[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]
JUGEMテーマ:ものがたり カラフルな傘は全て閉じられていた。しっかりと、というわけではなくだらしなく閉じられていた。半ば開いていると言っても良いかもしれない。そんな感じだった。綺麗に開いた傘はモノクロだった。その白は銀色のような艶を持ち、黒は全く艶を有してはいなかった。仲が悪いのではないだろうか、あの白と黒は。私は歩道のベンチに座り、そんなことを考えた。カラフルな傘は無数に群れていて、カラフルな色に相応しいくらいに活発に踊っていた。モノクロの傘も群れていたけれど、カラフルなそ...
pale asymmetry | 2021.03.23 Tue 22:14
JUGEMテーマ:ものがたり 水中から飛び出したのは、蝶だった。たぶん宿命を背負った蝶だ。その証拠に長い長い尾状突起を棚引かせている。闇よりも黒いその羽は、午後のやわらかな日差しを吸い込んで怪しい奥深さを見る者に感じさせる。世界は基本的に表層だけで理解できる代物だけど、その懐には異なる様式による本性を蹲らせているのだと、そう告げているようだ。告げているのは蝶ではない。黒い羽そのものでもない。もちろん世界そのものでもなく、その懐に潜む何者か、叡智を持つ何者かでもない。 つまりこ...
pale asymmetry | 2021.03.22 Mon 21:24
JUGEMテーマ:ものがたり 「ガリバーになった気分だ」 相棒が言う。僕は頷く。ガリバー旅行記はガリバーが小人の国に行くエピソードが有名だけど、あれだけじゃなくてガリバーは他にもいろいろな国に行っていて、その中には巨人の国もある。相棒が言ったのはそのときのガリバーのことだ。つまり、僕らの周りは巨人だらけだった。誰も彼も3mくらいの身長だった。 「首が疲れそうだ」 相棒は顎を精一杯反らせて、キョロキョロと忙しなく見回す。ウエイターを探しているのだけど、なかなか見つからない。...
pale asymmetry | 2021.03.19 Fri 21:52
JUGEMテーマ:ものがたり 平日の午後だからか、その店は空いていた。というか、僕たち以外に客はいなかった。僕と、友達と、彼女以外には。彼女は濃紺のタイトなスカートに極薄いピンクのシャツ、そしてその上に白衣を羽織っていた。医療機関や研究機関、あるいは大学などの教育機関以外の場所で白衣を着た人を、僕は初めて見た。この格好で家から来たのだろうか。ここまで地下鉄で来たと言っていたけど、この格好で地下鉄に乗ってきたのだろうか。店内には微かに音楽が流れていた。どこかの民族音楽のように思えた...
pale asymmetry | 2021.03.18 Thu 21:32
JUGEMテーマ:ものがたり 私たちは、システムだ。細胞によって構築された一つのシステムだ。そこでは基本的に協調が重んじられている。けれど裏切りは全くない、というわけではない。一般的にガンと呼ばれる細胞たちだ。自己の利益のためだけに行動し、システムを崩壊させることを厭わない者たち。私たちは、繁殖の年齢を過ぎると、この厄介な者たちと戦わなければならなくなる。そのための遺伝子を私たちは生まれながらに有している。TP53という遺伝子だ。裏切り者を抑制する役割を持つ遺伝子を、けれど私たちは二...
pale asymmetry | 2021.03.13 Sat 20:47
JUGEMテーマ:ものがたり 少女は海辺のバス停で、道路に背を向けて水面を眺めている。彼女は西の方角に顔を向けていて、風は南から彼女の髪を弄び、太陽は正面の斜め上でまだ我が儘な光を放っている。彼女と海の間には小さなビーチがあり、それが彼女と海を取り持っている。そして同時に彼女と海を分断している。コネクトとディスコネクトは常に表裏一体で、彼女に協力と敵対を同時に与える。そういうこの世界のやり方に彼女はすっかり慣れていたから、もう違和感を感じなくなっている。それが良いことなのか悪いこ...
pale asymmetry | 2021.03.12 Fri 21:55
JUGEMテーマ:ものがたり 世界をシュムリが支配してから、箱船を見なくなった。生き残った人々は皆そう言っている。私は世界中をくまなく旅して、全ての人に尋ねたから間違いない。生き残った人の数は本当に少なかったし、その人たちは全員体内にチップを有していたので、それを辿って一人の漏れもなく尋ねられたのだ。シュムリを恐れて箱船は去ってしまったのだと言う人もいたし、シュムリが箱船をムシャムシャと食べてしまったと言う人もいた。実際に目の前でその光景を目撃したのだと、その人は言った。でも別の...
pale asymmetry | 2021.03.02 Tue 22:06
JUGEMテーマ:ものがたり ヘモグロビンという品種のリンゴをテーブルに飾る。部屋中の照明を目一杯ともして。お皿には山盛りのジュエル。キラキラと冷たく煌めく。白銀の照明が放つ熱は、ジュエルの冷酷さには打ち勝てない。結果としてヘモグロビンというリンゴは禁断の果実になる。たぶん一口囓ると、内部から鮮血が滴るだろう。そしてそれは蜜色の鮮血なのだ。でも決して甘い味はしない。それは錆びた金属の臭みに汚れきっていて、その汚れは口中にえもいわれぬ痛みをもたらすだろう。不快すぎて恍惚を感じてしま...
pale asymmetry | 2021.02.28 Sun 21:56
JUGEMテーマ:ものがたり 隻眼の男は、雨を見つめていた。雨は大粒で、真っ直ぐに降り注いでいた。呼びかけるような音が響いていた。それが雨粒が空を斬る音なのか、空で研がれる音なのか、それとも本当に雨粒そのものが鳴いているのか、隻眼の男には解らなかった。雨は黄金色だった。だから極端に弱い明度の風景の中でも十分に輝いていた。特別な雨なのだろうな、と男は思った。そう思ったことに特に理由などない。黄金色が特別だと思ったわけではない。呼びかける音のせいでもない。ただ何となくそう思っただけだ...
pale asymmetry | 2021.02.27 Sat 21:51
JUGEMテーマ:ものがたり 庭を、右から左へと雫が転がっていく。庭の左端に到達すると、直ぐさま右へと転がり出す。そんな様子を、私は縁側に寝そべって眺めていた。それは雫ではなかったかもしれない。テニスボールくらいの大きさだったから。けれど形はまん丸ではなく、尖った先端を一つ持つ落下途中の雫のようだったのだ。色彩は半透明の淡い青。柔らかさと硬さの両方を感じさせる青。温かさと冷たさの両方も感じさせる青だった。それがいくつも、十いくつくらい、あるいは二十いくつくらい、三十を超えてはいな...
pale asymmetry | 2021.02.21 Sun 21:56
全1000件中 311 - 320 件表示 (32/100 ページ)