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JUGEMテーマ:ものがたり すっかり道に迷ってしまった。案内板の通りに進み、所々で標識板も見つけてその通りに進んできたはずなのに。藤の花の名所に着くはずが、何だかよく分からない場所に辿り着いてしまった。テニスコートが一面入るくらいの大きさの楕円形の土地。周囲は高い樹木で取り囲まれている。見たことのない樹木だった。その楕円の真ん中辺りに黒い石がある。碓のような形の石で、強い光沢を放っている。近づいて覗き込むと、碓の内側の真ん中に翡翠色の小さな球が埋め込まれていた。 「おや、あな...
pale asymmetry | 2021.04.20 Tue 21:45
JUGEMテーマ:ものがたり 集落には、一つだけ不可侵の砂浜がある。切り立った崖に取り囲まれたその小さな浜は森を抜けた先にあるのだけど、森を抜けることが出来ないのだ。直線距離で十数メートルしかないはずなのに、真っ直ぐ歩いているつもりが何故かいつの間にか森の入り口まで戻ってしまっているのだった。何人もの人がその浜に行こうと森に入ったのを知っているけれど、誰も浜には辿り着けなかった。中には一気に駆け抜けようとした者もいたけれど、その人は両足を激しくやけどしてしまった。もちろんその原因...
pale asymmetry | 2021.04.18 Sun 21:39
JUGEMテーマ:ものがたり 路面電車の終着駅は、百合の花に包囲されていた。遠くに低い山が見える。変化はそれだけだ。ホームは小さく、一両編成の車両が少しはみ出している。その無人の駅に降り立ったのは私と、犬を連れた青年が一人、それだけだった。黒い中型犬は、リードに繋がれていない。精悍な体つきだったけれど、怖さはなかった。その犬が、まるで青年の影が変化したようなそんな非現実的な印象だったせいかもしれない。 私と青年と犬が降りると、車両は直ちに音もなく消えた。無数の泡に分解されるよ...
pale asymmetry | 2021.04.12 Mon 22:05
JUGEMテーマ:ものがたり 八枚の羽を有する種を飛ばす。ちょうど南西の風が強く吹き始めたので、懐深くに隠しておいたそれを宙に放つ。青い透明な空気にやわらかく弾かれながら、それは無限のレイアー構造を撫で回すように、有羽の種は旅立っていった。どこまで行けるだろう。君の国まで辿り着けるだろうか。君の住処のベランダに、コトリと落下できるだろうか。そのとき君はちょうどベランダで微睡んでいて、その眠りは二十四式暗号よりも遙かに希薄だから、その微かな落下音でも君は覚醒に揺さぶられてしまうだろ...
pale asymmetry | 2021.04.11 Sun 20:57
JUGEMテーマ:ものがたり 白い部屋は清浄な空気で満ちていた。世界が不浄に満ちているから、この部屋の清浄さは過剰に感じられた。それは良いことなのか、良くないことなのか、それは正しいことなのか、間違っていることなのか、私には解らない。解りようもない。世界は複雑怪奇で、私が目にしている風景はそのごく一部にしか過ぎない。そういう恣意的に切り取られたごく僅かな風景を頼りに、私は進んでいく。そうすることで、また次のごく僅かな風景を、私が世界だと思っているものの欠片を手に入れることが出来る...
pale asymmetry | 2021.04.08 Thu 21:40
JUGEMテーマ:ものがたり 「ママはね、パパのことをひどく愛していたのよ」 そんなままの言葉を聞きながら、僕は棺の中を覗き込む。花に囲まれて横たわっているパパは、どこか困った表情をしているように見えた。私もママをとても愛していたんだよ、という感じではなく、ママは相変わらずだよね、と僕に同意を求めているような顔に見えた。 「ひどく、ひどく愛していたのよ」 ママは繰り返す。声は湿りきっていたけれど、ママに目を向けると涙は溢れてはいなかった。嘘をついているわけではなく、まだ涙...
pale asymmetry | 2021.04.05 Mon 19:37
JUGEMテーマ:ものがたり 黒煙を吐くトロッコは、灯油で動いているのだという。普通こういう機関は軽油ではないかと思ったが、昔からずっとこうであったのだと言うのだ。問題なく動き続けていますし、愚図ることもありません。と運転士は胸を張って言う。しかしどう見ても、黒煙は異常な印にしか見えなかった。しかしトロッコは順調に山を登り、愚図ることなく山頂付近の目的地に着いた。もっとも、愚図っていたとしても私には解らないから、本当は何度も愚図っていたのかも知れないが。 「早速ですが、炎をご覧...
pale asymmetry | 2021.04.03 Sat 21:43
JUGEMテーマ:ものがたり 風は中天から水面に向かって降り注ぐように吹いていた。おそらくこれは何かが受け渡されているのだろうと、私は考えた。空の向こう、星の海からこちら側の水の海へと。それは生命の素材だと言ってしまえば簡単にすむ話だろうけれど、では生命の素材とは何なのかという問題が解決されることはないのだろう。今のところは。まだ、星の海が何で満たされているのかが皆目解っていないのだから。そして当分の間、それは解明されないだろう。いや、永遠に解らないままかも。その可能性は否定でき...
pale asymmetry | 2021.04.01 Thu 21:29
JUGEMテーマ:ものがたり 列車が止まってから三十分ほどして、ようやくアナウンスが流れた。それによると、線路上に那由他星がいるのだという。それでは簡単には動き出すことはないだろうな、と思った。たぶん、このままこの場所で夜を明かすことになるのではないだろうか。カーテンを引き上げ外を眺める。夜がすっかり降りてきていて、風景は見えない。それもそのはずで、腕時計のデジタル数字は十一時三十五分を表示していた。さてどうしたものか、このまま読書の続きを愉しもうか。それとも好奇心を満たすために...
pale asymmetry | 2021.03.28 Sun 22:03
JUGEMテーマ:ものがたり 際山のひとが、下りてきた。このところ春らしい暖かな日が続いていたせいかもしれない。雨も程良く降り、際山の空気はやわらかな湿り気を孕んで、それが際山のひとを目覚めさせたのだろう。際山のひとはすでに白い冬毛が抜け、全身に赤茶の短い毛を纏っていた。そのせいか、少しはにかんでいるように思えた。冬毛は長い剛毛だから、急に身軽になった自身の姿にまだ慣れていないのかも知れない。際山のひとは冬になると一旦世界を閉じるのだけど、以前の世界の記憶は薄く残るらしいから、目...
pale asymmetry | 2021.03.26 Fri 21:26
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