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JUGEMテーマ:自作小説 都市で疫病が蔓延しているのは、森の薬樹が力を失っているからだ。ある朝、南の空を見つめてお婆が言った。南の方に森があったわけではない。南から風が吹いていたのだ。強い風を受けて、お婆は痛みに耐えるような表情をしていた。クシュはお婆の隣に立ち、同じ方向を見つめた。痛みの原因が見えるかもと思ったのだ。見えたのは分厚い白雲に覆われた空だけだった。その白雲はぎっしりと絡まり合う龍の群のように見えた。あるいは、流体だけで構築された永久機関のようにも思われた。何のため...
pale asymmetry | 2020.12.05 Sat 21:10
JUGEMテーマ:自作小説 茶会は必ず交差点で始まる。いつも突然で、誰もその予兆に気づくことは出来ない。予兆はあるのだけれど、微細すぎるのだ。それはとても微細な旋風だ。指先で摘まみ取れそうなコイルのような風。だからコイル風と呼ばれている。最初にそれを発見した研究者は、実際にコイル風を摘まみ取り、次の瞬間に全身を捻られ粉々にちぎれて霧散した。しばらくの間、半径約二メートルの範囲にその研究者の量子が残留し、賛美歌を奏でていたという。 茶会は、ほとんどの場合大きな交差点で始まる。片...
pale asymmetry | 2020.12.02 Wed 21:48
JUGEMテーマ:自作小説 『ぶつかってくる…!』 春子は思わず身構える。…が、予想していた衝撃は起らなかった。こちらに向かってきた其れをメリッサが 寸でのところ掴み上げたからだ。間近で見ると薄汚れた端切れに身を包んだ小さな子供のようだ。 「ほらほら暴れんじゃないわよ。」 捕まっても尚抵抗しようとする子供をメリッサはもう片方の手で軽くひっぱたく。 すると子供は糸が切れた人形のようにおとなしくなった。どうやら気を失ったらしい。 メ...
魚と紅茶(旧・とかげの日常) | 2020.12.02 Wed 08:32
JUGEMテーマ:自作小説 ーーカラン、カランーー 「あ、いらっしゃい。悪いけど今日は…ってなんだアンタか。」 店じまいを告げようとしたメリッサは入ってきた人物を見るなり素の態度をとる。 そこにいたのが便利屋を営む弟、ジャーマンだったからだ。 「リサ、頼みたいことがあるんだがいいか?」 「何よぉ、来るなり急にぃ。」 人嫌いなジャーマンが人にものを頼むのは珍しい。 姉のメリッサ相手でもそれは同様だ。 「生きて流れ着いた外物...
魚と紅茶(旧・とかげの日常) | 2020.11.27 Fri 12:54
JUGEMテーマ:自作小説 「あのぉ、よろしいかな?」 ふいにかけられた声にハッと春子は我に返る。 気が付くとそこにはもう一人の客人が加わっていた。 見たところ東洋的な身なりをした中年の男性だ。 「あ、ごめんなさいねぇロウさん。つい話し込んじゃってぇ。」 ははっと悪びれなく笑い返すメリッサにロウは小さくため息をつく。 やり取りを見る限り、お互いをよく理解しい合う関係なのがわかった。 「そうそう、せっかくだしちょっと付き...
魚と紅茶(旧・とかげの日常) | 2020.11.25 Wed 18:59
JUGEMテーマ:自作小説 お互いの自己紹介もそこそこに済ませた後、春子とメリッサはのんびりお茶を交わしていた。 メリッサはジャーマン同様独立して店を持っていて昼は探偵事務所、夜はパブを営んでいる。 その探偵事務所というのがやや特殊で、扱う依頼の大半は街で起こる不可思議な案件に偏り それをジャーマンが請け負って解決している。故にはジャーマンとメリッサは “オカルトコンビ”と街では呼ばれていたりするらしい。 「だっさいネーミングよねぇ...
魚と紅茶(旧・とかげの日常) | 2020.11.23 Mon 21:16
JUGEMテーマ:自作小説 「ハロー!ジャーマンいるー?」 玄関扉が勢いよく開くと同時に女性の声が響く。 声の主と目が合い春子は一瞬唖然とした。 背中まで伸びる明るい茶髪を靡かせたその女性は 白い肌によく映える深紅のロングドレスに身を纏い いかにも”夜の華”といった雰囲気を醸し出している。 春子が驚くのも無理はない。というのもジャーマンが処方する薬の客層は 受け取りに来る時間帯によって違う。今時間のような昼間や夕方は壮年や老齢が多い一方、 深夜や...
とかげの日常 | 2020.11.22 Sun 19:41
JUGEMテーマ:自作小説 春子が霧と雨の街に流れ着いて一週間が経った。 初日の夜はまさに地獄で便利屋の彼ージャーマンに春子の世界の事やその環境、どんな人間がいるのか等 ありとあらゆる情報を事細かに聞かれ、眠るのを許されたのは既に日がだいぶ昇った頃だった。 その後は住まわせてもらう代わりに彼の仕事や身の回りの手伝いをしているが 便利屋というのは仕事内容が幅広い。手間もやることも少ない時あれば 早朝から深夜まで街を駆けずり回る時もあり、かなりのハードワークだ。 ...
とかげの日常 | 2020.11.21 Sat 12:57
JUGEMテーマ:自作小説 独楽は、僕の頭の天辺で高速回転している。それは突然その場所に現れて回転を始めたので、いや現れたときにはすでに高速回転していたので、僕がその独楽を、その独楽の回転を客観的に観察することは出来なかった。僕は感じることしか出来ない。独断的に、あるいは妄想的に。僕は目を閉じ、まずはその独楽の外観をイメージする。それはたぶん小星形十二面体のような姿をしている。それにとても近いけれど、それそのものではない。でもどこが違うのかを感じ取ることは出来ない。だからただ小星...
pale asymmetry | 2020.11.20 Fri 20:34
JUGEMテーマ:自作小説 「……ん?」 嗅ぎなれない薫りとややごわついた布の感触で春子は瞼を開けた。 辺りを見回すとそこは知らない部屋だった。 至る所に植物が生い茂り、中には乾燥させたものもぶら下げてある。 さほど狭くもない空間の隅にいくつかの棚と自分のいるベッド、 中心では何やら香が焚かれている。どうやらこれが薫りの正体のようだ。 見慣れないものだらけでさすがに手を付ける気にはなれず どうしようか考えていると扉の向こうから話し声がした。 &n...
とかげの日常 | 2020.11.20 Fri 10:59
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