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JUGEMテーマ:自作小説 それは境界を表す線なのだろう、と思った。西に傾いてもまだ暴君のような陽光を沈めるための旋律を発する弦のようにも思えた。あるいは透明な獣の、空腹を抱えた分別のない獣の口から漏れ出る唾液のようにも思えた。その場所に、僕が見知った世界とは違う性質を持つ風景が混じっているように感じたせいかもしれない。陽光が鋭すぎる煌めきで降り注いでいたのに、清涼な湿りを感じたせいかもしれない。あるいは何か得体の知れない邪な生命体が、邪だから魅せられる生命体が空気の層と層の間に...
pale asymmetry | 2020.08.23 Sun 22:57
JUGEMテーマ:自作小説 僕は翼に乗っていた。鳥の翼のようでもあったけれど、翼竜の翼のようにも思えた。鳥や翼竜に乗っていたわけではない。そういうものの翼に乗っていたのだ。つまりそれは翼だけが飛翔していたということだ。胴体や頭や脚はない。ただ翼だけが風を大きく孕んで滑空飛翔していたのだ。一対二枚の翼は本来ならば胴体がある辺りで繋がっている。その翼が繋がり合う場所に僕は立っていた。空は、夜を纏おうとしているのか、それとも夜を脱ぎ捨てようとしているのか、そういう感じの薄暗い藍色と薄明...
pale asymmetry | 2020.08.22 Sat 22:22
JUGEMテーマ:自作小説 これは巨大なシステムで、僕らは解析素子になったんだ。とそんな気持ちになりながら、オリエンテーションを聞いていた。説明に登場する単語から、いろいろなイメージが浮かび上がりすぎて、その内容は全然頭に入ってこなかった。まあ、詳細は書類を読めば良いようなので、問題はないだろうと思えた。早く帰って眠りたかった。入学式からずっと、ひどく眠い日が続いている。新しい生活のリズムが、まだ身体に精密に入力されていないせいだろう。それとも、僕自身の出力が足りないのだろうか。...
pale asymmetry | 2020.08.21 Fri 21:58
JUGEMテーマ:自作小説 何だか微熱があるような気がした。身体が怠くふわふわした気分に纏わり付かれている。取り敢えず体温計を脇に挟む。電子音を待って確認すると三十四度五分だった。微熱どころか低体温だ。確かに朝からずっとエアコン全開の部屋で過ごしているけれど、それにしても低すぎる。しかも感覚的には全身が熱っぽく感じていたりするのだ。とても奇妙な気持ちを持て余す。ただ持て余していてもしょうがないので、この症状を検索しようとPCを起動させたところで、玄関のチャイムが鳴る。ドアスコープを...
pale asymmetry | 2020.08.20 Thu 22:15
JUGEMテーマ:自作小説 ケセランパサラン。 真っ白な綿毛のようにフワフワした生き物で、こいつを手に入れると願いが叶うという。 たくさん集めるほど大きな願いが叶うと言われていて、俺も子供の頃は夢中に探したことがある。 化粧で使うおしろいが大好物だそうで、桐の箱が飼育に適しているという。 ただし注意が必要である。 箱には穴が必要で、これがないと呼吸ができずに死んでしまうというのだ。 もし上手く飼育できればどんどん増殖する。 つまり大切に飼えば大金持ちになることも理想の相手と結ばれることも、名...
SANNI YAKAOO | 2020.08.19 Wed 16:28
JUGEMテーマ:自作小説 鬱蒼とした山の中、小さな祠の周りに白い綿毛が舞う。 それは儚く雪のようで、何かに触れるのと同時に消えてしまう。 俺は手を広げ、どうにか受け止めようと試みるが無理だった。 祠の中にはこれでもかと綿毛が詰まっているが、外へ出た途端に儚く消えてしまうのであれば、持って帰ることは不可能。 つまり願いを叶えるには山の祠までやって来る必要があるということだ。 「姫月さんは嘘を吐いていたな。」 真っ白な綿毛の奇妙な生き物、ケセランパサラン。 俺が子供の頃にも流行ったものだ。 妖...
SANNI YAKAOO | 2020.08.13 Thu 13:29
JUGEMテーマ:自作小説 過去は誰にだってあるもので、子供時代をすっ飛ばして大人になる人はいない。 だがその過去が明るいものか暗いものか? こればっかりは千差万別である。 ある人はお金に困り、ある人は小遣いの概念を超えた金額をもらっている。 またある人は歩くたびに軋む家に住み、ある人は別荘を幾つも持っている。 しかし最も幸不幸が別れるポイントは人間関係だろう。 恵まれた人に囲まれる環境もあれば、その逆もある。 そしてもっとも悩む人間関係の一つに『孤独』がある。 あれはいつだったか何かの記事...
SANNI YAKAOO | 2020.08.09 Sun 12:21
JUGEMテーマ:自作小説 陽の当たらない山の中というのは昼間でも不気味だ。 周りを高い木々に囲まれ、セミの合唱のせいで方向感覚さえ狂い、風に揺れる葉音が不穏を掻き立てる。 なによりここまで登るのに疲れる。 寂れた神社の奥、獣道の山道を歩くこと一時間。 俺の足はとっくに悲鳴を上げているのに、どう願っても目的地の方からはこっちへ近づいてはくれない。 ゼエゼエ、ハアハアと息を切らし、パンク寸前の肺と格闘するしかなかった。 「はあ・・・はあ・・・はあ・・・。」 膝をついて肩を揺らす。 由香里君が「...
SANNI YAKAOO | 2020.08.04 Tue 12:44
JUGEMテーマ:自作小説 「高木様ならもうチェックアウトされましたが。」 お姉さんが泊まっている旅館、訪ねてみるとフロントでそう言われた。 「いつですか!」 由香里君が身を乗り出す。 女将さんは「ええっと・・・」と上目遣いに記憶を探った。 「たしか昨日の夜だったと思います。」 「何時頃ですか?」 「かなり遅い時間でしたねえ。たしか12時を回ったくらいに。」 「そんな夜中に・・・。」 「本当は明日の朝までのご予約だったんですけど、お連れの方が迎えに来られたようで。」 「連れ?」 由香里君が俺...
SANNI YAKAOO | 2020.07.30 Thu 12:32
JUGEMテーマ:自作小説 物事を隠し通すのは難しい。 「浮気したでしょ?」と問い詰められ、最後までシラを切り通せる男がどれだけいるだろう。 理屈を並べるだけならどうにかなるかもしれないが、吹き出す冷や汗と泳ぐ視線だけはどうしようもない。 今、俺は取り調べを受けている。 旅館の部屋、向かいに座る女から尋問をされている。 ただし浮気の尋問ではない。 ないのだが、もしこれが浮気だったとしても、やはり俺はシラを通しきる事は出来ないだろう。 「久能さん。」 由香里君が静かな声で呼ぶ。 「答えるまで何...
SANNI YAKAOO | 2020.07.26 Sun 11:36
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