そうか。そうなんだ。 別に、彼女たちが言うようにひとりぼっちだったことなんか無い。友達もたくさんいるし、彼らとはいつもたわいもない話をしたり、悪ふざけをしたり、サッカーの試合を見に行ったり、家に呼ばれてお泊まりをした事もある。自分が彼らから人種差別をされているのだと思ったことは、今の今までなかったのだ。 ────でも、皆心の中ではあんな風に思ってたんだ────。 ここは田舎で、ここで暮らす人達は、500年前から変わらずそこに住んでいる人達ばかり。スコットランド人やウェールズ人でさえよ...
真昼の月 | 2023.02.04 Sat 22:23
この文章の中には、人種差別に関する記載があります。 皆様を不快にさせる意図はありませんが、 辛い方は3話ほど飛ばして下さい。 また、※『』内の台詞は日本語となっておりますのでご了承下さい。 イヌ吉拝 ◇◇◇ ◇◇◇ 久し振りに夢を見た。セカンダリースクール(※)の頃の夢だ。 久義は物心つく前に母と共に渡英し、ローズウッド城で暮らしていた。 当たり前のように、母は伯爵の元で仕事をし、当たり前のようにイギリス人の中で暮らしていた久義は、自分が周りの人達と...
真昼の月 | 2023.01.28 Sat 22:13
◇◇◇ ◇◇◇ 結局、その日はスイーツを食べた後、ヴィクトリア&アルバート美術館を見て、テムズ川の畔を散策した。観覧車に乗らないかとウィルに誘われたが、それは断って、早めに帰途につく。 明日の仕込みもしなければならないし、何より、ロンドンとバーマストンは、電車で片道二時間もかかるのだ。 「今度はまた私が君を訪ねるよ。仕事終わりに町で夕飯を食べても良いだろう?」 ウィリアムはしきりにそう言うが、それは丁重にお断りした。ウィリアムがバーマストンに来る時は伯爵夫妻も一緒だろ...
真昼の月 | 2023.01.21 Sat 22:19
たくさんのスイーツをたくさん食べたい。スイーツ好きなら誰もが抱く欲求をかなえてくれるのが三段重ねのアフタヌーンプレートであるが、そんな物がなくても、シェアすれば良いのだ。それでもこの店のスイーツは結構量もがっつりしてるから、それほどたくさんは食べられないかなぁと、二人は真剣にメニューに向き合った。 結局、ウィリアムが前回友人に勧められたという、味噌を使ったバノフィーと、アップルクランブル、ダンディーケーキの三つを頼んで、二人で半分ずつシェアすることにした。それから、あまり重い物では全...
真昼の月 | 2023.01.07 Sat 22:11
「そろそろカフェに移動しようか。ランチもスイーツも充実しているカフェを友人に勧められてね?」 ウィリアムはあらかじめリサーチしてくれていたようで、すぐにブラックキャブ───ロンドン名物のタクシーである───を止めて、店の名前を告げた。 「モダンブリティッシュの店で、アジアを始め、諸外国の要素を取り入れている店なんだけど、どうかな。日本の食材も使っているらしい」 モダンブリティッシュでは、多国籍都市であるロンドンの強みを活かし、様々な国や地域の食材や技法をイギリスの伝統料理に取り入れてい...
真昼の月 | 2022.12.31 Sat 22:09
◇◇◇ ◇◇◇ 電車からホームに降りて辺りを見回す。ガラス張りの高い天井。バーマストンのような田舎ではお目にかかることのない景色だ。久し振りのロンドンの空気を胸いっぱいに入れていると、長身の男性が手を挙げているのが見えた。ウィリアムだ。久義に気づいてこちらに歩いてくる。 「お待たせしましたか?」 「いいや。それより、休日に敬語はやめよう。今日は、先日のお詫びも兼ねているんだから、君が私に気を遣ったらしょうがないだろう?」 「それはもう気にしないでくださ…&hell...
真昼の月 | 2022.12.24 Sat 22:31
◇◇◇ ◇◇◇ 仕事が終わって、自室で軽く夕飯を食べてから、久義はウィリアムにもう一度メールを送った。仕事時間、自由になる時間を書き記し、繁忙期と閑散期の予定も記しておく。繁忙期なら、お休みは週に一度。閑散期なら週に二度。閑散期である冬の間にバカンスを取り、日本に修行に行くことも書いておく。 メールを送ると、すぐに返信が来た。 『それなら、今日のお詫びを兼ねて、今度の休日はロンドンに招待させてくれないか?最新のスイーツ事情に、興味は無い?』 「うぅう……最新のスイ...
真昼の月 | 2022.12.17 Sat 23:20
「もう行って良い」 「畏まりました」 久義は器を一つ一つ、丁寧に和紙に包み、行李の中に詰めていった。 何度もそうしているのだろう。どこに何を入れるのか、その順番まで決められているようで、美しい所作で片付けていく。 「それでは、これで失礼いたします」 久義は小さくお辞儀をすると、行李を手にして部屋を出た。 行きとは全く違う気持ちで、使用人棟までの道を歩いて行く。 そうして本館を出てしばらくすると、ズボンのポケットに入れていた携帯がバイブした。部屋に戻ってから確認すると、それは...
真昼の月 | 2022.12.10 Sat 22:56
先週の更新は、土曜日ではなく、日曜日にさせて貰いました💦 もし前回の更新をお読みでない方がいらしたら、「金魚の恋 17」を先にご覧下さると嬉しいです。 イヌ吉拝 ----------------------------------------- 「すごいな……」 平皿や銘々皿などには金魚が絵つけられ、小丼や小鉢の底には、立体の金魚がガラスの中に閉じ込められていた。 「これが先日食べたKINGYOの原型か」 「はい。砕いたガラスを底に敷いて窯に入...
真昼の月 | 2022.12.03 Sat 23:28
皆様、コメントありがとうございます。 お礼が送れていて、大変申し訳ありません💦💦 お返事はコメントをいただいた順に書いております。 先に書いていただいた方のリコメが下になっておりますので、もし自分へのレスがないな、と思われたら、下の方をググッとスクロールしていただけると嬉しいです。 イヌ吉拝 07:30:はるりん様 コメントありがとうございます!! そ、そうだったんですね!?はるりん様だったのですね!??!? いつもありがとうござい...
真昼の月 | 2022.11.30 Wed 19:22
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