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JUGEMテーマ:自作小説 井戸は、展開の欲求を抑えきれずに拡張している。それは暴走へと向かっているのかもしれない。あるいは、ひたすらに補完を繰り返し、補完のための補完を繰り返し、永遠に完成から遠ざかるための展開を願っている。私にはそう思えた。黒檀の舞台が、井戸を中心に据えて設置されていた。井戸から四方向に、十字を描くように帯状の舞台が伸びていた。四つの帯のそれぞれには、井戸から最も遠い先端に金箔でシンボルが記述されていた。それは蛙と蜥蜴と蜘蛛と蝶。それらはふくよかで、揺らぎを持...
pale asymmetry | 2019.10.20 Sun 22:26
JUGEMテーマ:自作小説 柔らかな、那由他の色彩が溢れていた。その色彩の洪水が、この場所が今夜だけ世界の中心に、宇宙の中心になるのだということを告げているようだった。一夜だけ中心になって滅する世界、一夜だけ中心になって滅する宇宙であったかもしれないけど、そうするとそれらは何の中心かが解らなくなる。何か重要なことを私はまだ知らないのか、知る必要がないのか、忘れ続けているのか、それさえも解らなくなる。解らなければいけないのか、解ってはいけないのかさえも。ただ私は疼いているのだ。まだ...
pale asymmetry | 2019.10.19 Sat 21:21
JUGEMテーマ:自作小説 お試しで付き合ってくれませんか、好きになってくれるまでなんて言いませんから。 彼との始まりは、そんな言葉で始まった。 我ながらバカだなあって思う。なんでそんな言葉を告白の言葉に選んだ、って自分でも思った。 でも正直なところ、他の言葉が思い浮かばなかったんだ。 なぜって、相手を好ましいと思っているのはわたしだけ。 付き合いたい、というか、もっとたくさんの時間を一緒に過ごしたいと思っているのはわたしだけ。 ...
My 365 Story | 2019.10.19 Sat 10:48
JUGEMテーマ:自作小説 私は熱を失っていく。私は潤いを失っていく。呼吸や鼓動さえも失ってしまいそうだ。失っていくたびに、私の視界の端っこから、橙色の欠片が世界へと放たれる。欠片は嬉々とした動きで私の皮膚の上で踊る。ひとしきり踊ると、私の胸に身を寄せて、潜り込むように消える。いや実際に潜り込んでいるのだ。私の内側に。多分私の心臓に結び付き、その動きを抑制するのだ。そして私は生命で無くなる。生命ではないのに、翻る獣なのだ。すでに死んでいて、その裏側で生きている存在。巻き込む者であ...
pale asymmetry | 2019.10.18 Fri 22:11
JUGEMテーマ:自作小説 私は開いている。そうすることで、私は開かれていく。私は雨に降られている。小糠雨が私を潤す。私の内宇宙が沈没していく。振り子のような曲線を描きながら、危ういバランスを保ちながら、時々少し崩しながら、旅するように沈没していく。とても短くとても濃厚な旅。誰かと出会わなければいけないような気がするけれど、何だか捩じれてしまってよく解らない。私の気持ちが捩じれてしまって。その捩じれが孤独な螺旋になって、私の全ての細胞を直列に繋いでいく。その螺旋は上昇も下降もせず...
pale asymmetry | 2019.10.17 Thu 21:53
JUGEMテーマ:自作小説 結晶体は私を誘っているのだ。何処に? 何に? その答えは、存在しない。それは私が構築しなければいけないのだから。あるいは、私が再構築しなければいけないのだから。つまり私が誘っているのだ。結晶体は私を誘っていて、私は結晶体ではない。それでも誘っているのは私に他ならない。私はこの不可能方程式を解かなければならない。あの正四面体は蜥蜴で、あの立方体は蝶で、あの正八面体は蜘蛛だ。あの正十二面体は何だろう。よく解らない。そっぽを向かれているのかしら。甘い香りがす...
pale asymmetry | 2019.10.14 Mon 21:39
JUGEMテーマ:自作小説 その井戸は、山の上の宮にある。その宮は天上の世界で、里の世界とは違う世界だ。それは宇宙に近く、そして夜に近い世界だ。朝や昼からは程遠い世界だ。だからこそ、その井戸には瞑水が蓄えられ、その底に瞑花が沈んでいるのだ。つまりその井戸は、印だ。宮が最上の知性と結ばれているという印だ。だから井戸を枯れさせてはいけないし、瞑水を失ってはいけない。井戸の水を瞑水として蹲らせておくためには、瞑花を継がなければいけない。誰かが『コ』となって、それを継がなければいけない。...
pale asymmetry | 2019.10.13 Sun 22:26
JUGEMテーマ:自作小説 視界の端っこで、欠片が跳ねる。多分二十四の欠片と、それが分身した七十二の欠片が跳ねる。算盤珠のような形をした橙色の欠片たち。視界の端とはいえ、鬱陶しくて仕方がない。特に今日は朝から、その橙色が騒々しく煌めいていたのでさらに鬱陶しかった。何の加減だろう。姉が住む街に獰猛な台風が近づいているから、姉の気持ちが怖気づいているのだろうか。何の理由もなくそう思ってしまった。そう思ってしまってから、これはきっと姉に何かがあったのだと思った。私の視界の端っこに欠片が...
pale asymmetry | 2019.10.12 Sat 22:05
JUGEMテーマ:自作小説 それが瞑水のせいであるということは、私にはすぐに解った。凶暴な台風が近づいていたから、不穏な因子を街のあちらこちらに感じてはいたけれど、それとは明らかに性質が違っていたから。ポストが、回転していたのだ。一人暮らしのアパートの、玄関わきの小さな郵便ポストが、それは長方形のプラスチック製品であったのに、液体のように渦巻いていたのだ。もちろん本当の液体ではない。本当の液体なら流れ落ちるはずだ。けれどそれは扉の脇の私の胸くらいの高さで、しっかりと固定されたまま...
pale asymmetry | 2019.10.11 Fri 21:43
JUGEMテーマ:自作小説 お試しで付き合ってくれませんか、好きになってくれるまでなんて言いませんから。 今の彼女と付き合い始めたきっかけは彼女からのそんな言葉からだった、というと、大抵の友人が引いた。 「ないわー。そんなことまで言わせる男って、ないわー」 「つか、何様だよってぇの」 唯一、長い付き合いの幼馴染みだけが意味ありげに笑うだけだった。追求はしてない。考えていることを素直に吐き出す野郎ではないし、タチの悪そうなコメントにげっそりするの...
My 365 Story | 2019.10.07 Mon 13:26
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