[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]
◇◇◇ ◇◇◇ そこからどうやって帰ってきたのかよく覚えていない。まぁ無事に帰ってきたのだから、おかしな運転はしなかったのだろう。 車を駐車場に停め、久義は報告の為に本館に顔を出した。玄関ホールを入ってすぐに執事のトーマスが現れる。久義を待っていたようだ。 「トーマスさん、遅くまですいません。ラッセル子爵を無事フィッツガード城にお送りしてきました」 「ご苦労様です、ヒース。ちゃんと残業としてつけておきますからね」 昔は奉公人は二十四時間勤務だったが、今は時代が違うの...
真昼の月 | 2023.07.15 Sat 18:58
◇◇◇ ◇◇◇ ウィリアムを降ろし、彼の姿が見えなくなるまで走ると、久義はノロノロと車を路肩に停めて、ハンドルに覆い被さるようにして溜息をついた。 どうして、こんなに息が苦しいんだろう。 ウィルが自分を思いやってくれる気持ちが痛くて、辛くて、どうしてこんなに泣きたくなるんだろう。 ウィルが言うように、ローズウッド城を出て……そんな事を考えた事もあった。だが、それはすぐに心の奥深い所に沈んでいった。 ローズウッド城を出て、どうする?ウィルのそばに行く?ロン...
真昼の月 | 2023.07.08 Sat 22:10
「ヒース!」 だが、勢い込んで言おうとした台詞は、そのまま口を出ることはなかった。 久義の固く結ばれた唇。穏やかに凪いでいると思った瞳は、今は何かを堪えるように僅かに揺れていた。 そうだ。ヒースも、何かを耐えている。彼だって、辛いのだ。 「ヒース……。君は、私と一緒にいるのは辛い……?」 ウィリアムの声は震えていた。それに応える久義の声も。 「……そうだね。少し、辛いよ……。ウィルは、金魚の話ができれる友人を、他で探せば良い。...
真昼の月 | 2023.07.02 Sun 00:18
ぐるぐると考え込んでいるウィリアムをどう思ったのか、久義は前を見つめながら、残酷な言葉を口にした。 「……金魚の陶器が欲しいのでしょう?」 陶器よりも硬く、冷たい声だった。いつもの久義の声とはあんまりにも違うから、最初、彼の言葉の放った意味を捕らえることが出来なかった。 ……なに?今、ヒースはなんと言った……? 金魚の陶器?金魚の陶器だって?金魚の陶器!そんな物を、今更……!! 「そんなつもりが無いことは、君だって分...
真昼の月 | 2023.06.24 Sat 22:17
「……分かった。他でもない、ゲストの望みなのだからな。誰か、ヒースを呼んできてくれ」 それがあくまでも自分の意思であるかのように、テオドアは重々しく周りの使用人達に指示を出した。 周りで様子を伺っていたメイドの一人がすぐに一礼して部屋から出て行く。久義を呼びに行ったのだろう。彼が来るまでの間、二人は言葉もなく、ただテオドアはウィリアムを睨みつけ、ウィリアムは感情の見えない微笑みを唇に刻みつけていた。 どれだけそうしていたのか。 「テオドア様、ヒースをお連れしました」 ...
真昼の月 | 2023.06.17 Sat 23:21
◇◇◇ ◇◇◇ 結局三回スヌーカーをプレイして、二対一でウィリアムが勝利した。テオドアに言わせれば、ビリヤードは背も高く、手足も長いウィリアムが有利だ、という事になるのだが、真相は明らかではない。 勝敗が思い通りにならなかったせいか、……それとも、話の内容が思い通りにならなかったせいか、テオドアの機嫌はとても良いとは言えなかった。だが、ウィリアムにそれを気にする様子はない。 「ずいぶん遅くなってしまったが、マウリッツは良い子にしているかな?」 そうメイドに笑いなが...
真昼の月 | 2023.06.10 Sat 22:08
◇◇◇ ◇◇◇ 真理江が温室で夫人方のお茶会を“楽しんでいる”間、ウィリアムはテオドアと遊戯室でスヌーカーに興じていた。 スヌーカーはビリヤードの一種だが、プールテーブルの大きさも違えばボールの数も大きさも違う。ルールは簡単に言えば、まずレッドボールをポット───ポケットに落とし、次にカラーボールをポットしていく、というものだ。カラーボールの色によって配点が決まっており、カラーボールを宣言してからその色のボールをポットする。レッドボールは連続して落としても構わないが...
真昼の月 | 2023.06.03 Sat 23:15
「よろしかったら、貴族の子息達を数多く教えている乳母を紹介しましてよ?ちゃんとした乳母を雇い入れることは大切な事ですもの。彼女たちは貴族としての振る舞いや常識を教えてくれることはもちろん、暴漢や誘拐だけでなく、パパラッチやSNSから身を守る方法も身につけさせてくれるの」 カートレット伯爵夫人がそう言えば、ボイル子爵夫人もその通りだと深く頷いた。 「フィッツガード伯爵家なら、キャロライナ夫人がよろしいのでは?彼女は侯爵家のお子様達を育て上げて、現在は手が離れている筈だわ」 あの方なら、キ...
真昼の月 | 2023.05.27 Sat 22:14
◇◇◇ ◇◇◇ 「まぁ、フィッツガード夫人!本日はようこそいらっしゃいました!」 結局、真理江はマウリッツ……海翔を連れてお茶会に参加することにした。個人的なお茶会なのだから、子供を連れて行っても良いかと打診したら、大丈夫だと返事が来たのだ。 それでも、念のためにフィッツガード伯爵……アンドリューとウィリアムも着いてきて、二人はそれぞれ、伯爵とテオドアの元で交友を温めている。 お茶会は温室で行われた。温室には珍しい植物も多く植えられており、これらはバー...
真昼の月 | 2023.05.21 Sun 01:52
◇◇◇ ◇◇◇ ウィリアムの言うとおり、真理江は高野親子を諦めてはいなかった。既に一回、バーマストンと来訪の予定が合わず、お茶菓子を連続でポーターが運んできた時点で諦めても良さそうなものなのに、「次はいつバーマストンへ行こうかしら」などと言っているのは大した物だ。 フィッツガード伯爵家には、執事はいない。代わりに家政婦とメイドが二人いるのだが、家政婦のスコット夫人からは遠回しにそろそろ諦めたらいかがと言われている。それでも諦めないのが真理江だ。 「そうだわ。謳子さんに連絡し...
真昼の月 | 2023.05.13 Sat 23:19
全1000件中 71 - 80 件表示 (8/100 ページ)