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この国で一番偉い我が侭な王様が 自分の双子の姉を差し出せと言った時、 カンは実際のところ内心穏やかではなかった。 姉は自分の持たないものを手にしている。 ただ次女が継ぐ習わしというだけで。 順序が違えば自分のものだったはずだ。 次期族長という場所も、 幼馴染と将来が確約されていることも。 城に献上されるということは あの大きなお城で、極上の物を与えられて 美味しいものをおなかいっぱいに食べるのだ。 併せて呼ばれている幼馴染と一緒に。 穏やかではないどころではない。 そこにある布団も衣...
SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 19:10
「やあ」 皇室専用の部屋の入り口で穏やかな低い声で男は笑った。 淡い緑の美しい柔らかい髪は腰まで編み込まれ、柔和な懐っこい笑顔。 髪と同じ色の緑が宝石のようにきれいだった。 片足は歩けないわけではないが引きずっているのがわかる。 そしてその同じ側の片腕もどこか不自然だった。 どこか話しかけられた側によく似た顔立ちで、ただまとう色彩が違った。 「いらっしゃいませ」 黒い長い髪を腰まで真っ直ぐ伸ばした相手は律義に返した。 顔だけではなくその声もよく似ている。 黒い目が宝石を見る。 ラスカー家...
SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 16:53
ラスカーの笛を知っているか。 その笛の音はあらゆる願いを叶えてくれる。 しかし、それは正当な継承者にしか音が出せない。 そしてその音を悪用してはならない。 ◆◆◆ 「おじいさま!おじいさま!!」 それは男孫の悲痛な叫びだった。 緑の編み込まれた長い髪が空を舞う。 ラスカー=ライアはその場に崩れ落ちた。 青年期というには少し早い。 幼さをもう少しで脱却するかというところの孫は 駆けつけて祖父の身体を起こそうとした。 だがもうそれは祖父を終わっていた。 「父上。そんなにまでこれが大切ですか」...
SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 14:42
その牢獄に入るべきは自分だったのだ 拒絶された己の代わりに 彼女が入らざるを得なかったのだ 父親がいうことも理解はできる 彼女がいうことも理解はできる だが 到底納得はできず なぜ自分の問題が自分ひとりで解決をみないのだろう なぜ傷をひろめあうやり方でしか 解決の糸口が見えないのだろう 自分が生まれてこなければとは思わない それは優しい母親の気持ちに水をさす 自分が苦しめばいいと思ったところで それは彼女が強く否定する ならば父親が悪だろうか それもおそらくは答えにならない この...
SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 14:19
リリッシュは何もないところを見ては笑う子供だった。 誰もいない場所に話しかけては手を伸ばした。 魔法遺伝子の影響かと検査を受けてみても 魔法要塞の弊害かと外に出してみても 何一つわからなかったが、 とにかく彼は彼だけの世界を映していた。 当然、大勢いる兄弟たちは気味悪がったし怖がった。 突然大声をあげたり、泣き出したりするのだから 本人も大変だろうが、周りにも大変なことだった。 声は出せるが言葉は習得しない。 音は聴こえているようだがどうもあらぬ方向ばかりを見る。 目は見えているが、 ...
SolemnAir//3LOVERS | 2020.12.31 Thu 13:59
JUGEMテーマ:自作小説 「…マスター」 ベルガモットが不満げに主人(マスター)であるジャーマンを見る。 先ほどからぶつけられる抗議の視線に頭が痛くなる。 ベルガモットはジャーマン以上に貴族が嫌いだ。 ジャーマンに身を寄せる以前彼女はとある貴族に仕えていた。 そこでかなりひどい扱いを受けていたからだ。 その貴族が仕事の依頼で直々にジャーマンを呼び寄せたのが二人の出会いだ。 この時ジャーマンが「...
魚と紅茶(旧・とかげの日常) | 2020.12.26 Sat 06:50
JUGEMテーマ:自作小説 気がついたとき、少年は翡翠色の巨大樹に向かい合って立っていた。自分がなぜその場所にいるのか、少年は解らなかった。自分の名前も思い出すことが出来なかった。自分という概念さえ、曖昧になっていた。翡翠の巨大樹の一番高い枝に、一匹の魚が実っていた。瑠璃色の魚だった。八枚の大きな鰭が煌めきを零しながら棚引いている。顎の辺りが枝に繋がっていたけれど、気持ち良く泳ぐように身体をくねらせていた。その目が、少年を捉えた。 「ヤア」 瑠璃色の魚が声を発した。少年への...
pale asymmetry | 2020.12.13 Sun 22:10
JUGEMテーマ:自作小説 「いやだわぁ伯爵様ったらぁ、相変わらずお上手ねぇ」 「いやはやお世辞じゃないさ。リサ嬢は昔から変わらず美しいし職業婦人の鑑だよ」 和やかに笑い合う二人とは対照的に 苦虫を噛み潰したような顔をしたジャーマン。 そんな3人を見て春子は呆然としていた。 連れてこられた場所もそうだがそこの主と親しげにしている メリッサとジャーマンに春子は驚きを隠せなかった。 この街は身分や階級の差が存在するがそれによるいざこざはほぼな...
魚と紅茶(旧・とかげの日常) | 2020.12.13 Sun 12:14
JUGEMテーマ:自作小説 それはシカだった。クシュにはそうとしか思えなかった。その身体は翡翠色だった。澄んだ翡翠色で、冷酷な輝きを放っていた。そしてそいつは、首から上、すなわち頭部がなかった。四本の脚と胴体だけだったのだ。それでもクシュにはそいつがシカだとはっきりと解った。森の空気から高貴な成分だけを取り込んで形成されたような雰囲気を、そいつが醸し出していたからかもしれない。 「旅立つのか」 破壊音の声が聞こえる。幼いクシュが黒い人形に戻っている。 「旅立つのですね」 ...
pale asymmetry | 2020.12.12 Sat 21:54
JUGEMテーマ:自作小説 全ての鮮血を石榴石に奪われるのだろうか。そんなことを考えながら、クシュはマメ小僧を手の中に呼び戻す。左右の手に二騎ずつ受け止め握り包む。拳を握った両腕で自身を抱き、そのまま目を閉じる。すぐにやって来るだろう那由他の礫に備えることも出来ずに、ただ立ち尽くす。ああ那由他だな。ふとクシュは思う。あの那由他の鳥居を潜ったときから、この那由他に繋がることが宿命づけられていたのかもしれないな。と思ったりもした。すぐにキシキシギシギシと、石の地面に突き刺さる石の雨音...
pale asymmetry | 2020.12.10 Thu 21:55
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