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ある夏、阪急百貨店の屋上に上ったら 屋上遊園地の乗り物は取り払われて テーブルがいっぱい並んでいた。 上を見ると提灯がずらずらとヒモにぶら下がって 『屋上ビヤガーデン』という文字が揺れている。 長い線路の上を走る汽車などもあったのに いったいどこへ消えてしまったのだろう。 執拗に探し回ると片隅にシートを掛けた一画があって ぎゅうぎゅう紐で縛ってあるので定かではないが お そらくこれがそうであろうという物体が並んでいた。 お歳暮...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.07.11 Tue 18:54
百貨店の屋上には小さな遊園地があった。 十円を入れると動く乗り物もあったが その場でカタカタと揺れるだけなので そんなのは ”こどもだましだ” と思っていた。 四角い箱の上部に覗き窓が付いているものがあって お金を入れると幻燈のように 中の絵が動くのが見える。 かいちゃんはこれが好きだった。 箱の上のほうが斜めになっていて そこに双眼鏡のような黒い覗き口が付いているのだが 背の低い子用に踏み台が置いてある。 ちっちゃい ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.07.09 Sun 18:29
百貨店に連れて行ってもらうのは お中元とお歳暮のシーズンだったと思う。 電車にもどこにも冷房など無かったし 百貨店も人がいっぱいだったが どこからかふわりと風が吹いてきた。 母の指さすほうを見ると 天井に扇風機の羽根のようなものが付いている。 ちっちゃい かいちゃんにとって天井は果てしなく高く そんなに遠いのに羽根はとても大きく見えた。 阪急百貨店のインテリアはすべて茶色っぽく 大きな羽根は優雅にゆっくり回っていた。 エレベ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.07.08 Sat 20:11
梅田の阪急百貨店の最上階には大食堂があった。 かいちゃんはお子様ランチを一度だけ食べたことがある。 「高いばっかりで おいしないで」と母が反対したのだが お子様である かいちゃんにとっては いかにも魅力的に見えた。 目の前に来てみるとエビフライは衣ばかりだし ウインナーは家で食べるのと変わらない。 プリン形のケチャップライスに立っている旗は 爪楊枝に紙を貼り付けただけのものであった。 それでも満足だったのは おまけが付いていたからで ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.07.04 Tue 22:11
夏の日曜日の昼食はたいてい そうめんで 母はそうめんつゆのダシを干しエビでとっていた。 作るところは見ていないのだが アルマイトの片手鍋に透きとおったつゆが 氷といっしょにちゃぷちゃぷと入っていた。 アルマイトの鍋は使いこまれて あちこちべこべこ へこんでいて、 持ち手の一部は少し溶けたように焦げていた。 薄口醤油を使っているので つゆの色は飴色で 底に干しエビがころころ沈んでいるのが見える。 人数分のガラスの容器に つゆを分けると...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.07.03 Mon 18:46
祖父は歯が痛いとき正露丸を詰めていた。 虫歯でへこんだ奥歯のくぼみに詰めていたのだと思う。 お腹が痛い時に飲む薬だと思っていたので 初めて聞いたときにはひどく驚いた。 正露丸は茶色いガラスびんに入った丸い粒だが ふたを開けただけで部屋中に匂いが広がって かいちゃんは鼻をつまんで逃げた。 その匂いの素を歯に詰めているのだから 祖父の歯が痛いあいだはそばに近寄れなかった。 大阪万博の翌年に亡くなった祖父の声を どうしても思...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.06.30 Fri 10:04
おじいちゃんは仁丹の匂いがしていた。 うちの祖父だけでなく 高齢の男の人に近づくと たいてい仁丹の匂いが ぷんと漂ってきた。 小さな透明のガラスびんに入っていたような気もするが 小さなマッチ箱のようなものだったかもしれない。 仁丹の匂いはさわやかで すーっとするのだが 口に入れると舌がしびれたようになって 噛み砕こうものなら苦くて はあはあする。 粒は小さく丸い銀色で 薬のように水で飲むわけでもなく お菓子なのか薬なのか判らない。 ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.06.25 Sun 20:48
四丁目は平屋の一戸建てが6,7軒ずつ1ブロックになっていて 家の前には排水の溝が掘ってあった。 道はゆるい下りになっていて 溝に流れた水はそのまま下方の千里川に流れ込むのだが 炊事と洗濯の排水くらいのもので 常識としてあまり汚いものは流さなかった。 月に一度『みぞそうじの日』というのがあって お母さんたちが竹ぼうきを持って出て来る。 坂の上の方から全員でかりかりと溝を掃いてゆく。 一番上の家がちょろちょろと水を流しているので コンクリートと水...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.06.19 Mon 16:26
庭の紫陽花の葉っぱの裏には でんでん虫がいた。 雨が降っている時には外に遊びに出ないから 晴れたときに見つけた でんでん虫は すっぽりと殻にひきこもっている。 つのだせ やりだせ 目玉だせ〜という歌があるので 殻から出てくるところを見たいと かいちゃんは思った。 雨が降っていると出てくると聞いたので 台所にいる母のところにバケツを持って行って 水を入れてもらった。 砂遊び用のじょうろで水をちょろちょろかけてみたが いっこうに出てく...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.06.14 Wed 22:02
玄関わきに大きな紫陽花の株があった。 どこの家でもたいてい紫陽花はあるけれども かいちゃんの家の紫陽花は 手毬ほどの大きさの花のかたまりで 通りがかりの人が足を止めるほど見事であった。 紫陽花は ”挿し木” することができるので 花が終わる頃には知らない人までが 「ひと枝、分けてください」と言ってきた。 最初クリーム色の花弁が淡いブルーに染まっていき どんどん濃くなって鮮やかな藍色になり それから赤みがかって紫色に変わる。  ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.06.13 Tue 22:12
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