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エピローグ(3・完結)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説 エヴィンは空に向かって微笑みながら、言った。     「元気でな」 「ああ。お前も、シェーダさんを幸せにしろよ」 「当たり前だろ」 「言ったな。あと、もっと背丈をのばせよ。早くシェーダさんより高くなってあげろ。それで17ってマズイだろ、色々……。……お前、可愛いぞ……?」 「うるさいな。思い通りに行けば苦労はせんよ」    風が吹く。  白い鳥が飛んでいく。     「いつかは……ないな」 「ああ、さよならだ。エヴィン」      レイ...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.21 Fri 11:20

エピローグ(2)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説    ※※※          草原の上の小高い丘をのぼると、空はずいぶん近くなる。エヴィンは流れていく雲の海の雄大さにしばし心奪われて立ちつくしていた。    風はだいぶ暖かくなった。北国たるイクセレアにも春がそこかしこに息づき始めている。イクセレアはまだ完全に復興しきってはおらぬものの、元の活気をだいぶ取り戻しつつあった。17歳になった蒼穹の騎士エヴィンはイクセレア復興の仕事を後任に引き継ぎ、セント・クランネルスクールの新学期のために首...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.20 Thu 11:07

エピローグ(1)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説    青空に白い鳥が飛んでいく。何日ぶりだかずっと重々しかった曇天が晴れ、その日は爽快な日差しがイクセレアに降り注いでいた。その白い光の中で頭上の青空と全く同じ色をした瞳が優しく街を見渡している。長い金の睫が陽光に真白く透けて輝き、雪よりも白い肌が仄かなばら色に色づいて火照ってい た。今日のイクセレアはとても暖かい。    アシェード鐘の地下にあった北の【神具】の連携回路は聖大使が破壊したらしい。詳しいことは知らない。聞く必要もなかった。彼に任せておけ...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.19 Wed 11:24

5.未来(5)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説     エヴィンの変化が完全に解けていることを確認してから、ティルラドは衰弱しているエヴィンに肩を貸し、二人でゆっくりと階段を降りた。そして外へ通じる鎧戸の前に立つ。エヴィンは自分に投げかれられるであろう怒号を思い、小さく首を振って後ずさった。しかしティルラドは穏やかに促した。    友への信頼が勇気となる。エヴィンは唇をぎりっとかみしめ、ティルラドともに重い足を前に進めた。すると扉はエヴィンの目前で外から鈍い音を立てて開かれた。驚いて身を引きかける...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.18 Tue 10:24

5.未来(4)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説    ※※※            黒獅子ことアグリウス少佐の高い評価として最も一般的に知られているのは、いざという時の冷静沈着さだ。獅子のようにどっしりと構え、珍事にもうろたえることがない。だがその時は今までのそんな評判が覆りそうな焦燥たっぷりの様相で、黒獅子は落ちつきなくわめきちらしていた。     「下がれ! 下がらせるんだ! くそ……っ」      炎熱に閉ざされたアシェードの鐘の周りを若い歩兵と竜騎兵隊が何十もの円陣を組んで...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.17 Mon 11:12

5.未来(3)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説       エヴィンは。        遠のいていた意識が戻ってくると同時に、床に仰向けた自分の横に寄り添うように流れ来るそれを、ただ呆然と見ていた。     「……レイ」      何が起きたのかわからない。  名前を呼ばれて、壁にもたれたレイはなにやら嬉しそうに場違いな笑い声を立てた。       「決めて、たんだ……」      そしてレイは、口から真っ赤な血を吐いた。彼がもたれかかる煉瓦の壁は黒い滝じみてべっとり...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.14 Fri 12:00

5.未来(2)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説    「スィエルが死んだのも、学校のみんなが死んだのも、街が焼けたのも、……みんな、お前のせいなんだな」 「ああ」 「この炎も、お前なんだな」 「ああ」 「赤い悪魔って、……お前だったんだな」 「……ああ」 「辛いな」    最後のレイの言葉の意味がわからず、それについてエヴィンは無言でいた。    本当の自分は誰より弱虫なことをわかっていたから、強がることを覚えた。戦えれば強くなれるような気がした。強くなれば誰かを守れると思っていた。 ...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.13 Thu 11:00

5.未来(1)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説  柔らかな毛布にくるまった幼子が、父の腕に抱かれていた。彼の母は既に亡かった。だがそれを理解するには子供はまだ幼すぎた。父親は抱いた我が子をあやしながら、天へ立ち上るかがり火を見ていた。その光を照り返す真っ白な雪を見ていた。     「おとうさん」    子供が顔を上げる。その頬が焔のぬくもりで薔薇色に火照っている。どうして子供の笑顔とはこんなにも愛らしいのか。何よりもかけがえない、人の命の未来への煌めき。     「毛布、あったかいね」 ...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.12 Wed 10:38

4.覚醒(5)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説   「シェーダ」  エヴィンは、空っぽの心で、名前を呼んだ。 「スィエルはどうしたんだ?」  怒りとも憎しみとも正体のつかめない激しい感情に苛まれた瞳をして、シェーダは毅然と言い放った。 「聖大使閣下の命令です。あなたが赤い悪魔と呼ばれるものであること。知っている者すべて、消すようにと。私はそう仰せつかり、今ここにあります」「……シェーダ」「私の落ち度です。あなたがこの鐘に近づいてはいけないこと、閣下からの入電で当初から知っていたのに。今のあなたは屋敷から動け...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.11 Tue 10:29

4.覚醒(4)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説   「エ……ヴィン……なの?」  涼やかなさえずりが聞こえた。 エヴィンは静かに笑うのをやめた。  階段の壁に寄り添うように、一人の少女が立っていた。スィエルだった。自分を心配してきたのだろう。熱があるのにこっそりベッドを抜け出して来たりのだから、心配するのは当たり前だな。早く帰らねばと、そういえば思っていたところだったっけ。  エヴィンは微笑んだ。にっこりと。イクセレアに帰ってから浮かべた中でおそらく一番明るくなんのわだかまりもない、気持ちのいい笑顔だった。だ...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.10 Mon 11:42

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