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JUGEMテーマ:ショート・ショート窓のそとに、夜がやってきた。あたしは、椅子にすわったまま、ちいさく伸びをした。背中の筋が、感覚をぐっとつかむ。目のまえのパソコンに向けつづけた視線を、部屋の向こうへおおきく移動させ、首をぎゅるりと音が鳴るようにまわした。机のうえに置かれたホットコーヒーが、いつのまにかちゅうとはんぱな温度の珈琲に変化をしていて、なんとなくほんの少しの罪悪感におそわれる。とりあえず、そのちゅうとはんぱな珈琲に手を伸ばし、ぐいと一気に飲みほすと、意味もなく、はあ、とじぶんにきかすよう...
ちいさなおはなし | 2013.05.12 Sun 19:16
本番まで5分を切ったところで、ディレクターが下読みをしている私の元へやってきた。県警記者クラブから新しいネタで、ニュースが追加された。「何を外すの?」「そうだなぁ…何にする?」昼食のメニューを相談する…そんな軽いノリで聞いてきた。彼特有の現場を上手く回す気遣いだ。もちろん、私に決定権などは、ない。生放送と言うだけでも、毎回予定通りには事は進まない。そこに予定外のニュースが入ってきたのだ。伝え方、聞き方…その言葉尻一つで、反感が生まれもするし、混乱も生まれる。スキルもあればプライドもある。ここにい...
演劇団S.O. WORKS|静岡・浜松の劇団の舞台作品紹介ブログ | 2013.05.10 Fri 22:03
休憩室で煙草を吸い終えた時、声をかけられた。それを発した人物は…確か…田島…木島…島田…島村…見覚えはあるが、名前はわからない。「坂口君だね」「はい」「君の実家、地主さんだそうだね」その名前もはっきり知らない男の声に、彼は身を硬くした。なぜ、バレたんだ―それだけが、頭をぐるぐる、ぐるぐると駆け巡ったが、そんなことは考えても答えは見つからない。それに、目の前の男にとっては全く関係のないことだった。「実は少し、頼みごとがあってね」馴れ馴れしい笑顔を見せ、男は作業服の胸ポケットから煙草を取り出し、それを彼...
演劇団S.O. WORKS|静岡・浜松の劇団の舞台作品紹介ブログ | 2013.05.10 Fri 19:34
「これ、どうしたの?」息子が居間のテーブルにあった和菓子を見降ろしながら聞いてきた。「もしかして…」私が答える前に、察しがついたらしい。包みを一つ手にしながら、こちらを向いた。「で、支払ったわけ?」「その挨拶に来た時に、頂いたのよ」「…頂いたね」そう言って息子は、包みを広げその中身を一口で収めた。私は夕食の支度の手を止めて、お茶を入れることにした。「期限付けて、ちょっと脅しをかければ払ってくるんだって。甘い顔しているから、後回しにされてたんだよ」菓子をお茶で流し込んでから、息子が突き放すように...
演劇団S.O. WORKS|静岡・浜松の劇団の舞台作品紹介ブログ | 2013.05.08 Wed 21:23
男はそこが不釣り合いな場所だと感じて居たたまれない。女はそれを感じ取ってその手をしっかりと握りしめた。店員は閉店間際に訪れた客に嫌な顔一つ見せず、淡々と作業を進めた。「お待たせしました」その声と共に差し出されたトレー。その中には小さな紙が乗っていた。二人はそれを覗き込む。そこには手書きで数字が書かれていた。二人は一の位から順にその数字の桁数を数えた。想像していたよりも数字は大きく、二人は顔を見合わせた。「こちらでよろしければ、即金でお支払いします」二人の驚きとは対照的に、抑揚のない店員の声だ...
演劇団S.O. WORKS|静岡・浜松の劇団の舞台作品紹介ブログ | 2013.05.07 Tue 21:30
頼んであったデザートを運んでもらえるよう彼は店員に伝える。「さっきの雑誌見せてもらえる?」そう口にしたのは、まだ店員がお皿を片づけている途中。なんとも間の悪い奴だと心でため息、顔には笑顔を浮かべて頷く。30代の女性をコアターゲットにした雑貨やアパレルのネットショップの運営スタッフをしている私にとって、ファッションやライフスタイル提案の雑誌は一通り目にしておきたい。メインどころは会社で購入しているが、自分で買うのも少なくない。それを食事の前に彼と買いに行った。「なかなかこういう雑誌を見る機会が...
演劇団S.O. WORKS|静岡・浜松の劇団の舞台作品紹介ブログ | 2013.05.06 Mon 17:21
戻るなり事務所の壁掛時計を見た。その前に時間を確認したのは営業車を降りる時だから、数分も経っていない。よし、大丈夫―それでも、改めて確認と決意をした。その時だった。携帯が“待った”をかけてきた。液晶には取引先の担当の名。反射的に手にはしたものの、出るには躊躇した。しかし、バイブでなく音が出ている以上、周りの視線も気になる。「はい、神埼です」嫌な感じを抱きながら電話に出た。こういう時はいつも以上に声が明るく愛想良くなる。一種の職業病だろう。「どうも、遅くに申し訳ない」僕のそれとは真逆の声が返ってき...
演劇団S.O. WORKS|静岡・浜松の劇団の舞台作品紹介ブログ | 2013.05.05 Sun 19:04
吸えないなら吸えないでかまわない。それくらいだった。だから妊娠して簡単にやめられた。産後も吸いたいとは思わないでここまで来た。でも、包帯で巻かれた旦那の姿を見て…いいや、決断の時を迎えることを知り、彼女は21年振りに煙草に手を伸ばした。流石に肺に吸い込むまではできない。それでも、少し気持ちが落ち着く。錯覚かも知れない。いつもはしないことをして、今という時間から現実感を削いでいる。それだけのことかも知れない。それでも、彼女には十分だった。だから、1本を5分以上かけてゆっくりと吸い切った。一人娘が...
演劇団S.O. WORKS|静岡・浜松の劇団の舞台作品紹介ブログ | 2013.05.05 Sun 14:11
バス停を降りればすぐに見つかるだろう―そんな根拠のないことを思った自分に悪態をつきたい気分だった。全くそれらしい建物が見えない。自分の知っているこの辺りは畑や田んぼで、道路も片側一車線だった。まともに歩道すらなかったはずだ。すっかり変わった街並みが恨めしい。今では大型店舗をはじめ、ズラリと建物が並び中央分離帯と歩道がある道路へと変わっている。町を出て約20年。全く帰ってこなかったわけではないが、このあたりを歩くのは初めてかもしれない。改めて、経過した時間の長さを感じる。まるで浦島太郎だな―そん...
演劇団S.O. WORKS|静岡・浜松の劇団の舞台作品紹介ブログ | 2013.05.04 Sat 09:23
カフェモカを一口飲んで、こぼれたのは仕事を終えた充実の一息。それではなく、明らかなため息。「仕事は半人前でも、特典は使えるんだよな」まだ耳に残る店長の大きな独り言が、追加のエスプレッソショットが生み出すビターな後味を汚していく。それを洗い流そうと、もう一口飲んだ。制服の可愛さと、ドリンクメニュー無料の特典に魅かれて始めたバイト。土日に仕事というのはマイナイス面だけど、100%希望通りの仕事なんてこの世の中に存在しない。最近気がついた。今の仕事は嫌いじゃない。毎日変化がある。同じ日なんて1日も...
演劇団S.O. WORKS|静岡・浜松の劇団の舞台作品紹介ブログ | 2013.05.03 Fri 14:16
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