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JUGEMテーマ:ものがたり 上弦の月の弦を弾くように、瑞銀船が現れた。現れたと言っても天体望遠鏡で形がなんとか捉えられるような距離で、都の上空に到達するにはまだ幾ばくかの時間がかかりそうだ。天文院の学者がそれを皇帝に報告した。つまり、急ぎ偽皇帝を立てなければいけないと。そこで近衛機関が都中を探索し、偽皇帝の候補者を三人選び出して皇帝に引き合わせた。皇帝は高い玉座から並んだ三人の若い男をじっくりと観察し、時々思案し、また観察し、そして真ん中の男を指差す。 「こいつだな。好みだ」...
pale asymmetry | 2020.01.30 Thu 21:56
JUGEMテーマ:ものがたり 激しいアラーム音が鳴り響いている。世界の終わりを告げるような、次の世界の始まりを告げるような。それは破壊音だ。光を硝子のように叩き割る音だ。チタニウムのスプーンで粉々になるまで、音を発することが出来るサイズよりもずっと微細になるまで、際限なく叩き続ける音だ。しかしいつまでたっても音は鳴り止まない。何て手強い光硝子なのだろう。チタニウムのスプーンが僕の脳回路まで破壊してしまう前に、僕は目を覚ます。薄暗い部屋にひしめき並ぶモニタの一つが、赤く発光してけた...
pale asymmetry | 2020.01.25 Sat 22:12
JUGEMテーマ:ものがたり 森の奥には泉がある。とても青々とした水面を持つ泉だ。水温は何故か常に人肌と同じなのだという。どんな季節でも、どんな天候の日でも。普段は誰もその泉に近づいてはいけない。泉は、獣人たちの領域にあるからだ。一年に一度決まった日にだけ、その泉の水面が黄金色を纏う日がある。その日にだけ、役割を与えられたものだけが、泉に行くことが出来る。今年、その役割を与えられたのは私だった。役割というのは、獣人の足を舐めることだ。正確には、三体の獣人の足の親指を舐めることだっ...
pale asymmetry | 2020.01.20 Mon 21:58
JUGEMテーマ:ものがたり 鮮血は、月光のもとでは黒く見えるのだ。とくに今夜のような半月の夜には。鮮血にまみれた男は、半月を見つめ笑う。嘲笑いだろうか。いや、自虐の笑いだろう。その心の内が月光に晒されたことに対する。禁忌の自分が、清らかな光に照らされていることに対しての。それを彼は望んではいないのだ。常に闇に押さえ込まれているほうが、安らぐのかもしれない。それでも彼は半月を鏡にして、黒い血を纏った自身を見つめているのだろうか。あるいはそこにどす黒い塊を見いだし、吐き気を催して、...
pale asymmetry | 2020.01.14 Tue 22:03
JUGEMテーマ:ものがたり オイルの匂いは嫌いじゃない。特にブレンダ・リーのファクトリーでは。そのファクトリーのオイルは甘い匂いがするのだ。空腹感をちょうど良く紛らわしてくれるような感じの。まあ、満腹にはならない。そうなって貰っては困る。空腹を抱えていなければ、身体の回転が鈍くなるから。頭の回転は常に鈍い俺らだから、そのうえ身体の回転まで鈍くなってしまってはただのポンコツになってしまう。俺もカンザスも、生きていくために、日々食いっぱぐれないために身体を回転させる必要があるのだ。...
pale asymmetry | 2020.01.13 Mon 21:45
JUGEMテーマ:ものがたり 最初に見えたのは大きな紅玉だった。距離感がよくつかめなくて正確にはわからなかったけれど、きっと私の頭よりも大きな紅玉だ。そんな紅玉は実際にはありはしないだろうから、紅玉のような、紅玉のような輝きを放つ、紅玉のようなオーラを振りまく何かなのだろう。遠い場所からそれが見えたのは、高い場所、地上から二十六メートルの場所にあったからだ。それはとても大きな杖の天辺に乗っかっていたのだった。建物に隠されて、杖の姿はまだ全部見えない。 「最初はね、あの杖だけだっ...
pale asymmetry | 2020.01.09 Thu 22:24
JUGEMテーマ:ものがたり 初詣から家に戻ると、玄関の扉の前で小さな訪問者が待ち構えていた。街並みの向こうから届くぽかぽかの陽光に目を細めて、通せんぼをするように立ち尽くしていた。奇妙な小人だった。身長は十五センチくらいだろうか、紫紺色の廻しを締めその他には衣服を身につけていない。筋骨は隆隆、がっしりどっぷりした体格、つまりは力士のような身体をしていた。では小人の力士だったのかというとそうではない。というのも、首から上がネズミだったからだ。もちろん、大銀杏は結ってなどいない。さ...
pale asymmetry | 2020.01.05 Sun 19:45
JUGEMテーマ:ものがたり ネオはラムネのブルーだった。だから空には決して舞い上がらなかった。カラルカラルとでんぐり返り、地面はラジオの破片だらけ。ネオの身体はすぐに鮮血の紋様を纏う。ラムネの宝玉が空にビームを放ち、黄鶺鴒がそれに呼応するように大きな宙返りを描いたとき、ネオはサワサワとした気持ちを抱えて、少しばかりその気持ちを持て余して、遠い昔に遙かな場所ではぐれた人の名を呼びたくなったりした。そして次の瞬間に、その人の名をすっかり忘れていることに気づいたりした。 ネオのラ...
pale asymmetry | 2019.12.31 Tue 22:18
JUGEMテーマ:ものがたり そして僕たちは言葉を失った。これはバベルのようだ。僕たちは、触れてはいけない何に触れてしまったのだろうか。僕たちは、冒してはいけない何を冒してしまったのだろうか。僕たちは何者の怒りに触れてしまったのだろうか。その何者かは、僕たちをどこに向かわせようとしているのだろうか。 これは宇宙人の侵略兵器によるものなのだ、と誰かが言った。これは狂った科学者の仕業なのだ、と誰かが言った。某国の化学兵器の実験が失敗してこのような事態になったのだ、と誰かが言った。...
pale asymmetry | 2019.12.23 Mon 21:09
JUGEMテーマ:ものがたり その一葉のリーフは、衣と呼ばれている。理由は知らない。僕が生まれるずっと前から、僕という現象に繋がる事象さえとても希薄な昔から、そのリーフは衣と呼ばれている。それは家の一番奥の神棚に、盾と一緒に祀られている。その盾もまた、我が家に代々受け継がれてきたものだ。我が家の固有の紋様が一面に描かれた盾だった。 リーフと盾は、普段は神棚で寄り添うように過ごしている。その姿は、穏やかに眠っているように見える。夢を見ているように思える。同じ夢を見ているように。...
pale asymmetry | 2019.12.18 Wed 22:30
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