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回想

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回想
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昔のことをふっと想いだす瞬間。
花の香り、風の香り、季節の流れの中で。
後悔もある。
懐かしい思い出。
だからこそ、今日を一生懸命に生きよう。
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その102 「ビヤガーデン」

ある夏、阪急百貨店の屋上に上ったら 屋上遊園地の乗り物は取り払われて テーブルがいっぱい並んでいた。   上を見ると提灯がずらずらとヒモにぶら下がって 『屋上ビヤガーデン』という文字が揺れている。   長い線路の上を走る汽車などもあったのに いったいどこへ消えてしまったのだろう。   執拗に探し回ると片隅にシートを掛けた一画があって ぎゅうぎゅう紐で縛ってあるので定かではないが お そらくこれがそうであろうという物体が並んでいた。   お歳暮...

あべゆかり の 回想法ノート | 2017.07.11 Tue 18:54

その101 「屋上遊園地」

百貨店の屋上には小さな遊園地があった。   十円を入れると動く乗り物もあったが その場でカタカタと揺れるだけなので そんなのは ”こどもだましだ” と思っていた。   四角い箱の上部に覗き窓が付いているものがあって お金を入れると幻燈のように 中の絵が動くのが見える。 かいちゃんはこれが好きだった。   箱の上のほうが斜めになっていて そこに双眼鏡のような黒い覗き口が付いているのだが 背の低い子用に踏み台が置いてある。   ちっちゃい ...

あべゆかり の 回想法ノート | 2017.07.09 Sun 18:29

その100 「阪急百貨店」

百貨店に連れて行ってもらうのは お中元とお歳暮のシーズンだったと思う。   電車にもどこにも冷房など無かったし 百貨店も人がいっぱいだったが どこからかふわりと風が吹いてきた。   母の指さすほうを見ると 天井に扇風機の羽根のようなものが付いている。 ちっちゃい かいちゃんにとって天井は果てしなく高く そんなに遠いのに羽根はとても大きく見えた。   阪急百貨店のインテリアはすべて茶色っぽく 大きな羽根は優雅にゆっくり回っていた。   エレベ...

あべゆかり の 回想法ノート | 2017.07.08 Sat 20:11

その99 「大食堂」

梅田の阪急百貨店の最上階には大食堂があった。   かいちゃんはお子様ランチを一度だけ食べたことがある。   「高いばっかりで おいしないで」と母が反対したのだが お子様である かいちゃんにとっては いかにも魅力的に見えた。   目の前に来てみるとエビフライは衣ばかりだし ウインナーは家で食べるのと変わらない。 プリン形のケチャップライスに立っている旗は 爪楊枝に紙を貼り付けただけのものであった。   それでも満足だったのは おまけが付いていたからで ...

あべゆかり の 回想法ノート | 2017.07.04 Tue 22:11

その98 「干しエビ」

夏の日曜日の昼食はたいてい そうめんで 母はそうめんつゆのダシを干しエビでとっていた。   作るところは見ていないのだが アルマイトの片手鍋に透きとおったつゆが 氷といっしょにちゃぷちゃぷと入っていた。   アルマイトの鍋は使いこまれて あちこちべこべこ へこんでいて、 持ち手の一部は少し溶けたように焦げていた。   薄口醤油を使っているので つゆの色は飴色で 底に干しエビがころころ沈んでいるのが見える。   人数分のガラスの容器に つゆを分けると...

あべゆかり の 回想法ノート | 2017.07.03 Mon 18:46

その97 「正露丸」

祖父は歯が痛いとき正露丸を詰めていた。   虫歯でへこんだ奥歯のくぼみに詰めていたのだと思う。   お腹が痛い時に飲む薬だと思っていたので 初めて聞いたときにはひどく驚いた。   正露丸は茶色いガラスびんに入った丸い粒だが ふたを開けただけで部屋中に匂いが広がって かいちゃんは鼻をつまんで逃げた。   その匂いの素を歯に詰めているのだから 祖父の歯が痛いあいだはそばに近寄れなかった。   大阪万博の翌年に亡くなった祖父の声を どうしても思...

あべゆかり の 回想法ノート | 2017.06.30 Fri 10:04

その96 「仁丹」

おじいちゃんは仁丹の匂いがしていた。   うちの祖父だけでなく 高齢の男の人に近づくと たいてい仁丹の匂いが ぷんと漂ってきた。   小さな透明のガラスびんに入っていたような気もするが 小さなマッチ箱のようなものだったかもしれない。   仁丹の匂いはさわやかで すーっとするのだが 口に入れると舌がしびれたようになって 噛み砕こうものなら苦くて はあはあする。   粒は小さく丸い銀色で 薬のように水で飲むわけでもなく お菓子なのか薬なのか判らない。 ...

あべゆかり の 回想法ノート | 2017.06.25 Sun 20:48

その95 「みぞそうじ」

四丁目は平屋の一戸建てが6,7軒ずつ1ブロックになっていて 家の前には排水の溝が掘ってあった。   道はゆるい下りになっていて 溝に流れた水はそのまま下方の千里川に流れ込むのだが 炊事と洗濯の排水くらいのもので 常識としてあまり汚いものは流さなかった。   月に一度『みぞそうじの日』というのがあって お母さんたちが竹ぼうきを持って出て来る。   坂の上の方から全員でかりかりと溝を掃いてゆく。 一番上の家がちょろちょろと水を流しているので コンクリートと水...

あべゆかり の 回想法ノート | 2017.06.19 Mon 16:26

その94 「でんでん虫」

庭の紫陽花の葉っぱの裏には でんでん虫がいた。   雨が降っている時には外に遊びに出ないから 晴れたときに見つけた でんでん虫は すっぽりと殻にひきこもっている。   つのだせ やりだせ 目玉だせ〜という歌があるので 殻から出てくるところを見たいと かいちゃんは思った。   雨が降っていると出てくると聞いたので 台所にいる母のところにバケツを持って行って 水を入れてもらった。   砂遊び用のじょうろで水をちょろちょろかけてみたが いっこうに出てく...

あべゆかり の 回想法ノート | 2017.06.14 Wed 22:02

その93 「紫陽花(あじさい)」

玄関わきに大きな紫陽花の株があった。   どこの家でもたいてい紫陽花はあるけれども かいちゃんの家の紫陽花は 手毬ほどの大きさの花のかたまりで 通りがかりの人が足を止めるほど見事であった。   紫陽花は ”挿し木” することができるので 花が終わる頃には知らない人までが 「ひと枝、分けてください」と言ってきた。   最初クリーム色の花弁が淡いブルーに染まっていき どんどん濃くなって鮮やかな藍色になり それから赤みがかって紫色に変わる。  ...

あべゆかり の 回想法ノート | 2017.06.13 Tue 22:12

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