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JUGEMテーマ:ものがたり 透明な自転車で、少年は岬の先端まで走った。海へ還るものたちを観察するために。 風は海から吹いていた。けれどその風はあまり賢そうには思えない。賢い風ならば、海に向かって吹くはずだから。少年はそう思って岬の先端から水面を見下ろした。強い風が水面に尖った鱗を纏わせている。綺麗な衣装に見えた。どこにもないマテリアルで生み出された衣装だと思えた。そういう衣装を纏えば、自分も巨大になれるのだろうかと少年は考えてみた。つまり少年にはその海が、巨大な生命体に見え...
pale asymmetry | 2021.06.08 Tue 22:13
JUGEMテーマ:ものがたり 雨は午前中に上がり、昼食時には空はすっかり青に埋め尽くされていた。結局午前中には採掘斑から何の連絡も入らなかった。そんな日がもう一週間も続いている。毎朝出勤して機器の点検をすると、あとは何も仕事のない日々。その代わりに文献を読みあさり、論文を書く。それを繰り返して時間を巡る毎日だった。こんな毎日なら一生続いても良いな、と昼食を食べながら思う。このあとは少しだけ午睡をして、また文献を読みあさろう。そう考えているときに、壁のスピーカーから声が響いた。 ...
pale asymmetry | 2021.05.31 Mon 21:33
JUGEMテーマ:ものがたり 砂浜には風が吹いていて、空は青かった。太陽はどこにも見えなかったけれど、空全体が光に満ちていた。私はそこに横たわっている。背中に感じる砂は程良い暖かさで、吹き抜ける風も乾いた涼しさを身に纏っていた。私は考えなければいけない。第一にここはどこか。第二になぜここにいるのか。第三に世界とは何か。第四に私とは何か。そして第五に、何故考えなければいけないのか。 「どうせ時間は限られているに違いないのに」 私は呟き、上半身を起こす。水平線はハレーションを過...
pale asymmetry | 2021.05.30 Sun 21:29
JUGEMテーマ:ものがたり 森の奥に石の積まれた場所がある。丸い石を三角に積み上げた場所が。それは翠色の石で、でも紅色にも見える、本当は漆黒の石なのだという。その場所には、それが必要な者だけが必要なときに辿り着けるのだという。つまりそれは、この世界とは少しずれた場所なのだろう。かといって、異境と言うほどではない。この世界としっかりと繋がってはいるのだけれど、少しずれた場所。私たちにはそういう場所が必要になるときがあるものだ。少年もまたそうだった。 その場所に辿り着いた少年は...
pale asymmetry | 2021.05.18 Tue 21:20
JUGEMテーマ:ものがたり ほぼ裸の男性は腰の周りにだけ鎧のようなものを纏っていた。それ以外の露出された身体は、分厚い筋肉に覆われていて、さらにその筋肉の表面には複雑な幾何学紋様の入れ墨が描かれていた。 「彼が最初の踊り手です」 私を案内してくれている島の観光担当者が、指を差す。男性は大きく股を開き、拳を握りしめて立っている。顎を上げ空を見つめていたけれど、その表情は良く解らない。顔にも細かな入れ墨がぎっしりと描かれていたせいだった。睨んでいるように思えた。でも微笑んでいる...
pale asymmetry | 2021.05.14 Fri 21:15
JUGEMテーマ:ものがたり 揺らぎの大樹には、揺らぎ子が宿るものだ。私は祖母からそう教えられた。 揺らぎの大樹は、星降る夜にだけ目に見えるようになるのだと祖母は言う。 「今夜が星降る夜だけど、お前には解るかい?」 祖母は短い指で、夜空を指し示す。よく知らない川原で、私は祖母と並んでいる。川は煌めきを放っていた。金色と青色の細かな煌めきで、それは死と再生が入り交じっているのだろうと私は思った。祖母と私はもう半分くらい死んでしまっているに違いないとも思った。どうしてそんな...
pale asymmetry | 2021.05.07 Fri 21:51
JUGEMテーマ:ものがたり 黒い人たちの狭間を、少年は彷徨っていた。黒い人たちはひそひそと会話している。それは天気と終末を同じ事象として共有するような会話だった。だから少年には宇宙人の会話にしか聞こえなかった。国際宇宙ステーションでは、きっとこんな会話がされているのだと少年は想像した。でもアストロノーツたちは黒い衣装を着ることはないだろうと気づき、宇宙人ではなくて妖精の会話に近いのかもと思い直した。そう考えると、黒い人たちは皆地面から少しだけ浮き上がっているようにも感じられるの...
pale asymmetry | 2021.05.04 Tue 22:18
JUGEMテーマ:ものがたり 黄金色の月は、何故か桃色の月と呼ばれている。月そのものの色のことじゃなくて、季節の色のことだから仕様がないけれど。 僕らはまだ真夜中を少し過ぎた時刻に、龍刻樹の入り江に集合した。夜はまだ季節をバックステップさせていたから、僕らはまず砂浜の流木を集めて火を熾した。そしてその炎を囲んで、持ってきた紅茶を飲んだ。少しだけウイスキーを垂らして飲んだりもした。風は海から吹いていて、そのまま背後の龍刻樹の森へと抜けていかず、入り江で翻るようにまた海へと吹き戻...
pale asymmetry | 2021.04.29 Thu 21:43
JUGEMテーマ:ものがたり 立ち止まって黙礼されたら、こちらも立ち止まって黙礼すれば良い。すれ違いざまに会釈されれば、こちらも会釈を返せば良い。もし問い掛けられれば、それが問題だ。質問をされればそれに答えなければならない。その答えが解らなくても、無視してはいけない。答えどころか質問の意味が解らなくても、某かの返事をしなければいけないのだった。そして出来る限り、誠実に答えなければいけない。決して誤魔化そうとしてはいけない。答えはどこかにあるのではなく、それは常に自身の井戸の底にあ...
pale asymmetry | 2021.04.25 Sun 21:19
JUGEMテーマ:ものがたり 扉が開いた途端に、むっとする湿った熱い空気が流れ込んできた。海からの風は少しざらついている。陽光は未舗装の滑走路に黄土色に反射し、その向こうでは水面に破壊されて粉々に煌めいていた。 「どうぞ」 客室乗務員に促されて、僕はスロープを滑り降りる。ここがどういう類いの施設なのか解らないが、少なくともタラップのような設備はないようだった。僕を含めた五人の乗客は、地上で待っていた作業服のスタッフに先導されて、小さな箱形の建物に入る。エアコンは効いていたけ...
pale asymmetry | 2021.04.22 Thu 21:28
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