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JUGEMテーマ:ショート・ショート 逢魔が時、川に沿って僕らは歩いていた。時々飛び跳ねていた。羽ばたいてみたりした。もちろん僕らは翼なんて持っていないから、パタパタと動かしたのは両腕だ。だから飛べない。それが哀しいことなのかどうかを、僕らはとりとめもなく話し合ってみたけれど、結局のところよく解らなかった。僕らは何も知らない。それは残念なことだとも思えるけれど、素晴らしいことでもあると思える。全てを知ってしまったら、世界なんてつまらない事象の塊になってしまうでしょう。まあ、全てを...
pale asymmetry | 2020.11.28 Sat 21:24
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事帰りにコンビニに入ろうとしたら、彼女がちょうど出てきた。彼女も仕事帰りらしい服装だった。 「こんばんは」 彼女が丁寧にお辞儀をする。外で偶然出会うと、彼女はいつも丁寧にお辞儀をする。だから僕も、丁寧なお辞儀を返す。 「こんばんは」 「すごいレシートを見せてあげる」 そう言って彼女が僕の手を取り、強引に扉の脇へと引っ張る。挨拶が終わると急に丁寧でなくなる。 「ねえ見て」 財布からレシートを取り出し、僕に翳す。もちろんこの...
pale asymmetry | 2020.11.27 Fri 21:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート 若先生の竹刀の動きは速過ぎて、僕には見えない。若先生が一歩前に踏み出したと思った瞬間には、もう僕は面に強烈な衝撃を喰らっている。若先生と僕の距離は一歩以上あったはずなのに、その距離を若先生は一歩で移動してしまうのだ。 「構え直して」 竹刀を取り落とした僕に、若先生は冷静な声で言う。とても冷静だから、恐ろしかった。僕は慌てて竹刀を握りしめて構える。 「もっと両腕の力を抜いて」 若先生に言われてそうしようとするけれど、緊張してしまって...
pale asymmetry | 2020.11.23 Mon 21:13
JUGEMテーマ:ショート・ショート 午前四時四十五分にアラームが鳴る。隣の彼女がもぞもぞと動き出す。部屋の明かりをつけずにキッチンへと歩いて行く気配を感じる。僕はまだ半身を眠りに沈めている。犬が僕の足首を舐める。朝はまだ遠いが目覚めるには良い時間だ。そう僕に教えているのだ。犬は賢い。僕よりもずっと。 午前五時三十分に彼女が出かけていった。早朝から特別なオペレーションがあるのだそうだ。僕はまだ回路が開いていない。朝食は食べてみたけれど、それはまだ完全に取り込まれていなくて、僕...
pale asymmetry | 2020.11.16 Mon 20:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「おちる、って言うじゃない?」 「おちる?」 「そう、恋におちるって言うじゃない?」 「ああ、言うね」 僕らは暗い部屋で、身体をくっつけて毛布に包まっていた。時間は解らない。真夜中辺りか、それに似た夜のどこかだ。 「どうして恋はおちるものなのかしら?」 「どうして?」 「恋に沈んだって、恋を纏ったって、恋を取り込んだって言いいいわけじゃない?」 「でも、おちるが一番しっくりくると思うけど」 「それはその表現に慣れているからじ...
pale asymmetry | 2020.11.11 Wed 14:37
JUGEMテーマ:ショート・ショート 姪っ子は、とてもユニークだ。近所にすんでいるから時々出会ったりするのだけれど、その度に何かに熱中していて、そのなにかが会うたびに違っていたりする。 「何してるの?」 その日もランドセルを背負った姪っ子に、午後の遅くに出会った。たぶん学校帰りなのだろう。彼女は柄の長い捕虫網を両手でしっかりと握りしめ、周囲を忙しなく見回している。 「ごきげんよう」 僕に気づいて恭しく頭を下げたりするので、僕も付き合う。 「ごきげんよう。で、何を探してるの?」...
pale asymmetry | 2020.11.10 Tue 20:59
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「629円です」 財布にコインがなかったので、千円札を出す。 「千円からお預かりします。ポインターは使われますか?」 店員さんに笑顔で訊かれた。 「ポインター?」 「ええ、ポインター」 「ポイントのことですか?」 「いえ、ポインターです」 細かな釣り銭を発生させないために、端数分にポイントを使ったことはあるけれど、ポインターを使ったことなどない。というか、ポインターなどというシステムを知らない。 「どうされます?」 店...
pale asymmetry | 2020.11.09 Mon 21:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、戻ってきて」 彼女の声が聞こえる。その声は湿っていて、深い井戸の底から聞こえてくるように感じた。けれど彼女の熱を感じる。彼女は傍らに横たわっていることを思い出す。僕は目を開ける。 「狭間の世界へようこそ」 暗い部屋。彼女の顔もよく見えない。けれどその声は、笑っている。 「狭間の世界?」 「時計を見て」 彼女の声に従い、頭の背後にある時計に目を向ける。エメラルドグリーンの淡い光、その光が形作るデジタル数字は24:02と表示さ...
pale asymmetry | 2020.11.07 Sat 21:31
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「星の数って、どれくらいかしら?」 彼女が呟く。それは独り言のようにも思えたし、僕への問いかけのようにも思えた。あるいは夜空の星たちに直接尋ねているようにも思えた。もし星たちに尋ねているとしたら、人語では通じないのではないだろうか。百歩譲ってもエスペラントくらいでないと。とか思っていたら、彼女が夜空から僕に視線を移した。 「ねえ?」 どうやら僕に尋ねていたらしい。僕たちは秋の夜長を堪能するためにベランダで星を眺めていた。リクライニング...
pale asymmetry | 2020.10.28 Wed 21:13
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「見て」 彼女が腕を伸ばし、斜め上を指差す。夕刻と言うにはまだ少し早い東の空に、半月が浮かんでいた。青白い半月が。 「こういうのいいね」 彼女が気持ちよさそうに笑う。北風が彼女の前髪をこっそりと踊らせている。 「こういうの?」 僕の問いに、彼女は半月に目を向けたまま答える。 「意味がある感じになったでしょう?」 「月を見るという意味?」 「そう」 「まあ、そうだね」 今日は二人とも休日だった。朝からひたすらにだらだら...
pale asymmetry | 2020.10.24 Sat 20:58
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