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短編小説「魂の奏」

JUGEMテーマ:自作小説 熱気に歪む空から梯子が降りてくる。 そいつは地面を突き刺して地中深く埋まっていく。 僕は橋の上からその光景を眺める。 川には鮎釣りをする人たちがたくさんいるけど、どうやらあの梯子は僕にしか見えてないらしい。 届くだろうか? 目一杯伸ばしても距離が足りない。 橋の上からじゃ届かない。 だったら橋から飛べばいけるかも。 手すりの上に足を踏ん張る。勢いを付けようと力を溜める。 そして思い切り飛び出そうと瞬間、目の前に珍しい虫が飛んできた。 輝く緑色の羽。 赤い筋が入って...

SANNI YAKAOO | 2020.07.02 Thu 15:27

短編小説「100年の時」

JUGEMテーマ:自作小説 私には前世の記憶がある。 もう100年も前の記憶だ。 だから知っている。 娘の家の井戸の向こうにあの子がいることを。 夏休み、お盆には毎年娘の家に来て、井戸のあの子と顔を合わせる。 夜、みんなが寝静まった頃を見計らって、こっそり部屋を抜け出して。 古い家だから歩く度にギイギイ音が鳴るけど、みんなぐっすり寝てるから気づかれることはない。 庭に出ると虫の声がとても大きく聴こえてくる。 私はサンダルを滑らすようにして歩きながら、もう使われなくなった井戸に近づいた。 今夜...

SANNI YAKAOO | 2020.07.01 Wed 20:11

短編小説「去年の夏」

JUGEMテーマ:自作小説 夏、酒を飲んで浮かれることも多いだろう。 地元に帰って昔の友達と会った時なんかは特に。 俺は古いトンネルの前に佇みながら、去年の夏を思い出す。 この一年間、ずっと気分が沈んでいる。 あんな事があったせいでずっと・・・・。        *   去年の夏こと、地元へ帰った時に同級生と酒を飲んだ。 同じ部活で特に仲の良かった奴らと集まったのだ。 高校を出てから10年。 滅多に会わなくなった奴がほとんどで、なかなか楽しい夜だった。 一次会、二次会と続き、...

SANNI YAKAOO | 2020.06.30 Tue 16:24

短編小説「日暮れの待ち人」

JUGEMテーマ:自作小説 夏の登山は辛い。 汗だくになるし喉は乾くしTシャツは貼り付くし。 それに山道の蜘蛛の巣も手強い。 木陰になるような場所では二メートルおきくらいに張り巡らされていて、こいつを払うだけでも鬱陶しい。 油断してると顔に掛かるし。 それに山頂にたどり着いたからといって涼しいとは限らない。 1000メートル級の山ならともかく、標高が400メートルと少しくらいでは大して気温は変わらない。 それでも僕は山へやって来た。 毎年思う。来年はやめとこうって。 なのに今年は今年でまた夏...

SANNI YAKAOO | 2020.06.29 Mon 10:48

短編小説「風鈴塔」

JUGEMテーマ:自作小説 夏といえば風鈴。 あの涼しい音色が僕は大好きだ。 近所のお寺に風鈴塔と呼ばれる塔がある。 その名の通り風鈴が付いている塔だ。 五重の塔を小さくした感じのような建物で、高さは二メートルほどしかない。 とても細いので中に住めるわけでもない。 つまりオブジェだ。 この塔には夏になると数え切れないほどの風鈴がぶら下がる。 たくさんの風鈴がチリンチリンチリンチリンと忙しなく音を響かせるものだから、少し五月蝿く感じる時もある。 だけど近所の人たちは慣れたもので、道路を走ってい...

SANNI YAKAOO | 2020.06.26 Fri 14:15

短編小説「夏が来る前に」

JUGEMテーマ:自作小説 俺はバッタだ。 今年の梅雨に生まれた。 まだ羽も生えてない小さな身体だけど、ジャンプ力には自信がある。 だけど今日、向こう岸までのジャンプが届かなくて用水路に落ちてしまった。 ああ終わった・・・・。 俺は夏を謳歌することが出来ないんだ・・・・。 いやまあ、もう何度もこの世に生まれ変わってるから、去年も一昨年も夏は謳歌したんだけど、今年は今年で楽しみたいじゃないか。 でもそれも無理だ。 バッタの俺じゃ用水路の水でさえ大河の激流に飲み込まれたのと同じだから。 さよなら...

SANNI YAKAOO | 2020.06.23 Tue 12:02

(連載中止) Cookie ―― Bi・S・Cu・It 後日談 ちょっと止めます。     

JUGEMテーマ:自作小説 いやはや。大変長らく放置してしまいました。 しかも全言撤回で大変申し訳ありません。突然ですが、ここの連載執筆を止めておこうと思います。   あれからいろいろと心境・環境とも変化がありました。   昨年以降、外出自粛、リモートなど日常の変化で、1話づつの執筆作業というものに、なかなか時間を割けなくなってきました。 さらに悶々とする中で徐々に「実験的にいろんな形態で、短めの話を書いてみたい」という気持ちへシフトしていくようになり、この連載形式を始めよう...

CheChe's Atelier | 2020.06.21 Sun 01:08

回転騎士の地図記号 #11

JUGEMテーマ:自作小説    それは、多重螺旋の柱だった。上を見ても下を見ても、その両方向にどこまでも伸びている柱だった。ということは、私は宙に浮かんでいるのだろうか。それとも私は風景に溶け込んでいるのだろうか。形を失い色を失い、ただ世界に拡散しているのだろうか。戸惑いはない。そんな暇はない。目の前の光景に、気持ちの全てと思考の全てを奪われていたから。その多重螺旋の柱に。私の生命の、生命体としての私の基底部にある原子のコードが、その柱にどうしようもなく魅了されていたのだ。  三重...

pale asymmetry | 2020.06.14 Sun 22:16

回転騎士の地図記号 #10

JUGEMテーマ:自作小説    そこでは常に強い風が吹いている。標高が高く空気が薄いはずなのに、その風は孤高の獣のような猛りで流れている。にもかかわらず、どこか清楚な気品を感じたりもする。それはその猛りが完璧にコントロールされたものだからだろうか。その風はテントの天辺に飾られたペナントだけをなびかせて、テント自体はそよりとも揺らさないのだ。空中庭園に並ぶテント。そのいくつものペナントだけが風を記号化して踊っている。その舞踏は野性的な欲望を電波に変換して発信しているのかもしれない。ある...

pale asymmetry | 2020.05.17 Sun 22:11

回転騎士の地図記号 #09

JUGEMテーマ:自作小説    大陸を横断し海峡を越えた王都では、時折犬たちや猫たちが激しく降り注ぐのだという。犬の群と猫の群が入り交じって大量に落ちてきたら、世界の終わりを感じたりするだろうか。私はきっと感じないだろう。むしろ世界は愉快な方向へと混乱していると感じるだろう。そしてさらに混乱が進めば良いと望むだろう。そこに自身が深く巻き込まれることを願ってしまうに違いない。どんな犬と猫かによって、願いの強さは若干違うだろうけど。やっぱり子犬と子猫が良いな。一方海峡を越え大陸を横断して...

pale asymmetry | 2020.05.11 Mon 22:20

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