[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]

JUGEMテーマ:ショート・ショート 磨りガラスの向こうから、月の明かりが忍び込んでくる。赤い月光だった。痛みを抱えた月光に思えた。それは私が痛みを抱えているからかしら。それとも世界中が痛みを抱えていて、それが当たり前のことになっているからかしら。寝返りを打って、私の二つのブルカを押しつぶしてみる。この反発は水かしら。私は二つの海を抱えているのかしら。そんなに大きなブルカじゃないな。せいぜい湖。それとも井戸かな。 また寝返りを打って、ブルカを月光に晒す。二つの膨らみを両手で波...
pale asymmetry | 2020.02.13 Thu 21:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート 錆び付いた錠前は、もう破壊するしかなかった。たぶんそうだろうと思って、持ってきた工具箱を開ける。パドロックの逆さU字のツルをワイヤーカッターで切断する。それは本当の植物の蔓のように脆かった。いや、それ以上に脆かったかもしれない。生命でないものは、生命のような長尺の時間軸を持てないものなのだと実感した。 木製の大きな引き戸は、恐ろしく鈍重で軋む叫びを上げて激しく悶えるけれど、一向に動かない。渾身の力を込めてレールに近い辺りを蹴り上げ、なんと...
pale asymmetry | 2020.02.10 Mon 20:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕たちは黙って巻き寿司を食べている。今年の方位角である255度の方角を向いて。何を願って食べたら良いのかよく解らなかったので、取り敢えず健康を願っておく。一気に食べて隣を見ると、彼女はまだもぐもぐしている。何を考えているのだろう。大きく目を見開いている。話しかけたい気持ちをぐっと抑えながら、その横顔を眺めていた。やがて彼女が食べ終わり、僕に顔を向ける。 「じっと見てるから、笑っちゃいそうになったじゃない」 そう言って笑う。 「何を願った...
pale asymmetry | 2020.02.03 Mon 21:13
JUGEMテーマ:ショート・ショート 七柱の高い塔に取り囲まれた街だった。七柱の神が守護する街でも会った。それぞれの塔は地上からの高さと同じだけ地下にも伸びていて、だから七柱のデーモンが守護する街でもあった。どうしてあたしはそんなことを知っているのだろう。きっと誰かから聞いたのだ。誰からだったかしら。ああ、多分ロボットの誰かだ。この街には、たくさんのロボットが住んでいる。この街は彼らのための街なのだ。とても手が長いロボットで、両手は立っていても普通に地面に届く長さをしている。それ...
pale asymmetry | 2020.02.02 Sun 21:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート 七つ年下の妹は、宝石だった。宝石だったから、常に彼女の枕元には宝石箱が置かれていた。その箱はもともとオルゴールだったけれど、今はその能力を失っている。トレードオフで、宝石箱の機能を手に入れたのだ。その宝石箱を置いたのは、誰だったかしら。母だったかしら、それとも祖母だったかしら、あるいは曾祖母だったかもしれない。祖母も曾祖母も私が生まれる前にすでにこの世界から去っているから、もし祖母か曾祖母がその箱を置いたのならば、それは私が生まれる前のことに...
pale asymmetry | 2020.02.01 Sat 20:38
『プリンセス・ティレイサ』1はこちら。 『プリンセス・ティレイサ』2はこちら。 『プリンセス・ティレイサ』3はこちら。 『プリンセス・ティレイサ』4はこちら。 『プリンセス・ティレイサ』5はこちら。 『プリンセス・ティレイサ』6はこちら。 『プリンセス・ティレイサ』7はこちら。 『プリンセス・ティレイサ』8はこちら。 『プリンセス・ティレイサ』9はこちら。 プリン...
チームSECHS! | 2020.02.01 Sat 09:42
JUGEMテーマ:ショート・ショート 七歳になったばかりの次女は、私の祖母が、つまり彼女にとっては曾祖母が残したオルゴールがお気に入りのようだ。気がつくと大抵、ベッドの上でその箱と向かい合い眺めている。蓋を開けたり閉じたりしている。何度そうしても、音楽が響くことはない。壊れていて、もう音を奏でることが出来ないオルゴールなのだ。それでも、彼女は愉しそうに眺めている。そして時々踊り出したりする。まるで透明な音楽を捉えているように。もちろん音楽は皆透明だけど、そういう意味ではない。私に...
pale asymmetry | 2020.01.31 Fri 19:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 自販機の下に猫が二匹並んで潜り込んでいる。一匹は黒猫、もう一匹は雉虎だ。恐る恐るといった感じで、鼻先だけを自販機の裾から突きだして、上目遣いに世界を観察している。自販機の前を人が通りすぎるたびに、その靴の動きを目で追ったりしている。相似形の振る舞いで。強い北風に揺すられる街路樹に冬の残忍さを感じながら、僕は車の運転席に座り、ぬくぬくとした場所からそれを眺めていた。自販機の下の薄闇に、そこに据え付けられた眼差しに世界が収束していく様子を。 ...
pale asymmetry | 2020.01.29 Wed 21:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 犬と歩いていた。あたしの犬と。中型の黒い犬、いろいろな血がミックスされた結果優しすぎる顔立ちをした犬。その顔立ちからは想像できないくらい殺傷能力の高い犬。以前に一度だけ、殺されそうになった。でもあたしも一度だけ殺しそうになったことがあるから、あたしと犬の仲は上々だと思う。 空は青く雲は適度に漂っている。絵に描きたくなるような空だけど、決して誰にも描かれることのない空だ。それくらい平凡な空だ。陽光は強そうに見えるのに、北風に薄められて地上に...
pale asymmetry | 2020.01.27 Mon 20:56
JUGEMテーマ:ショート・ショート 大型のショッピングモールなんかの広く薄暗いパーキングで、その隅の方の壁なんかによく解らない扉を見かけたりすることがある。薄汚れた壁と同じように汚れた金属の扉。壁と全く同じ色にしておいてくれれば気にならないのに、少しだけ表情が違う色彩をしていたりするのだ。もちろん意味のない扉ではないだろう。例えばスタッフ専用のエリアへの扉なのかもしれないし、あるいは単に物置の入り口なのかもしれない。電気系統の制御盤のようなものが納められているのかもしれないし、...
pale asymmetry | 2020.01.24 Fri 21:02
全1000件中 481 - 490 件表示 (49/100 ページ)