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愚王と魔法使い (仮)11

とりあえず、シレークスはクラヴィスが恋しかった。 理由としては簡単だ。 やはり年頃の女と、外見だけは青年にみえる二人連れは どうにも誤解を招く。 シレークスは目の前に一つしかない寝台を前に 仁王立ちしていた。 クラヴィスと剣が消えてから三日になる。 あの小さな村の村長の納屋と家の片隅に別々に泊めてもらった後、 二人で歩いた。 翌日についたこの街はさほど大きくはないが、 不便もなくといったところだ。 結局何が起きたのか、シレークスには解らなかった。 それというのも魔法使いが一切の説明を省...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:21

愚王と魔法使い (仮)10

魔物に遭遇した街を出て五日になる。 また一行は森の中の道をゆく。 銅褐色の髪を三つ編みにしてたらした少年は斜め掛けの鞄を一つ。 腰をゆうに超える長い黒髪をだらっと肩で無造作に束ねて、 魔法使いはほどよい大きさの背負い鞄を一つ。 肩で切りそろえた見事な金髪に王家の剣を持つお姫様は腰巻ポーチを一つ。 魔法使いの紺色の鞄は見た目さほど大きくはない。 けれどなんでもでてくるから不思議だ。 「そろそろ村が見えるはず…」 シレークスがそう呟いたところで、本当に村が見えた。 「シレークスは詳しいね」 ク...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:16

愚王と魔法使い (仮)9

熊のようなのにその頭には太い角が二本。 その背中には蝙蝠のような翼。 その前足、なのか手を振り下ろすたびに家が電撃で崩れ落ちる。 逃げ惑う住人で辺りは騒乱だった。 「特徴からするにヌービルムじゃん…伝説級の魔物じゃない? あんな超魔物、みたことないわよあたし」 宿の窓枠に頬杖をついてお姫様は冷静だ。 その腰には一振りの剣。 しかしそれがどれぐらいの威力を発揮するのかは 持ち主からしてはなはだ疑問である。 宿の中には既に店主すらいない。 いるのは三人だけだ。 「僕たちも逃げたほうがよくない?...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:15

愚王と魔法使い (仮)8.4

高い高い城の最上階から眺める風景は まるで世界が総て自分のもののようで その手を広げ鷲掴みにしようと握りしめる。 その様子を見ていた別の女が誰もいない部屋でその真似をする。 けれど空っぽの手のひらに重さはなく。 何一つ、自分のものではないことを実感する。 欲しい。 力が欲しい。 世界をねじ伏せる力が。 あの女は手に入れたつもりでいる。 それが女には許せなかった。 いつか思いしればいい。 その手にはなにもないのだと。 その二人の世界はずれていた。 白い絹のような髪がするりと垂れ...

SolemnAir | 2021.03.06 Sat 18:13

Corundum Spirit Demon #05

JUGEMテーマ:自作小説    それは旅だったはずだ。無数の収束と無数の膨張を擦り抜ける旅だったはずだ。那由他の静寂と那由他の炸裂を突き抜ける旅だったはずだ。貴い方は、いくつもの世界を旅したはずだ。世界を開き世界を閉じたこともあったかもしれない。世界から翻ったことも、世界へと還ったこともあっただろう。貴い方は何も纏わず、旅の中でひたすらに磨かれていったのだろう。無限の時間が時間の意味を失うくらいに、貴い方を回転させただろう。その回転だけが、貴い方に自身の秩序が展開していることを自覚さ...

pale asymmetry | 2021.02.14 Sun 22:15

4.「親友はその出自を誰にも言わなかった。」

「もうやめてください母上」 彼女の息子であるリリシャ=ハーンがそう言って、弟の前に膝をつく。 「僕が皇帝になることがなんだというんですか。  誰だってわかってる。  もし最も優秀なものがなるべきであるなら、なるべきは弟であって僕ではない」 それは静かな声音、ひどく穏やかで、にわか雨のような柔らかさ。 全ての者が、その手を止めていた。 正確には誰一人動けなかった。 「もうやめましょう。外でこれだけ禍が起きているというのに  ただ誰が後を継ぐかというだけでこんな争いをするのは無意味です」 ...

SolemnAir//3LOVERS | 2021.02.13 Sat 22:13

Corundum Spirit Demon #04

JUGEMテーマ:自作小説    私は蹂躙されている。私は森に犯されている。あるいは侵されているのかもしれない。森は私の隅々にまで浸透し、私の全ての細胞の、その全ての螺旋に介入している。森は私を支配しようとしているのか。それとも制御しようとしているのか。あるいは私のほうが森を制御するために、そのフォーマットが書き換えられようとしているようにも感じる。痛みだ。開かれ、掻き回される痛み。その回転が、私を別の次元へと沈めていく。私はすでにすっかりずれているはずなのに、さらにずれていく。痛みか...

pale asymmetry | 2021.02.07 Sun 21:50

Corundum Spirit Demon #03

JUGEMテーマ:自作小説    それが何かと問われれば、勾玉でしょうと私は答えただろう。誰も私に尋ねてはくれなかったのでその言葉を口にすることはなかったけれど、私にはそれは勾玉にしか見えなかった。真円と、そこから伸びる尾のような曲線が先端をやわらかく尖らせている。青と緑が、いや蒼と翠が慈しみ合うように重なった色彩を纏ったそれは、空中を踊るように漂っていた。それは那由他よりは遙かに少なかったけれど、数えきることは出来ないような数。そんな数の勾玉が、私の周りを漂い、私の鼻先で群舞している...

pale asymmetry | 2021.01.29 Fri 22:36

Corundum Spirit Demon #02

JUGEMテーマ:自作小説    私は迷っていた。すっかりと、はっきりと、そしてくっきりと。あの人が言っていた迷う人の意味は結局教えてもらえなかったから、この状況に閉じ込められていることが私が迷う人だからなのかどうかは解らない。けれど今この瞬間迷っていることは認めざるを得ないし、それにそう、私は閉じ込められているのだ。私は迷い閉じ込められている。そういう想いに囚われている。いくつもの枠が私を幾重にも取り囲み、入れ子構造の内に私を取り込んでいる。そんな気がしてならない。この枠は私の内側に...

pale asymmetry | 2021.01.23 Sat 22:18

Corundum Spirit Demon #01

JUGEMテーマ:自作小説    窓辺から斜めに見つめた空は、狡賢いネズミのような灰色だった。ドンヨリと曇っているくせに、どことなく煌めいていたりする。まるで世界の本性をよく知っていて、知った上で知らないふりをしているかのようだ。でも本当は知らないのだ。その演技をしているだけだ。そうやって、ネズミはサヴァイブしているのだろう。そういう狡賢さがなければ、空は蹂躙されてしまうのだろう。人間のような、泥人形と大差ない愚かしい知性体に。眼差しを斜めに下げる。誰もいない中庭の噴水は、止まっている。...

pale asymmetry | 2021.01.21 Thu 22:43

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