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JUGEMテーマ:ものがたり 夕暮れ時、仕事帰りに海沿いの遊歩道を歩いていると、路面に大きなオタマジャクシのような黒い染みが浮かび上がっていた。傾いた太陽からの茜の光を浴びて、そのオタマジャクシは今にも空中に泳ぎ出しそうに思えた。オタマジャクシにしては尾が長い。そしてオタマジャクシにしては少し先端が尖りすぎている。 「シャクジ」 私は思わず呟いていた。立ち止まり、じっと見下ろす。間違いなく、それはシャクジだった。周囲を見回し、誰もいないことを確かめてから、私は膝を折り顔を近...
pale asymmetry | 2022.11.19 Sat 21:14
JUGEMテーマ:ものがたり ビルとビルの狭間に、その冷蔵庫はぽつんと置かれていた。何かの目印のように思えた。ここから何かが始まる起点のようにも思えた。あるいはこの場所こそが何もかもの終着点のようにも思えた。そうであるならば、私はこの冷蔵庫を開けなければならないのだろう。その内部にはこの世界の始まりが冷やされているのかもしれないし、この世界の終わりが凍っているのかもしれない。 夜の真ん中で、私は冷蔵庫に触れる。街灯が一切あたらない場所であったのにもかかわらず、冷蔵庫は仄かに輝...
pale asymmetry | 2022.11.17 Thu 21:55
JUGEMテーマ:ものがたり この都市には七十二本のタワーが建っているのだという。数えたことがないから本当のことなのかどうかは私には解らない。それに、私がこの都市に着いてからまだ六時間足らずしか経過していないから、タワーの数だけではなくこの都市に関する他のことも、私は知らない。 「船はいつ来るのですか?」 碇人に私は尋ねる。全身を朱色の衣装で包み込んだ長身の碇人は、東の低い空を指差す。その辺りは茜と紫紺が重なるような色彩をしていた。 「十六夜の月が昇り、それに火星が寄り添...
pale asymmetry | 2022.11.11 Fri 21:48
JUGEMテーマ:ものがたり テーブルの上にはピラミッドのボード。その四角錐を取り囲み十八の宝珠が踊るように漂っている。九つの色彩の宝珠たち。だから同じ色彩の宝珠が二つずつ。でも連舞はしない。十八の軌道で十八の世界を描いている。あるいは十八の世界の地図を描いている。決して重なり合うことのない世界。けれど完全に切り離されることもなく、どこかで契りを結んでいるのだ。けれどその契りは厳重に秘されている。僅かでもそれを顕わにすることは禁忌の極みだった。 テーブルを挟んでソファーが二つ...
pale asymmetry | 2022.11.04 Fri 21:18
JUGEMテーマ:ものがたり 早朝から、強い天使雨が降り出し休校になった。両親は仕事に出かけ、僕と弟が家に取り残された。外出してはいけないと言い聞かされていたので、僕らは週末の世界を漂っているような気分になった。もうこの惑星には僕らしかいない。何もかもから見捨てられていて、だからこそ僕らは怠惰を満喫出来る。そんな気分。でもそんな気分だったのは僕だけで、弟は少し違う気分を抱えていたのかもしれない。僕と同じような眼差しで、窓の外を眺めていたのに。 「兄さん、ベランダに出てみない」 ...
pale asymmetry | 2022.10.28 Fri 21:03
JUGEMテーマ:ものがたり 雨に叩かれ、黒い蝶は地面に落ちた。夜が始まる少し前。空気は仄暗い粒子に満ちていた。雨が上がり、黒い蝶は地面でジタバタする。黒い羽を激しく震わせ地面を滑る。でももう飛びたつことは出来なかった。円を描くように震えながら滑り続ける蝶。黒い馬の蹄がそれを踏み潰した。踏み潰して踏みにじった。 そして黒い蝶の黒い魂は、黒い馬へと入力される。でも黒い馬はそのことに気づかない。馬は背に乗せた主の意向だけに全神経を向けていた。馬の主は夜の入り口で、黒い獣を狙ってい...
pale asymmetry | 2022.10.23 Sun 21:35
JUGEMテーマ:ものがたり 「クロタ君は退屈じゃないの?」 ササオカさんはそう言いながら電柱の根元にペイントマーカーで星マークを書き込んだ。それはメタリックピンクで、午後の柔らかい日差しを過剰に弾いて尖らせていた。 「ササオカさんは退屈なの?」 電柱の根元にしゃがみ込むササオカさんの隣に僕もしゃがみ込む。でもササオカさんはすぐに立ち上がって歩き出す。急ぎ足で、何かに追い立てられているかのように。僕も立ち上がって後に続く。僕らは透明な何者かに追われているのかもしれない。 ...
pale asymmetry | 2022.10.19 Wed 21:17
JUGEMテーマ:ものがたり 弟は祖母の手を引いて、ゆっくりと歩いて行く。昨日の寒さが嘘のようにぽかぽかした午後。東から吹く風は、甘い匂いを孕んでいる。見知らぬ匂いだったけれど、不快ではない。 「もう少し、地面を整えようね」 弟はときどき祖母に言う。穏やかに微笑みながら。 「ええ、ええ、わかっていますよ」 祖母も穏やかに微笑みながらそう答えていた。その会話の意味は、私には解らない。私にだけ解らないのか。それとも弟も祖母もじつは解っていないのか。どちらとも取れるような印...
pale asymmetry | 2022.10.17 Mon 20:59
JUGEMテーマ:ものがたり 歩行のための脚を、非属の巨人は有していなかった。そして歩行以外のための脚も、非属の巨人は有してはいなかった。結局のところ、非属の巨人は脚というものを有していなかったというわけだ。では非属の巨人は歩かなかったのかと言えばそうではない。非属の巨人には長い二本の腕があったから、それを使って前進していた。両腕を地面につき、肩関節を軸に身体をでんぐり返りさせ、その後に腕を回して前方につく。それを繰り返すことによって、回転の分だけ前進していった。 「我々と同じ...
pale asymmetry | 2022.10.14 Fri 21:26
JUGEMテーマ:ものがたり ひどい頭痛を抱えていた。加速飲料を六百濃縮にして脳に流し込まなければやってられない気分だった。けれどその直前で上司からのコールがはいり台無しにされる。 「すまないね」 全くすまなそうには思っていないだろう口調で、モニタのなかの上司は薄笑いをしている。右足の踵で蹴り飛ばし、モニタを粉々にしたかったけれど、仕事を失うわけには行かなかったので私も薄ら笑いを返す。こういうのが社会性というものならば、私はクソだなと心の中で考えながら。 「君でないと何と...
pale asymmetry | 2022.10.12 Wed 21:31
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