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JUGEMテーマ:ものがたり 雨が上がると風は北に廻った。その成分に冷気が含まれ、季節を惑わす空気を攪拌する。急に踊りたくなって、私は砂浜に素足で下りる。雨を十分に吸収したはずなのに、砂はまだ温かかった。この熱はどこからもたらされたのだろう。どの宇宙からここにやって来たのだろう。意味もなく考え、その思考が浮かび上がらせるエネルギーを手足に込める。 私は跳ねる。私は飛ぶ。私はくねる。私は旋回する。 「まだまだ足りないわよ」 いつの間にか波打ち際に少女が立っている。口の端に...
pale asymmetry | 2022.09.26 Mon 20:39
JUGEMテーマ:ものがたり それは宝石のような人だった。色が、輝きが、形が、質感が、というわけではない。雰囲気がそんな感じだったのだ。 祖母が引き出しを開けると、その小人が私と祖母を見上げていた。引き出しの中の椅子に腰掛けたまま。 「誰にも内緒だよ」 祖母が唇に人差し指を立てる。とても真剣な表情だったので、私は強く頷いた。 「うん、誰にも言わない」 私の返事を聞いて、祖母は微笑む。そして私の頭を撫でてくれた。その手はとても重く、けれどとてもやわらかかった。ぽかぽ...
pale asymmetry | 2022.09.21 Wed 21:25
JUGEMテーマ:ものがたり 都市の電飾はまばらだったけれど、それでも星は見当たらなかった。誰かが奪ったのかもしれないと半ば本気で考えながら、私は都市を彷徨っていた。肌色の真珠を抱いて。 この肌色とは私の皮膚の色ではない。この色彩は、少女の皮膚の色だ。今はただ純白のゴーストとなり、この都市の夜を彷徨い続ける少女の。私はその少女を追いかけている。いや、追いかけていたはずだ。今はよく解らない。少なくとも私の視覚は純白のゴーストを捉えてはいない。だから私もまたただ彷徨っているだけな...
pale asymmetry | 2022.09.13 Tue 21:50
JUGEMテーマ:ものがたり まだ月は昇っていない。けれど私は月に追いかけられている。その月は今はまだ失われている月だ。九重が九重に重なる月なのだろう。菊の花びら落ちては来ない。だから私は追われていることに気づいたのだ。そして道を駆ける。知らぬ間に見知らぬ風景の奥深くにいて、もうどこへ向かったら良いのか解らなくなる。解らないから進むしかない。立ち止まれば、追いつかれてしまうから。追いつかれたらどうなるのか、恐ろしすぎて考えられない。 唐突に、朱色の建物が現れた。地中から湧いて...
pale asymmetry | 2022.09.09 Fri 21:14
JUGEMテーマ:ものがたり 星はまだ見えるけれど、空の色はすでに夜の淫らさを失っている。涼風が、北から駆けてくる。少し湿っているけれど、十分に私の皮膚から熱を払ってくれる。浮かれてはいけない。私は自分にそう言い聞かす。意味もなく強く言い聞かす。際限なく湧き上がる熱を、風だけに頼らず私自身でも沈めるために。 海と森の境界を歩く。道は舗装されているけれど、それは人一人がやっと通れる幅で、何のために舗装したのか私にはよく解らない。まるで獣たちのために舗装したかのようだ。本当にそう...
pale asymmetry | 2022.09.08 Thu 20:40
JUGEMテーマ:ものがたり 「何が見える?」 少年は問われ、そのとき目にしていたものを正直に答えた。 「鳥が見えます。光る鳥。でも、女の子にも見えます」 「女の子も光っている?」 「はい、光っています」 「どんな風に?」 「瑠璃色に。鳥は黄金色に、女の子は瑠璃色に光っています」 「飛んでいる? 鳥も少女も飛んでいる?」 少年はそこで一瞬言いよどむ。その問への答えを返そうとしたとき、一瞬視界が渦巻くように歪んだのだ。 「どう? 飛んでいるの?」 少年は再び...
pale asymmetry | 2022.09.05 Mon 21:24
JUGEMテーマ:ものがたり 小さな寺だった。堂が一つ鐘が一つ、そして池と桜が一つずつ。嵐が近づくその夜、真夏だというのにその桜は満開だった。強まりつつある風がその薄紅の花片を池の水面に降らせている。狂い咲いている、とは思えなかった。覚醒が行き過ぎて、つまり正気が行き過ぎて咲き開いてしまったのだろう、と男は思った。 空は黒く、底がない。月光も星影もない。しかし黒い流れが確かに感じられた。それが吉兆であると男は思いたかった。もちろん凶兆であるという方が相応しい流れであったけれど...
pale asymmetry | 2022.09.01 Thu 21:40
JUGEMテーマ:ものがたり 岬の裾には、行ってはならない渚がある。と言っても、そこは誰でも行ける場所ではない。迷い込む力のある者だけが、その場所に足を踏み入れることが出来るのだ。それは阿呆で、そして同時に叡智を有していなければならない。2つの対立する要素を、対立させることなく抱けるものでなければならない。それはつまり世界だ。対立する2つの事象が両立する状態こそが、世界なのだから。 少年が辿り着いた渚は、瑠璃と黄金が混じり合った風景だった。けれどどちらもひどく淡く、そこには過剰...
pale asymmetry | 2022.08.23 Tue 20:47
JUGEMテーマ:ものがたり 風景のどこにも銀河はなくて、僕は尺取り虫だった。この二つに関係はなく、これはメタファーではなく、何の意味もなく、ただ状況を説明しただけだ。つまるところ、寂しいということだ。銀河を見つけられないことが。尺取り虫としての使命を感じられないことが。 太陽は沈みきっていたけれど、まだ夜ではなかった。黄昏というよりは黎明の色彩に近いような茶金色の空気が、岬の先端に蹲っていた。そこには楕円体の何かが孤独を持て余すように足下を僅かに地面に埋めて佇んでいた。その...
pale asymmetry | 2022.08.21 Sun 22:03
JUGEMテーマ:ものがたり 恐ろしく美しい連舞だった。世界の理を超越した速度だったにも構わず、音は全く聞こえなかった。四肢が空を斬るその鋭利さが凶暴な渦を巻き起こしていたはずだったし、踏み下ろされた足先や踵が大地を残忍に抉っていたはずなのに、その音も衝撃も伝わっては来ない。連舞する二体は巨人であったにもかかわらず。 少年は岩陰に潜み、その光景を刮目していた。背後から朝の光が滲んでくる。二体の巨人は一晩中踊り続けていた。もちろんそれは遊興ではない。それは天に捧げられるものだっ...
pale asymmetry | 2022.08.20 Sat 20:59
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