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「もう行って良い」 「畏まりました」 久義は器を一つ一つ、丁寧に和紙に包み、行李の中に詰めていった。 何度もそうしているのだろう。どこに何を入れるのか、その順番まで決められているようで、美しい所作で片付けていく。 「それでは、これで失礼いたします」 久義は小さくお辞儀をすると、行李を手にして部屋を出た。 行きとは全く違う気持ちで、使用人棟までの道を歩いて行く。 そうして本館を出てしばらくすると、ズボンのポケットに入れていた携帯がバイブした。部屋に戻ってから確認すると、それは...
真昼の月 | 2022.12.10 Sat 22:56
先週の更新は、土曜日ではなく、日曜日にさせて貰いました💦 もし前回の更新をお読みでない方がいらしたら、「金魚の恋 17」を先にご覧下さると嬉しいです。 イヌ吉拝 ----------------------------------------- 「すごいな……」 平皿や銘々皿などには金魚が絵つけられ、小丼や小鉢の底には、立体の金魚がガラスの中に閉じ込められていた。 「これが先日食べたKINGYOの原型か」 「はい。砕いたガラスを底に敷いて窯に入...
真昼の月 | 2022.12.03 Sat 23:28
皆様、コメントありがとうございます。 お礼が送れていて、大変申し訳ありません💦💦 お返事はコメントをいただいた順に書いております。 先に書いていただいた方のリコメが下になっておりますので、もし自分へのレスがないな、と思われたら、下の方をググッとスクロールしていただけると嬉しいです。 イヌ吉拝 07:30:はるりん様 コメントありがとうございます!! そ、そうだったんですね!?はるりん様だったのですね!??!? いつもありがとうござい...
真昼の月 | 2022.11.30 Wed 19:22
◇◇◇ ◇◇◇ 「金魚のティーセットですか?畏まりました。すぐにお持ちします」 やれやれと思いながら、ヒースは仕方なく頭を下げた。 ウィリアムになら、言ってくれれば休日に見せることもできるのに。なんでわざわざ勤務中に呼びに来るんだ。 ……なんだかんだ言っても、やっぱりあの人は貴族のお坊ちゃまなんだな。そりゃそうか。テオドア様のご学友なんだし。人が自分の為に動くのが当然なんだろう。 こないだは、ウィリアムと親しくなったと思っていた。ロンドンで暮らすしがない...
真昼の月 | 2022.11.27 Sun 22:56
◇◇◇ ◇◇◇ 「は!?またヒースを呼び出し!?」 申し訳なさそうに久義を呼びに来たメイドに、光留もシェフパティシエのウッディもすぐに牙を剥いた。 「若様達はヒースを何だと思ってるんだ!奴らの玩具になる為にここに居る訳じゃないんだぞ!」 支配人のニコラスまで怒りまくっているが、逆に怒られて憤慨したのか、さっきまで申し訳なさそうにしていたメイドも強気に出始めた。 「そうは言ってもお給料を払っているのは伯爵家ですよ!良いから早く来て下さい!」 連れて行かなければ自分がとばっちりを...
真昼の月 | 2022.11.19 Sat 23:16
「ほら、車も小さい訳だし、あんまり私をテオドアのような貴族とは一緒にしないでくれよ?」 「車の大きさは関係ないじゃないですか」 「じゃあ、イタ車※に乗ってる私のことは、テオドアと同じように思わないで?」 ウィリアムがテオドアの貴族趣味をからかうと、久義も思わず笑ってしまった。 「くく、ウィルって……本当に思っていた人とは違いますね」 「そう?君の目に私はどういう風に写っていたのか、怖いね」 「そりゃ、いつも顰めっ面で、テオドア様より怖い方だと思っていました」 「ヒースを怯え...
真昼の月 | 2022.11.12 Sat 22:20
「本当にもう帰ります!俺、仕事を残してきてるんです!」 「しょうがないな」 残念そうに溜息をついたウィリアムは、それでも腕の囲みを解こうとしない。 「じゃあ、ウィルって呼べたら帰してあげよう」 「……!」 思わずギッと睨んでしまったが、それでもウィリアムはニヤニヤと笑っている。これはダメだ。ダメな奴だ。くそ!! 「分かった、ウィル!これで良いんだろ!?」 「よくできました」 そう言うなり、ウィリアムはパッと両手を壁から離して、肩の脇でばんざいのポーズをした。 ...
真昼の月 | 2022.11.05 Sat 16:51
「そ……そういう事を言う方だとは思いませんでした」 真っ赤になった久義に、思わずウイリアムは声を上げて笑った。 「あははは、素直な良い子だ」 「俺は子供じゃありません!」 「知ってるよ。もう二十五なんだろう?」 「そうです!」 「くくく、私より三つも子供だ」 そう言うなり、ウィリアムは久義の髪をそっと撫で、それから頬を指先でさらりと撫でた。 「……ウィ、ウィリアム様……」 「ウィルで良い」 「貴族の方はご家族間やよほど親しくないとあだ名では呼...
真昼の月 | 2022.10.29 Sat 23:59
「次はこっちも見てくれるかい?水草や流木のレイアウトに凝ってみたんだ。ああ、ワキンやデメキンはこっちに種類ごとに入れていて、ブリーディングもしているんだよ」 なるほど、機能的な水槽には、種類毎に金魚が分けられていた。まるで金魚の水族館のようだ。 しかもそれらの水槽は、中に入れる砂利の色や大きさ、流木や石、水草などにもそれぞれ違う工夫を凝らし、どれも見ていて飽きない作りになっている。 「本当に綺麗ですね。時間を忘れてしまいます」 「どの水槽が好き?」 「そうですね……どれも...
真昼の月 | 2022.10.22 Sat 22:36
◇◇◇ ◇◇◇ フィッツガード伯爵邸は、南に向かって本館が建ち、西翼と東翼がせり出すコの字型の城だ。その本館と西翼をホテルとして貸し出し、フィッツガード伯爵家族は東翼に居住している。 ホテル業は専門の業者に任せ、伯爵一家は経営には関わらず、使用料だけを受け取っているのだそうだ。 「庭や屋敷の改装も、経費になるからと喜んでいるようだが……どのみち費用がかかることに変わりはないのだけどね」 そう言って、ウィリアムは実家である城を見上げて小さく嗤った。 かつて...
真昼の月 | 2022.10.15 Sat 22:05
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