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JUGEMテーマ:ものがたり さめざめと月が鳴いている。泣いているわけではなく鳴いているのだ。それはもちろん声ではなく音だ。だからそこに想いが織り込まれているわけではなく、それは一つの現象なのだ。しかしながら世界のすべてがそうではないだろうか。どのような感情も想いも、それは現象であろうと考えて何ら矛盾はないだろう。そういった現象の積層によって、この世界は構築されているのだから。 鳴いている月は十六夜の月だった。少しだけ赤らんだ面は、汚れているようにも錆びているようにも見えた。...
pale asymmetry | 2022.06.15 Wed 21:02
JUGEMテーマ:ものがたり 「あっ、タグだ」 弟が歩道の電柱を指差す。弟の目線の高さ、私の背丈だと胸の辺りの高さにライムグリーンのリボンが巻き付けてあった。咲き開いた花のような結び目で、余った部分が風になびいている。 「タグって?」 私の質問に、弟は意味ありげに笑う。私が秘密を供給するのに相応しいかどうかを吟味しているように思えた。 「ゲームだよ」 そう言いながら、弟はその花を解き、一本の帯を風に踊らせる。そのままそれを巻き取ってズボンのポケットに仕舞った。 「...
pale asymmetry | 2022.05.25 Wed 21:25
JUGEMテーマ:ものがたり 険しい山道を登り切って、ようやく開けた場所に到達した。早朝に出発したのに太陽は真上にある。その陽光が、小さなコンクリートの箱に降り注いでいる。開けた場所のちょうど真ん中に置かれた立方体の箱に。丸い場所だ。赤い土の地面が露出していて、草は全く生えていない。直径十メートルくらいだろう。その円形の場所に繋がる二本の道。一本は僕が登ってきた道だ。そして箱の向こう側のもう一本の道から、彼女が現れた。 「やあ」 僕が軽く手を上げると、彼女は微笑んで頷く。十...
pale asymmetry | 2022.05.19 Thu 21:24
JUGEMテーマ:ものがたり 昔々ある村に、げんこつ三郎と呼ばれる若者がおりました。右の拳がとても大きく、硬く、巨大な岩も一殴りで粉々に砕くことが出来たので、げんこつ三郎と呼ばれていたのでした。 その拳は生まれたときから、いや生まれる前から大きく、げんこつ三郎はその拳で母親の腹を裂いて生まれ出たのでした。そのせいで二人の兄と父親に嫌われてしまいました。それでげんこつ三郎は祖父母の手で育てられました。 祖父母は畑仕事を生業としていましたので、げんこつ三郎も成長すると自然とそ...
pale asymmetry | 2022.05.17 Tue 22:43
JUGEMテーマ:ものがたり 霧雨の中、君はスキップをアスファルトに刻みながら先を行く。細いアスファルトの道は、たぶん異界への道なんだろうなと僕は思う。君はときどき空を見上げ、流星を探す。こんな真昼に流星なんて見えないだろうなと思いながら、僕も探す。 「リンドウの花は歯車なのよ」 空に目を向けながら君が教えてくれる。 「運命と噛み合う歯車なのよ」 立ち止まり、君は道路脇を指差す。やわらかな紫色の花が僕らを見上げている。その花よりもロゼットの葉の方が歯車のように僕には感...
pale asymmetry | 2022.05.14 Sat 20:53
JUGEMテーマ:ものがたり 鬼の角のようなビルディングを見上げながら、アフタヌーンティーを口にする。空はドンヨリと曇っていたけれど、世界は暗くはない。やわらかな明るさというのが適切な表現だろう。そんな感じの風景だった。この風景が半分になったら、どう感じるだろう。ふと考える。寂しく思うだろうか。それとも特に何とも思わないかも。風景は広すぎるほど広く、半分になったからといって世界が半減するわけではない。半減するとしたら、それは私だけだろう。 風は湿っていて、テラス席の誰もがジャ...
pale asymmetry | 2022.05.11 Wed 20:55
JUGEMテーマ:ものがたり 普通のアパートの、普通の扉だった。二階建ての二階。階段から一番遠い部屋。モスグリーンの金属扉。どこにでもあるようなアパートの、どこにでもあるような扉。でもそこに小さなプレートが掲げられていて、そこには『星片クリニック』と描かれている。ドアチャイムが見当たらなかったので、私はそのプレートの隣をノックした。 「やあ、いらっしゃい。私はカウンセラーです」 現れたのは長身短髪の男性。優しい顔立ちをしている。笑い顔の人物だった。たぶん涙を流していても、笑...
pale asymmetry | 2022.05.10 Tue 22:43
JUGEMテーマ:ものがたり 大きな白い犬だった。狼のような顔をしている。でも正確は穏やかなようで、尻尾を振って近づいてくると、私たちの前で姿勢良く座った。 「この森の主と言われています」 ガイドの女性が手を出すと、その手の甲を軽く舐め、白い犬は踵を返して歩き出す。 「行きましょう」 私たちは犬の後について歩く。数分進んだところで、犬は巨大樹の前で蹲った。太い幹に鼻先を付けて、じっと動かない。 「落ちてくるんだと思う」 弟はそう言うと犬に近づき、その背中に腰...
pale asymmetry | 2022.05.08 Sun 21:26
JUGEMテーマ:ものがたり 小僧は濡れ縁に横たわって雨が錯乱する庭を見つめていた。敷き詰められた細かな石は純白で、複雑な紋様が波として描かれている。そこに突き刺さるように、あるいは浮かぶように、あるいは存在しないかのように大小の岩が九つ並んでいる。紫がかった緑の苔を纏う、先端の尖った岩たちは、天に傷を付けようとしているようにも見えたし、天から落ちてくる禍を切り裂いているようにも見えた。 雨は真っ直ぐ落ちている。禍は渦を巻いて雫に紛れている。小僧にはそう思えた。 低い唸り...
pale asymmetry | 2022.05.05 Thu 21:59
JUGEMテーマ:ものがたり 朝、半覚醒のまま洗面台で歯を磨く。鏡に映る私は昨日を引き摺っている。それが当たり前のことなのかどうなのかは解らないけれど、鏡の中の私は傷ついている。日々の営みに傷ついている。まあ、たぶん当たり前のことなのだろう。誰だって、真っ当に働いてサラリーをいただいている。誰だって、きっと日々傷ついているのだ。そして傷は蓄積されていくのだ。 それが癒されることはない。傷が癒される前に新しい傷がつき、それ以前の傷を固定化してしまうから。 少し胃がムカムカす...
pale asymmetry | 2022.05.02 Mon 21:22
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