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「小説」はなんとなく堅苦しい。
もっと気軽に、じゆうな感性で楽しんでほしい。
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狂い咲く

JUGEMテーマ:ものがたり    真夜中過ぎに電話が鳴った。枕元の携帯電話ではなく、台所の固定電話が。きっと間違い電話だろうと思った。今どき、固定電話にかけてくる友人などいないから。だから無視しようとしたけれど、電話は鳴り止まない。いつまでもいつまでも、しつこく鳴り続ける。この星に生命が誕生したその瞬間に鳴り始め、この星からあらゆる生命が消滅するまで鳴り続ける壮大な音のように思えてきて、仕方なくベッドを抜け出し、ふらつく足取りで台所まで巡って受話器を取った。 「やあ、もちろん眠って...

pale asymmetry | 2021.09.16 Thu 22:13

Seven colors

JUGEMテーマ:ものがたり    君は傷だらけの身体を引き摺るように、街路を西へと歩いて行く。空は今にも雨が降りそうな灰色で、それは悪意のない色彩だったけれど、奔放に何もかもを破壊しそうな狂気を含んでいるように思えた。 「最初の色は何色なの?」  全身の傷から黒い血を滴らせながら、君は僕に問う。 「最初の色かどうかは解らないけれど、基底の色は翠だと思う」  僕はシガレットに火を着けながら答えた。君の歩行速度に合わせるために僕はスピードをかなり落としていたから、口寂しくなってシ...

pale asymmetry | 2021.09.13 Mon 21:09

Jelly shift

JUGEMテーマ:ものがたり    それはゼリーのような質感の立方体だ。 「ゼリーみたいだわ」  彼女もそう言った。僕に向かって、右手を伸ばしている。左手の人差し指が自身のこめかみに触れていて、何かを洞察しているみたいだった。あるいは、私は取扱注意なのよと、それとなく示唆しているのかもしれないと思えた。 「ゼリーみたいにずれているのよ、私たちは」  彼女はそう付け加えた。一歩前に足を踏み出したけれど、動作が空回りするように位置は変わっていない。おそらくそういう類いのずれなのだろ...

pale asymmetry | 2021.09.10 Fri 21:01

Cynic wings

JUGEMテーマ:ものがたり    朔月を二日ばかり過ぎ、空の月は血なまぐさく尖っていた。何もかもを切り裂けるオーラが、その痩身から放たれる月光に織り込まれている。それは不可思議な微振動で、それが夜気を伝わって、私の皮膚を震わせる。くすぐりに似た、けれど確実に微細な傷を刻んでいた。痛みはある。それを感じてはいる。でも、それが心地よかったりもした。血を流すことが好きなわけではないけど、血の流れない日々は甘すぎて覚醒することがないのだ。 「あなたの翼は、今日も綺麗ね」  姉様が、私の背...

pale asymmetry | 2021.09.07 Tue 22:06

Insert the comb

JUGEMテーマ:ものがたり    風はなかった。笑っていたけれど、風はなかった。笑っていたのは空間。世界を欺こうとする空間。企みは透明で、ただただそれは空気を微かに震わせている。それが、笑っているように感じたのだ。私には。私だけには。すると笑っているのは何者か。それはまだ存在しない者だ。未来に存在する者か、過去に存在しなかった者か、あるいは過去にも未来にも存在している私か。ああ、こんがらがってきた。  風がなければ水面は鏡だ。真上からの陽光が、それを銀色に染めている。青い銀色。コー...

pale asymmetry | 2021.09.04 Sat 21:16

Good three

JUGEMテーマ:ものがたり    アンダーソン君がそのカプセルに入ったのは、カプセル内部を洗浄するためだ。それが、アンダーソン君の仕事だった。世界は実に様々なカプセルに溢れていて、それは年々複雑なフォルムへと進化しているので、内部の洗浄はとても難しくなっている。洗浄を行うものには高度なスキルが必要とされるのだった。その仕事に携わるためにはいくつものライセンスを所得していることが絶対条件で、アンダーソン君はもちろんその全てを所得していた。 「アンダーソン君、97パーセントの洗浄が終了し...

pale asymmetry | 2021.09.03 Fri 21:07

金平糖が砂塵をあげる

JUGEMテーマ:ものがたり    うつむいて歩くあの人は、黄昏の光に染まって輝いて見えたのに、周囲に纏う空気はとても冷たいもののように感じた。海の青を凍らせた色の金平糖を引き連れている。金平糖の角はどれも鋭く尖っていて、地面を削り砂塵を巻き上げている。白い粉の砂塵。粉砂糖のようだ。程良い甘さを有しているように見えたけれど、実際には甘苦いはずだ。あの人の表情を見れば解る。何か憤ることがあったのだろうか。それとも自分の非力を強く感じてしまうような出来事があったのだろうか。それでも金平糖は...

pale asymmetry | 2021.08.29 Sun 21:29

手を離す

JUGEMテーマ:ものがたり    僕らは、波打ち際に横たわっていた。ゆるやかな波が、ゆるやかだけど幅の広い波が、僕の足先から肩口まで濡らす。隣に横たわる彼女のことも、当然波は濡らした。僕らはしっかりと手を繋いで、その波が僕らを飲み込んでくれないかと願った。けれど、そういうことは起きない。長くここに横たわっていても、決してそういうことは起きない。それを僕らは知っている。波は捕食者ではないからだ。捕食者は僕らの方だ。  波はレモン色を纏っていた。少しざらついた感触がした。そのざらつきが...

pale asymmetry | 2021.08.28 Sat 21:13

Tiny storm

JUGEMテーマ:ものがたり    処暑の午後、縁側に寝そべって虹を見ていた。もしあの虹が螺子だったら、固定されるものはどんなものだろう、とか考えながら。いや、本当は考えるフリをしているだけだった。虹の七色を数えて、それが六だったり八だったりと変化する様を愉しんで、這い蹲っている時間を何となく受け流していただけだった。  頬に、雫を感じた。黒雲が近づいている。雫の数が徐々に増えていく。このままでは縁側が濡れてしまうからいけないなと思い、庭にポータブルチェアを広げる。簡素なのにリクライニ...

pale asymmetry | 2021.08.23 Mon 20:55

大きな人の鈴と私たちの鎌

JUGEMテーマ:ものがたり    大きな人が私たちの前に現れたのは、月のない夜だった。その日は夕刻から雨が降り出して、それが真夜中まで降り続いた。雨はとても硬く尖っていたので、いくつかの屋根には穴が開いた。穴の下に鍋を置いておくと、そこに雨が落ちて独特の音を響かせた。と同時に鍋から煌めきが零れ、家の中を潤し温めた。よく見るとそれは宝石で、確かに色とりどりの宝石に違いなかったけれど、指で摘まむと一瞬で消えてしまう。そして指先は切り裂かれていて血が滲んでいるのだった。  真夜中過ぎに雨...

pale asymmetry | 2021.08.19 Thu 21:10

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