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JUGEMテーマ:ものがたり 森の奥深くは深海だった。そこでは巨大樹が燃え上がっていた。金色に橙が混じった貞淑な炎を立ち上らせて。何かが弾ける音がときどき響き、それは時間が砕ける音なのだと思った。それでも時間が失われないのは、驚異的なスピードで再生しているからだ。それは螺旋が渦を巻いて上昇する速度と同じだった。その螺旋はつまり私の螺旋だ。 考えてはいけない。 感じてもいけない。 嘯いてはいけない。 委ねてもいけない。 燃え上がる巨大樹の周りを、青白いシータート...
pale asymmetry | 2021.11.15 Mon 21:10
JUGEMテーマ:ものがたり 月が見えないことが嬉しかった。星がないことが愉しかった。私たちは強く手を握り、傘をさして夜を歩く。雨が降っているわけではなかったけれど、夜に掠われないために傘は必要だった。そよ吹く風は鉱石の冷たさで、私たちを冷ます。いやこれは醒ましているのだ。もっともっと精密に覚醒しろと促しているのだ。それだから私たちは互いの静脈に針を落とし、幻影の素子を流し込む。素子は速やかに血流に乗って体内を巡り、私たちはこの世界を失う。そしてこの世界も私たちを失うのだ。 ...
pale asymmetry | 2021.11.13 Sat 21:08
JUGEMテーマ:ものがたり 妄想の旅を固定するために、私たちは格子の金属棒にリボンを結ぶ。もちろん蝶蝶結びで。虹の七色のリボンで。それは混ざり合わないから、この場所に陽光は届かない。私たちは逃げられない。傷は際限なく増えていき、世界は際限なく重くなる。それでも私たちはリボンを結ぶ。蝶蝶結びを増殖させる。妄想の旅を増幅させるために。 沈んでいく始まり、跳ね上がる終わり。 格子の金属棒が蝶蝶結びで埋め尽くされたら、私たちはうっとりとそれを見つめ、そして少し退屈してしまう。隙...
pale asymmetry | 2021.11.07 Sun 21:52
JUGEMテーマ:ものがたり 百二十と八年ぶりに雨が降ったので、僕たちはそれを宝石だと仮定した。僕たちはその仮定をとても気に入ってしまったので、それが正しいのかどうかを検証しようとはしなかった。そこに論理的矛盾が生じたとしても、僕たちは気持ち良さの方を優先したのだ。誰一人それに反対しなかったので、降り続く雨は仮定の宝石として、僕たちに受け入れられた。 「あなたたちはその宝石をどうするのですか?」 統括者が僕たち全員を集めて問い掛けた。声は少し微笑んでいたので、統括者は仮定の...
pale asymmetry | 2021.11.06 Sat 21:05
JUGEMテーマ:ものがたり 「これは林檎というものです。あなたはご存じかしら?」 左手に乗せた林檎を、その老婦人は僕に見せる。空はドンヨリと曇っていて、今にも雨が降り出しそうだ。漂う光はか弱すぎて、その林檎の赤は濁って見える。いや濁っているのではなく、凝固しているのだ。閉ざされていて、つまりその林檎はスタンドアローンなのだろう。 「林檎は最初の果実だという人がいるけれど、それはとんでもない間違いですよ。林檎はこの世界よりも前から存在してるのですから。つまり林檎にとっての最初...
pale asymmetry | 2021.11.05 Fri 21:16
JUGEMテーマ:ものがたり ゆるやかなアーチを描く石造りの橋だった。石は極淡い黄金色をしていた。輝いているわけはなかったけれど、それは確かに黄金色で、撫でてみると表層は僅かにざらついている。なのに指に御張り付く感じもする。何かが、極微量の何かが流れ込んでくるような感覚があった。いけないことのような気もした。この橋の表層を撫でることは、禁忌のような気がした。でも僕はその表層に指を滑らせて、流れ込んでくる何かを躊躇なく受け入れた。指から流れ込んだそれは、頭の旋風から螺旋を描いて天へ...
pale asymmetry | 2021.10.23 Sat 21:26
JUGEMテーマ:ものがたり アンブレラを用意してはいたけれど、私はテレフォンボックスに逃げ込んだ。そこからの方が落ち着いて観察出来ると思ったから。傘は雨を解けることは出来たけれど、獣を避けることは出来ない。もっとも、獣たちは私に見向きもしていないし、そもそも私の存在を感知することが出来ない様子だった。獣たちは皆人形を喰らうことに夢中だった。空から降ってくる人形を。 空は輝く灰色だった。そこには無数の煌めきが散りばめられていた。それらが何者かに払われたように、あるいは祓われた...
pale asymmetry | 2021.10.21 Thu 21:39
JUGEMテーマ:ものがたり 私は目覚めてもいない。私は眠ってもいない。覚醒は空回りし、眠りは乖離しているのだ。そこには結論はなく、規則などあるはずもなく、ただ仮定だけが渦を巻く。そしてそれは何者にも保証されていない。笑ってしまいそうだ。擽られているわけではない。空が、途方もなく高い空がエメラルドのベールを纏っているからだ。それは貞淑さの証ではなく、どこまでも秘された戯れごとの熱だ。漏れ出てきているわけではなのに、私に感じさせようと挑発しているのだろう。 私はまんまと感じてい...
pale asymmetry | 2021.10.20 Wed 20:53
JUGEMテーマ:ものがたり 私の中学には、同級生に石がいる。同じクラスで机を並べている。青い石だった。少し白く陰った石で、輝きはなく澄んだ感じもなく、何を考えているのかよく解らないような印象の石だった。石なのだから、何も考えていないと思われるだろうか。でもその石は私たちのクラスメートなのだ。私たちと同じ中学生で十四歳なのだ。実際のところは全然解らない。でもその石は私たちと同じような子供だとされていた。 だから、私たちのクラスの誰かが、順番で毎日連れて帰り、家の井戸水で清めな...
pale asymmetry | 2021.10.09 Sat 21:31
JUGEMテーマ:ものがたり 鐘の音。尖った鋼の音。時間を沈ませる音。空気を眠らせる音。その音で、私は目覚める。ベッドから上半身を起こすと、窓際に立つ私が見えた。その私がベッドの私を見つめて、やわらかく微笑む。 「緊張してはいけないわ」 窓辺の私が囁く。声がベッドに届いた瞬間に、ベッドの私は緊張する。でも身体から力が抜けて、起こしていた上半身を再びベッドに沈める。 「そうそれで良い。私たちには休息が必要なのよ」 声を聞きながら私は考える。ここはどこだっただろう。遠い異...
pale asymmetry | 2021.10.07 Thu 21:13
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