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2.再会(5)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説  「ふん。たしかに俺が迂闊でしたけどね。爆発、四散したトゥルーノースの連携回路がまだ残っていたとしたって何ら不思議じゃない……そう、なんだよね……」「だよ、ねえ……。なのにどうして気付かなかったんだか。自慢の我が弟は、稀代の切れ者だと思っていたのに」「……まさか、アシェードの鐘がそうだなんて、思うか!?」  ティラは執務机に広げられた古い図面を両手で叩き、声を荒げた。そんな自分を冷徹に客観視しながららしくないと思いこそすれ、事の重大さを考えるにどうしても頭に血がのぼる...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.26 Mon 11:55

2.再会(4)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「久しぶり」  エヴィンはそう手を差し出すが、スィエルはその手を握らなかった。代わりにほぼ同じ背丈のエヴィンの首にしっかりと両腕でしがみついて、彼の首筋に顔を埋めた。記憶の中よりずっと女らしくなったスィエルの肢体が密着したことでエヴィンは大いに焦ったが、それよりもスィエルの体が小刻みに震えているのに気づいて動転しかける。彼女は泣いていたのだ。 「会いたかったよ! 会いたかったよ……! 街があんな事になって、わたし、毎日怖くて! 何度も首都に行こうとしたの……エヴィンに…...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.22 Thu 09:52

2.再会(3)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説「首都に越したらみるみる元気になった……というか、なりすぎたというか。イクセレアの気候が合わなかったんだか、なんなんだか。寒いの駄目なのかもな、俺」「それはあるかもな。でもちょっと……やっぱり小さいよな、体。十七の誕生日、もうすぐじゃなかったっけ? 生誕祭生まれだもんな」「ああ。数日の後(のち)に晴れてまたひとつ歳を取れるなぁ。……背丈のことは言うなよ」「だって。お前がちっさい原因、昔体が弱かったことと関係してんのかなぁって。……でもアレはウケたかな。ほらアルスが、蒼穹の...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.21 Wed 09:28

2.再会(2)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説  雪はやまない。にぎやかなアルスがいなくなると途端一行の間に沈黙がおり、しんしんと雪が降る音だけがやけに耳につく。自ら話を切り出すのが苦手なエヴィンはずっと黙りこくっていたし、シェーダは彼らに続く小隊の後方にいてしんがりを務めているから傍にはいない。だがそこで沈黙に耐えきれなくなったレイが口を開いた。 「なあ。どうして、イクセレアへの救助はこうまで遅れたのかな。詳しい説明が聞きたいんだけど」  エヴィンは頷いた。黙りこんでいるのも実はしんどかったので、レイのこの...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.20 Tue 10:45

2.再会(1)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説   レイはいつも窓から入ってきた。  今日の授業はこんなだった。休み時間は廊下に立たされてばかりの悪ガキがいたずらをするものだから、箒でそいつを追い払ってやった。それを先生に見られて今日は宿題が倍なんだ……レイの話は尽きることがなかった。ごくごく当たり前の日常の話題でも学校に通っていなかったエヴィンにはとても新鮮で、いつも彼が窓辺に現れるのを楽しみに待っていたものだった。 「懐かしいな、本当に」  エヴィンは握ったレイの手をなかなか離すことが出来なかった。レイ...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.19 Mon 10:21

1.故郷(5)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説   「な、なんだこのガキ……」「く、来るな……!」  男たちの目にはエヴィンの姿とその手にしたサーベルの輝きが一体となって光が迫るようにも見えたろう。そしてその背後には大いなる蒼穹が羽ばたく。雪の中わずかな陽光を集めた光の束を手にするように、エヴィンはその剣をふるって怒号とつぶてのただ中声高に名乗りを上げた。 「我の名は、エヴィン=アルロ=リスバーンだ!!!!」「なっ……!?」  時が止まるとはこういうことを言うのだろうか。迫りくる白き影につぶてを投げる手が、柔らかい金...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.16 Fri 10:04

1.故郷(4)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「南部はかなり燃えたって話だけれど、ちゃんと街は残っているようだわね。石造りの街並みでよかったと言うべきかしら。それが原因で北部は根こそぎ崩れてしまっているけれど、雪を防ぐ屋根が残っているだけ南部はマシだわね」「そうだな。雪が本格的に降りだす前に計画が動き出して、救われるのは何よりここの生き残りたちだ。ああそういえば。エヴィン、イクセレアにはお前の生まれたうちがあるんだろ? 昔住んでた家、無事なんだろ? ……おい、聞いてんのか」「いや、……考え事をしてた」  その...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.15 Thu 11:56

1.故郷(3)

1.JUGEMテーマ:ファンタジー小説  少年は「早くやれ」とごついてくる学友を振り返ってひと睨みしてから、一度だけ鐘をそっと鳴らしてみた。つつましく静かに鳴った音色はとても美しく深いもので、それは寒空にゆるりとはばたくように消えていった。  だがそこで喜ぶどころか、エヴィンはついにうつむいてしまった。彼を元気づけるための一連の行動であったのに、アルスは困惑した。だがエヴィンの小さく細い肩をぽんぽんと叩いてみたところで掌に伝わったその微かな震えからエヴィンの真意を感じ取り、アルスは微苦笑する。そして...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.14 Wed 12:25

1.故郷(2)

1.JUGEMテーマ:ファンタジー小説  「確かに地方領主程度の存在では国民のために何もなし得ないのが現実だろう。現に親父では国を変えられなかったし、イクセレアも救えなかった。聖大使の権力なくばこの北方都市を見捨てた冷酷な新女王にイクセレアの人々のため国庫を開かせることも出来ず、救難活動や復興を担当する軍を動かすことすら不可能だった。  国軍統括権は聖大使にあり。 国軍聖大使は実質、国の最高権力者だ。  聖大使一族が有能である限り、無能な王族の独裁軍事政権からこの国ならびに中央大陸全土を守るには...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.13 Tue 10:59

1.プロローグ〜故郷(1)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説  遠くを見ていた。  そこはひたすらに遠かった。 決して届きはしないことも理解できた。  それでも瞳をそらせなかった。  憧れだとうそぶいては現実(いま)から逃げ出したかった憧憬の空。 そんな自らへの嘲りがいつしか青き空をも暗く覆い尽くしていた。  地上には炎(ほむら)が荒れ狂う。雑多なる私欲の念が大挙してうずまくそこに静謐はなく、全てが散った後(のち)の静寂だけが静けさといえるただひとつのもの。そんな世に生きる人々の慟哭を覆い尽くすように雪はただ白く降り続けて...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.12 Mon 10:28

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