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JUGEMテーマ:ものがたり 会社が仕事納めになり、正月休みに入ったけれど僕にはすることがない。帰省の予定もないし、他のイベントの予定もない。それで短期のアルバイトに募集してみたら採用された。何だかよく解らない仕事だったけれど、健康な成人なら誰でも出来る業務内容だと言うことだったので、取り敢えず集合時間に集合場所に行ってみる。 「どうも、私のことは主任と呼んで下さい」 集合場所は自宅近くのコンビニのパーキングで、そこには面接のときに会った男性が銀色のワンボックスカーと一緒に...
pale asymmetry | 2021.12.29 Wed 21:28
JUGEMテーマ:ものがたり 私は麒麟だった。麒麟だったから空を駆けていた。低い空には霧のような雨が舞っている。それを瑠璃色の鱗に感じていた。心地良かった。四肢を回せば自在に翻ることが出来た。体内には無尽蔵の燃焼が閉じ込められているようで、開放すれば世界と並び立つ理を自在に操ることが出来るような気がした。どこまでも、いつまでも、駆け巡っていられるだろうと思えた。この宇宙の果てまでも、この宇宙の終わりまでも。 もちろんこれは夢だった。私は麒麟になった夢を見ているのだ。夢のなかで...
pale asymmetry | 2021.12.23 Thu 20:44
JUGEMテーマ:ものがたり 目が覚めたら、隣に天使が横たわっていた。うつ伏せに横たわっていて、背中からは一対の翼が生え出ている。それは大きく広げられていて、天井に届きそうだ。先端が尖った格好良い感じの翼だった。フワリフワリと揺らいでいる。重力を反転させているような動きだと思った。ああ、だから天使は空を飛べるのか。そう思った。翼は仄かに輝いていた。灰色に輝いていた。暖かそうな灰色だった。あまり賢そうではない灰色だった。だから私の部屋にいるのかな。何となくそう思ったりもした。 ...
pale asymmetry | 2021.12.22 Wed 19:49
JUGEMテーマ:ものがたり 取り敢えずのど飴を口に放り込む。グレープ味ののど飴。それが私の仕事の始まりの合図。スイッチと言ってもいいし、ファンファーレと言ってもいい。それもまた、わたしにとってのイコンだ。もちろん狭義のイコンの意味とは大きくかけ離れているけれど、ここで私が言うイコンとは広義の事象。象徴的な因子、あるいはコミュニティーのハブとして機能する事象。そういう事象とレンズ越しに対峙することが私の仕事だ。デジタルな記録としてそういう事象を固定することにどういう意味があるのか...
pale asymmetry | 2021.12.16 Thu 21:22
JUGEMテーマ:ものがたり 無性に腹が減っていたので、水面に映る月を食した。清涼感の強い、貞淑な味がした。それなりに満足出来たけれど、俺が求めていた満腹感は得られなかった。それなら空の方の月も頂こうかとも思ったけれど、それはさすがに摂理を歪めることになる。そうしてしまえば世界は俺を許さないだろうと思ったからひとまず我慢することにした。しかし、瓜の形をした空の月は、美味な熱を放っている。風景の隅々にまで放っているけれど、あれはきっと第一に俺に放っているのだ。俺にはよく解る。掴み取...
pale asymmetry | 2021.12.15 Wed 21:38
JUGEMテーマ:ものがたり 彼女は走っていた。全力で風を掻き分け走っていた。ゆるやかな上り下りを繰り返す、うねりのような大通りを疾走していた。真っ白なドレス。でもその丈は極短い。だからこれ以上ないほどに躍動する両脚の様子が詳細に見て取れた。それは歯車として彼女が世界の顔路の一端を担うことを象徴しているのだろうか。それとも、赤い女王のような存在との競争がすでに始まっていることを意味しているのだろうか。どちらにしても、彼女の疾走は綺麗だった。路面を蹴り、風景を後方へと置き去りにする...
pale asymmetry | 2021.12.13 Mon 21:12
JUGEMテーマ:ものがたり そこは架空の街だ。実在しない街という意味ではない。実在している架空の街なのだ。この街は永遠に黄昏時で、朝も昼も夜もない。陽光は常にか弱く、すれ違う誰かの姿は薄暗い。その表情は読み取れず、その心持ちなどなおさら解らない。あるいは、心などないのかもしれない。朝がなければ覚醒はなく、昼がなければ躍動がなく、夜がなければ知性がないのだから。そういう意味で、この街は架空の街なのだった。 半透明の蝶に導かれ、私は暗い路地に足を踏み入れる。小さな黄金色の灯火が...
pale asymmetry | 2021.12.12 Sun 21:29
JUGEMテーマ:ものがたり 六つの三角屋根が複雑に融合した奇天烈な形の屋敷だった。屋敷と言うには大きすぎたから、城と言っても大げさではないように思えた。その城が、真っ直ぐに私に近づいてくる。急峻な谷間の道を、その城は歩いてくるのだった。いや、歩くという表現は違うかもしれない。その城には脚が一本しかなかったから。その脚で跳ねるように前進しているのだった。巨大な構造物が跳ねて移動しているにしては、その稼働音は酷く小さく、それは雫が水面に落下するような音に感じられた。 城は私...
pale asymmetry | 2021.12.09 Thu 21:27
JUGEMテーマ:ものがたり 湖の真ん中辺りに小さな舟が浮かんでいる。その舟には三本の角を生やした黒い獣が乗っている。光沢の強い毛並みが傾いた茜の陽光を鋭く弾いている。あるいは無慈悲に切り裂いている。水面は鏡のような凪を纏っていて、その一点に最初の星が移し取られたとき、湖の周囲に設置された照明の全てに火が灯された。燃え上がる炎は、黒い獣を捕らえただろうか。いやむしろその炎は獣のもので、放射された獣の闘牙のように思われた。触れた人間は一瞬で塵と消えてしまうような。 湖の岸辺に一...
pale asymmetry | 2021.12.08 Wed 20:46
JUGEMテーマ:ものがたり 旅の途中の無人駅で電車を待っているとき、ふとホームの端にある建物が気になった。三角屋根の小さな木造の建物。全体が灰青色に塗り上げられている。屋根の天辺は私の頭より少し高いくらい。窓はなく、私の背丈とほぼ同じくらいの扉が一つ。扉の脇には『cafe』と書かれたプレートが取り付けられている。ホーム内にあるのだから、鉄道会社が運営しているのだろうか。私が乗車する電車が到着するまでまだかなりの時間があったから、私はその扉を開いた。リズミカルなベルの音が響いた。 ...
pale asymmetry | 2021.12.04 Sat 21:26
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