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JUGEMテーマ:ファンタジー小説 エヴィンは。 遠のいていた意識が戻ってくると同時に、床に仰向けた自分の横に寄り添うように流れ来るそれを、ただ呆然と見ていた。 「……レイ」 何が起きたのかわからない。 名前を呼ばれて、壁にもたれたレイはなにやら嬉しそうに場違いな笑い声を立てた。 「決めて、たんだ……」 そしてレイは、口から真っ赤な血を吐いた。彼がもたれかかる煉瓦の壁は黒い滝じみてべっとり...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.14 Fri 12:00
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「スィエルが死んだのも、学校のみんなが死んだのも、街が焼けたのも、……みんな、お前のせいなんだな」 「ああ」 「この炎も、お前なんだな」 「ああ」 「赤い悪魔って、……お前だったんだな」 「……ああ」 「辛いな」 最後のレイの言葉の意味がわからず、それについてエヴィンは無言でいた。 本当の自分は誰より弱虫なことをわかっていたから、強がることを覚えた。戦えれば強くなれるような気がした。強くなれば誰かを守れると思っていた。 ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.13 Thu 11:00
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 柔らかな毛布にくるまった幼子が、父の腕に抱かれていた。彼の母は既に亡かった。だがそれを理解するには子供はまだ幼すぎた。父親は抱いた我が子をあやしながら、天へ立ち上るかがり火を見ていた。その光を照り返す真っ白な雪を見ていた。 「おとうさん」 子供が顔を上げる。その頬が焔のぬくもりで薔薇色に火照っている。どうして子供の笑顔とはこんなにも愛らしいのか。何よりもかけがえない、人の命の未来への煌めき。 「毛布、あったかいね」 ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.12 Wed 10:38
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「シェーダ」 エヴィンは、空っぽの心で、名前を呼んだ。 「スィエルはどうしたんだ?」 怒りとも憎しみとも正体のつかめない激しい感情に苛まれた瞳をして、シェーダは毅然と言い放った。 「聖大使閣下の命令です。あなたが赤い悪魔と呼ばれるものであること。知っている者すべて、消すようにと。私はそう仰せつかり、今ここにあります」「……シェーダ」「私の落ち度です。あなたがこの鐘に近づいてはいけないこと、閣下からの入電で当初から知っていたのに。今のあなたは屋敷から動け...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.11 Tue 10:29
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「エ……ヴィン……なの?」 涼やかなさえずりが聞こえた。 エヴィンは静かに笑うのをやめた。 階段の壁に寄り添うように、一人の少女が立っていた。スィエルだった。自分を心配してきたのだろう。熱があるのにこっそりベッドを抜け出して来たりのだから、心配するのは当たり前だな。早く帰らねばと、そういえば思っていたところだったっけ。 エヴィンは微笑んだ。にっこりと。イクセレアに帰ってから浮かべた中でおそらく一番明るくなんのわだかまりもない、気持ちのいい笑顔だった。だ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.10 Mon 11:42
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 でも……自分が生きていたら、またあれが繰り返される。だから生きていちゃいけない。自分は生きてちゃいけないんだ。 でも、死ねない。……出来ないよ。生きている限り、死ぬことは出来ない。どうしても出来なかった。だって……、……お母さん。顔も知らないあなたがいるから。だから、出来ない。どうしても、出来ない……。でも……。 死んでしまえば生きなくて済む。 だから、どうか。 誰か、お願いだから。 俺を殺して……。 無音の死の暗黒に閉ざされた、永劫の奈落。嘆きの...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.07 Fri 11:44
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「将校さん」 と……、突然そんな声が暗いきざはしの中にくぐもって反響した。火のような目が自分を見ている。エヴィンは体を硬直させた。どうして気づかなかった。物思いに耽っていたからか、それとも高い熱のせいか。壁の隅の暗がりにぼろを纏った男がいる。はじめからずっと居たのか。気づかぬうちに登ってきたのか。 エヴィンは硬直を解くことが出来なかった。 男の右手は、鋭いナイフを握っていた。 「あんた……あの時の将校さんだろ……?」 禿げ衰えた、亡者のような男だった。...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.06 Thu 12:55
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 遠い場所へ行きたいと願っていた。それがどこのことなのかはついぞ分からず、いつしか届かぬ願いは苦悩の源になっていった。決してたどり着けない場所に焦がれ、空ばかり眺める毎日。でもそれはきっと、現在(いま)をこうして生きることから逃げ出したかっただけなのかもしれない。 生きていたくないわけではない。今までの人生が満ち足りていなかったわけではない。幸福な瞬間は数限りなくあった。友のまなざしと、思い出はいつも温かかった。 けれど生涯消えない記憶が日々心を苛んだ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.05 Wed 11:52
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 アグリウス少佐はその若い背中を見送りながら、また長いこと寒空の下に堂々と立ち続けていた。彼の傍らには、わずか黒ずんだ焼け跡を残す赤煉瓦造りの壁がある。重厚な作りだ。この塔だから、あの地震をも耐え抜いたのだ。 イクセレアの象徴、アシェードの鐘。 黒獅子はそっと内部のからくり部屋に入る鎧戸を開いた。中では薄明かりの中ごとごととアシェードの鐘の巨大時計の歯車が回る規則的な音が響く。時を織る音だ。うたがれた小さな窓から射し込む逆光に猫の瞳がぎらりと光った。シェーダだ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.12.03 Mon 11:46
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 ※※※ 「本部より入電! 閣下は明朝お着きになるそうです」「わかった。皆は作業を続けろ! 私は少々場を空ける」「はっ!」 ウィルシード国軍少佐官、セイント・ウォリアーズ所属ヴィクトール・アグリウス。「黒獅子」の二つ名で呼ばれる彼は、国軍聖大使ティラの忠実な腹心の一人だった。筋骨隆々とした見事な体躯の、内面は朴訥とした実直な男だ。身体に不調をきたしたエヴィンことリスバーン准佐のイクセレアの住民に対するそのカリスマ性が無くとも、わ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.11.30 Fri 11:57
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