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夏休み 20

 ひとりでなんでもできるくせに。僕はリゲルを買被り過ぎているのだろうけれど、ひとり旅で国境を越えたなんて話を聞かされると、どうにも僕の幼さが遣り切れなくなる。僕は、大人の言う、子どもだからしてはいけないことを、理由無く守ってきた。それが万事問題なく生きられる方法だと、信じていたのだろう。ひとりの勇敢な友達に会うまで、僕は、僕がつまらない人間だとは、思いもよらなかった。普通の子どもなのだ、と思っていた。 「開けた場所に出たぞ。」 「空がまだ明るい。もう、陽は沈んだのだと思ってた。」 「オレ達、...

セイメイ (仮) | 2009.11.17 Tue 18:27

整体師 諸星玄丈(再)2

JUGEMテーマ:連載第一章 玄丈先生との出会い1 ふぐさしの誘惑(2) 男は胸ポケットから名刺を取り出してぼくに差し出した。名刺には「明日の企業社」という社名が印刷されており、その下に代表取締役の肩書きと、前田備中《びっちゅう》という名前があった。 前田と名乗る男は、さらに手にしていた三冊の雑誌をぼくに押しつけるように手渡して言った。「一緒に仕事をしてくれる人を探しているんですよ」 妙に愛想のよい声で、商人のようにもみ手をしている。 だが、聞いたこともない会社の社長と聞いて、ぼくの不安がぬぐわれ...

ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.11.17 Tue 07:35

アースルーリンドの騎士外伝。『幼い頃』冒険の旅 76

登場人物紹介 イラスト入り登場人物紹介(まだ全部じゃありませんが…)  ローフィスは立って全員が、各々(おのおの)自分の馬に革袋を乗せるのを、見つめた。 ゼイブンが、ファントレイユを前に乗せ、馬上に跨って姿を見せて頷く。 レイファスを、両脇に手を入れ馬の鞍の上に降ろし、後ろに飛び乗り、オーガスタスを見つめると、オーガスタスは手綱を繰り、一声低い声で、叫んだ。 「行くぞ!」 ローフィスとゼイブンは先を蹴立てて走り、オーガスタスの後ろから、ディンダーデンがギュンターに頷きながら、二頭は一気に駆け出す。...

アースルーリンドの騎士 | 2009.11.16 Mon 12:31

夏休み 19

  静かに立っている木は、何気なく齢を重ねている。僕は貧相だ。木々の世界で気後れする。先を行く二人は、小気味よく歩を進めて、面白い経験を感受している。見れば、苔の模様や落ちた実にも物語るものがあり、体感すれば、此処にいることに何らの違和感もない。 「そろそろ、真っ暗けになるんじゃないか?」 「懐中電灯がある。」 「用意いいな。」 「始めから夜の森に分け入るつもりだったの?」 「ひとりだったら、怖じ気付いたかもな。」

セイメイ (仮) | 2009.11.16 Mon 12:30

整体師 諸星玄丈(再)1

JUGEMテーマ:連載 JUGEMテーマ:連載第一章 玄丈先生との出会い1 ふぐさしの誘惑(1) ぼくが整体師の諸星玄丈《もろぼしげんじょう》先生と初めて出会ったのは、一九九七年三月の末だった。 それより一ヶ月半ほど前の二月中ごろ、ぼくは仕事を探すために必死で街を歩きまわっていた。だが、気に入った仕事を見つけるのは容易ではなかった。この年は証券会社や銀行が相次ぎ破綻するというたいへんな年だったのである。 仕事もなく、話し相手もいないぼくは、人恋しくなって、学生時代によく出没した渋谷に出かけてみた。し...

ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.11.16 Mon 09:10

夏休み 18

  言って、リゲルは、はにかんだ面を逸らす。弱った時の顔だな、と思う。僕から見たら、気のいいやつあるリゲルは、実のところなかなか不可解な情緒をしている。僕は最近になって、ようやく人物の背景について、思いを馳せるようになった。それでも確かに思い至ることなんてない。考えるまでも無く、僕らそれぞれに、大きな隔たりがあるのかもしれない。芝の青さも夕暮れていく、つかの間、何の謂れもなく、優しい気持ちになって、広場を見渡す。小さな世界に生きる僕は、此処にいる人々の幸せが何処にあるのか知らない。だから...

セイメイ (仮) | 2009.11.14 Sat 18:56

夏休み 17

  口にはまったビー玉を押し込む。しばらくそのまま泡立つ勢いを殺す。瓶のくびれで炭酸にまみれたビー玉を見やる。平凡な碧色だ。虫郎は、吹き出たラムネでべたべたした手を不愉快がっている。リゲルは緑の栄える山並みを見ながら、喉を動かしている。日が微かに色づいて、暮れゆく時を知らせる。 「オレ、ひとりで、建設現場を見に行くよ。」 「暗くなるぞ。」 「あぁ、でも、明日も明後日も休みだし、遅くなっても構わない。」 「僕も行くよ。」 「ふたりとも、門限があるんだろ?」 「そりゃあ、けど、」 「門限なん...

セイメイ (仮) | 2009.11.13 Fri 22:35

夏休み 16

  リゲルは、堂々と変人をして、生きた人物に惹かれるらしい。日常のこまごましたことで、変人は困る。そうして修正されていく個性なるものを、包み隠さず磨き上げる勇気を、僕は持たない。一定のリズムで鳩が鳴く。素直なキジ鳩の声に、どうして、と思う。どうしてそんなに自然なんだ? 「喉、乾いたな。」 「売店で、ラムネ売ってたよ。」 「知ってるか?この前、富士野(ふじの)が飲んだラムネに、マーブルのビー玉が入ってたって。」 「へぇ、珍しいな。普通、薄青か緑だろう?」 「運がいい。」

セイメイ (仮) | 2009.11.13 Fri 00:07

おしらせ

JUGEMテーマ:連載  整体師 諸星玄丈は 完結いたしました。読者のみなさまにはおつきあいをいただき、たいへんありがとうございました。途中からお読みいただいた方や、新たに読んでいただく方のため、来週より第1話から再放送いたします。。しばらくそうやっている間に、第二作を構想していきますので、またよろしくごひいきにお願いします。佐藤直曉

ブログ小説 整体師 諸星玄丈 | 2009.11.12 Thu 07:48

アースルーリンドの騎士外伝。『幼い頃』冒険の旅 71

登場人物紹介 イラスト入り登場人物紹介(まだ全部じゃありませんが…)  テテュスは草の上に尻餅付いて、足先に絡まるびっしょり濡れて重いズボンと、格闘していた。 すっ。と大きな手が伸びると、張り付くズボンを、屈んで足先から引っ張ってくれるアイリスを、見つけた。 濃紺の煌めく瞳を向け、濡れた巻き毛に囲まれた顔にやっぱり優雅で品のいい微笑みを浮かべて、自分もずぶ濡れなのに気にならない様子で。 テテュスは着替えを、ディングレーから手渡しで受け取るアイリスが、ズボンの腰を広げ、迎え入れてくれるのに足...

アースルーリンドの騎士 | 2009.11.11 Wed 13:35

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