[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]
JUGEMテーマ:ものがたり 水晶のように果てしなく透きとおった歯車たちだった。 眩く煌めきながら、歯車たちは精密に連動していた。これは何の装置なのだろうと私は考えた。この世界と別の世界を少しの間だけ寄り添わせるための装置なのだろうか。そんな気がした。私は棺を覗き込んでいたのだ。祖母の横たわる棺を。そこに祖母は確かに横たわっていて、その姿に重なるように水晶の歯車たちが回転していた。回転と回転を綺麗な舞踏のように噛み合わせ、この世界の外側にも世界があるのだということを、それは時...
pale asymmetry | 2022.08.17 Wed 22:03
JUGEMテーマ:ものがたり それは奥の座敷の隅っこに蹲っていた。置き忘れられていたのかもしれない。落ちていたのかもしれない。あるいは生え出たのかもしれないとも思えた。いや、やっぱりそれは蹲っていたのだ。時折、カタカタと細かく震えたりしたから。それは漆黒の札が幾枚も組み合わされたものだった。金と銀の組紐で、少し湾曲した長方形に束ねられていた。風を孕む帆のような湾曲だった。でもそれは帆ではなかったから、孕んでいるのは風ではなく澱なのだろうと思った。どうしてそんなことを思ったしまった...
pale asymmetry | 2022.08.13 Sat 21:28
JUGEMテーマ:ものがたり 浮かんでいたのは、八角柱。その両端は八角錐。両八角錐柱とでも表現すればいいだろうか。それはとても巨大だった。澄んだ紫色を纏っていて、半透明なその内部では翡翠色の玉と瑠璃色の玉が駆け回っている。争っているようにも、遊んでいるようにも、愛し合っているようにも見えた。 大樹だった。それは賢者の三樹の一つだった。しかし本来賢者の三樹は三つとも水没しているはずだった。果ての海の深海で、夢も見ずに眠っているはずだった。それがなぜこんな所にあるのか、誰にも解ら...
pale asymmetry | 2022.08.11 Thu 21:08
JUGEMテーマ:ものがたり 祖母の家を訪ねたら、瓢箪が出迎えてくれた。祖母が一人で暮らすその古民家は、入ってすぐが昔ながらの土間で、とても薄暗い。その薄暗い土の真ん中で漆黒の瓢箪が踊っていたから、最初はよく解らなかった。その漆黒がかなり薄闇に溶け込んでいたから。それでもそこに瓢箪があって、踊っていると解ったのは、瓢箪から真っ白くて細長い手足が生え出ていて、それが奇妙に揺らぐように動き回っていたからだ。波を真似るように、あるいは波に翻弄されるように、その手足は確かに踊っていた。 ...
pale asymmetry | 2022.08.08 Mon 20:33
JUGEMテーマ:ものがたり それは鉱石だと思った。そのような質感に見えたのだ。けれどそれは歩いていたから、もし鉱石ならば歩く鉱石ということになる。そういう可能性がこの世界にあり得るのかどうか、私には判断出来ない。あるような気もするし、それは完全に無理なようにも思える。それでも目の前を歩く鉱石のような存在は確かに実在していて、そのことは疑いようのない事実だった。 それは獣でもあるだろうと思った。そのような動きに見えたのだ。ゆっくりと、のっそりと歩みを進めていたけれど、ある方向...
pale asymmetry | 2022.08.07 Sun 21:50
JUGEMテーマ:ものがたり 少年は槍を肩に担いでいた。彼の背丈よりずっと長い槍だった。その刃先は地面を向いている。肩から空へと伸びるもう一端には、ランプが吊されていた。今はそれには火は灯っていない。太陽が真上にあったからだろうか。それとも、それはただの装飾だったのかもしれない。彼を飾る、彼の旅を飾るための物だったのかも。 少年は旅の途中なのだと私には思えた。道に迷っているようには見えなかったけれど、目的地に向かって一心に進んでいるようにも見えなかった。目的地などないのかもし...
pale asymmetry | 2022.08.05 Fri 20:39
JUGEMテーマ:ものがたり 薄暗い空間の真ん中に、丸いテーブル。それを取り囲む四脚の椅子。テーブルも椅子もプラスチックの簡素な物だ。壁と床と天井は汚れたコンクリートで、室内を照らす照明は沢山あったけれどほとんどが壊れていた。僅かに残ったオレンジの光が、テーブルと椅子と四人の少女を照らしている。全く同じ白いワンピースを纏った少女たちを。 ここは地下にあるライブハウスだった。私のライブハウスだ。今日までだけど。日付が変われば私のものではなくなる。だからあと十二時間だけ私の所有す...
pale asymmetry | 2022.08.04 Thu 21:52
JUGEMテーマ:ものがたり 私はベンチシートに腰掛けている。それはショッピングモールの片隅に設置されている。その一つだけがフワフワとしたマテリアルのベンチシートで、私はとても気に入っている。だからショッピングモールがオープンするのとほぼ同時に、私はここに腰掛けている。客足はまだまばらだ、照明の強さの方が目立っている。膝を抱えて、私は見張る。ベンチシートの正面にある自動販売機を。目測約二メートル先にあるその自動販売機は、私の背丈よりも小さい。ボタンは三つしかなく、ディスプレイスペ...
pale asymmetry | 2022.08.03 Wed 21:52
JUGEMテーマ:ものがたり 千と二十三日目の暗い夜に、盲いた少女が集落の展望台から叫んだ。「落ちてきた。種が落ちてきたわ。私には見えた」と。それはたぶん真夜中のことだったけれど、集落の誰もがまだ眠りには落ちていなくて、だから少女の声は皆に届いた。声を受け取った集落の皆は、確かに中天から真っ直ぐに落ちてくる種のイメージを見た。眩い紫色に輝くそれは結晶だろうと思えた。それは夜の叡智が結晶化したものだ。そして種である以上それは植物で、だから受け継がれたものに違いなかった。 「箱を開...
pale asymmetry | 2022.07.29 Fri 21:00
JUGEMテーマ:ものがたり 笑ってはいない森は、笑っていないからこそ慈愛に満ちていた。 大樹の狭間の獣道を軽快に駆け、黒いキツネは湖に到達した。時刻は深夜、月光がほぼ真上から降り注いでいた。それは湖面の願いを受けて召喚されたように降り注いでいた。前脚を伸ばして上体を傾け、黒いキツネはその月光を感じた。それは素直にキツネに入力され、キツネもまた素直にそれを受け入れた。結ばれているわけではない、けれど千切れているわけでもない。黒いキツネはそんな関係で月光と繋がりたかったのだった...
pale asymmetry | 2022.07.27 Wed 21:14
全1000件中 161 - 170 件表示 (17/100 ページ)