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JUGEMテーマ:ものがたり 高純度喫茶の看板を見つけ、扉を押す。軽やかなベルの音が響き、扉が馬になって走り出す。赤毛の馬だ。足が異様に太い。鬣は青白く燃え上がっていて、けれどその炎は熱くはない。その鬣に手を伸ばし掴もうとしたけれど、その手は空を斬った。実体のない馬だったのだ。それに気づいて振り返る。喫茶店の扉はしっかりと閉まっていて、扉ではなく開閉というアクションが馬に変じたのだと理解する。 「いらっしゃいませ」 女の子の声。でも姿は見えない。 「お好きな席にどうぞ」 ...
pale asymmetry | 2022.04.13 Wed 21:12
JUGEMテーマ:ものがたり 森の奥に進むと、そこは煌めきで満ちていた。メロウイエローの煌めきは、よく見ると全て羽だった。それは何かから抜け落ちたわけではなく、それそのものが生命を宿し漂っているのだ。あるいは、飛翔しているのだ。おそらく、この森の空気に含まれていた僅かばかりの穢れの破片が、本来はとても細かな破片なのだけど、寄り添うように集まって、そのそれぞれが煌めく羽に昇華したのだ。微かな匂いが吹き抜けていく。月桃のような清涼な匂い。それが私の身体を舐め、そこからまた煌めく羽が舞...
pale asymmetry | 2022.04.07 Thu 19:49
JUGEMテーマ:ものがたり 花の名前を知らない。今も昔も。花を育てることや、花そのものに興味がないからだ。だから極々ありふれた花、例えば薔薇やチューリップのようなもの以外は名前を知らない。あるいは名前の方を知っていても、それから花の姿をイメージ出来ない。まあ、たぶんこれからもそんな感じだろう。そんな感じで生活には何の支障もないから。そんな私にも、花に纏わる思い出というものがある。温室中に咲き乱れる造花の思い出だ。触れれば怪我をしそうな程の鋭利な花たちの記憶。 あれは、私が小...
pale asymmetry | 2022.03.27 Sun 21:40
JUGEMテーマ:ものがたり 叫び声で目が覚めた。私自身の叫び声で。それは「わぁー」とか「ぎゃー」とかいうのではなくて、何というかオーロラが波打つときのような音だった。オーロラが波打ったりするのか、そのとき響く音があるのかは知らない。これはあくまでも私のイメージ。妄想的イメージ。とにかくそういう私自身が発した音で目が覚めた。 部屋は暗かった。きっと真夜中だ。寝室には時計がないので、正確な時刻は解らない。でも犬が鼻先を北に向けて眠っていたので真夜中に違いないのだ。ベッドから出て...
pale asymmetry | 2022.03.24 Thu 21:15
JUGEMテーマ:ものがたり 手足の長い人だと思った。それが、その人を美しい人にしているのだと思った。決して大きな身体を有しているわけではないのに、その美しく長い手足が、その人の存在を巨大にしているのだった。複雑で強い意志を感じさせる遺跡に負けないくらいの存在感。遺跡の真ん中で、佇むその人は眼差しを斜めに上げ、雲のない空を真っ直ぐに見つめている。そこにはその人にしか見えないバイブルが記されていて、それを瞳から体内に取り込むことで自身もバイブルと同じ高位のコードを発信しようとしてい...
pale asymmetry | 2022.03.21 Mon 21:48
JUGEMテーマ:ものがたり 「かっ、ですね」 「カッ? モスキートの蚊、ですか?」 白衣の男は過剰なほどに激しく首を振る。 「いいえ、その蚊ではありません。私の言う『かっ』には、かの後に小さなつがくっついているのです」 「かっ、ですか?」 「そうです。かっ、です。最近多いんですよ。時世のせいでしょうね」 白衣の男は過剰なほどに激しく頷く。 「でその、かっ、というのはなんなのです?」 白衣の男は視線を明後日の方向に向け、しばらく黙り込む。説明を纏めているという...
pale asymmetry | 2022.03.20 Sun 21:19
JUGEMテーマ:ものがたり 「あれは、何です?」 私は隣を歩く人に訊く。私の指先から空に目を向け、その見知らぬ人はすぐに目を伏せる。 「あれは、虫だよ」 「虫?」 虫には見えなかった。空に浮かび緩やかに回転するそれは、四角錐にしか見えない。巨大で、そして硬そうだ。構成する三角形の四面は、それぞれ紫、瑠璃、翠、橙の色彩を纏っている。どれも鮮やかで、艶やかで、ふしだらな感じがした。残る四角形の一面は、銀色と金色が重なり合う色を纏っている。万能なその色彩が、残りの四面を繋ぎ...
pale asymmetry | 2022.03.14 Mon 20:41
JUGEMテーマ:ものがたり 「やあ、君は卵を持っているね」 古書店でそう話しかけられた。いきなりの雨のように。僕と同じ学院の制服をきた男の子だった。同学年か、一学年上かもしれない。襟に学年章がなかったからはっきりと解らない。 「卵?」 僕は手に取っていた書籍を棚に戻す。高価な書籍でとても買えない値段だったので、毎日かよって少しずつ読み進めていたのだ。同じ制服の男の子は僕が戻した書籍の背を撫で、訳知り顔で頷く。解るよ、僕もよくやるよ、と言っているような表情だった。 「そ...
pale asymmetry | 2022.03.10 Thu 21:42
JUGEMテーマ:ものがたり 鋭利すぎる頭痛で目が覚めた。部屋は暗い。世界は昏い。枕元のデジタル数字だけがエメラルドグリーンの色彩を放っている。密やかに流れを放っている。世界が停止していないことに、世界が終わっていないことに少しほっとする。その数字は4:49だった。素数だ。でももちろん意味はない。 部屋の明かりをつけると頭痛が劇的にひどくなり、慌てて消す。闇に目が慣れるのを待って、部屋のカーテンを開く。月光を迎え入れたかったのに、今夜は新月だった。それでも遠くの街の明かりが控え...
pale asymmetry | 2022.03.05 Sat 21:57
JUGEMテーマ:ものがたり フクロウが鳴いている。暗い森の奥深くから。その姿は見えない。虹を砕いて散らしても、その翼を捉えることは出来ないだろう。フクロウは闇なのかもしれない。闇が結晶化した翼なのかもしれない。闇ならば失われることはないだろう。だから大きな声で告げているのだろうか。声を辿っても居場所を見つけられることがないと承知の上で。 「シルバーウルフが死んだ」 フクロウはそう告げている。抑揚のないフラットな囀りで。悲しみも虚しさも悔しさも憤りも、全てがない交ぜになって...
pale asymmetry | 2022.03.03 Thu 21:15
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