JUGEMテーマ:ものがたり どこにもない場所を、僕たちは目指していたはずだった。ゆっくりと、本当にゆっくりと夜が明けようとしていて、その裾を装飾するように花火が打ち上がった。金色と銀色と橙色の花火だった。音は聞こえない。全く聞こえない。僕はじっと花火を見つめ、耳を澄ましていたけれど、それが炸裂する音は世界には拡がらなかった。 「きっと、あれは花火の幽霊なんだよ」 君はそう言って、大げさに肩を竦める。真夜中にたっぷりと着込んで出発したから、歩き続けて君の顔は上気している。で...
pale asymmetry | 2022.01.01 Sat 21:33
JUGEMテーマ:ものがたり ・片恋のシャーラ(プロトタイプ版)の第23弾です(詳しい説明は第1弾に書いてあります)。 他のページはコチラ→「片恋のシャーラ(プロトタイプ版)1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/20/21/22/24/25/26/27/28/29/30/31/32(終)」 (下部にある「カテゴリー別・小説一覧」からも他ページに跳べます。※他の小説も混じった「もくじ」になっています。) いつもの...
言ノ葉スクラップ・ブッキング~シーン&シチュ妄想してみた。~ | 2022.01.01 Sat 19:18
JUGEMテーマ:ものがたり 色彩は無限で、それで飾られたビルの群は高貴な阿呆の軍略会議のようだった。真夜中までもう少しという時刻だったから、路上には人が溢れていて良いはずなのに、全く見当たらなかった。それが極限まで薄められた夜に浮かぶ月のせいなのかどうかは、僕には解らない。ただその月は慈悲のない冷笑を放っていた。それは世界全体に向けられていて、それだけでは満足出来ずに世界の裏側にまで捻じ込まれているように思えた。何というか、何処も彼処も傷だらけだな、と思った。 もちろん僕も...
pale asymmetry | 2021.12.31 Fri 20:45
JUGEMテーマ:ものがたり 会社が仕事納めになり、正月休みに入ったけれど僕にはすることがない。帰省の予定もないし、他のイベントの予定もない。それで短期のアルバイトに募集してみたら採用された。何だかよく解らない仕事だったけれど、健康な成人なら誰でも出来る業務内容だと言うことだったので、取り敢えず集合時間に集合場所に行ってみる。 「どうも、私のことは主任と呼んで下さい」 集合場所は自宅近くのコンビニのパーキングで、そこには面接のときに会った男性が銀色のワンボックスカーと一緒に...
pale asymmetry | 2021.12.29 Wed 21:28
JUGEMテーマ:ものがたり 私は麒麟だった。麒麟だったから空を駆けていた。低い空には霧のような雨が舞っている。それを瑠璃色の鱗に感じていた。心地良かった。四肢を回せば自在に翻ることが出来た。体内には無尽蔵の燃焼が閉じ込められているようで、開放すれば世界と並び立つ理を自在に操ることが出来るような気がした。どこまでも、いつまでも、駆け巡っていられるだろうと思えた。この宇宙の果てまでも、この宇宙の終わりまでも。 もちろんこれは夢だった。私は麒麟になった夢を見ているのだ。夢のなかで...
pale asymmetry | 2021.12.23 Thu 20:44
JUGEMテーマ:ものがたり 目が覚めたら、隣に天使が横たわっていた。うつ伏せに横たわっていて、背中からは一対の翼が生え出ている。それは大きく広げられていて、天井に届きそうだ。先端が尖った格好良い感じの翼だった。フワリフワリと揺らいでいる。重力を反転させているような動きだと思った。ああ、だから天使は空を飛べるのか。そう思った。翼は仄かに輝いていた。灰色に輝いていた。暖かそうな灰色だった。あまり賢そうではない灰色だった。だから私の部屋にいるのかな。何となくそう思ったりもした。 ...
pale asymmetry | 2021.12.22 Wed 19:49
JUGEMテーマ:ものがたり 取り敢えずのど飴を口に放り込む。グレープ味ののど飴。それが私の仕事の始まりの合図。スイッチと言ってもいいし、ファンファーレと言ってもいい。それもまた、わたしにとってのイコンだ。もちろん狭義のイコンの意味とは大きくかけ離れているけれど、ここで私が言うイコンとは広義の事象。象徴的な因子、あるいはコミュニティーのハブとして機能する事象。そういう事象とレンズ越しに対峙することが私の仕事だ。デジタルな記録としてそういう事象を固定することにどういう意味があるのか...
pale asymmetry | 2021.12.16 Thu 21:22
JUGEMテーマ:ものがたり 無性に腹が減っていたので、水面に映る月を食した。清涼感の強い、貞淑な味がした。それなりに満足出来たけれど、俺が求めていた満腹感は得られなかった。それなら空の方の月も頂こうかとも思ったけれど、それはさすがに摂理を歪めることになる。そうしてしまえば世界は俺を許さないだろうと思ったからひとまず我慢することにした。しかし、瓜の形をした空の月は、美味な熱を放っている。風景の隅々にまで放っているけれど、あれはきっと第一に俺に放っているのだ。俺にはよく解る。掴み取...
pale asymmetry | 2021.12.15 Wed 21:38
JUGEMテーマ:ものがたり 彼女は走っていた。全力で風を掻き分け走っていた。ゆるやかな上り下りを繰り返す、うねりのような大通りを疾走していた。真っ白なドレス。でもその丈は極短い。だからこれ以上ないほどに躍動する両脚の様子が詳細に見て取れた。それは歯車として彼女が世界の顔路の一端を担うことを象徴しているのだろうか。それとも、赤い女王のような存在との競争がすでに始まっていることを意味しているのだろうか。どちらにしても、彼女の疾走は綺麗だった。路面を蹴り、風景を後方へと置き去りにする...
pale asymmetry | 2021.12.13 Mon 21:12
JUGEMテーマ:ものがたり そこは架空の街だ。実在しない街という意味ではない。実在している架空の街なのだ。この街は永遠に黄昏時で、朝も昼も夜もない。陽光は常にか弱く、すれ違う誰かの姿は薄暗い。その表情は読み取れず、その心持ちなどなおさら解らない。あるいは、心などないのかもしれない。朝がなければ覚醒はなく、昼がなければ躍動がなく、夜がなければ知性がないのだから。そういう意味で、この街は架空の街なのだった。 半透明の蝶に導かれ、私は暗い路地に足を踏み入れる。小さな黄金色の灯火が...
pale asymmetry | 2021.12.12 Sun 21:29
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