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女は峠から離れ、上体を起こすとハンドバッグに派遣会社の登録証をしまった。既に峠には、女の動きの一つひとつに意味を見出す事が出来ていた、多くの女は、殆どの男がそうである様に冷静さを失い感情の迸るがままに突き動かされることはないと峠は知っていた。最後の最後に、女はその身に男が想像しがたいほどの冷酷を宿すのだ。ハンドバッグにしまうその動作は、重大な事を切り出そうとするシグナルであると、峠は察した。朝には不似合いな、豪勢な食事の香りが小さな部屋中に充満している。グリル肉の匂い、スープの匂い、米の炊...
L'ANGE | 2008.03.15 Sat 09:38
「小さくない?」 女が唇を放した隙に峠は息継ぎしながら尋ねた。女は首を振り、左手を誇らしげにかざす。北向きの窓越しに射し込む白茶けた朝の陽に、女の指に流れる血液が透けて見えた。銀座の宝石屋であれこれと物色していた時から想像していた通りだが、女ははしゃいでいる。たかだか一万円かそこらの銀の指輪。喜ぶ女の様子を見たかったのか? 白けてしまう。こんなものか。相変わらず峠には家の事が気に掛かっていた。折角のクリスマス・イヴを女に呉れてやったのだ。早く帰して欲しい。 だがあの、女が朝っぱら張り切っ...
L'ANGE | 2008.03.11 Tue 23:01
二丁目をなんちゃってホストと地味なOLが歩く姿は 違和感があり、路上のカップルたちの目を惹いた。 「ここです」 地下室に下りるの一瞬ためらったが 酔いの勢いもあり、一気に駆け下りた。 「いらっしゃいませー」 店内はさきほどのどんよりとした空気から BGMガンガンのイケイケ空気に変わっていた。 さすがはホスト、やる時はやるのだ。 初めての体験で戸惑うOL以上に 戸惑っていたのは銀二だった。 「隣に座って」 翔がさりげなく銀二に促し、OLのコート預かる。 さすがはヘルプのプロだぜ翔さん! 初...
映画青年銀二ノ二丁目劇場 | 2008.03.09 Sun 04:21
峠は位置を詰めずに、遠くから話し掛ける様にして答えた。 「帰らないよ。お前がこんな状態で、帰れないよ」 「大丈夫だから」 「絶対に帰らない」 面倒臭くなったのか、女は膝を抱えたままでごろりと畳の上に横たわった。瞳はセルロイド人形みたく開きっ放しだったが、間もなく眠りに落ちるであろう事がその表情からは容易に想像出来た。女は憔悴し、目には力が無いのだった。峠は座ったままで動かず、女の一部始終を見守っていた。子供の様子を見守ってやるのと変わらないと思った。娘にしてやる様に女にしてやればいい。娘...
L'ANGE | 2008.03.08 Sat 16:06
小雨が降る新宿二丁目 目抜き通りにも人がまばらだ。 湿気が吹き込む地下室のチョッパーズ 5人のホストたちが暇を持て余していた。 「銀二、買出し行ってきて」 近くの24時間営業スーパーに店で出す 飲み物を買いに行かされる銀二。 どうせ暇なんだから、ちょっと寄り道してみるか 銀二の理由なき反抗。 青い傘に小雨がパラパラ叩きつけられ テンポの良いリズムを刻んでいる。 静かな二丁目も風情があってなかなか良い 雨がこの街の薄黒い陰を口を開けた排水溝へと流れる ふと顔を見上げると見覚えのある女が歩い...
映画青年銀二ノ二丁目劇場 | 2008.03.05 Wed 03:32
結局三兄弟の風邪はラモン、キース、ルカの順、つまり風邪をひいた順に下がっていったものの上2人は微熱が出たり出なかったりで、そのまま週末を迎えた。 「おかしい・・・薬飲んで、大人しくしてるはずなのになんできちんと治んないんだろう。」 睡蓮のこの言葉にギクリとしたのは言うまでもなく2人。1人はコーヒーを飲んだラモン、もう1人は熱が高いのにベッドを抜け出して仕事をしようとしたルカだった。 「結構しぶとい菌なんじゃないのかな?」 ラモンはこう言うと、とってつけたような咳をした。 あやしい・・・ラモ...
さくらのもり | 2008.03.01 Sat 01:17
店内に鳴り響くセンスの悪いユーロビート しかし銀二の耳には入ってこない。 異様な静けさと冷たさを感じながら 銀二は目だけを後ろ斜めに動かした。 やっぱり紳士が座っている。 酔いが完全に覚めた。 勇気を出して顔を動かすべきか このまま紳士の霊を無視して酒を飲み続けるべきか いや、ここは確認しておこう 本のネタにもなる。 いざ!! ・・・誰もいない 銀二の左目で捉えていたはずの紳士がそこにいないのだ。 「銀二さん、どうしたの」 マイカさんのセクシーな声にはっとする。 「いま、そこに老紳...
映画青年銀二ノ二丁目劇場 | 2008.02.24 Sun 15:45
女との同棲は刺激的で、何年経とうとも色褪せる事は無いだろうと峠は思った。体も合っていた。妻とは比べ物に鳴らないほど旺盛で、峠がこれまで手を出しあぐねていたような事さえも女は難なく受け容れるのだ。何よりも女には打算が無いのだった。多少の事は覚悟していた峠だが、女はまるで自分の施す事の換算には無頓着な風であった。寧ろ峠の方が女の家に転がり込み、飯まで食わせて貰っているのだ。さすがに気の引ける事もあり、偶にデパートの地下で二人分の食材でも買って帰ると、女は大いに喜んでみせるのだ。最初の頃、この女...
L'ANGE | 2008.02.23 Sat 10:25
仕事なんてしてないで、ゆっくり休め、大人しくベッドにはいってなかったらどうなるかわかってるのか、と言われた。この俺が? ルカは睡蓮に言われるがままにベッドに入って大人しく寝ている自分に驚いていた。 だが、仕事はしなければならない。正確には、依頼のあった資料そのほかを客先に届けるだけ。ただそれだけ。しかし、今日中に。 「こんな・・・とこで・・・のんきに・・・寝ている・・・場合じゃ・・・」 「また抜け出そうとして!」 鬼の首を取ったといわんばかりの剣幕で睡蓮が部屋に入ってきた。 「仕事の手伝いなら...
さくらのもり | 2008.02.22 Fri 23:06
取り立てて自分の家庭が不幸せだとも思ってはいない。女と知り合ったのはちょうど桜見の頃で、彼のよく使う協力会社からの接待で、たまたま女の店に当たったからだ。だが接待する側は峠の好みを知っていたので端から女を割り当てるつもりだったのだ。峠は初対面だった女と早速、花見に行く約束をした。デートなど、何年ぶりだろうか。特に何を期待していた訳でもないが、花見の実現する日まではプラトニックな物思いに遊ぶ事を楽しんだ。同じ空の下に自分という男を特別に知っていてくれる人間が生きているのだという気がして、仕事...
L'ANGE | 2008.02.22 Fri 20:36
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