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JUGEMテーマ:ショート・ショート 陽光は強く、風景の隅っこがハレーションしている。その陽光とせめぎ合うように、風は冷たく気品に溢れていた。正午を過ぎても風は冷たい気品を失わなかったから、その午後はゴージャスな空気に満ちていた。 海沿いの遊歩道を僕と彼女は手を繋いで歩いている。彼女は少し前を行き、自然と僕は彼女に手を引かれる。急いでいるわけではないし、目的地があるわけでもない。休日の、カテゴライズする必要のない散歩だ。つまりは散歩のための散歩と言っていいだろう。そういう意味...
pale asymmetry | 2021.04.21 Wed 20:28
JUGEMテーマ:ショート・ショート ユーキから電話がかかってきたとき、僕はちょうどアサさんとアサさんの部屋でベッドに寝転んだところだった。アサさんはバイトの先輩で、僕より四つ年上で、すごい美人で、だけどふくよかな身体で、だから最高だった。バイトの時短い髪を無理矢理束ねている姿が可愛くて好きになったんだ。そのアサさんと初めてベッドで抱き合ったときだったから、最初その電話を無視しようとしたけど、電話って珍しいから、何かいつもと違う感じがして僕はその電話を受けたんだ。 「ヒロ、シン...
pale asymmetry | 2021.04.19 Mon 21:37
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らは砂の上に直接腰を下ろして、ネーブルオレンジを食べていた。潮が引ききったビーチは遠くまで岩場が露出していて、海との距離がかなり遠ざかっている。海は少し身を引くことによって、何かを僕らに教えているように思えた。あるいは自分勝手な理由で翻ろうとして、力を溜めているようにも見えた。陽光は雲の向こうで、ビーチを漂う光はやわらかだった。西風と混ざり合うその光は、他愛もない世界がグズグズと流れていることをシンボライズしているようだった。僕は少し眠いの...
pale asymmetry | 2021.04.14 Wed 21:51
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「眠ってる?」 「うん? 半分ぐらい眠ってる」 「疲れてる?」 「うん、疲れてる、すごく」 「どうして?」 「どうしてかな…、よく解らないな…」 「夢を見れそう?」 「どうだろう、たぶん…」 「たぶん見れる? たぶん見れない?」 「うん? そうだね、たぶん…」 彼女の声は遠く離れた場所から聞こえているようだった。例えば僕はポイントネモにいて、彼女はインターナショナルスペースステーションにいるみたいな...
pale asymmetry | 2021.04.09 Fri 21:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「人間とロボットの違いってあるかしら?」 彼女が尖った月を見つめて呟く。未明の北風が、季節の足取りを弄んでいる。僕らは薔薇の庭園にいた。薔薇の生垣で構築された迷路庭園の真ん中にいた。細胞で言えば核の部分だ。そうであるのに相応しいインフォメーションを僕らが有しているかは怪しかったけど。少なくとも僕については。 「人間は生まれるもの、ロボットは生み出されるもの、じゃないかな。僕はそう思う」 簡素な椅子は座面と地面の距離が近く、その狭間を通...
pale asymmetry | 2021.04.07 Wed 20:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あなたの目の前にドアがあります」 朝食の途中で彼女が突然そう話し出す。平日だけど、二人とも仕事は休み。それでもリズムを崩したくなくて、僕らはいつもの時間に起床して食べている。開け放った窓から湿った風が転がり込んでいたけど、雨の匂いはしない。 「どんなドアですか?」 「普通のドアかな」 「普通じゃ解らないわ。詳細を描写せよ」 僕は目を閉じしばらく考える。目の前の扉について。でも眠ってしまいそうになって、慌てて目を開く。 「銀色の...
pale asymmetry | 2021.03.31 Wed 13:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート 箱庭の中には箱の全域を埋め尽くすような城が建っていた。佇んでいたのかも知れないし、蹲っていたのかも知れない。あるいはそれは、黄昏れていたのかも知れない。それが城であるというのも、私の勝手なイメージだ。これを作った女性はまだ言葉を発していない。箱の周りをゆっくりと回りながら、自分が作った、自分が箱を埋め尽くしたその作品の出来栄えを吟味している。何度か頷き、私を見つめ、席に座った。 「出来ました」 女性は背筋を張り詰めるように伸ばし、私を真...
pale asymmetry | 2021.03.27 Sat 21:20
JUGEMテーマ:ショート・ショート 近所に住んでいる甥っ子が、小さな箱を大事そうに抱き締めてやって来た。 「今日は学校じゃないの?」 甥っ子は来月から小学2年生のはずだ。 「春休みだよ。知らないの?」 何故か得意気に甥っ子は言う。学校に行くようになってから彼の知識は格段に増え、そのせいか僕にいろいろと教えようとする。彼は弟子を探していて、僕はその第一候補のようだ。自宅に籠って仕事をしている僕は、彼にはか弱い子羊に見えているのかもしれない。 「そうか、桜が咲いている...
pale asymmetry | 2021.03.24 Wed 21:36
JUGEMテーマ:ショート・ショート 夕食は茄子がたっぷり入ったミートスパだった。ミートソースも茄子も大好きだったので、幸せな気分になりながら食べる。隣の彼女に目を向けると、じっとミートスパを見つめていた。 「どうしたの?」 「今、突然思い出したことがあるの」 「どんなこと?」 「すごく昔のこと。お稲荷さんと会話した思い出」 「お稲荷さんと会話?」 「実家の庭にお稲荷さんの社があるのは知ってるよね?」 「うん。前に君から聞いたことがある。年に一回お祭りみたいなのをす...
pale asymmetry | 2021.03.17 Wed 21:28
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「はい、私は数を持っています」 彼が時計を指差して笑う。壁の時計のデジタル時計が、15時9分26秒を表示している。ネット配信の映画を見ながらビールを飲んでいた私たちは、思わずその缶をぶつけ合った。 「英語で言ってくれないと、文字数があわないわよ」 「確かにそうだ」 彼は頷き、缶を傾ける。 「じゃあ言い直そう。産医師異国に向かう」 「そうね、それなら良いわ。異国ってどこの国かしら?」 「さあどこだろう。何かこう、国境なき医師団が向か...
pale asymmetry | 2021.03.14 Sun 21:42
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