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JUGEMテーマ:ものがたり 「かっ、ですね」 「カッ? モスキートの蚊、ですか?」 白衣の男は過剰なほどに激しく首を振る。 「いいえ、その蚊ではありません。私の言う『かっ』には、かの後に小さなつがくっついているのです」 「かっ、ですか?」 「そうです。かっ、です。最近多いんですよ。時世のせいでしょうね」 白衣の男は過剰なほどに激しく頷く。 「でその、かっ、というのはなんなのです?」 白衣の男は視線を明後日の方向に向け、しばらく黙り込む。説明を纏めているという...
pale asymmetry | 2022.03.20 Sun 21:19
JUGEMテーマ:ものがたり 「あれは、何です?」 私は隣を歩く人に訊く。私の指先から空に目を向け、その見知らぬ人はすぐに目を伏せる。 「あれは、虫だよ」 「虫?」 虫には見えなかった。空に浮かび緩やかに回転するそれは、四角錐にしか見えない。巨大で、そして硬そうだ。構成する三角形の四面は、それぞれ紫、瑠璃、翠、橙の色彩を纏っている。どれも鮮やかで、艶やかで、ふしだらな感じがした。残る四角形の一面は、銀色と金色が重なり合う色を纏っている。万能なその色彩が、残りの四面を繋ぎ...
pale asymmetry | 2022.03.14 Mon 20:41
JUGEMテーマ:ものがたり 「やあ、君は卵を持っているね」 古書店でそう話しかけられた。いきなりの雨のように。僕と同じ学院の制服をきた男の子だった。同学年か、一学年上かもしれない。襟に学年章がなかったからはっきりと解らない。 「卵?」 僕は手に取っていた書籍を棚に戻す。高価な書籍でとても買えない値段だったので、毎日かよって少しずつ読み進めていたのだ。同じ制服の男の子は僕が戻した書籍の背を撫で、訳知り顔で頷く。解るよ、僕もよくやるよ、と言っているような表情だった。 「そ...
pale asymmetry | 2022.03.10 Thu 21:42
JUGEMテーマ:ものがたり 鋭利すぎる頭痛で目が覚めた。部屋は暗い。世界は昏い。枕元のデジタル数字だけがエメラルドグリーンの色彩を放っている。密やかに流れを放っている。世界が停止していないことに、世界が終わっていないことに少しほっとする。その数字は4:49だった。素数だ。でももちろん意味はない。 部屋の明かりをつけると頭痛が劇的にひどくなり、慌てて消す。闇に目が慣れるのを待って、部屋のカーテンを開く。月光を迎え入れたかったのに、今夜は新月だった。それでも遠くの街の明かりが控え...
pale asymmetry | 2022.03.05 Sat 21:57
JUGEMテーマ:ものがたり フクロウが鳴いている。暗い森の奥深くから。その姿は見えない。虹を砕いて散らしても、その翼を捉えることは出来ないだろう。フクロウは闇なのかもしれない。闇が結晶化した翼なのかもしれない。闇ならば失われることはないだろう。だから大きな声で告げているのだろうか。声を辿っても居場所を見つけられることがないと承知の上で。 「シルバーウルフが死んだ」 フクロウはそう告げている。抑揚のないフラットな囀りで。悲しみも虚しさも悔しさも憤りも、全てがない交ぜになって...
pale asymmetry | 2022.03.03 Thu 21:15
JUGEMテーマ:ものがたり 窓のない部屋で少女が膝を抱えているのは、世界が歪んでしまったからだ。照明はか弱い金色で、部屋は幻想の陰りに満ちていたけれど、少女の瞳はそういう些細な黄金を捉えることはできない。今はただ、彼女の核の奥深くに、裏返るように沈むことしかできないのだった。 「ご機嫌よう、欠片の人」 僕は舞い降り、少女に声をかける。彼女になら僕の姿が見えるはずだと思えたから。 「誰?」 少女は周囲を見回す。その瞳は僕を見つけることが出来なかった。彼女は盲目ではなか...
pale asymmetry | 2022.02.25 Fri 21:03
JUGEMテーマ:ものがたり 湖は赤を纏ってはいなかった。深い翡翠の揺らぎを湛え、乏しい光を増幅するように弾き、輝いていた。それは礼節に満ちた輝きで、何者もその湖水に触れることが許されないのではないかという、幻想を抱かせた。実際にはもちろんそんなことはなく、汚れた兵士がその手を浸して、他者の血と自身の血を湖水に織り込むのだ。それでも湖水が赤を纏うことはない。それがこの世界の摂理ならば、私は基本的に綺麗な世界で暮らしているのだと思えた。 横たわり重なる人たちの血は、どこに運ばれ...
pale asymmetry | 2022.02.24 Thu 20:30
JUGEMテーマ:ものがたり 淑やかなアイボリーのロレスを纏った少女が、タイルを月面に並べている。それは色とりどりのタイルで、形も様々。大きさもまちまちだけど、大きなものでも少女の掌くらいだ。少女の背後にはドラム缶に手足が生え出たようなロボットが控えていて、少女が一枚タイルを並べるたびに、背負っているボックスからタイルを一枚取り出して少女に手渡す。少女とロボットはその作業を延々と繰り返していた。 月の荒野は寒そうだったけれど、彼らの向こうに見える地球の青が、その寒さをほんの少...
pale asymmetry | 2022.02.16 Wed 21:32
JUGEMテーマ:ものがたり 六人の猟師が、鹿を求めて山に入った。最近、その山では巨大な鹿が何度も目撃されていた。雄々しい巨体を優雅に翻して駆け回る金赤の毛を纏った鹿。世界樹のような角を振り回し、天界に挑むように跳ね、この世の理の何もかもを熟知しているような眼差しをしているという。それは伝説の鹿に違いないと、猟師たちは考えた。その肉を喰らうと叡智を手に入れることができるという伝説の鹿だと。しかしその鹿はまた、不可侵の存在でもある。その鹿に挑むことは禁忌になるだろう。それで、多くの...
pale asymmetry | 2022.02.13 Sun 21:50
JUGEMテーマ:ものがたり 巨大樹には葉は一枚もなかった。瑠璃色の幹が葉のない那由他の枝をあらゆる方向に伸ばしていた。それは複雑な幾何学模様を描き、何かの立体的な呪文が構築されているように思えた。つまりこれは魔法なのだ。魔法の組成が記述されていると、私は理解した。するとボトルには、何が集められているというのだろう。 そう、ボトルだ。那由他の枝の至る所にボトルがぶら下げられていた。ボトルは極薄い黄金色を纏っていた。たぶん透明なボトルに、そういう彩色を施したのだろう。ということ...
pale asymmetry | 2022.02.02 Wed 22:09
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