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夏休み 24

 まだ生まれていないものを、外界から守っているかのような白い膜が、夏の宵の生ぬるさに揺らいでいる。風に撫でられると、歩いている僕らと鉄筋、木、石ころ、雲、全部が均されて同じ温度になっていく。はしゃいでいた僕は熱を奪われて、夜の圧力を思い出す。 「その明かりだけじゃ、心許無いな。」 「怖いのか?」  「オカルトが怖いわけじゃないよ。真っ暗になるのが苦手なんだ。」 「灯りをつけて、眠るのか?」 「暗いところで発光する星を天井に貼り付けてる。自前のミルキーウェルだよ。」 「じゃ、オレもはりつけ...

セイメイ (仮) | 2009.11.23 Mon 02:16

整体師 諸星玄丈(再)7

JUGEMテーマ:連載第一章 玄丈先生との出会い2 編集長との面接(1) 四日後の朝、ぼくは久しぶりに濃紺のスーツに赤いネクタイできめ、勇んで出かけていった。 前田社長の「明日の企業社」は、渋谷から青山に向かう大通りの裏手にあるはずだった。だが、お目当てのビルはなかなか見つからなかった。時間がかかったのは、ぼくが方向音痴だからではない。立派なビルを想像していたのに、予想に反してひどく老朽化した小さなビルだったからである。 ようやく見つけたのでほっとし、さて四階の事務所までエレベーターで行こうとしたと...

ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.11.22 Sun 09:49

夏休み 23

 たそがれ時のざわつく視界に、懐中電灯を向ける。スポットが丸い明るみに白い膜を映す。組み立てられた鉄柱を覆う、薄い平織りのシートだ。つくりかけの建造物は、照らされていなくても、全体が淡くぼんやり灯っているように、感じる。リゲルはライトを左右にずらして透ける骨組みを丹念に観察する。 「これ、ドーム型じゃないか。なんだ、目新しくもない。」 「大きいね。これが温室になるのか。」 「一周してみよう、全体が見たい。」 

セイメイ (仮) | 2009.11.21 Sat 21:27

整体師 諸星玄丈(再)6

JUGEMテーマ:連載第一章 玄丈先生との出会い1 ふぐさしの誘惑(6)「ところでさ」 社長は思い出したように、女将の顔を見て言った。「やっぱり、ひれ酒がほしいな」「はい、はい、わかっておりますよ。じきにまいりますから」 女将は唇に笑いを浮かべてさがった。 しばらくすると女将が陶器の皿でぴったり蓋をした湯呑を運んできた。「おお、きたか、きたか」 社長は眼を細めながら説明を始めた。「ひれ酒をつくるにはだな、まずふぐの胸ビレを強火で充分に焼く必要がある。特に、ひれの付け根をよく焼かないと、臭くておいし...

ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.11.21 Sat 10:22

アースルーリンドの騎士外伝。『幼い頃』冒険の旅 81

登場人物紹介 イラスト入り登場人物紹介(まだ全部じゃありませんが…)  先頭のアイリスが馬を進め始め、皆が続いて真っ暗な洞窟へと入って行く。 横も縦もかなり広い洞窟で、黒々とした岩肌が周囲を覆い尽くす。 皆が続々と馬で乗り入れると、がらんとした空洞内に、駒音が響き渡る。 奥に進むにつれて暗闇が広がり、アイリスは松明に火打ち石で火を付け、それを掲げ、再び進み始める。 明かりは舐めるように、洞窟の天井や横壁をほの赤く照らし出し、アイリスの馬が進む毎、揺らめいて照らす場所を変えた。 洞窟内は広く、横に...

アースルーリンドの騎士 | 2009.11.21 Sat 10:03

整体師 諸星玄丈(再)5

JUGEMテーマ:連載第一章 玄丈先生との出会い1 ふぐさしの誘惑(5) そんな社長の昔話を聞いているうちに、女将が料理を運んできた。それを見て、ぼくは小躍りしそうになった。「下関直送でございます」 女将が社長に向かって言った。なぜか女将が社長に目配せしたようにぼくには思えたが、このときはそれ以上気にはしなかった。「おお、そうかい」 社長は女将に向かってうなずいてから、ぼくの方に顔を戻してきいた。「げっしん君。君はふぐは好きかね?」「はい、大好物です」「よし、今日は好きなだけやってくれ」「ありがと...

ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.11.20 Fri 09:13

夏休み 22

  菱形の編み目に手足をかける。しっかり掴ませてくれないフェンスがガシャガシャ揺れる。虫郎がしきりに辺りを見回して、ひどく警戒するので、いきおいスパイごっこを始める。ここは、敵国の直中。戦線で錯綜する情報の真偽を探るべく暗中飛躍する。スパイ小説の設定をそのまま借りて、僕らは空想世界で活躍する。 「現実は子どものお遊びなんだ。それを思うと空しいよ。」 「もし、現実にスパイ活動しろなんて言われたら、僕は断るよ。戦争に参加したくないし。僕ら子どもで、遊びだから楽しむんじゃないか、虫郎。」 「ネ...

セイメイ (仮) | 2009.11.19 Thu 22:51

整体師 諸星玄丈(再)4

JUGEMテーマ:連載「月田です。月田槙太郎です」「そうか、月田君か」「友人は、ぼくのことを、げっしんと呼んでいます。姓の月と名の槙をとって」「それは語呂がいいね。あだ名のある人は、みんなから好かれている人が多いからなあ。そういう人にこそぼくの会社に来てほしいんだが……」 社長はしみじみとした顔で言った。 社長はふぐの皮刺しをいくつか箸につまんで口に放り込んでから、ビールをぐいと呑んだ。そして、さあいよいよ本題に入るぞというつもりなのか、急に姿勢を正した。「ぼくは三十代の初め――ちょうど君くらいのとき...

ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.11.19 Thu 09:06

夏休み 21

  地平線に近づいた太陽が、雲をドラマティックに浮かび上がらせている。音もなく移ろう気象に、心動かされる。 「あのフェンス、通行止めの看板がさがってる。」 「その先は目指す現場だな。」 「まだ、作業員のひとがいるんじゃないか?」 「大丈夫。明かりも見えないし、乗り越えてしまおう。」

セイメイ (仮) | 2009.11.18 Wed 19:07

整体師 諸星玄丈(再)3

JUGEMテーマ:連載 第一章 玄丈先生との出会い1 ふぐさしの誘惑(3) 道玄坂を上がりきるちょっと手前に、小粋な日本料理の店があった。前田はぼくをそこに連れていった。 一歩その店に足を踏み入れると、そこには数寄屋造り風の空間が広がっていて、ところどころに置かれている石が静かな趣を深めていた。「あら、マーさん、お久しぶりね。今日は会社の若い人と?」 中年の女将が前田に声をかけてきた。「うん、まあな」 前田は曖昧な顔で答えた。 女将はぼくたちを和室の個室に案内した。部屋の真ん中には掘りごたつの席...

ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.11.18 Wed 08:35

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