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「……お前さ、困ってることとか……あるんじゃねぇの?」 「困ってること?」 前にも優吾はそう言っていた。自分はそんなに困った顔をしているのだろうか。 「ああ。ほら、引っ越しのこととかさ。……あの兄ちゃん?なんか、お前に無理難題言ってるんじゃないのか?」 「え?いや……」 大雅が、無理難題……そう言われて即座に思い起こしたのは、昨日の会話と、こないだの……キスだった。 変な顔をして...
真昼の月 | 2022.02.08 Tue 22:01
「ん…奏?」 寝ぼけているのか、低く掠れた声が耳元を掠めて、奏はゾクリとした。うぅう、イケメンは声までイケメンだ。奏より六つも年下だというのに、この色気には、自分はいくつになっても辿り着けないだろう。 「トワレがどうしたって……?」 「あ、ごめん。何でもないよ」 「……そう?」 大雅はそのまま大きくあくびをすると、奏の髪の中に鼻を突っ込んできた。 「うわ、ちょ、大雅君、やめろよ。俺、汗臭いだろ?」 「んん……。焚き...
真昼の月 | 2022.02.07 Mon 22:05
◇◇◇ ◇◇◇ 朝目が覚めると、横臥して眠っていた自分の後ろに、ぴったりと寄り添うように大雅が眠っていた。大雅の頭が奏の肩にはまり込み、長い脚がスプーンを重ねたように、自分の脚にくっついている。 「あぁ、ちゃんと戻ってきて寝たんだ……。良かった」 奏はそう呟いて、大雅の寝顔を見下ろした。 弛緩した寝顔にも関わらず、恐ろしいほど整っていた。ベタな表現だが、ミケランジェロの彫像のような、というのは、こういう男のことを言うのだろう。 ...
真昼の月 | 2022.02.06 Sun 22:03
「たった二人の兄弟だろう?君が大成君の為に頑張れたように、大成君も君の為に頑張ってきたんだ。大成君に聞いてごらん。きっと大成君も、君に恩返しがしたいって言うよ?」 「そんなこと……っ!」 叫ぶなり、大雅は勢いよく首をうなだれてしまった。何かを堪えるように、その手は震えている。奏は大雅の震えが止まるまで、根気よく手を握り、優しい声で囁き続けた。 「寧音もね、すぐに恩返しって言うだろう?でもね、俺は寧音がいてくれるだけで救われてるんだ。寧音が幸せそうに笑っ...
真昼の月 | 2022.02.06 Sun 10:11
「ランウェイだけじゃ、正直食っていかれないんだよ。パルファムや下着の仕事が来ると結構金になってね。あいつが中学に上がった辺りで、そういう仕事も段々入ってくるようになった。俺の名前も結構売れてきて。CMなんかにも出られるようになって。で、すぐに親父に連絡したわけだ」 自分は今東京で水商売をしている。大成の将来の為にも、大成を東京の高校に通わせたい。金は俺が全額出すから、大成を引き取らせてくれ。そう言うと、父親は何も聞かず、「そうか」とだけ答えた。 あの女に見つからないように、進学に...
真昼の月 | 2022.02.06 Sun 10:10
「大成に言われたよ。兄さん、苛められてるの?って。俺は良いから、兄さんは逃げてって。そんなことできない。そう言ったけど、大成はああいうとき、本当に頑固なんだ。自分はあいつらにわざと甘えて媚び売ってやるから大丈夫。でも兄さんは、このままでいたら変な顔になっちゃうよって」 「変な顔?」 「ああ。俺はあの頃、相当変な顔をしていたらしい」 大雅が薄く笑うと、奏は痛ましさに唇を噛みしめるしかできなかった。 「その替わり、僕を迎えに来てって。一日も早く僕を迎えに...
真昼の月 | 2022.02.06 Sun 10:09
◇◇◇ ◇◇◇ 大雅と大成は七つ違いの兄弟だ。物心付いたときから両親の仲は不仲で、母親は自分達にあまり関心がないようだった。そんな母親に見せつけるように、父親は自分達を大切にしてくれていた……ように思っていた。 だが、大雅が十歳の時に母親が家を出てしまうと、父親は「仕事が忙しいから」と、あまり家には帰ってこなくなった。大成はまだ三つ。見かねた祖母が家に来てくれて、大雅と大成はおばあちゃんに育てられた。 大雅が十一歳の時に、父親は急に子連れの女を「...
真昼の月 | 2022.02.06 Sun 10:09
◇◇◇ ◇◇◇ バンガローとは名ばかりの山小屋の中で、奏はぽっかりと目を醒ました。小屋の中には小さな卓袱台が一つあるばかりで、皆銀マットの上でシュラフに入り、酒臭い寝息を立てている。 「あ〜、今何時だ?」 時計を確認しようにも、腕時計をつけた左腕もシュラフの中だ。モゾモゾとシュラフのジップを中から下げている間に、すっかり目が醒めてしまった。 時計を確認すると、まだ三時過ぎだった。草木も眠る丑三つ時。とはいえ、大量のアルコールを摂取した後...
真昼の月 | 2022.02.06 Sun 10:09
「たった二人の兄弟だろう?君が大成君の為に頑張れたように、大成君も君の為に頑張ってきたんだ。大成君に聞いてごらん。きっと大成君も、君に恩返しがしたいって言うよ?」 「そんなこと……っ!」 叫ぶなり、大雅は勢いよく首をうなだれてしまった。何かを堪えるように、その手は震えている。奏は大雅の震えが止まるまで、根気よく手を握り、優しい声で囁き続けた。 「寧音もね、すぐに恩返しって言うだろう?でもね、俺は寧音がいてくれるだけで救われてるんだ。寧音が幸せそうに笑っ...
真昼の月 | 2022.02.05 Sat 22:30
「ランウェイだけじゃ、正直食っていかれないんだよ。パルファムや下着の仕事が来ると結構金になってね。あいつが中学に上がった辺りで、そういう仕事も段々入ってくるようになった。俺の名前も結構売れてきて。CMなんかにも出られるようになって。で、すぐに親父に連絡したわけだ」 自分は今東京で水商売をしている。大成の将来の為にも、大成を東京の高校に通わせたい。金は俺が全額出すから、大成を引き取らせてくれ。そう言うと、父親は何も聞かず、「そうか」とだけ答えた。 あの女に見つからないように、進学に...
真昼の月 | 2022.02.04 Fri 22:43
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