JUGEMテーマ:ものがたり 「僕は死んでいるのか、それとも生きているのか、微妙なところだと思わないかい?」 円柱立体モニタの内部で、彼は穏やかに笑っている。 「何も微妙じゃない。あなたは完璧に死んでいるわ」 私がそう言い放つと、彼は肩を竦める。 「完璧っていいね。何にしても完璧はいいよ。でも君はそれをどうやって証明する。こうして僕と話をしているのに」 私は思わず笑ってしまった。呆れてしまって。 「証明って、そんな必要全くないわ。私はあなたが死んだことを知っている...
pale asymmetry | 2021.07.30 Fri 21:35
JUGEMテーマ:ものがたり 砂浜は西の海に面していて、太陽はもう水平線の近くまで傾いている。少しだけ淑やかな茜を纏っていた。それでも放つ熱はまだまだ鋭い。歩きながら、私は額の汗を拭う。斜め前を行く教授は、時々振り返って笑う。彼は全く暑そうな雰囲気はなく、実際に汗をかいている様子もない。まるで、身体の周りの空気を制御しているようだ。つまりその粒子の運動を、そのエナジーを制御しているようだった。実際に彼がそれを行っていたとしても、私は驚かない。そういうことができそうな人物だった、教...
pale asymmetry | 2021.07.29 Thu 21:20
JUGEMテーマ:ものがたり 大陸を西から東に横断する銀帝号は、大陸の夜のゾーンのみを走り続ける長距離列車だ。そんなことが可能かって? 可能であるかどうかはこの場合関係ない。現に銀帝号はそういう運行を続けているのだから。絡繰りはもちろんあるだろう。なければならない。けれどそれを知ることが私に必要だとは思わない。そんなことを知らなくても、私は快適に乗車しているのだから。誰かがヒントをいっていたような気がする。銀帝号は月光を燃料に走っているのだとかなんとか。銀帝号の銀は月光のことを言...
pale asymmetry | 2021.07.28 Wed 21:25
JUGEMテーマ:ものがたり 部屋の明かりは消し、キャンドルの炎は黄色。この炎の色の仕組みを私は知らない。私が解っているのは、炎の色は黄色でなければいけないと言うことだ。少し金色がかった黄色。見つめているとどこか遠い場所に旅立ちたくなる黄色。でも実際には、遠い場所からその炎を道標にやって来るのだ。あるいはその熱を道標にかもしれない。それともその揺らぎを道標にだろうか。とにかく、その黄色い炎を灯すことで、私の方の準備は出来ていますよと、稀人に教えることが出来るのだった。 黄色い...
pale asymmetry | 2021.07.26 Mon 21:41
JUGEMテーマ:ものがたり 四人目の少女が失踪したのは、梅雨明け間近の大雨の日だった。都市のあちらこちらで冠水が起こり、生み出された川が文明を嘲笑うかのようにさざ波を纏って揺らいでいた。その波が起こす迷彩が、少女の姿を隠してしまったのかもしれない。少女がそれを望んでいたのかどうかは解らないけれど。少女はまだ世界の欠片にしか触れたことがなくて、世界の方も少女の欠片にしか触れたことがない。では誰がその希薄なアクセスを乗っ取って少女を隠してしまったのか。誰、ではないかもしれないが、何...
pale asymmetry | 2021.07.24 Sat 21:34
JUGEMテーマ:ものがたり 卵かけご飯を食べるために都市を彷徨う。材料を求めているわけでもなく、それが食べられる飲食店を探しているわけでもない。材料も道具もそろっていて、それはバックパックに詰め込まれていて、いつでも卵かけご飯を構築出来る準備は整っているのだ。問題はその辺りにはなく、場所なのだ。つまり卵かけご飯を食する場所だ。特に北北東の強めの風が吹くこんな早朝には、どこで卵かけご飯を食べるかによって、たぶん世界の行く末が変化してしまうだろう。文明が滅ぶかもしれない。だから僕は...
pale asymmetry | 2021.07.19 Mon 21:02
JUGEMテーマ:ものがたり 闇はざらついていて、乾いていた。強く吸い込むと咳き込んでしまいそうな闇だった。 予定では、日が暮れる前にこの山を越えて今頃は麓の集落に着いているはずだった。鉱虫の採集に夢中になってしまって、時間を読み違えてしまった。小さなトーチ一つでこの山道を進むのは心許ない。今夜はこの峠道の途中で野宿するしかないだろう。さてどこで野宿するのが良いのだろうかと考えながら歩いていると、炎が見えた。ちょうど道が登り切った辺りで、誰かが火を焚いている。安定した炎が、私...
pale asymmetry | 2021.07.16 Fri 21:14
JUGEMテーマ:ものがたり 屋根の瓦が弾む音が聞こえてくる。この世界にはたった一人の翼者がいるのだ。瓦の音は誰かの足音。翼者は世界のために存在する。音から推測するに、歩幅は短い。私と同じくらいだろうか。だから身長は160センチくらいなのかもしれない。翼者は世界のために、常に傷ついている。つまり世界の代わりに傷つけられているのだ。この世界をより完全な完成に近づけるために。 「翼者様を癒すのは、私たちの役割なんだよ」 祖母から何度も聞かされた。そのための鍛錬もさせられた。でも翼...
pale asymmetry | 2021.07.07 Wed 20:50
JUGEMテーマ:ものがたり 僕らは一列で森の道を進んでいく。道が細すぎて、そうしないと進めなかったのだ。僕らを取り囲む木々はどれもこれも大樹だ。でも威圧的な感じは一切ない。どこか守護神のようなやわらかな風格を感じられた。だから大樹が陽光を遮り、偽物の夜が漂う森の中でも、僕らは怖じけることなく進むことが出来た。 「海の匂いがするね」 僕が声を上げる。空気が湿っていたせいだろうか、思ったよりも声は重く響いた。 「たぶん森の端っこが海に面しているんだと思うよ」 先頭のユー...
pale asymmetry | 2021.07.03 Sat 21:35
JUGEMテーマ:ものがたり 砂漠というのは見渡す限り砂なのだと思っていた。砂が作り出す巨大なうねりに飲み込まれそうになるのだと思っていた。でも周りを見回すと岩石があちらにもこちらにも転がっていて、低木が賑やかに生えている。地面は固く、うねりそうにもない。けれどここは紛れもない砂漠なのだ。騙されているのかと最初は思ったけれど、どうやらそうではないらしい。隣で寝そべる人物は、仕事の後輩をからかうような人には見えなかった。 「あの、これからどうするんですか?」 僕の質問に先輩が...
pale asymmetry | 2021.06.28 Mon 21:48
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