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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「この中に昆虫が閉じこもっているよ」 散歩の途中で甥っ子が唐突にしゃがみ込み、道端の石の一つを指差す。 「へー、昆虫か」 甥っ子と並んでしゃがみ込み、僕は石を見つめる。黒っぽい色と青灰色が混ざり合った拳大の石だった。石には詳しくないので、それがどんな由来の石なのかは解らない。手に取ろうと腕を出すと、すぐに甥っ子が止める。 「駄目だよ。昆虫が起きちゃうよ」 僕は手を引っ込め、顔を寄せて石を見つめる。見える範囲を隅から隅まで確認した...
pale asymmetry | 2022.09.30 Fri 21:33
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「翼の話をしましょう」 夕食のあとアイスを食べていると、彼女が突然切り出した。 「いいよ」 僕はアイスを食べる手を止めることなく頷く。コーヒーフロートアイスで、とても溶けやすかったから急いで食べていたのだ。 「翼をくっつけられるとしたら、どこが良い?」 「背中で良いよ」 「駄目。それじゃあ面白くない。背中NGで」 「でも背中以外の場所につけて意味があるかな?」 「それを言うなら、人間が背中に翼をつけることに意味ある?」 「格...
pale asymmetry | 2022.09.28 Wed 21:46
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「そのロボットはスプーンをくわえたままで言うの。オレは幸せには暮らせないって」 彼女は食後にシュークリームを頬張りながらそう言った。夕食の直前まで眠っていたのに、何の躊躇もなく大盛りのパスタを食べ、さらにはシュークリームも食べている。そして夢の話を始める。 「可笑しいよね?」 「ロボットが? そのセリフが?」 僕が尋ねると、彼女はどこか困った顔をする。 「全体の流れのこと。だってロボットはスプーンをくわえているんだよ。幸せになるに...
pale asymmetry | 2022.09.25 Sun 21:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らは迷える魂だった。 風は北西から強く吹き上げられていた。それは黒い海から吹き上がっていた。僕らを星の世界に吹き飛ばそうと企んでいるようだった。 「星座って、難しいよね」 誰が言ったのかはよく解らなかった。真夜中にあと数歩の公園には照明がなく、全てが闇に輪郭を滲ませている。山の上にあるこの公園は街からも遠く、街の明かりは海を闇に沈める役割しか担っていなかった。 「海が黒いと、獣みたいだね」 誰かが言う。誰かが笑う。 「見下...
pale asymmetry | 2022.09.19 Mon 21:07
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「235億キロメートルって、イメージ出来る」 彼女が天井を斜めに見つめて言う。おそらく彼女自身にはイメージ出来ていないのだろう。 「遠いね。すごく遠い場所。何だかとても暗い空間をイメージしてしまうな」 僕の言葉に、彼女が大きく頷く。 「その場所から一番近い星は40兆キロメートル離れているんだって。多分暗い場所よね?」 「そうだね。それは宇宙空間で、そこに誰かがいるんだね?」 「うん。ボイジャーよ」 「ボイジャー? 宇宙探査機の?」 ...
pale asymmetry | 2022.09.11 Sun 21:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨が降り出しそうだったから、傘を持ってバス停に行く。夜の空には星も月も見えなくて、風は淫らな感じのする湿り具合だった。空気に照明を滲ませながらバスが近づいてくる。降りてきたのは彼女だけだった。バスの内部に目を向けると、他に乗客は一人しかいなかった。何だか、生と死の境界を走るバスのように思えた。 「お帰り」 僕は彼女に傘を差し出す。 「ただいま」 彼女は傘を受け取るとすぐに開いた。 「まだ、降っていないよ」 「良いじゃない。傘は...
pale asymmetry | 2022.09.06 Tue 21:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨は、断続的に強まったり弱まったり。脈動を感じさせるリズム。意識の抑揚かもしれない。何か巨大な存在のフォーカスの尖り具合かも。僕たちを見つめる、その眼差しの尖り具合と言うこと。 「どうせなら、もっと大粒な方が良いのに」 真上に顔を向け、彼女が低く叫ぶ。その声を風が掠っていく。風もまた、断続的に強まったり弱まったり。何か巨大な存在の身震いを感じさせる。同じ姿勢で長くいると痛むので、ときたま姿勢を変化させて痛みを受け流しているようだ。 「...
pale asymmetry | 2022.09.03 Sat 21:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート 少し頭痛がした。だから動く気になれない。友達と約束があったけれど、全く出かける気分にはなれなかった。さて、どうやってキャンセルしようかと思っていたら、その友達から電話がかかってきた。最近電話をかけることもかかってくることもあまりないから、少し緊張する。 「ごめん、今日行けない」 友達がいきなり言う。 「どうしたの?」 「やめろって言われた」 「誰に? 一人暮らしだよね?」 「AIに」 「AI」 「そう。私今AIと暮らしてるの」 ...
pale asymmetry | 2022.09.02 Fri 20:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート 台風が近づいていたから、僕らはそわそわしていた。と言っても今夜は無風だ。空気は沈んでいく一方で、夏らしくない清涼さを纏っている。それとも、僕らが知らないうちにもう秋に変わっているのだろうか。そういう変化はいつも密かに行われている。そして僕らは決してそういう事象に関与出来ない。 「ランプを灯して」 彼女が声を潜めて囁く。 「いいよ」 僕はアルコールランプに火を灯す。オレンジの炎は揺らぐことなく、真っ直ぐに佇んでいる。その色が夜に滲ん...
pale asymmetry | 2022.08.29 Mon 21:21
JUGEMテーマ:ショート・ショート 真夏には珍しい北寄りの風。西海岸から臨む海は淑女のように凪いでいる。でももちろん陽光は凶暴だ。シリアルキラーのようにクレバーな感じ。身を委ねて、見えない刃に切り裂かれる。痛みはないけれど、何故か喪失感。 「こういう海を眺めてると、ヴァイオリンが弾きたくなるね」 隣に寝そべる友人が長閑に言う。 「ヴァイオリンなんて弾けたっけ?」 「弾けるなんて言ってないよ。弾きたくなるって言っただけ」 友人は上半身を起こし、額の汗を拭う。 「凪...
pale asymmetry | 2022.08.28 Sun 20:41
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