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「えっと……あんまりゆっくりしてると、帰りのフェリーに間に合わなくなるから……」 「ああ、そうか。ちっ。せっかく良い雰囲気だったのに」 心底残念そうに言う大雅に、奏はもう一度笑ってしまった。 「笑い事じゃないぞ?」 「ごめん。そうなの?さ、行こうか」 「ああ」 やっと大雅の胸から解放されて、奏は小さく安堵の息をついた。 あんな風に冷静な振りなんてしてたけど、本当は今も胸がバクバクしていた。だって、LOKIに抱きしめられたんだぞ...
真昼の月 | 2022.02.19 Sat 22:36
「お前は…っ!そうやって、自分は関係ないって思ってるのかもしれないけど、お前がそうやって鈍感だから俺がいつまでも心配するんじゃないか!」 「お前に心配してもらわなくても結構だよ。さぁ、この話はお終い!せっかく作った飯がまずくなるから、もう二度とこの話はするなよ」 さっさと踵を返して自分達のバンガローに戻っていく奏を見つめながら、優吾はまだその場を動くことができずにいた。だって、あの男が奏を狙っているのは一目瞭然だ。今迄寧音を育てることに必死で、自分の恋愛どころではなかった奏が、...
真昼の月 | 2022.02.18 Fri 22:36
「寧音が俺の幸せだよ。俺は寧音がいればじゅうぶん幸せなんだ」 「でも…っ!」 大切な、大切な一人娘。この子が本当の娘じゃないなんて、そんなことある訳がない。だって、ずっと自分が育ててきたんだ。夏の暑い日も、冬の寒い日も、二人で一緒に暮らしてきた。寧音がいたから頑張ってこられた。寧音がいたから幸せだった。それなのに、そんなことを寧音が考えていたなんて。 「お前は俺の本当の娘だ。お前が俺の本当の娘じゃないなんて、そんなこと、寧音にだって言わせない」 「パパ&hellip...
真昼の月 | 2022.02.18 Fri 22:35
「だいたい、寧音ちゃんはお前に、早く結婚して、本当の子供を持ってもらいたいって、いつも言ってるだろ?お前だってそれは知ってるよな?」 「そ…」 そんなこと分かってる。そう言おうとしたその時。 「優吾ちゃん」 バンガローのドアが開いて、寧音が優吾を睨みつけた。はっとして優吾と奏、それぞれが固まると、「ちょっと顔貸してちょうだい」と、優吾の腕を掴んで水場に向かってずんずん歩いていく。 「いや、あの、寧音ちゃん……」 今の話...
真昼の月 | 2022.02.18 Fri 22:34
「……お前さ、困ってることとか……あるんじゃねぇの?」 「困ってること?」 前にも優吾はそう言っていた。自分はそんなに困った顔をしているのだろうか。 「ああ。ほら、引っ越しのこととかさ。……あの兄ちゃん?なんか、お前に無理難題言ってるんじゃないのか?」 「え?いや……」 大雅が、無理難題……そう言われて即座に思い起こしたのは、昨日の会話と、こないだの……キスだった。 変な顔をして...
真昼の月 | 2022.02.18 Fri 22:31
「そこで見ててくれ。写真撮っても動画撮っても大丈夫だから!」 「本当に良いのか?俺、本当に撮っちゃうぞ?」 慌ててスマホを構えると、大雅はニコッと笑い、一度下を見て、それからクッと顔を上げた。 「!」 それは、さっきまで目の前にいた大雅とは、全くの別人だった。 強い瞳がまっすぐに奏を見つめる。 腹の底がぶわっと熱くなるのを感じた。感動して、指が震えそうになる。 LOKIだ。あそこにいるのは、LOKIだ……。 ...
真昼の月 | 2022.02.18 Fri 22:29
◇◇◇ ◇◇◇ デロス島でフェリーを降りると、そこはまさに遺跡の宝庫だった。 他の観光客達も景色を眺めたり、写真を撮ったりするのに夢中で、こちらを気にする人はいないようだ。 「すごいタイルだな」 「デュオニソスの家だって。個人の名前だよね?列柱も残っててすごい格好良いね」 ギリシア神話でデュオニソスといえば、豊穣と葡萄酒の神だ。イタリア神話のバッカスと言った方が分かりやすいだろうか。きっとデュオニソスにあやかって名前をつけた、裕福な商人の邸宅...
真昼の月 | 2022.02.17 Thu 22:27
大雅はやたらと反対しまくっているが、元より奏には興味のない場所だ。 そもそも奏は男に興味がある訳ではないし、女性のヌードはこんな太陽キラッキラのビーチで見る物でもないと思っている。仮に奏がゲイだったとしても、目の前に完璧な肉体と美貌を備えた男が立っているのだ。そんな所で有象無象の裸を見てもしょうがないだろう。 ────まぁ、大雅の裸なら見るのかと言われても、微妙な所ではあるが……。 ポスターや雑誌で見るLOKIは、神々の作った芸術品である。だから寸分の...
真昼の月 | 2022.02.17 Thu 02:06
大雅はやたらと反対しまくっているが、元より奏には興味のない場所だ。 そもそも奏は男に興味がある訳ではないし、女性のヌードはこんな太陽キラッキラのビーチで見る物でもないと思っている。仮に奏がゲイだったとしても、目の前に完璧な肉体と美貌を備えた男が立っているのだ。そんな所で有象無象の裸を見てもしょうがないだろう。 ────まぁ、大雅の裸なら見るのかと言われても、微妙な所ではあるが……。 ポスターや雑誌で見るLOKIは、神々の作った芸術品である。だから寸分の...
真昼の月 | 2022.02.16 Wed 22:39
◇◇◇ ◇◇◇ 翌日は、打って変わって朝から大忙しだった。何しろ一週間も休みを取ったというのに、もう明日にはこの島を発たないといけないのだ。 「パパ、私達は猫の写真を撮りに行ってくるから、パパ達は二人で楽しんできてね」 「ああ、ゆっくりしておいで」 「なぁ兄さん、ギリシアって、俺の英語でも何とかなるかな」 「平気だろ?世界中の人が観光に来る島だぞ?」 さっきから大成はガイドブックの巻末に載っているギリシア語の挨拶をずっと繰り返し、寧音に「行きゃ...
真昼の月 | 2022.02.15 Tue 22:43
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