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JUGEMテーマ:ものがたり 十二日間も続く灼熱のせいで、もう都市はいろいろなものがドロドロだ。アスファルトが溶けてしまったので、街路を走る車の姿はない。こういうときには建物の中でじっと息を潜めて灼熱をやり過ごすしかないのに、こういうときに限って姉がソフトクリームを食べたいなどという。「一緒にコンビニまで出かけないといけないわよ」とそれがまるで私の宿命のように言う。まあ、こんな姉を持ったことは私の運命だけど。きっと前世で私は悪行の限りを尽くしていたのかもしれない。 こういうと...
pale asymmetry | 2019.07.05 Fri 21:23
JUGEMテーマ:ものがたり メタルブルーとメタルグリーンが互いを尊重し合うような紋様を纏ったハチドリが、宙の一点でじっとホバリングする。激しく稼働し続ける翼は、その形から色彩が滲み流れ漏れるほどのスピードを有していた。ハチドリの腹からはラインが伸び出ていて、それが僕の手元のコンソールに繋がっている。コンソールにはモニタとキーボード、そして七つのハンドルがある。僕は主にその七つのハンドルでハチドリを操作する。 長い嘴は、ハチドリが得るためにあるのではない。ハチドリが与えるため...
pale asymmetry | 2019.07.02 Tue 22:29
JUGEMテーマ:ものがたり 砂の小山の脇で、マッコウバスは身震いしながら止まった。ということは、ここはバス停なのだ。メイジャーの動きが鈍くなってから、バス停の砂かきがあまり行われなくなって、バス停が露出していることが少なくなってしまった。メイジャーは3日に一度しか僕を呼んでくれないけれど、本当は毎日来た方が良いのではないかと思う。本当にそう思う。 身震いしながら走り出すマッコウバスに背を向け、僕は歩きだす。中天からの傍若無人な陽光にうんざりしながら、埋もれたバス停の直ぐ近く...
pale asymmetry | 2019.07.01 Mon 21:51
JUGEMテーマ:ものがたり 気怠げに蹲っていた季節が、どうやら立ち上がり歩み始めたようだった。昨日までの鈍重な雨が嘘のように、跳ねるような軽やかなステップで。今日の空は何処までも澄んでいる。その青は歌っているようだ。たぶんこの惑星のどの時代にも、どの地域にも存在したこのない言語で。昨日までの雨に溶け込んでいたその言語が、今日の日差しを駆け上っていく。宇宙から来た言語が、宇宙へと還っていくのだろう。 溜まっていた衣類を洗濯し、それを縁側に干す。風は強く吹いていたけれど、縁側は...
pale asymmetry | 2019.06.29 Sat 21:26
JUGEMテーマ:ものがたり 一説によると、この地球という惑星には約6900のランゲージが存在するのだそうだ。そして一説によると、この銀河には約1200億のランゲージが存在するのだという。この数字が多いのか少ないのか、私には判断できない。何にしても銀河には共通銀河ランゲージがあり、銀河に存在する知的生命体の約7割がその言語を操ることが出来て、それでほとんどのリレーションシップは問題なく成立しているので、ランゲージが多かろうと少なかろうと関係ないのかもしれない。それに他の説によると、今この...
pale asymmetry | 2019.06.17 Mon 21:20
JUGEMテーマ:ものがたり 青年は草むらに蹲り、じっと獲物を待つ。ライフル銃のスコープを覗き込み、呼吸数を可能な限り落とし、地面に身体を溶かすほどに力を抜き、左目と右の人差し指にだけ意識を集中する。左目と右の人差し指だけの奇妙な生物になったような自身を感じながら。彼には獲物の通り道が解る。丹念に、何日もかけて調べたのだから。その通り道の一点に銃口を向け、彼は待つ。人差し指を微かに撫でる風が、そのときが近づいていることを彼に教える。 左目が獲物を捕らえる。そのコンマ数秒前に、...
pale asymmetry | 2019.06.16 Sun 21:17
JUGEMテーマ:ものがたり その湖は真空よりも澄んでいた。そこに液体が満たされているということが、信じがたいほどに。しかしそれは確かに湖なのだ。指先を近づけてみるとそこには水面があり、手を浸してみると清廉な冷ややかさを感じた。湖の底には、樹木がいくつか横たわっている。この湖を取り囲む樹木が没したものなのだろう。しかしその樹木は全て紅玉のような赤い輝きを、赤く妖しい輝きを放っている。その質感も植物のそれではなく、もっと硬質なものに見えた。この湖は、植物を宝石に変えるスキルを持って...
pale asymmetry | 2019.06.14 Fri 20:30
JUGEMテーマ:ものがたり 太陽は丁度真上にあって、降りそそぐ陽光はフラクタルな構造を見せていた。真東から吹く微風は、風だから当然透明だったけれど、どこか浮世絵の波のように躍動していると思わされた。思わされたと言うからにはそれは誰か私以外の他者に思わされたということであるはずだけど、実際のところはそうではなく、私の脳回路にそう思わされたということなのだ。それくらい、私の脳回路は私自身と距離を保っているわけで、ところでこの場合の私自身とは何だろうか。私の肉体か。それとも心かな。心...
pale asymmetry | 2019.06.12 Wed 21:45
JUGEMテーマ:ものがたり 急勾配の下り坂は、真っ直ぐに海へと繋がっている。黒猫とその背にしがみつく錦の輝きが、しなやかなスピードで坂を下っていく。雲一つない空は青い色彩よりも銀色の煌めきの方が強く、波一つない海も青い色彩より銀色の乱反射の方が断然に強い。風景が銀河に満たされていることを私は感じた。湿った風を感じながら、それでも宇宙を旅している気分になる。 黒猫は恒星間天体だろうか。錦の輝きはそこに着陸した探査機か。すると私たちはそれらをモニターする管制室。実際に宇宙に出て...
pale asymmetry | 2019.06.10 Mon 22:26
JUGEMテーマ:ものがたり 「ニャニャーゴ、ニャー」 錦に輝きながら、漂着者は鳴き続ける。けれどタクソンの方は直ぐに鳴かなくなり、何度か首を傾げ、さらにはその仕草さえしなくなって、ただじっと漂着者を見つめるだけになった。漂着者の方はその反応に慌てるように、鳴くことよりも身振り手振りのジェスチャーが多くなり、激しく手足を動かし出した。それでも、タクソンの反応は薄かった。時折首を傾げ、戸惑っているように見えた。 「これ、会話が成立しなくなっているような気がするけど」 撮影を...
pale asymmetry | 2019.06.09 Sun 22:06
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