムは自分の考えが間違いではないことを感じた。 ああ、おじいさんは……。 「男同士で外国人の私とのことを、赦して下さるんですか」 大切な、大切な孫だろう。信吉がどれだけ久義...
真昼の月 | 2024.05.26 Sun 04:49
◇◇◇ ◇◇◇ 朝食を食べ終わったウィリアムに、「少しその辺を散歩しないか」と誘ったのは信吉だった。 信吉は結構な年だというのに、この村で育ってきた為だろうか、全く危なげなく雪の中を歩いて行く。 『おじいさん』 信吉の後ろを歩きながら、そっと声を掛ける。こんな雪の中を2人で歩くなんて、何か話があるのではないかと思ったのだ。 それでも、信吉は何も言わずにザクザクと歩いて行った。 信吉はウィリアムよりも久義よりもずっと背は小さい。その小さな背中を見ながら、ウィリアムはた...
真昼の月 | 2024.05.19 Sun 00:12
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