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ウィリアムは一瞬固まった。どう反応したら良いのか分からなかったのだ。 久義がそう言ってくれたことは嬉しい。だが、彼と一緒に帰ったらどうなる? 信吉の言うように、きっとウィリアムの周りにいる者は皆、久義を悪者に仕立て上げ、彼に自重を求めるだろう。例え自分が久義を愛しているのだからと言っても、そんな事は関係ない。彼らは彼らの見たい物を見て、信じたいように信じるだろう。 大きな領地を曲がりなりにも維持し続けている伯爵家の嫡男を誘惑する、外国人の男。そんな分かりやすい記号的な物でしか見られ...
真昼の月 | 2024.06.16 Sun 04:34
◇◇◇ ◇◇◇ 久義の熱は夕方には下がり、夕飯は皆と一緒にこたつで食べられるようになった。 『ちゃーちゃん、大丈夫?無理しないで、だるかったらすぐ上に戻るのよ?』 おばあちゃんはそう言って、久義に厚めの袢纏(はんてん)を着させ、ご飯の代わりに卵粥をよそってくれた。その心遣いがありがたいが……まぁ、熱の原因が原因なので、申し訳なさの方が買ってしまうのだが。とにかく気詰まりで、そそくさと夕飯を食べようとして、またおばあちゃんに注意されてしまう。 『ほらちゃーちゃん。病...
真昼の月 | 2024.06.09 Sun 05:09
謳子はこの村を出てから、1度もここに来たことはないと聞いた。それでも、久義は幼い頃から冬になると1人でこの村に来ていたのだと。 信吉がいなければ、久義の父親は妻と子供と一緒に、もっと早くに村を出ていたのかもしれない。そうすれば、彼が死ぬこともなかったのかもしれない。そう思っても仕方がないだろうに、それでも謳子は久義をこの村に毎年送り出していた。自分を決して認めようとはしなかった、信吉の所に。 信吉と謳子と久義の間には、自分ではとても立ち入れないような想いがあるのだ...
真昼の月 | 2024.06.02 Sun 00:20
不思議そうな顔をするウィリアムに、信吉は苦笑した。 「まぁ、とにかく、1度国に帰って、お父上やお母上とちゃんと話し合ってきな。やるだけのことをやって、久義にあんたを負い目に思わないようにしてやってくれ。それができて初めて、村の連中はあんたを本当の意味で迎え入れるだろうさ」 その言葉に、ウィリアムは自分の考えが間違いではないことを感じた。 ああ、おじいさんは……。 「男同士で外国人の私とのことを、赦して下さるんですか」 大切な、大切な孫だろう。信吉がどれだけ久義...
真昼の月 | 2024.05.26 Sun 04:49
◇◇◇ ◇◇◇ 朝食を食べ終わったウィリアムに、「少しその辺を散歩しないか」と誘ったのは信吉だった。 信吉は結構な年だというのに、この村で育ってきた為だろうか、全く危なげなく雪の中を歩いて行く。 『おじいさん』 信吉の後ろを歩きながら、そっと声を掛ける。こんな雪の中を2人で歩くなんて、何か話があるのではないかと思ったのだ。 それでも、信吉は何も言わずにザクザクと歩いて行った。 信吉はウィリアムよりも久義よりもずっと背は小さい。その小さな背中を見ながら、ウィリアムはた...
真昼の月 | 2024.05.19 Sun 00:12
◇◇◇ ◇◇◇ 翌朝、情けないことに久義は熱を出してしまった。 体の節々が痛いのは、熱の為だと思いたい。決して、あんな事やこんな事をしたせいだとは思いたくない。 「ヒ、ヒース、大丈夫か……?」 ウィリアムがオロオロとしているのが可愛らしかった。そんなに心配してくれなくても大丈夫だし、そんないかにも「自分のせいです」みたいな顔をしてたら、誰かに気づかれちゃうかもしれないのに。ちょっと恥ずかしいから、もう少し普通にしててくれないだろうか。 まぁもっとも、ばあち...
真昼の月 | 2024.05.12 Sun 05:57
(R15)です。当blogは18才未満の方は読んでいないはずですが、苦手な方、生理的に無理な方が読んでしまわないように、一応たたみます。大丈夫おっけーどんとこい!という方だけ「続きを読む」を押すか、もしくは下にスクロールしてお読み下さい。 -----------------------------
真昼の月 | 2024.04.28 Sun 03:53
(R15)です。当blogは18才未満の方は読んでいないはずですが、苦手な方、生理的に無理な方が読んでしまわないように、一応たたみます。大丈夫おっけーどんとこい!という方だけ「続きを読む」を押すか、もしくは下にスクロールしてお読み下さい。 -----------------------------
真昼の月 | 2024.04.20 Sat 22:34
テオドアも、そうしてもちろんウィリアムも人知れぬ努力を積み上げてきた。日本人の久義からすると横柄で威圧的に見えるテオドアの態度だって、あれは貴族であろうとする彼の努力で作られた物なのだ。 それをこの人は、まるで何でも無い事のように弟に譲ろうと言う。そうあるべきと育てられてきた全ての努力をなかった物のようにして。 「……それだけ、君が大切なんだよ」 ウィリアムの唇が、久義の髪の間に埋められる。優しい抱擁。そのまま何度も何度も啄むように、ウィリアムは久義の顔や髪にキスを降...
真昼の月 | 2024.04.14 Sun 02:35
貴族としての体面を常に気にしていた、古いタイプの貴族に育てられた母は、自分が育てられたようにしか自分の子供を育てる方法を知らなかった。子供が生まれたら乳母に預け、長ずればパブリックスクールに入れて高等教育を受けさせる。たまの休暇に帰ってきても、慈善活動や懇親会、パーティーなどの社交に精を出し……それが、貴族夫人の仕事なのだからと微笑んでいた。 それでも、ウィリアムが家に帰ってくる時には、できるだけ一緒にいてくれたと思う。父の鯉に負けないようにと、2人で金魚を育てて。母と...
真昼の月 | 2024.04.07 Sun 03:13
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