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JUGEMテーマ:ものがたり 二階の小さなベランダで布団を干す。北風は巨大な聖獣のように冷たいけれど、陽光だってそれくらい強いから、ベランダはやや快適な感じだった。天国というわけではなかったけれど、天国を望んでも仕方がない。天国って望んではいけないものでしょうから。ハタハタと両手で布団を叩く。染みこんでいるはずの私の悪夢を世界に解き放つために。それが白日夢となって、誰かを襲い踊らせるだろうか。それとも誰かを叫ばせるだろうか。どちらでも良いけど、誰かに届くと良いな。それが良い意味で...
pale asymmetry | 2021.02.18 Thu 21:31
JUGEMテーマ:ものがたり グラウンドの真ん中に、それは浮かんでいた。強いメタリック感を放つコバルトブルーの円盤だった。地面から五メートルくらいのところに浮かんでいる。微かな音が聞こえた。泣き声のような音。でも笑い声のようにも聞こえる。微かすぎてよく解らない。どちらにしても、私はこんな風には泣かないし、こんな風に笑いもしないだろうと思えるような音だった。 今にも雨が降りそうな空だった。そもそもが新月の夜だったけれど、必要以上に闇に沈み込んでいる。空気に墨汁の匂いが混じってい...
pale asymmetry | 2021.02.13 Sat 21:34
JUGEMテーマ:ものがたり 左目のかゆみで目が覚めた。枕元のスマホを探る。モニタを撫でると、それは午前五時五十五分を表示した。アラームが鳴るまで五分。私は毛布の呪縛から身体を剥がす。部屋の空気が身体に覆い被さり、その澄んだ冷たさが私の皮膚に染みこんでいく。世界は冷徹だから、お前も冷徹になれと言われているようだ。誰に? 私自身の、私が制御していない部分から。まだ覚醒が全身に行き渡っていなくて、少しふらつく脚を励ましながら洗面台まで歩く。左目を擦ると、ごろごろとした感触がした。何か...
pale asymmetry | 2021.02.06 Sat 21:41
JUGEMテーマ:ものがたり 傾き始めた太陽に向かって、僕と相棒は歩いていた。太陽はまだ十分に眩しかったけれど、その黄金性はすでに失われ始めていて、やがて対峙できるくらいの茜を纏うだろうと思えた。 「どこまで行くんだろうね、あの子は」 相棒が僕に顔を寄せて囁いた。眼差しは前方に向けられたままだ。その前方には、大きなサイが歩いていた。サイの背中には櫓が乗っかっていて、そこには小さな女の子が行儀良く腰掛けていた。女の子は僕らに背を向けたまま、微動だにしない。いや正確にはサイの歩...
pale asymmetry | 2021.02.04 Thu 21:29
JUGEMテーマ:ものがたり 月光は強く、私の影を砂に落とす。オリオンは中天にいるはずだったけれど、明るすぎる夜は星々をくらましている。靴を脱ぎ、砂浜を裸足であるく。細かな砂は心地良い。足裏が捉える感触は、思いやりのある柔らかさだ。私はこの夜に受け入れられているのかもしれない、と思えるくらいに。実際にはそれは錯覚で、夜というものは何者も受け入れたりしないことを私はよく知っている。何度も何度も裏切られているから。私がどんなに寄り添おうとしても。 煌めく波は月光を宝石へと変換...
pale asymmetry | 2021.01.31 Sun 21:47
JUGEMテーマ:ものがたり 世界は炎に満ちている。それは小さな炎だ。親指と人差し指で摘まみとれるくらいの大きさ。橙色の尖った輪郭の炎だ。だから摘まむのは難しいかもしれない。痛みを伴うかもしれない。その炎は回転している。捻れながら回転している。スパイラルスピンだ。その回転は螺旋を表現している。螺旋を発信している。そうすることによって、世界のソースコードを隠しているのだ。カオスから守るために。 私は地上に立っていた。いや、正確には地面から数ミリ浮き上がっていたので、立っていたわ...
pale asymmetry | 2021.01.30 Sat 21:54
JUGEMテーマ:ものがたり 金星人はいつだって陽気だ。底抜けに陽気だと言えるだろう。それは金星人の気質なのだそうだ。金星人本人から聞いたことだから間違いないだろう。それは金星の公転軌道に起因しているのだという。つまり太陽系で最も真円に近い公転軌道が、その陽気な気質を生み出しているのだそうだ。何故真円の軌道が陽気さに繋がるのか、もちろん僕は尋ねたさ。その返事はさっぱり解らなかった。ざっくりと説明することも出来ないくらいに。そして複雑すぎた。内容を反復することさえ出来ないくらいに。...
pale asymmetry | 2021.01.17 Sun 21:33
JUGEMテーマ:ものがたり 岬の先端に寺院が到達したのは、都からその寺院が転がり出してちょうど千日後のことだった。その寺院は文字通り転がってここまで来たのだ。都のちょうど真ん中の王宮の隣から、ぐるんぐるんと休むことなく転がり続けて。赤銅色の寺院は色々と尖った装飾を纏っていたので、それが通り道にあった家やその他の人工物をことごとく破壊していった。人が一人も死なかったのが不幸中の幸いだったろう。家を完全に破壊された者にとっては、その事実を手放しで喜べなかったかもしれないが。 「あ...
pale asymmetry | 2021.01.14 Thu 22:01
JUGEMテーマ:ものがたり トーチの炎は氷の水色。けれどとても暖かそうに揺れる。笑っているようだ。私に笑いかけて、ねえ触れてごらんよと言っているようだ。私はその炎に触れるべきなのだろうか。そしてその炎に焼かれるべきなのだろうか。そのような贖罪を、私は抱えているだろうか。記憶の海に静かに身を浸しても、そこにはただ闇があるだけで、どんな記述も読み取ることは出来ない。そこにはきっと、不可思議なほどに過剰なインフォメーションが記述されているはずなのに。それは何層ものレイヤー構造で、一部...
pale asymmetry | 2021.01.11 Mon 21:37
JUGEMテーマ:ものがたり 風は、脈動のリズムで強弱を繰り返していた。風が強まると、カミオンは激しく揺れた。六本のワイヤーとアンカーで地面にしっかりと固定してあったからカミオンが横転することはないはずだったけど、それでも揺れるたびに不安になった。その度に、ジェネレータが正常に作動していることを確認し、その可動を支える燃料の残量が十分であることも確認する。全て問題ない。問題ないからこそ、私一人に留守番が任されたのだ。特に高度なスキルを持っているわけでもなく、豊富な知識や経験を持っ...
pale asymmetry | 2021.01.09 Sat 22:12
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