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JUGEMテーマ:ものがたり 旅の途中で、私は巨大な城の前に立っている。朝日が背後で、ちょうど地平線から顔を出したばかりの時刻。だから私は西を向いていて、城はその城門を東に向けている。足下には太っちょの黒猫が、私のふくらはぎに何度も背中をこすりつけている。城に入れと促しているようにも、城は危険だと警告しているようにも思えた。 「その黒猫は、プレパラシオンだね」 背後からの声に振り返ると、いつの間にか見知らぬ人物が一人立っていた。光沢の強い銀色の衣装を纏っていて、顔は仮面で隠...
pale asymmetry | 2021.01.01 Fri 21:57
JUGEMテーマ:ものがたり 駅のホームだった。ぽつんと、駅にホームだけがあった。線路は単線で、ホームも一つしかなかった。ホームには屋根はなく、駅舎のような建物もない。くすんだ朱色のホームがあるだけだった。ホームの周りは、カルスト地形がどこまでもどこまでも広がっていた。世界にはその風景しか存在しないような、そんな感じで広がっていた。陽光は真上から鋭く激しく降り注いでいる。けれど、その光景はとても寒そうに見えた。ホームも、そこにいる二人の少女も。 金色の幾何学模様が描かれた白い...
pale asymmetry | 2020.12.31 Thu 21:29
JUGEMテーマ:ものがたり 中央の櫓の上の四角舞台は、三畳ほどの広さだった。高さは四メートルほど。四辺には柵がなかったので、舞台上の御子の姿はよく見えたけれど、御子は危険ではないのだろうか。激しく動くのだと聞いているけれど。私は、舞台を囲むようにいくつも並ぶ櫓の一つから、御子を見つめていた。日はすっかり傾き、提灯にはすでに火が灯されている。櫓の群を張り巡らされた組紐に、無数の提灯がぶら下げられていたのだ。いや、もちろん無数ではない。私が面倒でその数を数えなかっただけだ。 御...
pale asymmetry | 2020.12.27 Sun 21:03
JUGEMテーマ:ものがたり どこかから、仄かにラズベリーの香りがする。思わず周りを見回してみるけれど、もちろん何も見つからない。目の前の焚き火の炎が明るすぎて、闇が濃く感じただけだった。彼女は砂上に敷いたマットに横たわり、夜空を見つめている。見つめているように見える。本当は夜空ではなく、彼女自身の心象を見つめているのかもしれないけれど、それは私には解らない。私はラジオのボリュームを少し上げる。軍のFM放送。ベストヒットプログラムを繰り返し放送している。当たり障りのない選曲。 「...
pale asymmetry | 2020.12.25 Fri 21:56
JUGEMテーマ:ものがたり そこには、人間は一人もいなかった。だから起こったことは、全て起こっていなかったかもしれない。あるいは起こっていたとしても、全く意味のない事象であったかもしれない。人間が認識している範囲の世界においては。人間ごときが知っていると思い込んでいる範疇の世界においては、という意味で。 真夜中だった。雨の夜だった。黒灰色の空から潔い直線を描いて、何者かが急降下してきた。低い山の頂上付近にある神社の鳥居に、その何者かは直撃した。鳥居は真っ二つに裂かれたが、二...
pale asymmetry | 2020.12.24 Thu 21:29
JUGEMテーマ:ものがたり 僕の家は鈍い。スロットルレバーを全開まで倒し込んでも時速三キロが精一杯だ。速度計の針が三キロを超えるのを見たことがない。でもその速度計は百二十キロまで数字が並んでいるから、この家がまだ新品だった頃はそのくらいのスピードが出ていたのかもしれない。まあ、古民家だからしょうがない。全体が墨色の本当にゆっくりと進む古民家が僕の家だ。今どきめったに見られない二足歩行タイプだ。今はたいてい六足歩行だから、一見しただけで古民家だとばれてしまう。それは少し恥ずかしい...
pale asymmetry | 2020.12.23 Wed 21:32
JUGEMテーマ:ものがたり 失われた遺跡が失われたままなのは、世界が穢れを嫌うからだろう。誰もが、その場所に足を踏み入れれば自身が世界から忘れ去られてしまうと信じているのだろう。そして同時に自身も世界を忘れてしまうと信じているに違いない。だから、この場所の記憶を失っているのだ。けれどそれならば、誤ってここに到達してしまう者が出てもおかしくはないはずだけど、決してそういうことは起きない。誰もが自然とこの場所を避けているのだ。都合の良い喪失だと、私には思えてしまう。私はといえば、図...
pale asymmetry | 2020.12.19 Sat 20:15
JUGEMテーマ:ものがたり 炎の前で、青年は膝を抱えて静かな時間を過ごしていた。時折、薪の爆ぜる音が鋭く響き、炎を身悶えさせる。それだけが時間の経過を彼に教えていた。 「君は、高潔な人のようだね」 炎の向こう側の老人が、独り言のようにそう言った。その目はくゆらせているパイプの煙に向けられていたから、本当に独り言だったかもしれない。いや、そんなことはない。目ではなく別の感覚器官で、目よりももっと探求能力の強い感覚器官で、老人が自分を捕捉していることを、青年は感じていた。 ...
pale asymmetry | 2020.12.16 Wed 20:23
JUGEMテーマ:ものがたり 最初、それは石にしか見えなかった。路上の小さな石ころとしか。ただ少しだけ違和感を感じた。二つの点で。ひとつは、私は整備された都市の歩道を歩いていて、きれいに清掃されたこの場所でその石ころが不自然に目立っていたこと。そしてもうひとつは、その石ころがとてもきれいな瑠璃色だったこと。だから、私は立ち止まったのだ。そして膝を降りその石ころをじっくりと眺めてみた。 石ころだ。やっぱり石にしか見えない。しかし耳を傾けると、何かの音が聞こえてくる。小さな電子音...
pale asymmetry | 2020.11.25 Wed 21:30
JUGEMテーマ:ものがたり 僕らは雨を受けて走っていた。大粒の雨を弾きながら自転車で走っていた。風上の方向へと走っていたから、斜めに降る雨の加速と僕たちの加速が重なって、世界は増幅している。水の世界が増幅している。僕らは溺れそうだった。いやもうとっくに溺れていたかもしれない。もう僕らは溺死していて、実は今走っているのは僕らの魂だけかもしれない。自転車に跨がっているから、自転車の魂も一緒に走っているかも。そうなら自転車も溺死したことになる。そうなのかな。そんなわけないか。 「た...
pale asymmetry | 2020.11.24 Tue 21:26
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