JUGEMテーマ:ものがたり 近所の神社で定期的に開かれる骨董市に出かけた。特に探しているものがあったわけではないので、適当にぶらぶらする。すると綺麗な茶碗を見つけた。艶の強い青緑のお茶碗で、何だか愛らしく思える。その色合いも、その形も。値札を見るとそんなに高くなかったので、購入することにした。でももし値段が高かったとしても買ってしまったかもしれない。それくらい、何というか『ピン』ときたのだ。こういうのをまさに衝動買いというのだろうと思えた。 その茶碗を欲しいと店員さんに言う...
pale asymmetry | 2019.03.29 Fri 22:14
JUGEMテーマ:ものがたり 夜はまだまだ冬色だった。銀色の半月が、輝きを散りばめて熱を奪っているように思えた。兄さまの熱を、僕の熱を、世界の熱を。その熱は別の世界へと運ばれ、その世界を灼熱にしているのかもしれない。そうなら良いのになと思った。たとえそれが悪しき蹂躙であったとしても、消えてしまうよりはずっと良いと思えたから。 僕がそんなことを考えてしまったのは、桜花のせいかもしれない。月下の桜花はとても可憐だったけれど、どこか狂おしい精気を放っているように感じられたから。 ...
pale asymmetry | 2019.03.27 Wed 20:47
JUGEMテーマ:ものがたり 大陸西端の小さな都市では、毎年春分の日に不思議な現象が起こるのだそうだ。その現象を体験取材するために、私は西端の都市まで出かけていった。もちろん春分の日に。 「その現象は、『ふたえあくび』と呼ばれています」 私を迎え、案内をしてくれる役場広報課の女性が言う。彼女はこの都市の出身で、ずっとこの都市で暮らしてきたのだそうだ。年齢は訊かなかったけれど、外見からは30代半ばに見えた。 「ふたえあくび? どういった意味ですか?」 「重ねる二重に、生理...
pale asymmetry | 2019.03.22 Fri 21:44
JUGEMテーマ:ものがたり ポッペン、ホッペン、コッペン。とビードロのような音色が聞こえる。この音を聞くのは40年ぶりだ。40年前にこの音を聞いたとき、私は13歳だった。それは祖父の命が霧散しようとしていた夜のことだった。確か満月の夜だったと思う。或いは一日二日満月からはずれていたかもしれないが、満月に近い夜であったはずだ。冷めた金色の光が風景に満ちあふれていた夜だったから。 私はその日、母と共に祖父母の家を訪れていた。祖父の臨終が迫っていたのだ。その知らせを受けて、祖父を看取...
pale asymmetry | 2019.03.21 Thu 20:55
JUGEMテーマ:ものがたり ルビーが降り続いている。ピジョンブラッドのルビーが。天上世界で、絶え間なく殺戮が繰り返されているかのように。あるいは実際にそうなのかもしれない。天上世界の詳細を彼女は知らないのだから、それを否定することも出来ない。もっとも、天上世界の存在を、彼女は信じてはいなかったけれど。とにかく、マルキーズ・ブリリアントカットのルビーが降り続いていた。どんなに記憶を遡っても、彼女は青空を思い出せない。 角が降り続いている。二日月のように細く両端の尖っ...
pale asymmetry | 2019.03.20 Wed 19:53
JUGEMテーマ:ものがたり ざわざわと空気を揺り転がす南風が私を誘うので、縁側で朝食を取ることにした。ついさっきまで雨が落ちていたので、庭もその向こうの空も薄灰色の刷毛で粗く擦ったような質感を纏っていた。ざわざわの南風が、私の心をじんじんと蠢かせる。それは強く揉みしだかれているような感じで、それでいて微かに擽られているような感じでもある。奇妙な感覚が皮膚の直ぐ下を駆け巡るのを感じながら、私は卵かけご飯を食べて、さんぴん茶を飲んだ。 庭の隅から一匹の蝶が現れた。羽の先が鮮やか...
pale asymmetry | 2019.03.18 Mon 21:32
JUGEMテーマ:ものがたり 夕暮れ時、ドイツシェパードと河川敷を散歩する。河の上流方向には低い山、所々が赤茶けた青緑の山。その向こうの空は、UFOが墜落したかのような紅色をしていた。ドイツシェパードが低く唸る。河の下流方向を見つめている。そちらから列車が近づいてきていた。ゆっくりと、河の水面から少し浮いた状態で、時折ギシキシと軋む音を立てながら。 客車を引っ張っているのは、犀だった。巨大な犀だった。客車は一派的な電車のそれと同じくらいのサイズだったが、犀の方も同じ大きさだった...
pale asymmetry | 2019.03.08 Fri 20:53
JUGEMテーマ:ものがたり 巨大な宮殿の裾に広がる薔薇の庭園は、迷路だった。フラワーウォールが私を迷わせながら、私を導く。この迷路は、実はある地点に進行させるためだけのもなのだということに、私は直ぐに気づく。行く先を迷わせるのではなく、ここまでの道程の、その振る舞いを迷わせるための庭なのだとも気づく。きっとだから、飾られた薔薇の全てが病的な青色をしているのだろう。 重すぎる身体を引きずりながら、私は歩く。額の汗を拭いたかったけれど、シールドバイザーを開くことが怖くて出来なか...
pale asymmetry | 2019.03.03 Sun 20:57
JUGEMテーマ:ものがたり たぶんクリスのダイナーくらいに大きい水槽だ。その水槽の真ん中で君は笑っている。僕はアクリルに両手をつき、じっと君を見上げる。君は両脚になりきらなかった鰭を緩やかにくねらせ、水槽の真ん中から僕を見下ろしている。君は閉じ込められているのに、世界を支配しているようだ。この銀河と隣の銀河と、あと周辺のいくつかの銀河も支配しているようだ。少なくとも僕は完全に支配されているよ。完璧に、感動的に。 アクリル面に鼻先がつくくらいに、僕は顔を寄せる。ゆっくりと大き...
pale asymmetry | 2019.02.28 Thu 21:01
JUGEMテーマ:ものがたり 低木の狭間に横たわる少女は、人と獣の合いの子だった。スカートから伸び出た両脚が、鹿のそれのようだったのだ。月光にその毛皮は艶やかに輝いている。その脚が、森を疾走する姿を想像すると後頭葉がぞくりとした。美しい躍動を感じて、シナプスが過剰に発火してしまったのだろう。 しかし今、その脚の片方が断続的に痙攣し、流れ出た鮮血に染められていた。猟師に撃たれたのだ。先程私が殺した猟師に。 「大丈夫だよ。おまえを食らうものは、もう事切れたから」 私は少女に...
pale asymmetry | 2019.02.27 Wed 20:57
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