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JUGEMテーマ:ファンタジー小説 でも……自分が生きていたら、またあれが繰り返される。だから生きていちゃいけない。自分は生きてちゃいけないんだ。 でも、死ねない。……出来ないよ。生きている限り、死ぬことは出来ない。どうしても出来なかった。だって……、……お母さん。顔も知らないあなたがいるから。だから、出来ない。どうしても、出来ない……。でも……。 死んでしまえば生きなくて済む。 だから、どうか。 誰か、お願いだから。 俺を殺して……。 無音の死の暗黒に閉ざされた、永劫の奈落。嘆きの...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.07 Fri 11:44
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「将校さん」 と……、突然そんな声が暗いきざはしの中にくぐもって反響した。火のような目が自分を見ている。エヴィンは体を硬直させた。どうして気づかなかった。物思いに耽っていたからか、それとも高い熱のせいか。壁の隅の暗がりにぼろを纏った男がいる。はじめからずっと居たのか。気づかぬうちに登ってきたのか。 エヴィンは硬直を解くことが出来なかった。 男の右手は、鋭いナイフを握っていた。 「あんた……あの時の将校さんだろ……?」 禿げ衰えた、亡者のような男だった。...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.06 Thu 12:55
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 遠い場所へ行きたいと願っていた。それがどこのことなのかはついぞ分からず、いつしか届かぬ願いは苦悩の源になっていった。決してたどり着けない場所に焦がれ、空ばかり眺める毎日。でもそれはきっと、現在(いま)をこうして生きることから逃げ出したかっただけなのかもしれない。 生きていたくないわけではない。今までの人生が満ち足りていなかったわけではない。幸福な瞬間は数限りなくあった。友のまなざしと、思い出はいつも温かかった。 けれど生涯消えない記憶が日々心を苛んだ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.05 Wed 11:52
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 アグリウス少佐はその若い背中を見送りながら、また長いこと寒空の下に堂々と立ち続けていた。彼の傍らには、わずか黒ずんだ焼け跡を残す赤煉瓦造りの壁がある。重厚な作りだ。この塔だから、あの地震をも耐え抜いたのだ。 イクセレアの象徴、アシェードの鐘。 黒獅子はそっと内部のからくり部屋に入る鎧戸を開いた。中では薄明かりの中ごとごととアシェードの鐘の巨大時計の歯車が回る規則的な音が響く。時を織る音だ。うたがれた小さな窓から射し込む逆光に猫の瞳がぎらりと光った。シェーダだ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.03 Mon 11:46
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 ※※※ 「本部より入電! 閣下は明朝お着きになるそうです」「わかった。皆は作業を続けろ! 私は少々場を空ける」「はっ!」 ウィルシード国軍少佐官、セイント・ウォリアーズ所属ヴィクトール・アグリウス。「黒獅子」の二つ名で呼ばれる彼は、国軍聖大使ティラの忠実な腹心の一人だった。筋骨隆々とした見事な体躯の、内面は朴訥とした実直な男だ。身体に不調をきたしたエヴィンことリスバーン准佐のイクセレアの住民に対するそのカリスマ性が無くとも、わ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.30 Fri 11:57
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「わたしの使った香辛料が、いつもと違うからかな。エヴィン、こういうのだめだった?」「違うよ、スィエル。とってもおいしいよ」 それでも上手くは笑えなかった。友と再会しても、懐かしい家に戻っても、結局心から笑えていない。自然な笑顔。そんなありふれた当たり前のものをいつどこでなくしてしてきてしまったんだろう。皆に心配をかけないようにと、いつも何かをごまかして笑っている自分。いつでもそんな風だった気がする。それは一体いつからはじまって、そして一体いつになったら終...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.29 Thu 09:52
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「何すんだよはこっちの台詞だ。後ろから人を羽交い締めにしようとしたりして」「からかってやろうと思っただけだよ! ……くそー、ちびのクセに強くなっちゃってまあ……なんでそのちっさい体で、おれを軽々投げ飛ばせるんだよ?」「うるさいな。そういう技があるんだよ、相手の勢いを利用して……ま、いい。とにかく、俺のことをちび言うのはやめろよ」「ちびはちびだろ! 顔も女みたくて、昔と一緒……」 どたぁん!!!! 再びレイが投げ飛ばされた音が屋敷中に響いた。音の重さからして、今度はか...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.28 Wed 10:22
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 エヴィンはその晩は幼少の時期を過ごした生家で休むことになった。現在はイクセレアの警備隊詰所であるそこで普段から寝起きしているレイやスィエルはもちろん、シェーダやアルス、そしてリエも一緒だった。これは同じ先遣隊を率いる上官でもある、黒獅子アグリウス少佐のはからいであり、実質逆らうことを許されない「命令」でもあった。しばし任務を忘れ、懐かしい面々と語り明かす時間がエヴィンには必要ではないのか。黒獅子はそのいかめしい顔を緩めてそんなことを語っていたが、当然エヴ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.27 Tue 09:59
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「ふん。たしかに俺が迂闊でしたけどね。爆発、四散したトゥルーノースの連携回路がまだ残っていたとしたって何ら不思議じゃない……そう、なんだよね……」「だよ、ねえ……。なのにどうして気付かなかったんだか。自慢の我が弟は、稀代の切れ者だと思っていたのに」「……まさか、アシェードの鐘がそうだなんて、思うか!?」 ティラは執務机に広げられた古い図面を両手で叩き、声を荒げた。そんな自分を冷徹に客観視しながららしくないと思いこそすれ、事の重大さを考えるにどうしても頭に血がのぼる...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.26 Mon 11:55
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「久しぶり」 エヴィンはそう手を差し出すが、スィエルはその手を握らなかった。代わりにほぼ同じ背丈のエヴィンの首にしっかりと両腕でしがみついて、彼の首筋に顔を埋めた。記憶の中よりずっと女らしくなったスィエルの肢体が密着したことでエヴィンは大いに焦ったが、それよりもスィエルの体が小刻みに震えているのに気づいて動転しかける。彼女は泣いていたのだ。 「会いたかったよ! 会いたかったよ……! 街があんな事になって、わたし、毎日怖くて! 何度も首都に行こうとしたの……エヴィンに…...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.22 Thu 09:52
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