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JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨は、断続的に強まったり弱まったり。脈動を感じさせるリズム。意識の抑揚かもしれない。何か巨大な存在のフォーカスの尖り具合かも。僕たちを見つめる、その眼差しの尖り具合と言うこと。 「どうせなら、もっと大粒な方が良いのに」 真上に顔を向け、彼女が低く叫ぶ。その声を風が掠っていく。風もまた、断続的に強まったり弱まったり。何か巨大な存在の身震いを感じさせる。同じ姿勢で長くいると痛むので、ときたま姿勢を変化させて痛みを受け流しているようだ。 「...
pale asymmetry | 2022.09.03 Sat 21:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート 少し頭痛がした。だから動く気になれない。友達と約束があったけれど、全く出かける気分にはなれなかった。さて、どうやってキャンセルしようかと思っていたら、その友達から電話がかかってきた。最近電話をかけることもかかってくることもあまりないから、少し緊張する。 「ごめん、今日行けない」 友達がいきなり言う。 「どうしたの?」 「やめろって言われた」 「誰に? 一人暮らしだよね?」 「AIに」 「AI」 「そう。私今AIと暮らしてるの」 ...
pale asymmetry | 2022.09.02 Fri 20:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート 台風が近づいていたから、僕らはそわそわしていた。と言っても今夜は無風だ。空気は沈んでいく一方で、夏らしくない清涼さを纏っている。それとも、僕らが知らないうちにもう秋に変わっているのだろうか。そういう変化はいつも密かに行われている。そして僕らは決してそういう事象に関与出来ない。 「ランプを灯して」 彼女が声を潜めて囁く。 「いいよ」 僕はアルコールランプに火を灯す。オレンジの炎は揺らぐことなく、真っ直ぐに佇んでいる。その色が夜に滲ん...
pale asymmetry | 2022.08.29 Mon 21:21
JUGEMテーマ:ショート・ショート 真夏には珍しい北寄りの風。西海岸から臨む海は淑女のように凪いでいる。でももちろん陽光は凶暴だ。シリアルキラーのようにクレバーな感じ。身を委ねて、見えない刃に切り裂かれる。痛みはないけれど、何故か喪失感。 「こういう海を眺めてると、ヴァイオリンが弾きたくなるね」 隣に寝そべる友人が長閑に言う。 「ヴァイオリンなんて弾けたっけ?」 「弾けるなんて言ってないよ。弾きたくなるって言っただけ」 友人は上半身を起こし、額の汗を拭う。 「凪...
pale asymmetry | 2022.08.28 Sun 20:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート 帰ってきた彼女がレジ袋からとしだしたのは二つのカップ。蓋を開けると緑と赤と橙のミックスされたジェラートだった。 「すごく暑かったから、コンビニに寄ってきた」 僕らは夕食の前に、取り敢えずソファーで並んでジェラードを食べる。お気に入りのアイス専用スプーンで。 「これを買ったときね、じつはマイバッグを持ってたの」 彼女がどこか申し訳なさそうな声で言う。 「ああ、君はいつも持っているからね」 「うん。でもね、レジにアイスを置いたら店...
pale asymmetry | 2022.08.27 Sat 21:38
JUGEMテーマ:ショート・ショート 貴賓室という感じの部屋だ。少し狭かったけれど。テーブルを挟んで向かい合う人物も、この部屋に相応しい豪奢な衣装を纏っている。その眼差しは今、テーブルの上の円形の盤に向けられている。虹の七色のコインが二枚ずつ並ぶ盤に。 「おまえは手強いね」 白い顎髭を撫でながら、この部屋の仮の主がいう。どこからどう見ても男性だったけれど、なぜは周囲の誰もが彼を〈エンプレス〉と呼んでいた。だから私もそれに従う。 「エンプレスが、私ほど賢くはないだけでしょう...
pale asymmetry | 2022.08.26 Fri 20:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート 道はどこまでも真っ直ぐに伸びていて、その両サイドは荒野だった。道の先端は地平線の向こうに沈んでいて、後ろを振り返ってもそれは同じだった。 「水がなくなったわ……」 水筒を逆さに振って見ても一雫も零れない。太陽はまだ中天にあって、その日差しは凶悪だ。いつ切り裂かれて出血してもおかしくないと思えるくらい凶悪だった。 「あなたは暑くないの?」 私は隣を歩く長身の何者かに尋ねてみる。その何者かは少なくとも人形をしていて、つまり...
pale asymmetry | 2022.08.25 Thu 21:57
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「何だかアリスの気分だわ」 タールのように陰った海を見つめて彼女が呟いた。 「じゃあ、僕はウサギかな」 そう言うと、彼女はくしゃりと笑った。いや嘘だ。まだ薄暗くて彼女の横顔はよく見えなかった。でもそのくしゃりが空気を震わせた感じが伝わってきて、そう思ったのだ。 「この熱が心地良いわね」 南西から吹いてくる微風が、彼女の髪を微かに弄ぶ。その湿度が生物的で不可思議だった。熱帯夜ならぬ熱帯朝に僕たちは随分と早く目覚めてしまい、どうせな...
pale asymmetry | 2022.08.24 Wed 21:12
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に戻ると、彼女がちょうどバスルームから出てきたところだった。濡れた髪をタオルで掻き回しながら、右手の甲を僕の頬にくっつける。ヒンヤリしていた。 「冷水を浴びたの?」 彼女は笑う。悪戯が成功した子供のように。 「お水のお風呂に浸かったの。冷たいお風呂始めました」 不思議な抑揚で彼女が言う。 「今日も暑かったからね」 「それもあるけど、人が沢山集まる場所に行ってきたから、人に酔ってしまって、人に酔うと全身が火照るじゃない?」 ...
pale asymmetry | 2022.08.19 Fri 21:08
JUGEMテーマ:ショート・ショート 濡れた風が海から吹いてくる。少しこんがらがった風のような気がした。水面のキラキラが、風を縺れさせているように思えたのかもしれない。本当は逆で、風が水面を浮き足立たせているはずなのに。でもこういう逆回転の現象は、世界にはありふれているようにも思えた。そう思った方が世界を読み解きやすいような気がした。 「天使をね、よく見るの、最近」 久しぶりに会った友達が独り言のように零した。眼差しは海に向けられている。私たちは海辺のレストランのテラス席で...
pale asymmetry | 2022.08.14 Sun 21:29
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