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JUGEMテーマ:ものがたり 車両内部には椅子が一つもなかった。長方形のフロアが広がっているだけだ。フロア面は濃い茶色で、澄まし顔で何事も解決してしまう賢い老婆のようだった。 「どの車両もこんな感じなの?」 僕の問に友達は頷き、薄く笑う。 「もちろんそうさ。この列車は多くのことが自由なんだよ」 友達はそう言いながら、両手を掲げて二本の指を素早く折り曲げる。カギ括弧付きの自由ということなのだろう。それがどういう意味なのか、本当に意味があるのかは解らない。意味ありげな顔で...
pale asymmetry | 2022.01.14 Fri 21:08
JUGEMテーマ:ものがたり 頭の痛みは回転する結晶のように煌めきを撒き散らしていた。その煌めきは私の頭蓋骨の内側を無数に叩いて、私を超越的な覚醒へと導こうとしているようだった。けれどもちろんそんな方向へと進むことなど私には出来ない。私はありきたりな人間なのだ。特別な能力を秘めているわけではなく、何者かに選ばれた存在というわけでもない。だからこの痛みはそういった類いのものではなく、単なる先触れなのだろう。麒麟がもうすぐ現れるという。 私は地面に身を伏せ、息を潜める。漆黒の谷全...
pale asymmetry | 2022.01.10 Mon 21:51
JUGEMテーマ:ものがたり 金色と銀色が混ざることなく渦巻くような、そんな光に満ちた部屋だった。室温はかなり高い。床も壁も天井も無塗装のコンクリートで、どこにも空調機器らしきものは見当たらない。どうやって、この温度を保っているのだろう。壁に触れてみる。ヒンヤリしている。壁や床が発熱しているのではなさそうだった。 「あれがそうです」 老紳士が部屋の奥を指差す。そこには石柱があった。私の腰くらいの高さ。黒い八角形の石柱だった。表面は磨き上げられていて、少し近づくと私の姿がぼん...
pale asymmetry | 2022.01.08 Sat 21:08
JUGEMテーマ:ものがたり そこは館の一番奥の部屋だった。窓がなく弱い照明のせいで薄暗い部屋だった。床は一面石のタイルだったけれど何故か仄かに温かかった。それが何かの仕掛けによるものなのか、それとも敷き詰められた翠色のタイル石そのものが持つ特性なのか、もちろん私には解らない。そもそも照明が翠色だったので、床の色が本当に翠色なのか、照明によって色づけられているのかさえはっきりとは解らなかった。 「あれですよ」 案内してくれた青年が部屋の中央を指差す。そこには奇妙な形の石が置...
pale asymmetry | 2022.01.04 Tue 20:09
JUGEMテーマ:ものがたり どこにもない場所を、僕たちは目指していたはずだった。ゆっくりと、本当にゆっくりと夜が明けようとしていて、その裾を装飾するように花火が打ち上がった。金色と銀色と橙色の花火だった。音は聞こえない。全く聞こえない。僕はじっと花火を見つめ、耳を澄ましていたけれど、それが炸裂する音は世界には拡がらなかった。 「きっと、あれは花火の幽霊なんだよ」 君はそう言って、大げさに肩を竦める。真夜中にたっぷりと着込んで出発したから、歩き続けて君の顔は上気している。で...
pale asymmetry | 2022.01.01 Sat 21:33
JUGEMテーマ:ものがたり ・片恋のシャーラ(プロトタイプ版)の第23弾です(詳しい説明は第1弾に書いてあります)。 他のページはコチラ→「片恋のシャーラ(プロトタイプ版)1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/20/21/22/24/25/26/27/28/29/30/31/32(終)」 (下部にある「カテゴリー別・小説一覧」からも他ページに跳べます。※他の小説も混じった「もくじ」になっています。) いつもの...
言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜 | 2022.01.01 Sat 19:18
JUGEMテーマ:ものがたり 色彩は無限で、それで飾られたビルの群は高貴な阿呆の軍略会議のようだった。真夜中までもう少しという時刻だったから、路上には人が溢れていて良いはずなのに、全く見当たらなかった。それが極限まで薄められた夜に浮かぶ月のせいなのかどうかは、僕には解らない。ただその月は慈悲のない冷笑を放っていた。それは世界全体に向けられていて、それだけでは満足出来ずに世界の裏側にまで捻じ込まれているように思えた。何というか、何処も彼処も傷だらけだな、と思った。 もちろん僕も...
pale asymmetry | 2021.12.31 Fri 20:45
JUGEMテーマ:ものがたり 会社が仕事納めになり、正月休みに入ったけれど僕にはすることがない。帰省の予定もないし、他のイベントの予定もない。それで短期のアルバイトに募集してみたら採用された。何だかよく解らない仕事だったけれど、健康な成人なら誰でも出来る業務内容だと言うことだったので、取り敢えず集合時間に集合場所に行ってみる。 「どうも、私のことは主任と呼んで下さい」 集合場所は自宅近くのコンビニのパーキングで、そこには面接のときに会った男性が銀色のワンボックスカーと一緒に...
pale asymmetry | 2021.12.29 Wed 21:28
JUGEMテーマ:ものがたり 私は麒麟だった。麒麟だったから空を駆けていた。低い空には霧のような雨が舞っている。それを瑠璃色の鱗に感じていた。心地良かった。四肢を回せば自在に翻ることが出来た。体内には無尽蔵の燃焼が閉じ込められているようで、開放すれば世界と並び立つ理を自在に操ることが出来るような気がした。どこまでも、いつまでも、駆け巡っていられるだろうと思えた。この宇宙の果てまでも、この宇宙の終わりまでも。 もちろんこれは夢だった。私は麒麟になった夢を見ているのだ。夢のなかで...
pale asymmetry | 2021.12.23 Thu 20:44
JUGEMテーマ:ものがたり 目が覚めたら、隣に天使が横たわっていた。うつ伏せに横たわっていて、背中からは一対の翼が生え出ている。それは大きく広げられていて、天井に届きそうだ。先端が尖った格好良い感じの翼だった。フワリフワリと揺らいでいる。重力を反転させているような動きだと思った。ああ、だから天使は空を飛べるのか。そう思った。翼は仄かに輝いていた。灰色に輝いていた。暖かそうな灰色だった。あまり賢そうではない灰色だった。だから私の部屋にいるのかな。何となくそう思ったりもした。 ...
pale asymmetry | 2021.12.22 Wed 19:49
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