JUGEMテーマ:ものがたり 少年たちは、まずゲンをねる。ゲンとは泥団子の表面に小石を散りばめて紋様を纏わせたものだ。少年たち一人一人でその紋様は異なり、それらは代々、年長の兄さま方から年少の童子たちに受け継がれていく。紋様を持たないものは、仲間に入ることが出来ない。 ゲンがねり上がると、それを地面に円陣のように並べて、少年たちはそこから地面に幾何学模様を描き拡げていく。その模様も受け継がれたものだ。広い空き地の地面が幾何学模様で埋め尽くされると、ようやく遊戯が始まる。 ...
pale asymmetry | 2018.10.17 Wed 20:29
JUGEMテーマ:ものがたり 言の葉とは、その文字が示す通り葉なのだから、光を吸収し水を吸収するものだろう。そしてそれらを内部で咀嚼して、微かな気流として吐き出すものだろう。内部とはすなわち宇宙だろうから、そこには多彩な色が大きな躍動で熱を放っているだろう。しかしながら空間がとても冷えているので、その熱は表面まで伝わることはないのだろう。だから、外からも色を纏おうとするのかもしれない。言の葉の言とは、その色を呼び寄せるための術なのだと思う。 ハンと出会ったのは、秋の...
pale asymmetry | 2018.10.16 Tue 22:06
JUGEMテーマ:ものがたり カラリンカラリンと裏庭の何処かから音が聞こえる。音源は、たぶんとても小さな存在なのだろうと推測できるような音が。私は耳を傾ける。木製のサイコロが二つほど、金属製のカップの中で転がり回っているような音だった。しかしそれが妙に心地よい響きで、しかもやわらかく綺麗な響きだった。 私は縁側から庭に降り、音の方へと近づいてみる。庭の隅で、音源はすぐに見つかった。それは最初ビー玉に見えた。瑠璃色のビー玉で、直径は二センチくらい。しかしその材質はガラスではなく...
pale asymmetry | 2018.10.14 Sun 20:36
JUGEMテーマ:ものがたり 二人の少女が歩いている。しっかりと手を繋いで、クククッと笑い合いながら。周りは一面白詰草の草原。無邪気な白を纏った花が咲き乱れている。少女たちの背中には小さな羽。それは紙の羽。白詰草の花と同じ、無邪気な白の羽だった。 紙の羽は風に吹かれて細かく揺れる。羽が揺れるたびに、少女たちはクククッと笑う。羽が揺れるたびに、少女たちの間を行き来する粒子があって、それが少女たちを笑わせているようだ。その粒子が、少女たちの神経網を疾走して、きっと少女たちを内側か...
pale asymmetry | 2018.10.13 Sat 22:02
JUGEMテーマ:ものがたり 少年は『彦』と呼ばれていた。『彦』は少年の名前ではない。それは只単に男の子を表す言葉として使われていた。彦は美しい少年の姿をしていたが、人ではなかった。それどころか生命体ですらなかった。彦は傀儡だった。その集落の里山の奥、巨木に覆い被さられて昼でも薄暗い場所にある社の傀儡だった。その社の内部は空っぽだった。何かが奉られていたという記録もなかった。それでも社はずっと昔からそこにあり、ときどき集落のものが訪れ掃除をしたり修繕をしたりしていた。どういういき...
pale asymmetry | 2018.10.11 Thu 21:28
JUGEMテーマ:ものがたり 恐ろしいほどに猛り狂った嵐が過ぎ去った翌々日の朝のことだった。私は裏庭から続く石段を下り、砂浜に降りた。まだ少しうねりは打ち寄せていたけれど、あどけない陽光の下で海はすでに淑やかさを取り戻していた。砂浜は嵐が運んできた漂流物で賑やかだった。その半分は流木などの自然のもの、残りの半分はプラスチック製品等の人工物。そしてどちらにも属さない舟が一つ。 それは小さな舟だった。私の両掌を合わせたくらいの大きさ。キラキラした山吹色の紙のようにも石のようにも思...
pale asymmetry | 2018.10.10 Wed 21:02
JUGEMテーマ:ものがたり その白は、純白すぎて銀色に輝いて見える、と聞いていた。そしてまさにその通りだった。目の前の純白は、眩しい銀色に陽光を変換して弾いていた。 「サンザ猫だ」 僕は思わず呟いた。 「如何にも、サンザ猫に違いない」 純白すぎる銀色のそれが応えた。老女のように芳醇な声だった。ブロック塀の上に座っていて、丁度目線が僕と同じ高さになっている。だから顔と顔をつき合わせるような形になっていた。サンザ猫は都市伝説に過ぎないと思っていた。けれど確かに目の前に見...
pale asymmetry | 2018.10.09 Tue 20:45
JUGEMテーマ:ものがたり 「あなたは何も解っていない」 彼女は厳しい口調で、けれど微笑んでそう言った。 「だから、君に質問しているのだよ」 彼女は柱の中にいる。直径が三十センチ、高さは九十センチの透明な円柱の中に。その中で彼女は浮かんでいる。妖精のような羽を、ときどき振るわせながら。彼女は水色のスクール水着を着ていた。たぶん彼女の主の趣味なのだろう。その主はもうこの世界にいないけれど、彼女は勝手に着替えたりできない。 「君は、君のロードのことを愛していたかい?」 ...
pale asymmetry | 2018.09.06 Thu 20:37
JUGEMテーマ:ものがたり その巨大な基地は、千人の無能な人々によって造られた。そして別の千人の無能な人たちによって運用されている。その基地は六秒で二百万人を殺傷できる能力を有している。そしてまた二十四時間でこの惑星を三度粉々に破壊できる能力も有していた。しかしながら、その千人の無能な人たちは悪意を微塵も持っていなかったので、基地が何ものに対しても攻撃を開始することはなかった。 その基地は三百六十五人の人間によって監視されていた。一人が一日ずつの交替で基地を見張っていた。...
pale asymmetry | 2018.09.05 Wed 20:22
JUGEMテーマ:ものがたり 広い広い邸宅の中で、小さなヤモリは迷子になっていた。彼は小さな歯車だった。同じように小さな歯車と噛み合っていたのに、今は一人で行くあても解らず彷徨っていた。彼はこれまで歯車としてこの邸宅を守るために機能し、これからもずっと機能し続けるはずだったのに、今はまるでただ放蕩に明け暮れるジュエルだった。冷たい高音を放つジュエルだった。 事の発端は嵐だったのだ。見事な渦を巻く嵐だったのだ。四半世紀に一度のその残酷なほど美麗な渦を目にしたくて、彼は本来の場所...
pale asymmetry | 2018.09.04 Tue 20:50
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