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もう何も怖くない

チョコレートをつくると決めていた。 あいつはどうせたくさんの彼女から貰うのだろうけれど(なんてことだ!) 唇に精一杯の笑みを乗せて、義理だって言い訳のように付け加える。 そうしたらあいつはきっと、サンキュ、とか明らかに口先だけで答える。それでいい。構わない。 頭の中では何度も繰り返されるシュミレート。 一番じゃなくていいからお願い、一番近くにいさせて欲しい。 あいつの彼女は限りなく見てきた。 もう何も怖くない。 そう思っていたのだけれど。

劣性遺伝カサノヴァ | 2008.03.22 Sat 00:19

劣性遺伝カサノヴァ

稀代の女たらしである彼はひどく鈍い。なんて矛盾。微かな好意を探り出し、増幅させるものじゃないの?甘い言葉を振り撒くだけでは女を繋ぎ止めることなんてできないでしょう?そんなに彼女達は馬鹿じゃない。なのにどうして目の前で尻尾を振る私に気づかない?近過ぎてわからないなんて幻滅な台詞を吐かないで。少しくらい深読みして、大胆不敵なあんたでしょう。考えてよ、この行為の意味を、ほら早く早く! 秘密だよ? 素知らぬふりが彼女の気持を一番惹き付けることができるってちゃんと知っているんだ。 それに気づかな...

劣性遺伝カサノヴァ | 2008.03.22 Sat 00:09

第三十三幕 「歌舞伎町の妖怪」

二丁目の薄暗い灯りとは違う 煌びやかに男と女の欲望の影を映し出すネオンが 銀二と翔に降り注いでいた。 道を行き交う歌舞伎町のホストとホステスに恐縮した。 「このビルの二階だよ」 当然、本場のホストクラブでは無く そこにあったのは雑居ビルにひしめき合う 飲み屋の一室に古くからあるスナック 『ナメコロジー』 会員制と書かれた札がぶらさがった木製の重厚な扉 翔さんが扉を開けると店内から紫の灯りがこぼれた 「いらっしゃい、あ、翔ちゃんか」 カウンターに立っていたのは背の高く切れ目の三枚目 慣れた...

映画青年銀二ノ二丁目劇場 | 2008.03.21 Fri 03:08

睡蓮 54

睡蓮の読みどおり、翌週からはレポート作成・提出に追われる日が続き、ルカと顔をあわせることは無かった。 これは、ホッとしていいのかな?  感謝の気持ちをキスで表す習慣のない日本人の睡蓮にとって、あのキスが感謝なのか好意からなのか、よくわからない。 でも、その前の言葉が感謝の言葉だったし・・・ 「やっぱり感謝のキスで間違いないのよね。うん。そうそう。」 「感謝のキスって?」 「ッ!!」 隣から聞こえてきた声に思わず体が反応してしまった。 「ラ、ラモンか・・・」 一瞬にして手のひらに汗...

さくらのもり | 2008.03.16 Sun 20:27

第三十二幕「翔さんの副業」

酔い疲れた身体を引きずりボロアパートに帰ると そこには翔さんが居た。 そう、銀二よりもさらに金の無い翔さんは 先日、居候していた女の家から追い出されて 銀二の家に辿り着いたのだ。 6畳一間風呂なしの部屋にホストが2人。 「真夜中のカーボーイ」でダスティ・ホフマンが演じた 肺炎の小汚い詐欺師ですら、もっと広い部屋に住んでいたのに・・・ 夢のカリフォルニアはいずこへ 着替えの入ったリュックとノートパソコンだけが 翔さんの持ち物。同じ服を着ているのだが センスがいいので、汚くは見えず逆にかっこ...

映画青年銀二ノ二丁目劇場 | 2008.03.16 Sun 02:18

睡蓮 53

翌週になると3兄弟の風邪もすっかり回復していた。 大学も通常授業が始まり、欠席者の数も目立たなくなってきた。 「授業が休講になるのは嬉しいんだけど、それも長すぎると何もすることなくて退屈だよな。」 3人で昼食を取りながら、こう言うのはカークである。 「何もすることがなくて、って・・・。」 「授業の予習復習とか、やろうと思えばいろいろとでてくるわよ。」 「予習復習ね〜」 それもなんだかな〜とカークは顎をポリポリとかいている様子からみても気乗りしてなさそうである。 「あっ、そうだ!そう...

さくらのもり | 2008.03.16 Sun 00:38

サニーサイド .90「峠重忠xiii」

 女は峠から離れ、上体を起こすとハンドバッグに派遣会社の登録証をしまった。既に峠には、女の動きの一つひとつに意味を見出す事が出来ていた、多くの女は、殆どの男がそうである様に冷静さを失い感情の迸るがままに突き動かされることはないと峠は知っていた。最後の最後に、女はその身に男が想像しがたいほどの冷酷を宿すのだ。ハンドバッグにしまうその動作は、重大な事を切り出そうとするシグナルであると、峠は察した。朝には不似合いな、豪勢な食事の香りが小さな部屋中に充満している。グリル肉の匂い、スープの匂い、米の炊...

L'ANGE | 2008.03.15 Sat 09:38

サニーサイド .87「峠重忠x」

「小さくない?」  女が唇を放した隙に峠は息継ぎしながら尋ねた。女は首を振り、左手を誇らしげにかざす。北向きの窓越しに射し込む白茶けた朝の陽に、女の指に流れる血液が透けて見えた。銀座の宝石屋であれこれと物色していた時から想像していた通りだが、女ははしゃいでいる。たかだか一万円かそこらの銀の指輪。喜ぶ女の様子を見たかったのか? 白けてしまう。こんなものか。相変わらず峠には家の事が気に掛かっていた。折角のクリスマス・イヴを女に呉れてやったのだ。早く帰して欲しい。  だがあの、女が朝っぱら張り切っ...

L'ANGE | 2008.03.11 Tue 23:01

第三十一幕 「お嬢様」

二丁目をなんちゃってホストと地味なOLが歩く姿は 違和感があり、路上のカップルたちの目を惹いた。 「ここです」 地下室に下りるの一瞬ためらったが 酔いの勢いもあり、一気に駆け下りた。 「いらっしゃいませー」 店内はさきほどのどんよりとした空気から BGMガンガンのイケイケ空気に変わっていた。 さすがはホスト、やる時はやるのだ。 初めての体験で戸惑うOL以上に 戸惑っていたのは銀二だった。 「隣に座って」 翔がさりげなく銀二に促し、OLのコート預かる。 さすがはヘルプのプロだぜ翔さん! 初...

映画青年銀二ノ二丁目劇場 | 2008.03.09 Sun 04:21

サニーサイド .83「峠重忠vi」

 峠は位置を詰めずに、遠くから話し掛ける様にして答えた。 「帰らないよ。お前がこんな状態で、帰れないよ」 「大丈夫だから」 「絶対に帰らない」  面倒臭くなったのか、女は膝を抱えたままでごろりと畳の上に横たわった。瞳はセルロイド人形みたく開きっ放しだったが、間もなく眠りに落ちるであろう事がその表情からは容易に想像出来た。女は憔悴し、目には力が無いのだった。峠は座ったままで動かず、女の一部始終を見守っていた。子供の様子を見守ってやるのと変わらないと思った。娘にしてやる様に女にしてやればいい。娘...

L'ANGE | 2008.03.08 Sat 16:06

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