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JUGEMテーマ:ものがたり 少女は小さなロボットにプログラムを入力した。彼女がその小さな身体に宿したかったのは、知性のための知性だった。彼女がイメージしたのは、満月の夜に、月を隠すことなく降る雪。その結晶。一つ一つが掌と同じくらいの大きさの結晶。銀色のその結晶は、月の光を分解して増幅し、七色の色彩を発射して攻略する。描かれていない世界地図の存在しない暗号記号を。このイメージで彼女が躓いたのは、暗号記号を攻略するのは何者かということだ。それは満月か。それとも夜そのものか。あるいは...
pale asymmetry | 2019.12.16 Mon 20:57
JUGEMテーマ:ものがたり 山羊曜日の午前J時にダイナーに来る客などめったにいない。大抵山羊曜日のこの時間帯には、エーテルがひどく濃くなってしまうから。多くの者は都市の街路を出歩かず、暖かいベッドの懐深くで、ライネックスを六錠ほどきめて意識不明に陥っているか、さもなくばパートナーとコンフュージョンティーを飲みながら、オルガンを共有するトリップに浸るかのどちらかだ。といってもそれは都市の西側に住む者たちの話で、東側に住む者たちは別段エーテルのことなど気にせずに、普段通りの深夜帯を...
pale asymmetry | 2019.12.13 Fri 21:56
JUGEMテーマ:ものがたり 心が重く感じるのなら、あるいは気持ちが疲れていると感じるのなら、あなたのコイルから色彩が失われているのかもしれない。いや、十中八九失われているだろう。そのままでは、遠からずあなたは枯渇してしまうだろう。コイルが完全に色彩を失うことによって。透明なコイルは存在さえもが希薄になり、風が散らす花弁よりも雅だけれど、その分あなたの雅は余剰次元に巻き取られてしまうだろう。 因みに、十七年前に首都上空に突然現れた雅型未確認飛行物体は、当初まことしやかに囁かれ...
pale asymmetry | 2019.12.11 Wed 21:49
JUGEMテーマ:ものがたり それは北風の強く吹く真夜中のこと。空は分厚く陰鬱な雲に埋め尽くされ、月も星も見えない。新月の夜だったから、月はそもそも見えるはずもなかったけれど。星はどうかというと、それは流星群の極大期だったから、晴れていれば流れる星々のパフォーマンスを存分に楽しめただろう。そんな真夜中のこと。 旅人はコートの襟を立て、ただ自身の歩みだけに集中し、暗い夜道を急いでいた。この峠を越えれば、程なく今夜の宿に辿り着くはずだった。しかし先程から、旅人は背筋に冷たい電流が...
pale asymmetry | 2019.12.09 Mon 20:52
JUGEMテーマ:ものがたり 僕は紫紺の傘を裏返し、空から落ちるピースを受け止めたりする。月は両端に僅かな尖りを有する護符。その白銀の輝きは聖なる暴力を秘めていて、今夜は白夜のようだ。さしずめあの月は、青ざめた太陽だ。天空を駆ける馬だ。ではあの月の名は死か。それはひねくれすぎた心持ちだろうか。僕は跳ねる、兎のように。銀色兎は何見て跳ねる。この夜にないもの、この世界にないもの。探しに行こう、ロケットに乗って。空色の煌めくロケットに。僕は操縦できないから、誰かに頼まなければいけないな...
pale asymmetry | 2019.12.08 Sun 21:17
JUGEMテーマ:ものがたり 少年は、帰り道を見失って蹲り泣いていた。長くそうしていたために、涙はつき声も嗄れていた。いつもの通り友達と遊び、いつもの帰り道を歩いていたはずなのに、いつの間にか見知らぬ場所にいて、どこにも進めなくなってしまったのだった。日はすっかり傾き、赤橙色の満月が姿を現そうとしていた。少年は途方に暮れ、ただその月を眺め、夜の気配を感じていた。 「坊やは一人かい?」 山高帽の紳士が、少年の傍らで膝を折り笑っていた。いつの間にそこにいたのか、話しかけられるま...
pale asymmetry | 2019.12.06 Fri 21:41
JUGEMテーマ:ものがたり 彼女は転んだ。それで、零れてしまったのだ。何から。それは風景からで、世界からで、私たちからだ。この事象を理解するためには、彼女とは何なのか、世界とは何なのか、私たちとは何なのかを、紐解かなければならない。それは可能だろうか。可能か不可能かという問いの答えは、常に可能だ。可能だとしかならない。つまりそれは可能性というものはそういうものであり、問い自体が間違っているということだ。 「ツバメを飛ばせ」 軍曹の声がレシバーから刺さる。僕の脳回路に。思考...
pale asymmetry | 2019.12.03 Tue 22:22
JUGEMテーマ:ものがたり 学校から帰ってきたら、珍しく母がいた。家中の窓を全開にして、リビングの真ん中でタバコを吸っていた。午後の光のハミングよりも冷えた風のワルツの方が強く、家の内部の空気は外のそれと同じだった。過ぎるくらいに同じだった。母はぼんやりとした表情で、天井を見つめて、それとも見つめているわけではなく、煙を吐き出している。私に瞳だけを向け、軽く、本当に微かに手を上げた。生きている感じがそんなにしなかった。実はもうすでにどこかで死んでいて、幽体となって帰ってきたのか...
pale asymmetry | 2019.12.02 Mon 20:51
JUGEMテーマ:ものがたり 「あなたの言語を捨てなさい。都市を甲虫に食い尽くされてしまわないために」 その人は私にそう言いました。とても真剣な表情で、有無を言わせぬ口調で。でも私は、それに直ちに頷くことはできませんでした。私の言語は私だけのもので、私がこの言語を捨てれば、世界から私の言語が失われてしまうからです。言語が一つ失われたとしても、世界にとっては何ほどの影響もないのかもしれません。けれど私はそのことで傷ついてしまうことは明らかでした。それに、私の言語を捨ててしまったら...
pale asymmetry | 2019.11.28 Thu 21:30
JUGEMテーマ:ものがたり 取り急ぎ、近況をお知らせする。僕は今遥かに遠い場所にいる。文化も言語も全く違う場所だ。君と最後に会ってからずっとずっと移動を続け、ようやく辿り着いた場所だ。といっても、ここが僕の目的地であったのかというと、それはまあ何とも言えないけど。とにかくここは不可思議な場所だ。まずもって空気が違う。これはもちろん成分やその比率が違うという意味ではないよ。何というか、皮膚に纏わりつく感じが違うのだ。君のいる場所、すなわち僕が生まれた場所では、空気はここより優しか...
pale asymmetry | 2019.11.12 Tue 22:19
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