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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「やわらかな世界には、やわらかな狂気が漂っているの」 暗い部屋に、彼女の囁きが漂った。これもやわらかな狂気だろうか、と僕は思った。そう思ってしまうくらい、僕は眠気に抱きすくめられていた。どうしようもなく高貴な眠気が、毛布に化身して僕を包んでいたから。 「やわらかな狂気って、恐ろしいものかい?」 僕は小さな問いを発した。隣にいると確信していたけれど、本当は二百マイルくらい離れた場所から交信しているのかもしれない彼女に。部屋の闇は、それく...
pale asymmetry | 2020.12.14 Mon 20:13
JUGEMテーマ:ショート・ショート 青空を久しぶりに目にした。白い雲もそうかもしれない。灰色の空、灰色の雲。そんな姿ばかりをこのとこを見上げていたように思える。そんな空が嫌いだというわけではない。風が弱く、そんな空から真っ直ぐに落ちてくる雨とかは好きだ。そういう雨は優しく感じる。私にも優しいし、草木にも優しいし。 庭に出て、草を抜く。連日雨交じりの日が続いていたから、土は緩んでいる。どの草もあっけなく抜けて、正気を失っているようだ。虚ろに囚われ、世界との繋がりが希薄にな...
pale asymmetry | 2020.12.11 Fri 22:08
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ見て」 彼女がラップトップPCのモニタを僕に向ける。そこにはアスファルトに横たわるコウモリ。そしてその傍らに一輪の花。コウモリは真っ赤で、花は鮮やかな黄色だった。真っ赤なコウモリなんているのだろうか。コウモリには詳しくないので解らない。花にも詳しくはないけど、その花は見たことがあるように思える。けれど名前を思い出せない。 「真っ赤なコウモリって、実際にいるの?」 「え? 知らない。たぶんいないと思うな」 僕たちはダイニングの大き...
pale asymmetry | 2020.12.04 Fri 21:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 美しい人だと思った。凜とした美しさだと思った。千年くらい生きていて、様々な経験をしてきたような、そんな美しさだと思えた。もちろん彼女は千年も生きてはいない。あるいは、千年に匹敵するような濃厚な時間を過ごしてきているのかもしれないが、それは僕には解らない。 「いらっしゃい」 声は彼女の唇から漏れ出ているはずなのに、どこか遠いところから僕の脳に直接響いていくるように感じた。その場所は遙かな未来か遙かな過去か、それとも存在しない時間に支配され...
pale asymmetry | 2020.11.29 Sun 21:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 逢魔が時、川に沿って僕らは歩いていた。時々飛び跳ねていた。羽ばたいてみたりした。もちろん僕らは翼なんて持っていないから、パタパタと動かしたのは両腕だ。だから飛べない。それが哀しいことなのかどうかを、僕らはとりとめもなく話し合ってみたけれど、結局のところよく解らなかった。僕らは何も知らない。それは残念なことだとも思えるけれど、素晴らしいことでもあると思える。全てを知ってしまったら、世界なんてつまらない事象の塊になってしまうでしょう。まあ、全てを...
pale asymmetry | 2020.11.28 Sat 21:24
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事帰りにコンビニに入ろうとしたら、彼女がちょうど出てきた。彼女も仕事帰りらしい服装だった。 「こんばんは」 彼女が丁寧にお辞儀をする。外で偶然出会うと、彼女はいつも丁寧にお辞儀をする。だから僕も、丁寧なお辞儀を返す。 「こんばんは」 「すごいレシートを見せてあげる」 そう言って彼女が僕の手を取り、強引に扉の脇へと引っ張る。挨拶が終わると急に丁寧でなくなる。 「ねえ見て」 財布からレシートを取り出し、僕に翳す。もちろんこの...
pale asymmetry | 2020.11.27 Fri 21:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート 若先生の竹刀の動きは速過ぎて、僕には見えない。若先生が一歩前に踏み出したと思った瞬間には、もう僕は面に強烈な衝撃を喰らっている。若先生と僕の距離は一歩以上あったはずなのに、その距離を若先生は一歩で移動してしまうのだ。 「構え直して」 竹刀を取り落とした僕に、若先生は冷静な声で言う。とても冷静だから、恐ろしかった。僕は慌てて竹刀を握りしめて構える。 「もっと両腕の力を抜いて」 若先生に言われてそうしようとするけれど、緊張してしまって...
pale asymmetry | 2020.11.23 Mon 21:13
JUGEMテーマ:ショート・ショート 午前四時四十五分にアラームが鳴る。隣の彼女がもぞもぞと動き出す。部屋の明かりをつけずにキッチンへと歩いて行く気配を感じる。僕はまだ半身を眠りに沈めている。犬が僕の足首を舐める。朝はまだ遠いが目覚めるには良い時間だ。そう僕に教えているのだ。犬は賢い。僕よりもずっと。 午前五時三十分に彼女が出かけていった。早朝から特別なオペレーションがあるのだそうだ。僕はまだ回路が開いていない。朝食は食べてみたけれど、それはまだ完全に取り込まれていなくて、僕...
pale asymmetry | 2020.11.16 Mon 20:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「おちる、って言うじゃない?」 「おちる?」 「そう、恋におちるって言うじゃない?」 「ああ、言うね」 僕らは暗い部屋で、身体をくっつけて毛布に包まっていた。時間は解らない。真夜中辺りか、それに似た夜のどこかだ。 「どうして恋はおちるものなのかしら?」 「どうして?」 「恋に沈んだって、恋を纏ったって、恋を取り込んだって言いいいわけじゃない?」 「でも、おちるが一番しっくりくると思うけど」 「それはその表現に慣れているからじ...
pale asymmetry | 2020.11.11 Wed 14:37
JUGEMテーマ:ショート・ショート 姪っ子は、とてもユニークだ。近所にすんでいるから時々出会ったりするのだけれど、その度に何かに熱中していて、そのなにかが会うたびに違っていたりする。 「何してるの?」 その日もランドセルを背負った姪っ子に、午後の遅くに出会った。たぶん学校帰りなのだろう。彼女は柄の長い捕虫網を両手でしっかりと握りしめ、周囲を忙しなく見回している。 「ごきげんよう」 僕に気づいて恭しく頭を下げたりするので、僕も付き合う。 「ごきげんよう。で、何を探してるの?」...
pale asymmetry | 2020.11.10 Tue 20:59
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