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「俺は、どこにでもいるおじさんで、君の周りには若くて美しくて、君にふさわしい人がたくさんいる。俺は……ただの、君のファンで……。そんな俺が君に愛されるなんてあり得ないし、そんなのはいっときの気の迷いだって……」 「違う!俺は……!!」 大雅は奏の台詞を遮るように叫んだ。だが、まるで大雅の声が聞こえていないかのように、奏は話し続けた。どこか茫洋とした、心をどこかに置き忘れたような声だった。 「君の隣に立つのは、君と同じ...
真昼の月 | 2022.02.23 Wed 22:19
博物館を出てから、二人はまた並んで歩いた。アポロンとアルテミスが生まれたとされる“聖なる湖”に辿り着いた時、大雅の手は奏の手をそっと握りしめていた。奏はビクリと肩を震わせて、大雅を振り返った。 「頼む。振りほどかないでくれ。それとも、この手を振りほどかないといられないくらい、俺の気持ちは迷惑か……?」 「そんな言い方……」 そんな言い方は、ズルい。自分がLOKIのファンであると先ほど告げたばかりなのに。 「ほら、“聖なる湖&r...
真昼の月 | 2022.02.22 Tue 22:03
寧音の手は小さくて、頬に触れられても、空気のように軽かった。自分が守るべき手だ。そう思えば、その手は余計に小さかった。 小さくてほっそりとした、寧音の手。奏は、その手しか知らない。 もっと小さい頃には、誰かがこうしてくれただろうか。 ……いいや、自分の父も母も、子供を慈しむように触れる事はしない人達だった。いつも自分の事に必死で、出来損ないの自分には見向きもしなかった。 今迄自分に触れてくれたのは、寧音の小さな手よりほかになかったのだ。 ...
真昼の月 | 2022.02.21 Mon 22:21
確かに、あのキャンプの時の優吾は少しおかしかった。あんな風に、私生活に横やりを入れられた事も初めてだ。でも優吾からしてみれば、LOKIという有名モデルを前にして、自分が舞い上がっているように見えたのだろう。今まで誰にも告られた事もなければ告った事もない、免疫のない自分の前に初めて現れたのがLOKIなのだ。優吾が心配するのは仕方ないのかもしれない。 でも。 「確かに優吾には昔から世話になりっぱなしだから頭が上がらないけど、あいつと付き合うってのは無いなぁ。俺と違って優吾は...
真昼の月 | 2022.02.20 Sun 22:04
「えっと……あんまりゆっくりしてると、帰りのフェリーに間に合わなくなるから……」 「ああ、そうか。ちっ。せっかく良い雰囲気だったのに」 心底残念そうに言う大雅に、奏はもう一度笑ってしまった。 「笑い事じゃないぞ?」 「ごめん。そうなの?さ、行こうか」 「ああ」 やっと大雅の胸から解放されて、奏は小さく安堵の息をついた。 あんな風に冷静な振りなんてしてたけど、本当は今も胸がバクバクしていた。だって、LOKIに抱きしめられたんだぞ...
真昼の月 | 2022.02.19 Sat 22:36
「お前は…っ!そうやって、自分は関係ないって思ってるのかもしれないけど、お前がそうやって鈍感だから俺がいつまでも心配するんじゃないか!」 「お前に心配してもらわなくても結構だよ。さぁ、この話はお終い!せっかく作った飯がまずくなるから、もう二度とこの話はするなよ」 さっさと踵を返して自分達のバンガローに戻っていく奏を見つめながら、優吾はまだその場を動くことができずにいた。だって、あの男が奏を狙っているのは一目瞭然だ。今迄寧音を育てることに必死で、自分の恋愛どころではなかった奏が、...
真昼の月 | 2022.02.18 Fri 22:36
「寧音が俺の幸せだよ。俺は寧音がいればじゅうぶん幸せなんだ」 「でも…っ!」 大切な、大切な一人娘。この子が本当の娘じゃないなんて、そんなことある訳がない。だって、ずっと自分が育ててきたんだ。夏の暑い日も、冬の寒い日も、二人で一緒に暮らしてきた。寧音がいたから頑張ってこられた。寧音がいたから幸せだった。それなのに、そんなことを寧音が考えていたなんて。 「お前は俺の本当の娘だ。お前が俺の本当の娘じゃないなんて、そんなこと、寧音にだって言わせない」 「パパ&hellip...
真昼の月 | 2022.02.18 Fri 22:35
「だいたい、寧音ちゃんはお前に、早く結婚して、本当の子供を持ってもらいたいって、いつも言ってるだろ?お前だってそれは知ってるよな?」 「そ…」 そんなこと分かってる。そう言おうとしたその時。 「優吾ちゃん」 バンガローのドアが開いて、寧音が優吾を睨みつけた。はっとして優吾と奏、それぞれが固まると、「ちょっと顔貸してちょうだい」と、優吾の腕を掴んで水場に向かってずんずん歩いていく。 「いや、あの、寧音ちゃん……」 今の話...
真昼の月 | 2022.02.18 Fri 22:34
「……お前さ、困ってることとか……あるんじゃねぇの?」 「困ってること?」 前にも優吾はそう言っていた。自分はそんなに困った顔をしているのだろうか。 「ああ。ほら、引っ越しのこととかさ。……あの兄ちゃん?なんか、お前に無理難題言ってるんじゃないのか?」 「え?いや……」 大雅が、無理難題……そう言われて即座に思い起こしたのは、昨日の会話と、こないだの……キスだった。 変な顔をして...
真昼の月 | 2022.02.18 Fri 22:31
「そこで見ててくれ。写真撮っても動画撮っても大丈夫だから!」 「本当に良いのか?俺、本当に撮っちゃうぞ?」 慌ててスマホを構えると、大雅はニコッと笑い、一度下を見て、それからクッと顔を上げた。 「!」 それは、さっきまで目の前にいた大雅とは、全くの別人だった。 強い瞳がまっすぐに奏を見つめる。 腹の底がぶわっと熱くなるのを感じた。感動して、指が震えそうになる。 LOKIだ。あそこにいるのは、LOKIだ……。 ...
真昼の月 | 2022.02.18 Fri 22:29
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