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JUGEMテーマ:ものがたり 最後に咳き込むような音を立てて、エンジンが止まった。そしてその後は再び動き出す気配さえなかった。セルモーターは回っている。そうと解る音はするけれど、エンジンは始動しない。年度かキーを捻った後、運転席の友達は僕に顔を向けて軽く肩を竦めた。 「参ったね」 言葉とは裏腹に、とても愉しそうなトーンの声だった。面白くなってきたね、と言うときのトーンだった。太陽はすっかり傾いている。空気はすでに黄昏色に染まりきっている。そして僕らは未舗装の山道の、どこだか...
pale asymmetry | 2020.10.02 Fri 20:31
JUGEMテーマ:ものがたり 「さて、諸君。我々に今必要なのは、ずばり洗濯屋だ」 リーダーが胸を張り宣言する。過剰に胸を反らしていて、後ろに倒れてしまいそうだ。 「あれ? 諸君らはそう思わないのか?」 メンバーの全員が無反応なことに気づいて、リーダーは少し声のトーンを落とす。メンバーを見回し、自分の何がズレているのかを探っているようだ。 「いや諸君らだって解っているはずだ。我々が今抱えている問題を解決するためには、洗濯屋の解析が必要なことを」 リーダーは声を潜める。...
pale asymmetry | 2020.09.28 Mon 21:48
JUGEMテーマ:ものがたり 交差点の四つの信号機は、全て赤が点灯している。もちろん、歩行者用のものも全て赤だ。つまり、この交差点は閉鎖されている。麒麟の反応が検知されたからだ。おそらく、かつて麒麟であった余韻が地中に残っていたのだ。それは最初地中奥深くに沈んでいき、そこで眠りの殻に閉じこもったに違いない。しかし年月と共に、その殻が夢に侵食され、ついに裂け目が生まれてしまったのだろう。そしてそこから漏れ出た麒麟の余韻が、地上に向かって流れとなって上昇し始めているのだろう。だから麒...
pale asymmetry | 2020.09.21 Mon 21:25
JUGEMテーマ:ものがたり ステージ上には、小さなロボットが立っていた。ステージの真ん中に、居心地悪そうに立ち尽くしていた。ロボットの前にはスタンドマイクが一本、強い照明がロボットとそのマイクを照らしていた。それは都市の片隅、何のために作られたのかよく解らない広場でのこと。太陽はすっかり傾き、錆びたオレンジ色に空気が染まっていた。 「僕は、ここまで歩いてきました」 ロボットの声は高音で、幼い子供のようだった。その声量も子供のように弱かった。 「僕は、飛ぶことが出来ません...
pale asymmetry | 2020.09.19 Sat 19:04
JUGEMテーマ:ものがたり 友人がカエルアンコウをくれるという。アンコウと言うくらいだから美味いのだろうと思って検索したら、食用魚ではなかった。観賞魚のようだが、しかしとくに姿が美しいとか、色彩が豊かとかいうわけでもなく、ポテっとした体型のあまり活発に泳ぎ回りそうもない魚だった。いわゆるキモカワイイ系の魚なのだろう。しかし我が家には水槽がない。そもそも私は魚を飼うことに全く興味がない。それを伝えて断ろうと連絡したら、「水槽はいらないのだ」と友人は言う。魚なのに水槽がいらないとは...
pale asymmetry | 2020.09.18 Fri 21:45
JUGEMテーマ:ものがたり 有翼の光と有翼の光が争っていた。星も月も見えない夜の真ん中で。一方は金色の光で金色の翼。もう一方は銀色の光で銀色の翼。あれは善と悪の戦いだろうか。どちらが善でどちらが悪だろうか。どちらも綺麗だから、どちらも善に見える。同じ理由でどちらも悪に見える。まあ僕の勝手な空想だから、たぶん善も悪もないのだろう。それどころか争っているのかどうかも本当は知らない。戯れているだけかもしれないし、愛し合っているのかもしれない。ああやって激しくぶつかり合うことが、有翼の...
pale asymmetry | 2020.09.14 Mon 21:36
JUGEMテーマ:ものがたり 「世界に最初に降った雨は、千年降り続いたのだそうよ」 彼女が囁く。真っ直ぐに目をむいたまま。僕らは時間を泳ぐ。見知らぬ路地に流れる風に紛れてたゆたう。眠りと紙一重の覚醒を抱えたまま、オートマチックに追跡している。 「それは、この惑星が生まれて二億年ぐらいがたったときのことなんだって」 彼女は僕の少し前を歩いている。足音はしない。実は地面から一ミリぐらい浮き上がっているのかもしれない。そんな足運びだ。僕にはそんなスキルはない。だから慎重に彼女を...
pale asymmetry | 2020.09.13 Sun 21:31
JUGEMテーマ:ものがたり 砂の大地から十三の塔が生え出ていた。それらの塔は半ば砂に埋まっているのだが、それでも高く聳え立っている。半径約一キロの範囲に十三の塔は群れるようにあり、その周り、あるいは塔と塔の狭間が集まった人々のステージというわけだった。 「低いレベルで、ずっと眠気が体内に積もっている。そういう人々がここに集まっています。あなたもそういう感覚が分かりますか?」 メンターが、柔らかな表情で僕に問いかける。生まれてから一度も、負の感情を抱いたことがない。そんな人...
pale asymmetry | 2020.09.12 Sat 22:15
JUGEMテーマ:ものがたり 扇は屋敷の一番奥の座敷にあった。そこには窓はなく、外部の光は一切入ってこない。電気も通じていないので、蝋燭かトーチが必要だった。その座敷に繋がる部屋までは電気が通じていたので、その部屋の明かりを灯し座敷に通じる引き戸を開放しておけば、座敷の内部に光を導くことは出来た。しかし、その状態で扇に触れることは禁じられていた。座敷の中央辺りに鎮座する扇に触れるためには、引き戸を固く閉じなければいけない。だから僕はトーチを手にその座敷へと足を踏み入れ、引き戸をし...
pale asymmetry | 2020.09.04 Fri 20:07
JUGEMテーマ:ものがたり 「たぶんたくさんの訪問者が現れます」 その人は、少し困った表情でそう言った。 「どういう方たちですか?」 私の質問に、その人はしばらく考えてから細かく首を振る。 「端的に言えば、不要な者たちです。私はそう思っています。しかし、彼らは誰一人そうは思っていない。そこが難しいところです」 開放された窓から散歩の所にある大きなプールの水面を見つめて、その人は薄く笑った。ように見えた。 「でも、ここの邸宅のセキュリティーは厳重だと思えますけど。...
pale asymmetry | 2020.09.03 Thu 22:05
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