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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あ〜ぶくたった、にえたった」 家中の窓が開け放たれていて、彼女がキッチンで歌っていた。 「にえたかどうだかたべてみよ、むしゃむしゃむしゃ、まだにえない」 彼女は鍋を覗き込む。歌と違って実際には何も食べていない。ただ鼻をくんくんさせているだけだ。 「ただいま」 僕が声をかけても、彼女は振り向かない。 「あ〜ぶくたった、にえたった、にえたかどうだかたべてみよ、もうにえた」 彼女は満足げに頷き火を止める。そして振り返った。何か...
pale asymmetry | 2020.09.24 Thu 21:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「貝にはね、失われた文明の記録が隠されているのよ」 砂浜で拾った貝殻を、彼女は空に翳す。早朝の雨が上がり、雲はまだたっぷりと残っていたけれど、青空の比率も増え始めている。 「こうやって耳に当てれば、その記録が流れ込んできたりするのよ」 彼女が貝殻を耳に当たる。大きな金属のピアスが揺らぎ、不自然な音が微かに響く。不自然だけど可愛い音だ。湿った風が彼女の長い髪を弄び、表情がよく見えない。 「でもね、貝は文明の記録を保持していても、文明の...
pale asymmetry | 2020.09.22 Tue 22:05
JUGEMテーマ:ショート・ショート 八角形の月を窓辺から見つめている。嘘だ。そんな月は存在しない。いや、月自体が存在しない。今夜は朔月の夜なのだから。窓は固く閉じられている。窓を開けるとこんな田舎では虫がたくさん侵入してくるからだ。だからこの部屋を流れる気流は、エアコンディショナーが構築したものだ。僕としては、その気流の方が好みだ。いやそうではない。僕好みの気流を、エアコンディショナーで生み出しているのだ。こんな田舎でもそれくらいのテクノロジーは普及している。 僕は床の...
pale asymmetry | 2020.09.17 Thu 21:18
JUGEMテーマ:ショート・ショート 満月の光を控えめに弾くアルコールランプに、彼女がマッチで日をつける。友達に貰ってきたのだという。マッチと一緒に。窓を開け放って、そこに丸テーブルを移動して、その上で彼女は水を沸騰させる。アルコールランプでそれをすると実験のようだけど、僕らはそれで、インスタントのコーヒーを作っていただけだった。 「廃校になる学校から手に入れたんだって」 彼女は小さな片手鍋の中で沸点に達した水を見つめている。表面が泡立ち気化が始まっている。 「大半はひび...
pale asymmetry | 2020.09.16 Wed 14:57
JUGEMテーマ:ショート・ショート 真夜中の公園の泉は枯れている。ブラックホールのように枯れている。そしてそれは出来損ないのブラックホールだ。何も取り込むことが出来ない、塵一つ吸い込めない、つまりは全く質量を有していないのだ。物理的な質量も、非物理的な質量も。それに比べればまだ僕はましな方かもしれない。少なくともジャンプしても落下できるくらいの質量は持っている。いろいろなものを引き寄せ取り込めるほどの質量ではないにしても。 少女は優雅に跳ねている。黒いドレスを舞い踊らせ、そ...
pale asymmetry | 2020.09.11 Fri 21:14
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「君は、私がこの惑星にやって来たときには、何をしていたのかな?」 面接官が僕に尋ねる。丸い部屋の真ん中で。僕らは向かい合っていない。90度の角度をとって丸いテーブルに着いている。なるべく真っ直ぐの方向に顔を向けたまま話すように最初に言われたので、そうしている。だから面接官の顔はよく解らない。そもそも『賢い人』の顔はよく解らない。正面から見つめても複雑なステンドグラスのように見えてしまうから。それはある種のカモフラージュなのだそうだけど、どうい...
pale asymmetry | 2020.09.10 Thu 21:38
JUGEMテーマ:ショート・ショート 300円の折りたたみ椅子。全てがプラスチックで、金属パーツは欠片もない。だからどこでも使えるの。朝でも夜でも、山でも海でも、未来でも過去でも、近所でも戦地でも。今日は丘の上、街を見下ろす丘の上のパーキング。照明はこの前の台風のときから消えたまま。だから星々との距離が近づいている。 「ね」 あなたは真っ直ぐ夜を指差して言う。 「うん」 私は腰掛けたまま、自身を抱きしめて頷く。夜に溶けてしまわないように、用心してたんだ。 「星を見...
pale asymmetry | 2020.09.07 Mon 21:34
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「台風が近づくと、眠くならない?」 彼女が僕に訊く。庭とベランダを片付けた後、僕らはダイニングで温かいカフェオレを飲んでいる。ミルクの比率の高いカフェオレを、大きなボウルで、旅の途中のような気分で。台風が近づくと、僕はそんな気分になる。 「強い台風が近づくと、特に眠くなるの」 彼女のその声は、半ば眠りを纏っているようにも感じられる。カフェオレがそれを後押ししているのか、それとも引き留めているのかはよく解らない。 「台風によって、私は...
pale asymmetry | 2020.09.05 Sat 20:56
『青い星の子』 1。 2。 3。 4 出会い 涼SIDE。 5レガント星へ。
チームSECHS! | 2020.09.01 Tue 10:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 右足の親指を強く引っ張られて目が覚めた。庭を抜ける風の清廉な冷ややかさが心地良くて、縁側でいつの間にか眠っていたのだ。足下に目を向けると、十歳になったばかりの甥っ子がけれんのない眼差しを僕に向けている。僕と目が合うと、薄く笑う。僕の肌を冷ましている風のような笑顔だった。 「叔父さん、出かけるから着いてきて」 そう言うと庭に降り立ち、サンダルを履く。キラキラと光るビーズでたっぷりとデコレートされたサンダルだった。そのサンダルに負けないくら...
pale asymmetry | 2020.08.30 Sun 21:29
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