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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「知っている、とカエルが言ったの」 「カエルが? 人語で?」 「ごめん、説明不足だったわ。カエルが人間の言葉を口にしたわけではないの。知っていると意思表示したということ」 「どんな感じで? ジェスチャーとか?」 「いいえ、何というか雰囲気ね。あるいは、纏った空気を震わせることによって」 「何だか、特殊な能力をカエルは、そのカエルは有していたようだね」 「あら、これは特別な能力ではないわ。どんなカエルだって持っている。それにカエルだけ...
pale asymmetry | 2021.06.15 Tue 21:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート サフラン色の髪の少女は、胸に小さな傘を抱きしめていた。雨は強く降っていたけれど、その閉じられた傘を抱きしめ、開くつもりはないようだった。もっともそれは本当に小さくて、たぶん直径三十センチくらいだと思われたから、開いたところでたいして役には立たなかったかもしれないけれど。その傘はサフランの色をしていた。サフラン色ではない。染料の色ではないということ。サフランの花冠の色だった。 「私たちはもう溺死していてもおかしくないと思わない?」 サフラ...
pale asymmetry | 2021.06.14 Mon 21:17
JUGEMテーマ:ショート・ショート 私たちは窓辺のソファーに並んで腰掛けていた。腰掛けていると言うより、だらしなく身を沈めていると言った方が正確だろう。そのソファーは二人で吟味して買ったもので、最近のお気に入りの場所だった。休日の午後はだいたい並んで過ごしていた。湿度が高かったから、窓はしっかりと閉じてエアコンディショナーを働かせていた。 「ねえ、フクロミツスイの精子って、哺乳類では最も大きいんですって」 私はタブレットで有袋類のドキュメンタリーを見ていた。骨伝導のイヤホ...
pale asymmetry | 2021.06.13 Sun 20:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「…踏んじゃった」 西風が強すぎて、立ち止まった彼女の言葉を上手く聞き取れなかった。 「え? 何だって?」 「だから、カニの脚を踏んじゃったって言ったの」 彼女がアスファルト路面を指差す。確かにそこにはカニの脚が落ちている。カニの脚だけが。胴体の姿はどこにもない。その脚は15?くらいの長さでもちろんスーパーで売っているような食用のカニではない。僕らは細い川沿いの道を歩いていたから、その川に住んでいたカニだったのだろうか。そうだと...
pale asymmetry | 2021.06.04 Fri 20:58
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「洗車するの好きだよね?」 アウトドア用の椅子を組み立て、そこにだらしなく腰掛けるとすぐに彼女はそう口にした。 「うん、好きだよ」 僕はもちろん車を洗っていた。銀色の小さな四輪駆動車を。 「お休みの日は、取り敢えず洗車してるよね?」 彼女は目を細め、空を見上げている。まだ日差しは幼かったけれど、十分に眩しかった。それはもう、夏の成分を色濃く持っているようだった。 「そうだね。晴れた日にはね」 シャンプーをたっぷり含ませたス...
pale asymmetry | 2021.06.02 Wed 21:07
JUGEMテーマ:ショート・ショート 日が暮れたその瞬間に雨が降り出した。スイッチが押されたように。押したのは私ではないけれど、思わず「ごめんなさい」と呟いてしまう。それくらい切り替わり感の強い雨だった。そのせいだろう、四肢を投げ出して床に横たわっていたナイジェルが、顔を起こし耳を立てている。眼差しは窓に向けられ、ガラスを叩く雨粒を通り越して、向こう側の世界を見つめているようだ。そこはつまり天国なのかも知れない。ナイジェルは時々、そういう世界を見つめている賢そうな横顔を私に見せる...
pale asymmetry | 2021.05.27 Thu 20:39
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「これは病のようなものだと思うの」 彼女はそう言って、ビールをグラスに注ぐ。黒ビールのはずだったけれど、少し赤みがかって見えた。それがベランダに流れ込む街の明かりのせいなのか、それともこの夜の持つ性質のせいなのか、僕には解らない。 「つまり私たちは、循環するものに敏感なのだと思う」 彼女はグラスを傾け、気持ちよさそうに喉を鳴らす。どこか吸血鬼のような横顔に見えた。ビールが赤みがかって見えるのは、僕の心持ちのせいかもしれないな。 「だ...
pale asymmetry | 2021.05.26 Wed 20:34
JUGEMテーマ:ショート・ショート 大き過ぎるダイニングテーブルの真ん中に鉱石が置かれている。テーブルの端に彼女が頬を横たわらせ、その鉱石を見つめている。黄昏時の風が、窓から控えめに漂ってくる。夜の冷ややかさより、まだ昼の名残の熱を孕んだ風だった。僕は窓辺のソファーで文庫本を読んでいた。そろそろ部屋の明かりを灯そうかと思いながら。 「ねえ、この石には私たちが見えているかしら?」 深い青灰色の鉱石を、彼女が指差す。頬はだらしなく横たわったまま。僕は文庫本から顔をあげ、鉱石を...
pale asymmetry | 2021.05.19 Wed 21:08
JUGEMテーマ:ショート・ショート 春が走り始めたので、タオル地のマットに替えた。ベッドに敷く前に陽光でたっぷりとエナジーを補充して、夕暮れ時の一歩手前に回収する。そのままベッドに纏わせ、彼女と二人で飛び込むように横たわってみた。優しい熱がマットから伝わってきて、その熱はとても爽やかで、自然と笑い出してしまう。隣で彼女も笑っている。 「この国の海は、この国の陸の十二倍あるんだって」 彼女が笑いながら、唐突に言う。 「十二倍? 面積のこと?」 「多分そうかな。でも不思議...
pale asymmetry | 2021.05.15 Sat 21:58
JUGEMテーマ:ショート・ショート 強い南風はたっぷりと湿っていて、心地よかった。肌を撫でるときに適度に熱を奪ってくれたから。そうでなければ、鋭すぎる陽光に負けて、僕らは早々に散歩を切り上げていただろう。でもこの風のおかげで、僕と彼女と犬は堤防に腰を下ろしてのんびりと水面と空を眺めることが出来た。水面は細かなささくれに覆われていて、それが煌めきを撒き散らしている。とても硬質な煌めきで、陽光を冷却しているように感じる。雲は水玉模様のように連なり、流れることなくその模様を維持してい...
pale asymmetry | 2021.05.12 Wed 17:37
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