[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]

嬉しい。 会いに来てくれた。 ああ、ダメだ。俺達はもう会わない方が良いのに。 それでも、それでもウィルが会いに来てくれた。こんな、極東の地の、更に小さな山奥まで。 どうしよう。どうしよう。 それが、こんなにも嬉しいなんて。 驚愕と、困惑と、それでもどこか熱の籠もった瞳でウィリアムを見つめていることに、久義は気づいているのだろうか。そんな久義の頬を、ウィリアムの両手がそっと包んだ。 「泣かないでくれ。今すぐここで抱きしめたくなる」 「え?」 泣かないでくれ?なんで、そ...
真昼の月 | 2023.12.10 Sun 16:04
窓を開け、細いつららを探す。ポキンと折って、口に運ぼうとして、こないだも祖母に怒られた事を思い出す。 子供の頃はいつもつららをアイスキャンディーだと言っては口に運び、『ばっちいからやめなさい!空気中の塵とか埃がついているんだから!!』と怒られたものだ。大人になった今でも、透明なつららは美しく、理屈では分かっていても、とても汚れているようには見えない。 『ちゃーちゃん、入るわよ』 今まさにつららを口に運ぼうとした時、作業場のふすまが開いて、祖母が入ってきた。 『まぁ!あんたいくつ...
真昼の月 | 2023.12.03 Sun 00:20
「義母上、伊嶋焼きというのは、日本のどこで作っているのですか?」 「伊嶋焼き?ああ、久義さんのお父様の?」 「教えて下さい」 いつになく真剣に真理恵に向かうウィリアムに、真理江は驚いた顔をした。だが、彼女はその理由も聞かず、すぐに晴れやかな笑顔をウィリアムに向けた。 「そうね。人生には、決断が必要だわ。私もイギリスに来る時には、大昔の少女マンガみたいに、悪役令嬢達に苛められるのを覚悟してここに乗り込んできたのよ!どんな苦難が待ち受けても、愛する二人は負けないのよ!ってね!」 ぐっ...
真昼の月 | 2023.11.18 Sat 20:10
「だって私は日本人だもの!日本から送ってもらう海産の瓶詰めだけじゃ物足りないわ!日本とイギリスじゃお水が違うんだから、やっぱり日本のお水で炊いたお米が食べたいのよ。新潟はお米もお酒も本当においしいのよ。ああ、あなた達にも食べさせてあげたいわ」 「じゃあぜひ今度私達も日本にお連れ下さいね」 「そうね!それはとても良い考えだわ!」 真理恵が名案とばかりに手を打つと、若いアンは「きゃ〜!」と嬉しそうに叫んでスコット夫人に軽く睨まれた。 「アン、奥様はあなたの同級生ではありませんよ?」 「あら...
真昼の月 | 2023.11.11 Sat 22:00
あなた達には分からない。我々のような身分の者があなた方のような身分の方と共に接するということがどういうことなのかを。友情などと言いながら、あなたは久義に何をした。幼い頃からこの地でどんな思いをしても、久義は日本に逃げるなんて今迄考えたことはなかった。それなのに、“友情”と称してあなたは久義に何をしたのだ。“友情”と語りさえすれば、何をしても良いのか。 そう思ってウィリアムに対しても一歩も引こうとしない謳子に、ウィリアムは小さく言い放った。 「ではあなたは、仕事と...
真昼の月 | 2023.11.04 Sat 22:42
「久義と連絡が繋がらなくなりました。連絡先を教えていただけないでしょうか」 一瞬、謳子はどう返したものか考え込んだようだった。だが、口元に微笑を浮かべ、小さく肩を竦めて見せた。 「日本のあちこちで羽を伸ばしているのでしょうね。主人の里は山奥だから、携帯も機種によっては繋がらないし」 「あなたはどうやって連絡を?」 「直接電話してるんです」 視線を彷徨わせるようにしてそう言う謳子は、ひょっとしたら本当のことを話してはいないのかもしれない。日本のような国で携帯が繋がらないなんて事があ...
真昼の月 | 2023.10.28 Sat 22:08
「いつまでもあんな日本人に振り回されているつもりだ。お前は日本人が嫌いだったんじゃないのか」 思わずそう声をかけると、ウィリアムは携帯からテオドアに視線を動かし、意外そうな顔をした。 「私は今迄に一度も、日本人が嫌いだなんて言ったことはないぞ。ただ父が義母の為に、母との思い出をメチャクチャにすることを許しがたく思っているだけだ」 そう言って、また足下に視線を落としたウィリアムをの眉は、辛そうに歪んでいた。テオドアはそんなウィリアムに鷹揚に頷いて見せる。 「ああ、...
真昼の月 | 2023.10.21 Sat 22:12
◇◇◇ ◇◇◇ テオドアは今日、フィッツガード伯爵からの招待で、バーマストン伯爵夫妻や久義の母謳子と共にフィッツガード邸を訪れていた。謳子も招待されたのは、先日届けてくれたお節料理に対する返礼のようで、お茶会の中でも最も格式の高いアフタヌーンティーへの招待となったようだ。 もっとも、いつも通りウィリアムとテオドアは両親達とは別行動で、そのお茶会には参加していないのだが。だが先ほどから、ウィリアムの私室で向かい合っているウィリアム本人は心ここにあらずで、それがテオドアを少々苛立たせて...
真昼の月 | 2023.10.14 Sat 22:08
『……なぁ、久義。ゆっくりしていくんなら、少し真面目にロクロでも回していくと良い』 『うん、ありがとう』 久義の作る和菓子をいつも手放しで褒めてくれる伸吉だが、それでも何か少しでも良いから作陶するようにと久義に勧めていた。久義も毎年、必ずロクロに向かって某(なにがし)かを作っていく。ロクロを回して土に向き合うことは精神統一にもなるのだろう。東京の店とはまた違うピリリと張り詰めた空気。土に向かっている間は、己の内と対話しているような気持ちになった。 『お前の和菓...
真昼の月 | 2023.10.07 Sat 22:02
『ありがとう、ちゃーちゃん!』 『あ、これ雑誌で見たことある!ちゃーちゃん、並んだんじゃない!?』 祖母がいつも久義を子供の頃の呼び名で呼ぶから、伊嶋の親戚達は祖母に倣ってみんな久義を“ちゃーちゃん”と呼ぶのだ。 皆歓声を上げて思い思いのお菓子を選ぶと、互いの近況を話ながらお菓子に舌鼓を打った。 今年結婚をした子もいれば、子供が増えた者もいる。小学校に入学した小さい従兄弟もいれば、村から出て、街で職を得た従兄弟もいる。今年村に来たばかりのアイスランド人の...
真昼の月 | 2023.09.30 Sat 12:09
全1000件中 111 - 120 件表示 (12/100 ページ)