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JUGEMテーマ:ものがたり 大きな白い犬だった。狼のような顔をしている。でも正確は穏やかなようで、尻尾を振って近づいてくると、私たちの前で姿勢良く座った。 「この森の主と言われています」 ガイドの女性が手を出すと、その手の甲を軽く舐め、白い犬は踵を返して歩き出す。 「行きましょう」 私たちは犬の後について歩く。数分進んだところで、犬は巨大樹の前で蹲った。太い幹に鼻先を付けて、じっと動かない。 「落ちてくるんだと思う」 弟はそう言うと犬に近づき、その背中に腰...
pale asymmetry | 2022.05.08 Sun 21:26
JUGEMテーマ:ものがたり 小僧は濡れ縁に横たわって雨が錯乱する庭を見つめていた。敷き詰められた細かな石は純白で、複雑な紋様が波として描かれている。そこに突き刺さるように、あるいは浮かぶように、あるいは存在しないかのように大小の岩が九つ並んでいる。紫がかった緑の苔を纏う、先端の尖った岩たちは、天に傷を付けようとしているようにも見えたし、天から落ちてくる禍を切り裂いているようにも見えた。 雨は真っ直ぐ落ちている。禍は渦を巻いて雫に紛れている。小僧にはそう思えた。 低い唸り...
pale asymmetry | 2022.05.05 Thu 21:59
JUGEMテーマ:ものがたり 朝、半覚醒のまま洗面台で歯を磨く。鏡に映る私は昨日を引き摺っている。それが当たり前のことなのかどうなのかは解らないけれど、鏡の中の私は傷ついている。日々の営みに傷ついている。まあ、たぶん当たり前のことなのだろう。誰だって、真っ当に働いてサラリーをいただいている。誰だって、きっと日々傷ついているのだ。そして傷は蓄積されていくのだ。 それが癒されることはない。傷が癒される前に新しい傷がつき、それ以前の傷を固定化してしまうから。 少し胃がムカムカす...
pale asymmetry | 2022.05.02 Mon 21:22
JUGEMテーマ:ものがたり 屋上には石の庭。大小の尖った石が並ぶ。全ての石は苔に覆われていて、その姿は纏っているというよりは浸食されているようだ。あるいは錆びているようだ。あるいは気狂いしているようだ。 「この石たちは、アンテナなんだよ」 彼は声を潜めて言う。 「だから僕たちは、もう人間ではないんだよ」 そう言って笑う。歪んだ笑い。歪んでいるところが綺麗な笑み。でも私には彼が何を打ち明けているのか解らなかったから、同じようには笑えなかった。石は石だ。アンテナではない...
pale asymmetry | 2022.05.01 Sun 20:55
JUGEMテーマ:ものがたり その寺院は巨大だっただろうか。広大な土地に建てられていただろうか。絢爛豪華な構築物だっただろうか。それを知る者はいない。その理由は二つ。第一にその寺院は浮遊したまま流離っていた。第二にその寺院は簡素な門以外の姿が見えなかった。だからそれがどのような宗教に属する寺院なのかを知る者もいなかった。 その寺院は本当に存在していたのか? その寺院に足を踏み入れたものはいるのか? もちろんその寺院は存在していたし、実際に足を踏み入れたものもいたのだ。...
pale asymmetry | 2022.04.24 Sun 21:14
JUGEMテーマ:ものがたり 高純度喫茶の看板を見つけ、扉を押す。軽やかなベルの音が響き、扉が馬になって走り出す。赤毛の馬だ。足が異様に太い。鬣は青白く燃え上がっていて、けれどその炎は熱くはない。その鬣に手を伸ばし掴もうとしたけれど、その手は空を斬った。実体のない馬だったのだ。それに気づいて振り返る。喫茶店の扉はしっかりと閉まっていて、扉ではなく開閉というアクションが馬に変じたのだと理解する。 「いらっしゃいませ」 女の子の声。でも姿は見えない。 「お好きな席にどうぞ」 ...
pale asymmetry | 2022.04.13 Wed 21:12
JUGEMテーマ:ものがたり 森の奥に進むと、そこは煌めきで満ちていた。メロウイエローの煌めきは、よく見ると全て羽だった。それは何かから抜け落ちたわけではなく、それそのものが生命を宿し漂っているのだ。あるいは、飛翔しているのだ。おそらく、この森の空気に含まれていた僅かばかりの穢れの破片が、本来はとても細かな破片なのだけど、寄り添うように集まって、そのそれぞれが煌めく羽に昇華したのだ。微かな匂いが吹き抜けていく。月桃のような清涼な匂い。それが私の身体を舐め、そこからまた煌めく羽が舞...
pale asymmetry | 2022.04.07 Thu 19:49
JUGEMテーマ:ものがたり 花の名前を知らない。今も昔も。花を育てることや、花そのものに興味がないからだ。だから極々ありふれた花、例えば薔薇やチューリップのようなもの以外は名前を知らない。あるいは名前の方を知っていても、それから花の姿をイメージ出来ない。まあ、たぶんこれからもそんな感じだろう。そんな感じで生活には何の支障もないから。そんな私にも、花に纏わる思い出というものがある。温室中に咲き乱れる造花の思い出だ。触れれば怪我をしそうな程の鋭利な花たちの記憶。 あれは、私が小...
pale asymmetry | 2022.03.27 Sun 21:40
JUGEMテーマ:ものがたり 叫び声で目が覚めた。私自身の叫び声で。それは「わぁー」とか「ぎゃー」とかいうのではなくて、何というかオーロラが波打つときのような音だった。オーロラが波打ったりするのか、そのとき響く音があるのかは知らない。これはあくまでも私のイメージ。妄想的イメージ。とにかくそういう私自身が発した音で目が覚めた。 部屋は暗かった。きっと真夜中だ。寝室には時計がないので、正確な時刻は解らない。でも犬が鼻先を北に向けて眠っていたので真夜中に違いないのだ。ベッドから出て...
pale asymmetry | 2022.03.24 Thu 21:15
JUGEMテーマ:ものがたり 手足の長い人だと思った。それが、その人を美しい人にしているのだと思った。決して大きな身体を有しているわけではないのに、その美しく長い手足が、その人の存在を巨大にしているのだった。複雑で強い意志を感じさせる遺跡に負けないくらいの存在感。遺跡の真ん中で、佇むその人は眼差しを斜めに上げ、雲のない空を真っ直ぐに見つめている。そこにはその人にしか見えないバイブルが記されていて、それを瞳から体内に取り込むことで自身もバイブルと同じ高位のコードを発信しようとしてい...
pale asymmetry | 2022.03.21 Mon 21:48
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