[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]

JUGEMテーマ:ショート・ショート 朝はまだ走り出したばかりで、空気も眠気を完全に振り払えていないように思えた。空は薄曇り。でも日中は気持ち良く晴れる予報だ。ベランダにテーブルと椅子を出して、僕と彼女は卵かけご飯を食べる。大きなカップでカフェオレを飲みながら。冷たい風が微かに吹いていて、それがこの時間が空回りしていないことを証明しているように思えた。 「ねえ、誰もいない場所で花が咲くの。その花は満足かしら?」 彼女は空を見つめていた。眩しさはどこにもない空だったから、真っ...
pale asymmetry | 2021.10.30 Sat 20:52
JUGEMテーマ:ショート・ショート パラシュートを開いて降下していた。眼下は一面海だった。少しだけ赤みがかった緑の水面が果てしなく広がっていた。その端っこは丸かったから、僕は孤独を感じた。その丸みが遠すぎて、僕はスタンドアローンなのだなという想いを強く感じたのだった。風がパラシュートを揺らす。音のない風が、音がないのに鋭く激しい風がパラシュートを揺らし、繋がる僕も揺らした。音がしないわけがないと思って、僕は耳を傾ける。すると微かに声が聞こえた。よく見知った声。呼んでいるようだ。...
pale asymmetry | 2021.10.22 Fri 21:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 季節の急勾配に耐えきれず、ダイニングにダルマストーブを出した。といってレプリカで、石炭ではなく電気で稼働するタイプ。だから煙突はない。代わりに小さなファンが付いていて、温風を吐き出して部屋を暖めてくれる。 「ねえ、冬ってどこから来ると思う?」 夕食の後、ダイニングテーブルの脇で、僕と彼女はレプリカストーブに椅子を寄せ、それぞれタブレット端末を見つめていた。 「大陸からじゃない? この寒さは大陸から南下してきた寒気の影響らしいから」 ...
pale asymmetry | 2021.10.17 Sun 21:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「私、今日気づいたことがあるの」 夕食を食べながら、彼女が切り出した。 「何?」 「傘をね、買ったの。二ヶ月くらい前かな」 「うん」 「今日、午後から雨の予報だったじゃない。だからその傘を持っていったの」 「ああ、僕も今日は傘を持っていった」 「でも、結局降らなかったよね」 「うん、どちらかと言えば晴れ間も見えたね」 「そう、それで気づいたの。この新しい傘を手に入れてから、この傘を持っているときには雨に降られてないなって」 ...
pale asymmetry | 2021.10.11 Mon 21:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート リビングには、小さなランプが一つ灯っているだけだった。もう日はすっかり落ちていたから、その灯りだけでは明らかに不足していた。光だけではなく、熱も、そして柔らかさも不足しているように思えた。 「おかえり」 彼女はリビングの真ん中で、丸まって横たわっていた。極彩色のラグマットの上にいたはずだけど、部屋の薄暗さのせいでその極彩色はエネルギーを失っているみたいだった。 「ただいま。灯りはつけない方が良い?」 「うん、そうね」 彼女の周り...
pale asymmetry | 2021.10.05 Tue 21:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 青と灰色が混ざった空だった。でもとても明るい空で、その交ざった色彩は綺麗だった。私はその空を、八角形のベンチに座って眺めていた。半ば寝転ぶようにだらしなく座って。目線を下げると、海に行き当たる。穏やかな水面。風は吹いていたけれど、それは水面にささくれを立たせるほどではない。薄荷のドロップみたいに頼りない風だった。 護岸沿いの遊歩道には、いくつものベンチが設置されている。全て大きな八角形のベンチで、屋根付きだから急なスコールに出くわしても慌...
pale asymmetry | 2021.09.29 Wed 21:09
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「大きな木って好き?」 「大きさによって木に好き嫌いが生じるかってこと?」 彼女は沈黙する。部屋の照明は消えていたから、その表情は解らない。僕ら並んで横たわっている。彼女の熱が、僕の皮膚に心地よく流れてくる。 「ちょっと違うんだけど、でもおおむねそうかな」 「大きいから好きということはないよ」 彼女がきっと求めていると思ったから、僕は訪ねる。 「君は? 大きな木は好きかい?」 「大嫌い」 予想通り、彼女は即答する。きっぱり...
pale asymmetry | 2021.09.28 Tue 21:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート すれ違った少女は、僕の妹にとてもよく似ていた。でも髪の色が違う。唇の色が違う。そして見たことのない服装だ。でも、その少女は妹だと確信出来た。足運びが、そして歩くときのお尻の揺らし方の癖が妹と相似だったから。だから僕はその少女を追い、その肩に手をかける。 「どこに行くの?」 少女は振り返り、僕を覗き込んで首を傾げる。その瞬間自信がなくなった。やっぱり妹ではなかったかもしれないと思えた。少女が歩みを止め、お尻の揺れも止まってしまったから、僕...
pale asymmetry | 2021.09.24 Fri 21:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「唐突に、身体のある場所が痛くなったりしない?」 仕事から帰ると、彼女が真っ先にそう問い掛けてきた。キッチンで鍋を煮立てる手を止めて、僕を覗き込む。僕は鍋を覗き込む。化学実験のようなその鍋の表層からは、けれど甘い香りが過剰に放出されている。ジャムだった。マルベリーのジャムだった。かなり前に二人で摘んできて、冷凍庫に眠っていたものだろう。 「原因が解らないのに、はっきりと痛みを感じたりすること」 「あるよ。今もそう」 僕は左手を彼女に...
pale asymmetry | 2021.09.15 Wed 21:24
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ねえ、見てみて」 彼女が差し出したタブレット端末では、城の画像が回転していた。3Dの画像で、時々一部が拡大されたりしている。西洋風の城だったけれど、遙かな未来の城のように見えた。あるいは、遠く離れた別の銀河の城のようにも見えた。もちろんその城は、見知らぬ知性体によって構築されているのだ。 「これって、ある人のストレージなんだって」 「ストレージ? 倉庫なの?」 「違う違う、記憶媒体としてのストレージ。USBやSDみたいな」 僕はモニタ...
pale asymmetry | 2021.09.11 Sat 21:17
全1000件中 321 - 330 件表示 (33/100 ページ)